研究成果

research

今月のトピックス(2009年6月)

Abstract

<本当に1-3月期が景気の底か?>

【景気は1-3月期に底打ち?】
この数週間、日本経済は1-3月期に底打ちしたのではないかという意見が民間エコノミストの間で主流となりつつある。政府や日銀からもそのようなコメン トがなされ、株価も1万円台をつけ先行きの明るさを示唆しているかのようである。今月の日本経済の見通しで示したように、現時点でわれわれの超短期予測は この見方に対して慎重になっている。以下、その理由を示そう。

【月次データの結果はミックス】
最近の経済指標を一瞥すれば、”景気底打ち”との見方を支持できそうである。鉱工業生産指数は3月、4月と2ヵ月月連続して前月比プラスを記録した。ま た好調な生産、出荷の影響で、4月の一致指数(CI)は前月比1.0ポイント上昇し、11ヵ月ぶりの改善となった。単月では判断しがたいが、これらは景気 の底打ちを示唆するデータといえよう。4月の輸出数量指数は前月比+10.3%と2ヵ月連続で上昇した。輸出は3月、4月に底打ちしたようである。
またセンチメントが大きく改善している。5月の消費者態度指数は、5ヵ月連続で前月比プラスとなり、前年比でも30ヵ月ぶりの改善となった。5月の景気ウォッチャー調査でも、現状判断DIは5ヵ月連続の前月比改善となり、前年比でも2ヵ月連続のプラスとなった。
このように、全体的にみると生産や出荷指数は2ヵ月連続で改善している。しかし、財別に見ると違う姿がうかがわれる。4月の資本財出荷指数は前月比 -10.1%低下し、7ヵ月連続のマイナスとなった。民間企業設備の基調は非常に弱い。また4月のコア機械受注は前月比-5.4%と減少し、2ヵ月連続の マイナスとなった。民間企業設備の先行きも明るくない。
たしかに、消費者センチメントの悪化は止まり改善の方向に進んでいるが、最終需要の勢いは極めて弱い。またデフレ圧力の高まりで、今後1年の物価につい て、横ばいないし下落と見る消費者の割合は、初めて50%を超えた。景気ウォッチャーの見方でも、景気を「やや悪くなっている」と「悪くなっている」と評 価する割合は全体の5割弱もあることに注意しなければならない。これらはいずれも民間消費を押し上げるにはインパクトに欠ける。
月次データの結果には良いものと悪いものとが入り交ざっており、同じデータでも両面が垣間見られる。景気回復期のデータの特徴といえよう。たしかに、この時期、景気診断は非常に難しいが、具体的でなければならない。

【超短期予測の見方】
われわれの超短期モデル予測の特徴を一言でいえば、”Go by the Numbers”である。予測において、月次データと四半期GDPを統計的にリンクしているのである。したがって、毎週、具体的に数字で示すことができ る。現時点では、4月の実績と5月、6月の月次データの予測値からGDPを予測している。今月の日本経済の見通しで示したように、4-6月期予測の特徴 は、純輸出の前期からの減少幅が縮小傾向にあるが、民間需要、特に、民間住宅と民間企業設備が弱い点である。今後2ヵ月で、公的需要と純輸出の回復が、ど こまで民間需要の弱さを相殺できるかが、実質GDP成長がプラスに転換できるかのポイントになる。たしかに、景気は改善の方向にあるが、経済がプラス成長 に転換しているかの判断は難しい。現時点での民間エコノミストの見方は、好調な鉱工業生産統計の影響を大きく受けていると思われる。鉱工業生産の経済全体 に占めるシェアは高々20%であることに注意しなければならない。〔稲田義久]

日本
<マーケットは1-3月期が景気の底、超短期予測は慎重>

6月11日発表のGDP2次速報値によれば、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率-14.2%となり、1次速報値(同-15.2%)から1%ポイ ントの上方修正となった。この結果、2008年度の実質GDP成長率は1次速報値の-3.5%から-3.3%へと上方修正された。
実質GDP成長率上方修正の主要因は、民間企業設備及び民間在庫品増加である。実質民間企業設備は1次速報値の前期比-10.4%から同-8.9%へと 上方修正され、実質GDP成長率に対する寄与度は、-1.6%ポイントから-1.3%ポイントへと0.3%ポイント上昇した。また民間在庫品増加も1次速 報値の-0.3%ポイント(寄与度ベース)から-0.2%ポイントへ上方修正された。
6月15日の予測では、1-3月期GDP2次速報値と12日までの月次データが更新された。支出サイドモデル予測によれば、4-6月期の実質GDP成長 率は、純輸出の減少幅は縮小するが、民需(特に、民間住宅、民間企業設備)が不調となるため、前期比-1.4%、同年率-5.5%となる。
7-9月期の実質GDP成長率は、前期比-2.5%、同年率-9.7%と予測している。実質GDP成長率のマイナス幅が7-9月期に拡大するのは、内需 の減少幅は縮小するが、実質輸入の大幅増加により純輸出が再び悪化するためである。足下の輸入物価の大幅下落の影響を受け、7-9月期の輸入物価予測値が 大幅下落するため、実質輸入の予測値が上振れする。
主成分分析モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率-2.6%と予測している。また7-9月期を同-6.2%とみている。
支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、4-6月期が-4.1%、7-9月期が-7.8%となる。図から明らかなように、この4週間、4-6月期の予測は上昇トレンドにあるが、依然としてマイナス成長にとどまっている。
一方、別のアグリゲート指標である実質総需要(国内需要+輸出)の動きをみれば、4-6月期は前期比年率-4.5%、7-9月期同-3.8%と減少幅は緩やかに縮小している。このように成長率のマイナス幅は縮小の傾向にあるが、依然としてマイナス領域にある。
マーケットでは、1-3月期が景気の底(したがって、4-6月期がプラス成長)という見方が広まっているが、超短期予測はそれほど楽観的ではない。

[[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

米国
6月5日の超短期予測では、同日に発表された5月の雇用統計までを更新している。グラフからわかるように、4月22日以来の実質GDP成長率の下降トレ ンドが止まり、上昇トレンドへの反転の可能性を示した。これはGDPのみならず、総需要、国内需要、最終需要などの他のアグリゲート指標についても同様に 見られた。6月5日の超短期予測の1回だけの予測結果によって景気の転換点を判断するには無理があるが、これまでの深刻な景気後退が緩やかになってきたこ とは認めてよいだろう。マーケットでは、5月の雇用減がコンセンサスの525,000人よりかなり低い345,000人となったことから、リセッションが 終結に向かいつつあるとの楽観的な見方がでてきた。
しかし、景気先行指標としての平均週労働時間は、4月の33.2時間から5月には33.1時間へと減少した。もちろん、景気の遅行指標としての失業率は 今もって上昇を続けており5月には9.4%にまでなった。これは1983年8月以来の高さである。さらに、雇用減少は18ヵ月連続して続いている。これは 1981-82年のリセッション時と同じ記録である。
このように労働市場の停滞を反映して、超短期モデルによる賃金・俸給の予測は、今期・来期とそれぞれマイナスの伸びを予想しており、個人消費支出の増加 に期待がもてない。しかし、6月5日の超短期予測では、4月の所得サイドの統計を更新することによって、政府から個人への移転所得の急増、個人の税支払い の減少が予測され、個人所得が今期、来期にそれぞれ1.9%、1.7%伸びると予測している。すなわち、景気刺激策の個人所得への効果がでてくる。一方、 最近の消費者センチメント・コンフィデンスの急速な高まりを考えると、個人所得の増加が個人消費の増加に結びつく可能性も高い。そうなれば、今回の超短期 予測で示された景気の転換点がより現実的となるだろう。

[[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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