研究成果

research

今月のトピックス(2010年1月)

Abstract

民主党政権が誕生して4ヵ月が経過した。この間、政権支持率は低下しているが、今後の政策、特に経済対策について依然として国民の期待は高い。今月のト ピックスでは、民主党政権の政策(マニフェスト)効果について、マクロ計量モデルを用いたシミュレーションの結果を紹介しよう。
新政権誕生後の経済政策上の重要事項は、(1)2009年度1次補正予算の事業見直し、(2)同2次補正予算および(3)2010年度予算案や税制改正 大綱の公表である。2010年度予算では、個々の政策の規模について、当初のマニフェストベースよりも実現可能性の高い金額が明らかになってきた。現時点 の最新情報と7-9月期GDP2次速報値を織り込み、民主党政権の政策効果を2009-2011年度にわたってシミュレーションした。
考慮した民主党政策(マニフェスト)のメニューは、(1)子ども手当・出産支援、(2)高校無償化、(3)暫定税率の廃止、(4)高速道路無料化、 (5)農業の戸別所得補償、(6)雇用対策、である。2010年度については予算案、11年度はマニフェストに記載されている金額を想定している。このほ か(7)家電エコポイント、(8)エコカー減税、(9)生活の安心確保、(10)地方支援といった2009年度2次補正予算において予算が割り当てられた 政策も考慮されている。次に、財源捻出のための政策としては、(11)公共投資・人件費等の削減及び家計に関する事業見直しなどの歳出削減であり、 (12)たばこ増税、(13)扶養控除の廃止といった税制改正による家計に対する負担増である。以上の想定に基づき、鳩山内閣の政策効果を推計した。
シミュレーション結果によれば、その政策は、2010年度に実質GDPを0.09%、2011年度に0.12%、それぞれ引き上げることになる。このよ うに、政策の成長貢献の程度は大きくないことがわかる。しかし、成長の中身をみると、民間消費は拡大するが、公共投資や政府の人件費(政府最終消費)が削 減されて、結果として経済を拡大させる純効果は非常に小さくなっているのである。たしかに、「コンクリートから人」という意味での政策効果は出ていると言 えるが、重要な問題は、民主党がどのような成長戦略を国民に示すかである。このままでは、結局、日本経済の行く末は輸出の動向によって決まるパターンに なっているのである。筆者は、日本の成長戦略の柱として環境部門を中心に国内外を問わず全面的に展開していくこと以外にないのではないかと考えている。 (稲田義久)
注:本シミュレーションの詳細は、http://www.kiser.or.jp/ja/index.htmlの「第81回景気分析と予測」に掲載。

日本
<10-12月期は持続性に欠けるが、引き続き高めの成長率を予測>

1月18日の予測では、12月の国内企業物価指数、輸出入物価指数、11月の民間機械受注、情報サービス業売上高、国際収支統計が更新されている。支出 サイドモデルは、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率+4.6%と12月の見通しより下方修正されたものの、依然として高めの成長を予測してい る。超短期予測はGDP統計の推計基礎となる月次統計の変化を忠実に反映する、”Go by the Numbers”ともいえるテクニカルな予測手法である。
一方、マーケットコンセンサスは、超短期予測に比べ低めの成長予測となっており、対照的である。1月14日に発表されたESPフォーキャスト1月調査で は、10-12月期の実質GDP成長率予測は同+1.82%と前月調査の+1.27%から上方修正されている。過去の経験からみて成長率予測のマーケット コンセンサスは金融市場の動向に比較的大きな影響を受ける。前回の12月調査ではドバイショックによる株価の下落や円高を反映して低めの予測となったが、 1月調査では株価の回復、円高の修正等の好条件により上方修正となったと考えられる。
超短期予測によると、10-12月期の国内需要について、実質民間最終消費支出は景気対策の影響により前期比+0.6%と引き続き堅調な伸びとなる。実 質民間住宅は同+5.2%と4期ぶりのプラスなるが、実質民間企業設備は同-0.8%と低調である。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資 本形成は同+2.4%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+1.1%)に対する寄与度は+0.5%ポイントとなる。
財貨・サービスの実質輸出は同+4.3%増加し、実質輸入は同-0.8%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.6% ポイントとなる。このように、内需が前期から反転拡大し、純輸出も引き続き拡大するため、4%程度の高い成長を予測している。一方、主成分分析モデルも、 10-12月期の成長率を前期比年率+7.1%と予測している。
1-3月期は、純輸出は引き続き拡大するが、内需、純輸出とも拡大のペースが減速するため、前期比+0.1%、同年率+0.3%と予測している。この結果、2009暦年及び年度の実質GDP成長率はそれぞれ-5.1%と-2.3%となろう。

[[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

米国

1月15日の超短期予測は12月の鉱工業生産指数、小売販売額、消費者物価指数、輸出入物価指数、11月の企業在庫、貿易収支までを更新している。グラ フに見るように、10月の経済指標を更新し始めるや景気はスローダウンを始め11月25日の超短期予測は0%の経済成長率を示し、ダブルディップリセッ ションの可能性を一時的に示した。しかし、12月4日以降になり、11月の経済統計を更新し始めるとそれまでの実質GDPの下降トレンドは上昇トレンドに 転換し、1月15日の超短期予測では、2009年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.6%(支出サイドと所得サイドの平均)を示してい る。コア個人消費支出(PCE)価格デフレーター、GDP価格デフレーターでみた同期のインフレ率は約1.5%と落ち着いており、FRBのインフレ許容範 囲内(1%?2%)にある。しかし、PCE価格デフレーターはエネルギー価格の高騰により3.5%にまで上昇している。
10-12月期の支出サイドの実質GDP成長率は4%を超える可能性が出てきた。これは在庫が少しずつ増え始めたことによる。在庫の成長率寄与度が3 %?4%になると予想されるのは、7-3月期の在庫調整が-1,410億ドルと大きいからである。しかし、景気回復が持続的に堅調とは言い難い。在庫を除 いた経済成長率を見れば、マイナス成長も考えられる。すなわち、実質最終需要の伸び率は下降トレンドを示しており、超短期予測は-1.0%の伸びとなって いる。2010年1-3月期も1%以下である。10-12月期の実質GDPの高い伸びにもかかわらず、米国経済の回復は緩やかであり、いまもって脆弱と見 るのがよいであろう。
1月13日に発表されたFRBのベージュブックでは、12のうち10の地域連銀は景気の改善を報告している。輸出の伸び率の改善からもわかるように、多 くの地域で製造業が改善している。労働市場はいまもってほとんどの地域で悪いが、ニューヨーク連銀とセントルイス連銀は改善の様子を報告している。

[[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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