研究成果

research

今月のトピックス(2011年2月)

Abstract

今月の日本経済見通しで述べたように、10-12月期の実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率-1.1%となり、5四半期ぶりにマイナス成長に転 じ、市場の見方を確認する結果となった。すなわち、同期の実績は、日本経済が不況に陥ったのではなく景気対策効果の剥落による一時的な景気の踊り場であっ たことを意味している。というのも実質GDP成長率を最も引き下げたのは民間最終消費支出であり、同-2.9%減少し(7四半期ぶりマイナス)、実質 GDP成長率を-1.7%ポイント引き下げたからである。
しかし、多くにとってサプライズであったのは、実質耐久消費財が同+13.0%と前期(同+58.7%)に続き2桁増を記録したことである。おそらく薄型 テレビの販売増が乗用車の販売減を相殺したようである。一方、民間最終消費支出のうち、実質半耐久消費財、実質非耐久消費財、実質サービス消費はそれぞれ -1.7%、-13.7%、-0.8%減少した。半耐久財は3四半期連続、サービスは4四半期連続で前期から減少しているのに対し、非耐久財は5四半期ぶ りでかつ大幅な減少となっている。家計は非耐久財の消費を削減し、耐久財支出に多くをまわしたと考えられる。
デフレータを見ると、民間最終消費支出デフレータは前期比-0.2%と下落幅は前期(-0.6%)より縮小したが、3期連続のマイナスを記録した。超短期 予測では民間最終消費支出デフレータを主として消費者物価指数で説明しており、10-12月期は前期比+0.4%と予測しており、実績(同-0.2%)と は大きく乖離した。これまで比較的高い説明力があったが今回は過大予測となった。
実際、10-12月期の消費者物価指数は前期比横ばいであったが、民間最終消費デフレータが同マイナスとなった理由として、説明変数である消費者物価指数 は固定基準年ウェイト方式であるのに対して、被説明変数である民間最終消費支出デフレータは連鎖方式による指数であることが影響したものと考えられる。前 期のウェイトが用いられる連鎖方式では、政策効果による耐久消費財のウェイトの高まりと技術進歩のスピードが速い耐久消費財では価格下落が大きく、両者の 影響が今回特に大きく出たと思われる。
実際、民間最終消費支出デフレータのサブカテゴリ?である耐久消費財、半耐久消費財、非耐久消費財、サービスの伸びをみると、それぞれ前期比-6.1%、 -0.3%、+1.4%、+0.1%となっている(図参照)。ちなみに、非耐久財デフレータが上昇しているのはタバコの増税による。消費者物価指数と民間 最終消費支出デフレータの対応するカテゴリーの伸びを比較すると、耐久消費財デフレータの伸び(前期比-6.1%)と当該消費者物価指数の伸びには大きな 乖離が見られる。その他のカテゴリーでは大きな乖離はない。多くにとってサプライズであった実質耐久消費財が前期に続き2桁増となった理由の一部は、連鎖 指数である同デフレータが大幅に下落したことが考えられる。
ただ消費者物価指数は2011年8月に基準年が2005年から2010年に移行する予定である。移行時にウェイトが変更されるが、ウェイトの変更は指数全 体を押し下げる方向にはたらくと見られている。基準年が移行した新指数では民間最終消費支出デフレータと消費者物価指数の乖離は幾分縮小するであろう。

日本
<一時的な踊り場をへて1-3月期日本経済は急回復>

2月14日(月)発表の GDP1次速報値によれば、10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率-1.1%となり、市場の見方をほぼ確認する結果となった。5四半期ぶりにマイ ナス成長に転じたが、2010暦年の実質GDPは前年比+3.9%となり、3年ぶりのプラス成長を記録した。
実質成長率は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト2月調査:-2.13%)より幾分低かった。最終週における超短期モデル(支出サイドモデルと主成分 分析モデル)の平均成長率予測は-3.2%であった。支出サイドモデル予測は-2.3%とほぼ市場コンセンサスと同じ、一方、主成分分析モデル予測は -4.2%となった。
ただ季節調整の掛けなおしにより、過去の成長パターンが変化しており、過去3四半期の成長率は0.8%~1.2%ポイント下方修正されている。超短期モデ ル(支出サイドモデル)は、10-12月期の実質GDPを543.2兆円と予測したが、実績は542.2兆円であり1兆円程度下回っている。すなわち、成 長率の実績(-1.1%)は予測(-2.3%)を上回ったが、過去3四半期にわたって下方修正されたため水準の実績は逆に予測を下回ったのである。
足下の月次指標をみれば、10-12月期の実績は、日本経済が不況に陥ったのではなく景気対策効果の剥落による一時的な景気の踊り場であったことを支持している。
10-12月期の実質GDP成長を最も引き下げたのは民間最終消費支出であり、政府支出や純輸出も引き下げた。実質GDP成長率(-1.1%)への寄与度 (年率ベース)を見ると、国内需要は-0.7%ポイントとなり、5四半期ぶりのマイナス寄与となった。一方、純輸出は-0.4%ポイントと2四半期連続の マイナス寄与である。今回のデータは、輸出の減少とエコポイント制度変更前の駆け込み需要の反動の影響が大きく出たことを示している。
実質民間最終消費支出は同-2.9%となり、実質GDP成長率を-1.7%ポイント引き下げた。7四半期ぶりマイナスである。多くにとってサプライズで あったのは、実質耐久消費財が同+13.0%と前期に続き2桁増を記録したことである。このことは相当需要を先食いしたことを意味しており、1-3月期以 降の耐久消費財の反動減が危惧される。多くにとってサプライズであった、実質耐久消費財が前期に続き2桁増となった理由の一部は、同デフレータが大幅に下 落したことが考えられる(これについては今月のトピックス参照のこと)。
今週の支出サイドモデルは、1-3月期の実質GDP成長率を、内需と外需が反転拡大するため前期比年率+5.9%と予測する。また4-6月期の実質GDP 成長率を、内需及び純輸出がともに拡大するため、同+3.8%と予測している。日本経済は一時的な踊り場を経て2011年年前半は比較的高い成長率を実現 できよう。
[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]

[[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

米国

2010年 10-12月期の実質GDP伸び率(前期比年率)が+3.2%となった。これは米国超短期モデルの最終予測の同+3.8%より幾分低い。しかし、大事なこ とはGDPから在庫増を除いた実質最終需要が同+7.1%と大きく伸びたことである。持続的な経済成長を考えるとき、在庫に頼らない最終需要を見ることは 大事なことである。実際に、米国経済が景気回復を示し始めた2009年10-12月期の実質GDP伸び率は5%を超えたにもかかわらず、実質最終需要の伸 び率が2.1%と低かったことから、連銀は経済成長の多くが在庫増によるものと言って、従来のゼロ金利政策を変更しなかった。米経済がリセッションを終了 した以降の2009年7-9月期?2010年10-12月期の6四半期の実質GDPの平均伸び率は3.0%であり、実質最終需要の平均伸び率は2.1%で ある。この期間の個人消費支出価格デフレータとそのコア価格デフレータのそれぞれの平均伸び率は1.7%、1.1%である。このような状況の中で、連銀は まだ異常なゼロ金利政策を維持し、追加的数量緩和政策(QE2)の継続さえ考えている。
2月3日にバーナンキ連銀議長は全米記者クラブで経済見通しとマクロ経済政策”の講演を行い、次のように述べている。「我々は強い雇用増が持続的になるま で、景気回復が本格的になったとみなすことはできない。」「正常な失業率の水準に戻るまでにはあと数年はかかる。」「今のコモディティー価格の上昇は発展 途上国の需要増によるものである。」すなわち、連銀とは無関係というものである。確かに、石油価格の高騰は連銀とは無関係であるが、コモディティー価格の 上昇が、近い将来に一般物価に影響を与えることは確かである。都合の悪い最終需要が7.1%と伸びたことには触れてはいない。
今週の超短期モデルは、1-3月期の実質GDP成長率(需要サイド、所得サイド平均)を前期比年率+2.4%と予測している。順調な拡大を示している。さ て、連銀は一体いつまで異常なゼロ金利政策、効果のないQE2を継続したいのであろうか?あるいは、失業率が一体何%にまで低下したら、今の金融スタンス を変更するのだろうか?おそらく、バーナンキ連銀議長の望む失業率が達せられる前に、インフレーションの加速化が始まるだろう。彼の頑固さは、連銀が景気 のモメンタムを捉えることができなかったことからきているのかもしれない。彼の失業率低下への執着は異常としか思えない。

[[熊坂有三 ITエコノミー]]

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