今月のトピックス(2009年12月)

2009-12

<GDP統計にもっと資金と人材を投入すべし>

12月9日発表の日本のGDP2次速報値によれば、7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.3%となり、1次速報値(同+4.8%)から3.5%ポイントの大幅下方修正となった。
実質GDP成長率下方修正の主な要因は、実質民間企業設備が1次速報値の同+6.6%から同-10.6%に大幅下方修正されたことにある。これは、民間 企業設備の2次速報値推計の基礎データである法人企業統計調査(需要統計)の低調な結果を反映したものである。一方、1次速報値推計の基礎データ(供給統 計)である資本財出荷指数が7-9月期に前期比+8.1%と7四半期ぶりのプラスとなったことからすれば、企業設備投資の大幅下方修正はネガティブサプラ イズであった。
2次速報値は、供給統計と需要統計の加重平均で決まる。異なる変化の方向を示すデータを平均したため、大幅な下方修正となったといえよう。7-9月期の 民間企業設備の供給側の動きが需要側に反映されなかったため、これが10-12月期の需要データに後ずれして現れる可能性が高い。いずれにせよ、これを契 機にGDP統計の信頼性をめぐる議論が再び高まっている。

GDP統計の信頼性をめぐる議論を高めたもう一つのポイントは、速報値が過去にさかのぼって大幅に改定されたことである。実質GDP成長率の四半期パ ターンを過去に遡及し比較してみれば、2008年4-6月期は-5.2%ポイント(前期比年率-2.9%→同-8.1%)の下方修正となった。一方、 2008年1-3月期は1.6%ポイント(同+4.0%→同+5.6%)、7-9月期は2.5%ポイント(同-6.5%→同-4.0%)、10-12月期 は1.3%ポイント(同-11.5%→同-10.2%)、2009年1-3月期は0.3%ポイント(同-12.2%→同-11.9%)と、いずれも1次速 報値から上方修正された。2008年1-3月期が上方修正されたことから、2008年度から2009年度にかけての成長率のゲタは1次速報値の-4.2% から-3.8%に引き上げられた。
ちなみに、12月2日に公表された2008年度国民経済計算確報値では同年度の実質GDPが速報値の-3.2%から-3.5%に改定されて、戦後最大の 落ち込みとなったことが判明した。悪いことには、12月7日に内閣府は確報値に間違いがあることを報告し、さらに-3.7%へと下方修正した。

このように推計ミスやこれまでにない速報値の大幅下方修正が目立っており、GDP統計に対する信頼が今回大きく揺らいでしまった。根本的な原因ははっき りしている。GDP統計推計のために資源があまり投入されていないからである。適切な経済政策のためには正確な景気診断が必要条件である。このために政府 はもっと資金と人材を投入すべきであろう。GDP統計に対する不信感は、投資家の”Japan Passing”を加速するであろう。(稲田義久)

日本
<10-12月期は高めの成長を予測、悲観的な見方のマーケットコンセンサスとは対照的>

12月14日の予測では、10月の大部分の月次統計と7-9月期のGDP2次速報値が更新された(GDPの改定については今月のトピックスを参照)。支 出サイドモデルは、10-12月期の実質GDP成長率を、内需が反転拡大し純輸出も引き続き拡大するため、前期比+1.6%、同年率+6.6%とマーケッ トコンセンサスとは異なり高く予測する。ちなみに、マーケットコンセンサスは、ドバイショックによる株価の下落や円高を反映して、年率+1.27%と前月 の+1.50%から下方修正されている(12月ESPフォーキャスト調査)。
1-3月期は、純輸出は引き続き拡大するが、内需、純輸出とも拡大のペースが減速するため、前期比+0.4%、同年率+1.7%と予測している。この結 果、2009暦年及び年度の実質GDP成長率はそれぞれ-5.0%と-2.0%となろう。GDPデータの大幅改定により、2008年度から2009年度に かけての成長率のゲタは1次速報値の-4.2%から-3.8%に引き上げられたものの、2009年7-9月期が3.5%ポイント引き下げられた。データ改 定を反映した超短期予測は2009年度の成長率については前回より0.1%ポイント下方修正している(-1.9%→-2.0%)。
10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.7%となる。実質民間住宅は同+5.7%となるが、実質民間企業設備は同 -0.4%減少する。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同+2.6%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期 比+1.6%)に対する寄与度は+0.6%ポイントとなる。
財貨・サービスの実質輸出は同+6.1%増加し、実質輸入は同-2.2%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+1.0%ポイントとなる。
主成分分析モデルも、10-12月期の成長率を前期比年率+8.0%と予測している。また1-3月期を同+3.7%とみている。この結果、支出サイド・ 主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、10-12月期が+7.3%、1-3月期が+2.8%となる。
マーケットでは日本経済に対する悲観的な見方が強まっている。しかし、超短期予測は、これとは異なり、日本経済は年度末にかけては減速するものの、世界 経済回復の影響を受け、純輸出に牽引されて比較的堅調な成長パスを辿るものと予測している。ただ、政策効果が剥落する2010年度前半の経済政策が極めて 重要となるという点ではマーケットと同じである。

[[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

米国

12月11日の超短期予測では10月の貿易収支、11月の小売販売、輸出入物価指数までを更新している。その結果、実質GDP成長率は需要サイドでは純 輸出の改善、個人消費支出の上方修正から、所得サイドでは企業収益の上方修正から、それぞれ前期比年率+3.1%、同+0.9%へと大幅に上方修正され た。しかし、超短期モデルによる2009年の実質最終需要の伸び率は+0.5%程度と予測されている。更に、懸念されるのは実質国内需要、実質最終需要 (GDP−在庫)が過去4週間の超短期予測では下降トレンドを形成していることである。
バーナンキFRB議長が12月7日、ワシントンD.C.において”Frequently Asked Questions”という講演を行い、そのうちの一つのトピックスが”今後の米経済の行方”であった。彼の講演要旨は次のようなものであった。
・これまでの在庫調整によって生産が拡大する様子が見えてきたが、持続的な景気回復には最終需要の復活が不可避である。
・企業の新しい設備・ソフトウエアへの支出が一時的にも安定してきた。
・ 住宅市場、個人消費支出、設備投資、グローバル経済において改善傾向が見られる。
・しかし、米経済は今もって低調な労働市場、慎重な消費支出、厳しい資金市場など“手に負えない逆風”をうけて  いる。
・インフレに関してはかなりの需給ギャップから賃金・物価トレンドの上昇が抑えられており、長期のインフレ期待  は安定している。
超短期予測はバーナンキFRB議長の景気の見方とほぼ一致する。超短期予測は現在の実質GDP成長率(需要サイドと所得サイドの平均)を+2.0%、イ ンフレ率を2%〜3%とみている。実際に今の景気回復が持続的であると宣言するには早すぎるし、インフレに楽観的すぎるのも良くない。バーナンキFRB議 長の言うように、最終需要の復活が景気回復の鍵をにぎっていることは確かである。

[ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

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