研究成果

research

今月のトピックス(2009年9月)

Abstract

8月30日に行われた衆議院総選挙で、民主党を中心とする野党勢力が議席の3分の2を確保した。この結果、今後の経済に対する政策アプローチが大きく変 わることになる。今後の民主党の政策運営については、同党のマニフェストを除いて具体的な金額などを盛り込んだ形での発表はまだ行われていない。ここで は、民主党マニフェストの「工程表」から政策運営が経済にもたらす影響を推計しよう。
表1は、民主党のマニュフェストの工程表をベースに、景気対策支出額を見たものである。マニフェストでは2009年度に対して最終(2013)年度にな るほど支出金額は明確になるが、それ以外の年では一部支出金額の支出状況は不明確である。そのため、2010年度から12年度の金額については、工程表を ベースに実現可能性を考慮して推計した。
主な項目は、①子ども手当・出産支援 (同1.3(2013年度時点の所要額5.5兆円)、②暫定税率の廃止(同2.5兆円)、③医療・介護の再生(同1.6兆円)、④高速道路の無料化兆 円)、⑤農業の戸別所得補償(同1.0兆円)などである。要するに家計に対する所得補償型政策が中心となっていることがわかる。

一方、これらの財政支出の財源は、①予算の組み替えによる無駄な歳出の削減(2013年度時点で9.1兆円)、②「埋蔵金」や資産の活用(同5.0兆 円)、③税制見直し(同2.7兆円)によってファイナンスされることになっている(表2参照)。しかし、2010年度からの早急な実施が困難なものもあ る。特に、公共事業のスリム化や税制改革などである。支出財源が確保できない場合は国債発行によって賄われることになる。
以上のような支出と財源の見通しから財政バランスの見通しをまとめると、2010年度、2011年度は支出が拡大する一方で、財源の手当てが間に合わないため、財政赤字が拡大することになる(表3上段)。
GDPに与える影響では、純支出額に着目する必要がある。純支出額の計算には、支出である「埋蔵金」や資産の活用はコストがかからないから考慮しない。 したがって、純支出額は支出措置額から歳出削減額(予算の効率化)・増税額(税制改革)を減じた額となる(表3中段)。またGDP成長率には、この純支出 額の年度間増減幅が影響する(表3下段)。この増減幅が拡大する2010年度、2011年度にはGDP成長率が押し上げられることになる。2012年度、 2013年度には、増税や歳出削減が進み、増減幅が縮小するため、GDP成長率を押し下げることになる。

最後に、この純支出増減幅を基に、関西経済に対する影響を試算しよう(表4)。試算では、GRP成長率に直接寄与する政策として、子ども手当・医療介護 の再生・農業の戸別所得補償・暫定税率の廃止の4つの政策を取り上げて計算した。また工程表の支出額は日本全国を対象とした額であるため、これに関西の世 帯数割合17.1%を乗じて、関西への影響額としている。さらに、関西経済予測モデルの消費関数の長期消費性向0.464を乗じて追加的消費支出金額を計 算している。これを関西のGRP(89.4兆円、2010年度の予測値)と比較する。この結果、2010年度には0.4%程度、2011年度には0.3% 程度のGRP押し上げ効果となる。しかし、2012年度、2013年度には-0.3%、-0.5%とGRPにマイナス効果をもたらすことになる。

以上、経済効果を示した。より詳細な分析のためには、家計調査報告に基づいた所得階層別の分析が必要となろう。民主党政権が考える内需、特に、家計消費 の刺激を起点とする経済成長シナリオにより、どのような成長パスが実現されるのか、今後の政策運営動向に注視しなければならない。  (稲田義久・入江啓彰)

日本
<7-9月期、内需は久方ぶりにプラス成長に転じるも、持続性に疑問>

9月11日発表のGDP2次速報値によれば、4-6月期の実質GDP成長率は前期年率+2.3%となり、1次速報値(同+3.7%)から下方修正となった。
実質GDP成長率下方修正の主要因は、民間企業在庫品増加である。実質民間企業在庫品増加は1次速報値の前期比-2.0%ポイント(寄与度年率ベース) から同-3.1%ポイントへと下方修正された。在庫調整が想像以上に進展していることを確認した。今後は在庫投資の積み上げが期待され、先行きにとっては 悪くない結果である。
9月14日の予測では、8月の一部のデータと7月のデータがほぼ更新され、また4-6月期のGDP統計2次速報値が追加されている。支出サイドモデル は、7-9月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大し、内需も小幅拡大するため、前期比+0.9%、同年率+3.6%と予測する。
10-12月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大するが、内需が横ばいとなるため、前期比+0.5%、同年率+1.9%と予測している。この結果、2009暦年の実質GDP成長率は-5.5%となろう。
7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.5%となる。実質民間住宅は同-0.8%、実質民間企業設備も同-2.1%といずれも マイナスながら小幅の減少にとどまる。7月の工事費予定額(居住用)と資本財出荷指数は前月比ともにプラスになっており、7-9月期の民間住宅や企業設備 が前期比で安定化する可能性が出てきた。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同-1.0%となる。このため、国内需要の実質 GDP成長率(前期比+0.9%)に対する寄与度は+0.3%ポイントとなり、久方ぶりに内需が景気を引き上げる。
財貨・サービスの実質輸出は同+5.7%と増加するが、実質輸入は同+1.9%にとどまる。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.5%ポイントとなる。
一方、主成分分析モデルは、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率+3.6%と予測しており、支出サイドからの予測と一致している。また10-12月期を同+3.4%とみている。
この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、7-9月期が+3.6%、10-12月期が+2.6%となる。
日本経済は4-6月期以降、内需が小幅ながら緩やかなプラス成長に転じている。しかし、今後は、民主党による補正予算の見直しも含め補正予算の政策効果 が剥落してくるため、経済のプラス成長の持続性には疑問が出ている。2010年度の民主党の消費拡大効果が出る前に一時的にマイナス成長に陥る可能性があ ることを指摘しておく。

[[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

米国

グラフに見るように、8月の雇用統計を更新した時点で超短期モデルは2009年7-9月期の実質GDP成長率を+1.3%と予測している。これは2008年4-6月期以来1年振りのプラス成長である。
支出サイドから実質GDP成長率が急速に上昇した主な理由の一つには”Cash-For-Clunkers Program” (エコカー購入促進システム)により、自動車購入が増え実質個人消費支出が増えたことが上げられる。超短期モデルは実質耐久財の個人消費支出が2009年 7-9月期に11.9%(前期比年率)伸びると予測し、個人消費支出全体の伸び率を同+2.0%と予測している。エコカー購入促進システムによる購入が自 動車の在庫減になればその分GDP成長率の増加は相殺されるが、新車の生産につながればGDP成長率は高まる。支出サイドからの経済成長率上昇のもう一つ の大きな理由は実質住宅投資が7-9月期に同9.1%伸びると予想されていることによる。これは7月の民間住宅建設支出が2.3%(前月比)と大幅に上昇 したことによる。実質住宅投資の伸び率がプラスに転じるのは2005年10-12月期以来14四半期振りのことである。
一方、所得サイドからの実質GDP成長率プラス転換の主な理由は2009年4-6月期の統計上の誤差が2,250億ドルと大きくなり、その結果7-9月 期の統計上の誤差も2,280億ドルになると超短期モデルが予測していることである。この統計上の誤差はGDP比率でみると1.6%に相当する。もう一つ の理由は、1-3月期、4-6月期とそれぞれ前期比-14%、同-5%と大きく落ち込んだ賃金・俸給が7-9月期には0%にまで持ち直すと予想されている ことが挙げられる。
しかし、7-9月期経済のプラス成長の持続性には問題が残る。エコカー購入促進システムが8月24日で終了し、今後の個人消費支出の落ち込みが予想され る。また、住宅市場に回復の兆しが見えたものの今度は商業用不動産市場が悪化していることがある。所得サイドにおいても失業率が8月には9.7%と 1983年以来の高い水準になり、遅行指数とはいいながら労働市場の回復にはまだかなりの時間がかかるとみられ、個人消費支出の鍵をにぎる賃金・俸給の堅 調な伸びが今もって期待できない。このように、米国経済は7-9月期に一旦プラス成長に戻るものの、その持続性には多くの懸念が残る。

[ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

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