研究成果

research

今月のトピックス(2009年7月)

Abstract

<続:本当に1-3月期が景気の底か?>

【センチメントは回復したが・・・】
7月1日発表の日銀6月短観によると、最も注目される業況判断指数(DI)は、大企業製造業で-48となり、前回調査から10ポイント改善した。前期比 での改善は2006年12月調査以来2年半ぶりである。6月短観の業況判断DIは景気の底打ちを示唆するものであるが、その水準が極めて低く、大幅な需給 ギャップが存在しており、自律的な回復に疑問を抱かせる結果といえよう。
6月調査の年度計画を見ると、2009年度の売上高計画は全規模・全産業ベースで前年比-9.5%と3月調査(-5.7%)から下方修正された。一方、2009年度経常利益計画は前年比-16.4%の減益が見込まれており、前回調査(-9%)から大幅下方修正された。
生産設備の過剰感の拡大と企業業績の悪化で、設備投資計画は大きく下方修正された。2009年度の投資計画(全規模・全産業、ソフトウェアを除き土地投 資額を含む)では、前年比-17.1%と3月調査から4.2%ポイント下方修正された。2009年度前期は前年比-15.7%、後期は同-18.4%と後 半に減少幅の改善は見られない。
また、6月の景気ウォッチャー調査によると、街角の景況感を示す現状判断DIは42.2となり、前月より5.5ポイント上昇した。6ヵ月連続の改善。前年比では12.7ポイント上昇し、2ヵ月連続の改善となった。
景気ウォッチャー調査では、景気は、「良くなっている」から「悪くなっている」の5段階で評価される。また判断DIは5つの評価点と評価区分のウェイトの加重平均で計算される。
6月は、「やや良くなっている(15.5%)」と「変わらない(49.4%)」と答えた割合は、前月からそれぞれ3.3%ポイント、7.9%ポイント上 昇しており、一方、「やや悪くなっている(20.9%)」と「悪くなっている(13.5%)」と答えた割合は、それぞれ3.6%ポイント、7.7%ポイン ト低下している。「やや悪くなっている」と「悪くなっている」の合計が前月から11.3%ポイント低下しており、その大部分は「変わらない」に流れてお り、景気ウォッチャー達は景気が最悪期を脱したが大きく改善したわけではないとみている。

【4-6月期成長率予測、支出サイドモデルと生産サイドモデルのギャップは鉱工業生産の好調が原因】
今月の日本経済見通しで述べているように、支出サイドモデルによれば、4-6月期の実質GDP成長率は、純輸出は拡大するが、民需(特に、民間住宅、民 間企業設備)が不調となるため、前期比年率-4.2%と予測される。一方、主成分分析(生産サイド)モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を 同+2.0%と予測している。なぜ両モデルの予測が乖離するのであろうか。
支出サイドモデルでは、GDP支出各項目を予測し、それを積み上げて成長率を予測する。そこで、4-6月期のGDP項目の予測を詳細に見てみよう。
まず民間需要。実質民間最終消費支出は前期比+0.9%と、1-3月期の-1.1%から大きく回復する。5月の消費総合指数は、前月比0.6%上昇し 3ヵ月連続のプラス。補正予算による民間消費の底上げ効果が徐々に出てきているようである。家計調査報告によれば、勤労者世帯のうち定額給付金を受け取っ た割合は、4-5月累計で32.5%となっており、実収入を一時的に押し上げていることがわかる。もっとも、先行きについては家計の所得制約が強まるた め、民間消費の持続的拡大は期待できないであろう。実質民間住宅は同-8.7%と2期連続のマイナスとなる。実質民間企業設備も同-8.5%と5期連続の マイナスとなる。このように、民需では民間家計消費支出は好調であるが、民間投資が極めて弱いため、実質GDP成長率(前期比-1.1%)に対する寄与度 は-1.4%ポイントとなる。
一方、公的需要は成長に貢献している。実質政府最終消費支出は同+0.4%、実質公的固定資本形成は同+5.3%となるため、成長率への寄与度は+0.3%となる。
純輸出は景気回復に貢献している。財貨・サービスの実質輸出は同1.3%減少するが、実質輸入も同2.1%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.1%ポイントとなる。
生産サイドモデルでは、15の変数からなる主成分を用いて実質GDP成長率を予測する。すなわち、鉱工業生産指数、家計消費支出、小売業売上高、工事費 予定額(居住専用)、民間機械受注、公共工事請負金額、給与総額、交易条件、イールドカーブ、国内企業物価指数、消費者物価指数等である。このうち、5月 の鉱工業生産指数(前月比+5.9%)は3ヵ月連続のプラスと好調で、これが大きく成長率予測を引き上げている。支出サイドモデルで使用される資本財出荷 指数は5月に前月比7.5%下落し、8ヵ月連続のマイナスとなったのとは好対照である。
以上が、両モデルの予測値が乖離する主たる理由である。今後支出サイドモデルがプラス成長に転じるきっかけは、6月の貿易統計と公共投資の結果となろう。(稲田義久)

日本
<回復力が弱い日本経済:鉱工業生産は3ヵ月連続プラスだが、見方は依然慎重>

7月13日の予測では6月の一部と、5月のほぼすべてのデータが更新された。4-6月期のGDPを説明する3分の2の月次指標が出揃ったことになる。
支出サイドモデルは、4-6月期の実質GDP成長率を、純輸出は拡大するが、民需(特に、民間住宅、民間企業設備)が不調となるため、前期比 -1.1%、同年率-4.2%と予測している。7-9月期の実質GDP成長率は、内需の減少幅が縮小するが、純輸出が悪化するため、前期比-1.6%、同 年率-6.1%と予測している。
一方、主成分分析(生産サイド)モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率+2.0%、7-9月期を同-2.6%と予測している。
この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP成長率(前期比年率)の平均は、4-6月期が-1.1%、7-9月期が-4.3%となる。1-3月 期の-14.2%の大幅マイナスから、4-6月期はマイナス幅が大きく縮小するが、7-9月期に再び拡大するというパターンである。この2四半期いずれも 回復力が弱いのが我々の予測の特徴である。
前月の予測と異なる点は、支出サイド、生産サイドいずれも実質GDP成長率が上方に修正されたことである。特に、生産サイドからの成長率予測 は+2.0%と前月からプラスに転じた。主成分分析モデルでは15の変数が使用されているが、うち鉱工業生産指数の好調がその要因となっている。実際、5 月の鉱工業生産指数は前月比5.9%上昇し、3ヵ月連続のプラスとなった。輸送機械工業、電子部品・デバイス工業等が上昇し、経済対策の効果が表れてきた ようである。たしかに経済は大幅なマイナス成長からのリバウンドで最悪期を脱したといえよう。しかし、問題は回復の持続力である。
7月9日に発表されたESPフォーキャスト調査によると、4-6月期のコンセンサス予測は前期比年率+1.98%となっている。これは主成分分析モデル と同じ予測結果である。いずれも、好調な鉱工業生産指数の影響を受けているようである。しかし、経済全体で見た場合、景気回復にはまだまだ時間がかかり、 その判断には慎重にならざるを得ない。

[[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

米国

7月3日の超短期予測は、6月の雇用統計までを更新した結果、グラフに見るように6月に入り緩やかではあるが上昇トレンドを形成し始めた実質GDP経済 成長率を僅かに下方に修正した。成長率だけでなく、実質総需要、実質国内需要、実質最終需要のようなアグリゲート指標においても同じようにわずかながら下 方修正となった。しかし、グラフに見るように4-6月期の経済成長率は2008年10-12月期、2009年1-3月期の前期比年率-5%を下回る大きな マイナス成長から同-1%程度にまで回復していることが分かる。アグリゲート指標で2009年4-6月期の経済成長率をみても-2%?0%となっており、 前2四半期のような大きな落ち込みにはなっていない。
成長率はいまだマイナスであるが、改善の様子は、製造業により明確に現れている。フィラデルフィア、リッチモンド、カンザス・シティー、ダラス、シカゴ の各連銀はそれぞれの地域の製造業のデフュージョンインデックスを毎月発表するが、それらの全てが2008年末までに底をうち、その後改善の傾向を示して いる。6月の時点で製造業の活動が拡大を示しているのはリッチモンド、カンザス・シティーの両連銀地域だけであるが、他の連銀地域では製造業活動のこれま での大きな縮小が急速に小さくなっている。シカゴ連銀の全米活動指数、ISM製造業指数をみても、2009年に入り製造業活動の縮小が急速に改善している ことがわかる。このように、米国経済においては製造業が最悪期から改善し始めた状況にあるといえる。
しかし、6月の雇用統計で懸念されるのは景気先行指標としての平均週労働時間が0.3%減少したことである。この指数は3月に-0.6%と大きく下落し た後、4月、5月は横ばいとなったが、その後の景気回復により上昇することが予想されていた。7月3日の超短期予測では7-9月期のアグリゲート指標を含 む成長率を-2%?0%と4-6月期と同じ範囲に予想しており、米景気の回復(プラス成長)にはまだまだ時間がかかると思われる。

[[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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