今月のエコノミスト・ビュー(2011年9月)

2011-09-14

<米国財政政策が制約される中でQE3への高まる期待>

米国発の経済ニュースが続いている。基本的には失業率が顕著に低下しない状態が続き、財政政策も金融政策も手詰まり感がある中、種々のニュースに市場が一喜一憂して、株価や為替レートが上下に変動しているのである。
国債発行額の上限引き上げの問題が、しばらくは焦点となった。これは何度も実施されてきたルーチンに近い手続きなのだが、共和党が下院多数派を握ってお り、オバマ政権を追い詰めてみせようとしたために大問題となった。「小さな政府」志向が極度に強い茶会グループが無視できない勢力となり、共和党中枢部が 容易に妥協できなかったという事情もあった。オバマ政権は譲歩するしかなく、中期的に財政支出を大幅削減することを約束した。
この騒動から、クリントン政権が第一期の中間選挙に負けた後、ギングリッチの率いた下院共和党と鋭く対立した時期が想起させられた。雇用なき回復が続い ていたし、クリントンは大統領就任直後の諸立法に失敗を重ねていた。ギングリッチは「アメリカとの契約」を提示して、議会主導で政策を推進しようとしたの である。この対立の中、予算が不足し連邦政府の部分閉鎖が実施された。ビザ審査や統計作成などの担当者は出勤を止められた。しかし、共和党の強硬路線はむ しろ国民の批判を招き、クリントンは再選されることとなった。オバマはこの再現を狙っているだろう。
財政政策が制約されたので、金融政策に注目が集まった。昨年秋に始まった量的緩和政策(QE2)が予定通りに終了していたので、その次(QE3)が期待 されたのである。QE2を予告したのと同じ、夏のジャクソンホール会議でのバーナンキFRB議長講演に、注目は集まった。QE3の予告はなかったが、まだ 緩和策はあることを訴え、9月の金融政策決定会合(FOMC)を2日間に延長して、政策を検討すると約束した。金融市場はこれでも好感して反応した。
ただし、ゼロ金利に直面した後の金融政策の有効性については、疑問が投げかけられている。日本では、ゼロ金利継続のコミットメントを行い量的緩和も実施 したが、長期金利は低下し金融システム安定に貢献したものの、マクロ経済への効果は限定的だという見方が大勢なのである。株価を高めて、マクロ経済にもプ ラス効果があったという少数意見もある。
米国のQE2に対しても評価は割れている。ジャクソンホール講演から政策実施までの間、株価は上昇しドルは減価した。顕著な緩和効果であった。しかし、政 策実施後に大した効果はみられていない。ましてや、失業率はほとんど低下しなかった。そこで、FRBはゼロ金利を来年半ばまで継続するというコミットメン トを8月のFOMCで導入することとした。
そして、市場は次(QE3)を求めているのである。オバマも、きつい制約の下だが、雇用対策を打ち出した。財政政策にそれなりの即効性は期待されるが、バ ランスシート調整が続く中では拡張策の継続が必要となるので、赤字問題が再燃する可能性が高い。金融緩和については、昨年のようなデフレ懸念は沈静化して おり、むしろインフレ懸念が高まりつつあるので、QE3導入にはためらいがある。しかし、中期的なインフレ期待が2%近い水準に維持されている間に思い きった緩和策を実施することが、米国経済の停滞からの脱出に有効なのではないだろうか。日本とは異なり人口の伸びもプラスであって、マクロ経済の自然成長 にも期待できるので、量的緩和の有効性も異なるであろう。

[地主敏樹 マクロ経済分析プロジェクト委員 神戸大学大学院]

日本
<7-9月期5%を上回るプラス成長だが、先行き世界経済の減速がリスク要因>

9月9日発表のGDP2次速報値(QE)によれば、4-6月期の実質GDP成長率は前期比-0.5%、同年率-2.1%となり、1次速報値(前期比 -0.3%、同年率-1.3%)から0.8%ポイントの下方修正となった。修正幅は想定の範囲内であり、現時点で先行きの見通しに大きな変化はない。
実質GDP成長率下方修正の主要因は、民間企業設備、民間企業在庫品増減である。民間企業設備は1次速報値の前期比+0.2%から同-0.9%へと下方修 正された。2次速報値推計の基礎データである法人企業統計調査の低調な結果を反映したものである(全産業ベースの企業設備投資は前期比-6.6%と3期連 続のマイナス)。また法人企業統計調査の結果により民間企業在庫品増減も、1次速報値の前期比+0.3%ポイントの寄与度から2次速報値では同+0.1% ポイントに下方修正された。両者で実質GDP成長率の下方修正幅(前期比で-0.2%ポイント)のうち0.3%ポイントを説明している。
今週の予測では、7月の多くの月次データが更新され、また4-6月期GDP2次速報値が追加された。この結果、支出サイドモデルは、7-9月期の実質 GDP成長率を、内需は引き続き拡大し、純輸出も増加に転じるため前期比+1.5%、同年率+6.0%と予測する。一方、10-12月期の実質GDP成長 率を、内需は引き続き拡大するが純輸出は横ばいとなるため、前期比+0.7%、同年率+2.9%と予測する。年後半堅調な回復に転じるが前半のマイナス成 長の結果、2011暦年の実質GDP成長率は-0.3%となろう。ただ先行き世界経済の減速が気になるところである。
7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.7%となる。実質民間住宅は同+7.0%、実質民間企業設備は同+1.6%増加する。 実質政府最終消費支出は同+0.7%、実質公的固定資本形成は同+6.2%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+1.5%)に対する寄 与度は+1.1%ポイントとなる。
財貨・サービスの実質輸出は同+5.7%増加し、実質輸入は同+4.8%増加する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.4%ポイントとなる。
主成分分析モデルは、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率+6.4%と予測している。また10-12月期を同-0.4%とみている。この結果、支出 サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、7-9月期が+6.2%、10-12月期が+1.2%となる。図からわかるように両モ デルによる7-9月期の予測は収束しており高い成長率が期待できるが、先行きは減速のリスクが高まっている。

[[稲田義久 KISER所長・マクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

米国
<長すぎる低金利政策の末に陥ったFRBの金融政策不足>

9月8日のバーナンキFRB議長のミネアポリスでの講演、同夜のオバマ大統領の雇用創出プログラムにも市場は反応せず、景気回復への悲観的な見方を強めて いる。そのために、FRBは9月20-21日のFOMCミーティングにおいて何らかの景気刺激策を求められている。しかし、長期にわたって異常なゼロ金利 政策を続け、バランスシートを拡大してきたFRBにとって有効な景気回復策はあまりない。
考えられるのは、第一にQE3、第二にオペレーションツイスト、第三に法定準備預金への金利の削減である。しかし、QE2が有効に働いていれば、QE3は 不必要なはずである。オペレーションツイストに関してはすでに、セントルイス連銀のジェームス・バラード総裁がその有効性を否定している。まして、金融政 策で金利スプレッドを操作すれば、通常金利スプレッドを通して送る経済・金融状況の市場へのメッセージを歪めることになる。また0.25%の法定準備預金 への金利を下げたところで、どの程度金融機関が貸し出しを増やし、景気が刺激されるかも不確実である。すなわち、すでに長期金利は十分に低い。フィラデル フィア連銀のチャールズ・プロッサー総裁が「雇用創出にもはや金融政策は多くをできない」と言っているのは正しいだろう。FRBは2009年7-9月期以 降の景気回復の中で、出口戦略を一度もとらずにバランスシートを拡大してきた。その末に陥ったのはFRBの政策不足である。これは、Benjamin M. Friedman教授の“The Moral Consequences of Economic Growth”に例えれば、“The Moral Consequences of Monetary Policy”ともいえる。
9月20-21日のFOMCミーティングで、FRBが単なるアナウンスメント効果のみだけの政策を発表し、それが実体経済を刺激するのに有効的でないことを市場が見抜けば、FRBは金融政策を実行するにあたって最も重要な市場からの信頼性を失うことになる。
今週の超短期予測によれば、7月の輸出が前月比で3.6%と大幅に伸びたことから、需要サイドからの実質GDP成長率予測(2011年7-9月期)は 2.25%にまで大幅に上方修正された。8月の輸出入価格、生産者・消費者物価指数、小売販売を更新すれば、グラフにみる支出・所得サイドからのGDP ギャップが小さくなるだろう。両サイドからの実質GDP成長率が0.7%にまで回復し、少なくとも7−9月期のマイナス成長は避けられるであろう。しか し、超短期予測によれば、その他の実質アグリゲート指標(総需要、国内需要、最終需要)の伸び率は前期比年率0.0%〜1.5%となっており、米経済回復 が脆弱なことは確かである。

[ [熊坂有三 ITエコノミー]]

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