今月のエコノミスト・ビュー(2011年8月)

2011-08-22

<国債の格付けを考える>

8月5日、米国格付け会社のスタンダード&プアーズ社(以下S&Pと略す。また本文中で示される格付けは、全てS&Pによる格付けであ る)が、米国債の格付けを最上位の「AAA」から「AA+」に一段階引き下げた。これは史上初のことであり、金融市場は混乱している。米国は世界一の大国 であり、米ドルは世界経済の基軸通貨である。今その米ドルの信認が大きく揺らいでいる。「世界一安全な金融資産」と考えられてきた米国債の格下げが世界経 済に与える影響は小さくない。格付けは信用リスクを示す一指標に過ぎないが、マーケットが判断材料にする以上無視することはできない。
格付けにおいて最も評価を下げているのはギリシャ国債である。2011年に入ってから既に計4度、「BB+」から「CC」にまで、8段階も引き下げられている(以下、格付けはいずれも自国通貨建て長期国債、7月31日現在)。

日本国債の格付けは、現在、最上位から4番目のランクの「AA-」である。かつては日本国債も「AAA」であったが、2001年2月から2002年4月 にかけて3回にわたり格下げされ「AA-」となった。その後、小泉政権の下で行われた財政再建が評価され、2007年4月に「AA」に格上げされたが、今 年2011年1月に再び「AA-」に格下げとなっている。また4月には東日本大震災による財政負担増が懸念され、アウトルックが「安定的」から「ネガティ ブ」に変更された。
国債は無担保であるが、事実上、家計や企業の担税力を担保に発行されている。すなわち国がデフォルトの危機に瀕した場合には、企業に対して増税してファイナンスするという手段がある。このため、国債の格付けは原則として国内事業会社の社債格付けの天井になる。
国内の社債の格付けに目を転じると、大震災の補償が巨額になることを受けて東京電力の格付けが大幅に下げられている。また東電以外の電力会社の格付けも原 発の稼働率低下による業績悪化から低下傾向にある。債券の格付けは国や企業の信用リスクのみを見ており、成長力や社会的評価などは見ない。例えばソフトバ ンクの社債の格付け(BBB-)よりもNTTドコモの社債の格付け(AA)の方がはるかに高い。

さて、日本国債の格付けは、政府債務残高対GDP比率からすると、むしろ高い格付けで踏みとどまっているようにも思える。2011年の日本の同指標は 212.7%にも達し、OECD加盟国中最悪である(数値はOECD Economic Outlook 2011による)。前述のギリシャの同指標は、157.1%と日本よりも低い。これは、日本国債が、潤沢な国内貯蓄によってファイナンスされていることが 大きな安定要因となっているためである。また、消費税率が低く増税の余地がある、と見られているとも考えられる。IMFは日本に対して、財政再建のため消 費税率を15%にまで引き上げることを要請している。
国債が格付けされることは国民経済全体としての担税力の評価に加え、国の財政運営力も格付けされることを意味する。国が財政再建の道筋を明確に示すことが国債格付けの改善にもつながり、国内企業の信用力の天井を高めることになろう。

[高林喜久生 マクロ経済分析プロジェクト主査 関西学院大学]

日本
<7-9月期経済は内需と純輸出が拡大し5%を上回るプラス成長>

8月15日発表のGDP1次速報値によれば、4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率-1.3%となった。3期連続のマイナスであるが、市場コンセンサ ス(ESPフォーキャスト8月調査:前期比年率-2.80%)を上回る結果となった。最終週における超短期モデル(支出サイドモデルと主成分分析モデル) の平均成長率予測は同-2.5%と市場コンセンサスに近かった。うち、支出サイドモデル予測は同-1.0%、一方、主成分分析モデル予測は同-4.0%と なった。われわれが重視している支出サイドモデルの予測値はほぼ実績と同じ結果となった。

グラフ(予測動態)からわかるように、震災の影響が色濃い4月データが更新された6月初旬の超短期予測は、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率 -6%台と予測していた。しかし、5月のデータが更新された6月下旬から7月初旬にかけて、予測は-4%台に上方修正された。以降、超短期予測は明瞭な アップトレンドを示し、6月データが出そろう8月初旬にはマイナス幅は大きく縮小した。四半期ベースでは3期連続のマイナスだが、月次ベースでみれば 3〜4月の大幅な落ち込みは、5月以降に明瞭に持ち直しに転じている。このことから、日本経済は5月に震災の落ち込みから反転したといえよう。
4-6月期のGDP1次速報値を反映した今週の超短期予測(支出サイドモデル)は、7-9月期の実質GDP成長率を、内需は引き続き拡大し、純輸出も増加に転じるため前期比+1.3%、同年率+5.2%と予測する。また10-12月期の実質GDP成長率を、内需の拡大幅は縮小するが純輸出は引き続き拡大するため、前期比+0.5%、同年率+2.1%と予測する。この結果、2011暦年の実質GDP成長率は-0.3%となろう。
7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.1%となる。実質民間住宅は同+0.2%、実質民間企業設備は同+3.7%増加する。 実質政府最終消費支出は同+0.7%、実質公的固定資本形成は同+5.5%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+1.3%)に対する寄 与度は+0.9%ポイントとなる。
財貨・サービスの実質輸出は同+6.5%増加し、実質輸入は同+5.6%増加する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.4%ポイントとなる。
このように、日本経済は年後半にかけて内需の拡大、純輸出のプラス反転により、景気回復のモメンタムは非常に強いといえよう。10兆円程度と想定される3次補正予算の今後の効果にも期待が持てる。これに対して、ダウンサイドリスクは、世界経済のスローダウンによる輸出の減速、電力供給制約を回避(原発停止分を火力発電で代替する)するための燃料輸入の追加的増加が懸念される。追加的な燃料輸入は年3兆円を上回ると予測(第88回景気分析と予測を参照)されており、今後、純輸出の減速・反転が要注意である。

[[稲田義久 KISER所長・マクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

米国
<米経済のリセッションリスクは政策当局にある>

グラフ(米国経済超短期予測の動態)からわかるように、超短期予測は7-9月期における景気のスローダウンを予測し、FRBによる今年前半の景気の一時的 なスローダウンという見方を楽観的とみていた。実際に、8月9日のFOMC声明で今の景気のスローダウンが連銀の当初予想していた経済成長率よりもかなり 低いことを認めた。今度は逆に2013年中頃までのスローな経済動向を予想し、今までの異常な低金利をこの先約2年も継続することをこのFOMC声明で言 及している。経済というのは、常にジグザグに動きながら、一定のトレンドを形成していく。すでに、数回あった出口戦略の機会を見逃してきた上に、今度はこ の先2年間の金融政策の自由度を狭めてしまった。同グラフに見るように、7-9月期の景気は確かにスローダウンしてきたが、7月の中頃から上昇トレンドに 転換している。現時点の実質GDP伸び率は需要・所得両サイドの平均実質GDP成長率伸び率は前期比年率‐1.0%程度であるが、その他の実質アグリゲー ト指標(総需要、国内需要、国内購入者への最終需要)はGDPと同じように、7月半ばから上昇トレンドに転換し、今の時点ではそれらの指標は 1.5%〜3.0%の伸び率になっている(グラフ「実質アグリテート指標の予測動態」参照)。
8月2日の米債務上限引き上げ法案が成立した後、米経済への楽観的な見方が生じるはずであった。しかし、民主・共和党のリーダーシップの欠如から、政治家 はほとんど恒例とも言える債務上限引き上げ法案を来年の選挙目的に利用した。このことから、米国債のデフォルト懸念が声高に強調されるようになり、米経済 があたかもギリシャ経済、イタリア経済と同様と市場は捉えるようになった。今回の債務上限引き上げ法案に対する政治家のリーダーシップの欠如は、今後の財 政政策からの景気刺激策を非常に難しいものとしてしまった。
現状、実質GDPでみた米国の経済成長率は低いが、自律的な回復基調にある。しかし、リセッションへのリスクは財政・金融当局の政策に対する自由度の喪失 である。更に、最近では著名なエコノミストがやたらにダブルディップリセッションを懸念する傾向にある。正直言って、この1,2年の彼らのダブルディップ リセッション懸念は外れているが、彼らの市場に与える心理的な影響は大きい。エコノミストの仕事はリセッションを予測することではなく、リセッションを回 避する方向へ導くことにあるのだが、何故か悲観的なコメントをするエコノミストが多くなった。一つには、リセッション予測が外れても、あまり責められるこ とはないからだろう。

[ [熊坂有三 ITエコノミー]]

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