研究成果

research

DMOのインバウンド誘客の取組とその効果 -マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:京都府の事例から-

Abstract

京都府は訪日外客の偏在する京都市とそうでない地域を抱える典型的な自治体である。本稿では観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計として用いて、その問題の解決を目指す京都府の3つの地域連携DMOと京都市を例にとり、マーケティング・マネジメントエリア別にその取組と成果を分析する。分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

1.   府域及び京都市の宿泊施設の推移をみれば、府域においては宿泊施設数や宿泊者の収容人数が増加している地域がみられるものの、京都市の宿泊施設の急増が他エリアを圧倒している。

2.   京都市やお茶の京都エリアに注目すれば、外国人宿泊者の急増や住宅宿泊事業法が施行されたこともあり、簡易宿所及びタイプ不詳の宿泊施設が急増している。今後は京都市と府域の宿泊施設の需給バランスを意識し、施設の質の向上を担保する政策が課題となろう。

3.   外国人宿泊者を国籍別にみると、全エリア共通して、中国、香港、台湾等東アジア地域のシェアが高まっている。京都市では他エリアに比して観光消費額の拡大が期待される欧米豪地域のシェアが高く、一定程度占めている。今後は、欧米豪の府域への誘客と宿泊増が課題となろう。

4.   各DMOが実施した観光プロモーション事業展開は重要である。例えば、海の京都DMOは台湾に向けてのプロモーションに力をいれた結果、同国のシェアが大幅に拡大した。しかし、実効的なプロモーション活動のためにも、KPI等に基づく指標管理が重要となろう。

5.   これまでのプロモーション活動に加え、京都市から、各府域へも足を伸ばし、利用客が府域を観光したくなる魅力的な仕組みづくりが課題である。その際に留意すべきは、各府域DMOで宿泊を増加させるような仕組みづくりまたはプログラムを開発する必要があろう。

本文

はじめに

図1は2010~20年の国内旅行者数と訪日外客数の推移をみたものである。コロナ禍の影響を受けた20年を除いてみると、人口減少下における国内旅行者数の停滞、一方、急増する訪日外客数の姿が明瞭に見て取れる(後掲参考図表1参照)。この訪日外客数の急増はアベノミクスの成長戦略が成し遂げた成果の一つといえる。国民所得統計の概念では、国内旅行者数はGDPの一項目である(国内)家計最終消費支出(サービス)の、訪日外客数はサービス輸出の、説明要因である。その意味で、図1はインバウンドが停滞する日本経済を下支えしてきたことを象徴的に示唆している。

 

 

インバウンドが日本経済を持続的に牽引することが可能となるためには、インバウンド戦略として「ブランド力」、「広域・周遊化」、「イノベーション」に加えて「安心・安全・安堵」の視角が重要であることをこれまで指摘してきた(参照、アジア太平洋研究所(2021))。

われわれは、インバウンド戦略の重要なポイントの一つである広域・周遊化を促進する上で、観光地域づくり法人(DMO:Destination Management / Marketing Organization、以下DMO)の役割が非常に重要であると考えている。本稿では、このDMOの役割とその成果に注目する。まず 1.では、DMOの設立の経緯や役割を整理する。2.では、『宿泊旅行統計調査』の個票データを用いて、訪日外客増加にDMOがどのように寄与してきたかを、「広域・周遊化」の観点から分析し議論する。

その際、京都府の事例を中心に取り上げる。その理由は、京都府が訪日外客の偏在する京都市とそうでない地域を抱えるという典型的なケースとなっているからである。3.では、2.における分析を整理し、そこから得られた含意を示す。

1. DMO設立の経緯

アジア太平洋研究所(2021)の第5章2節において、観光施策に取り組む関西の各自治体に聞き取り調査を行った結果、抱えている課題が各自治体で大きく異なっていることを明らかにした。また、今後インバウンド戦略を実現していく上で、観光をマネジメントする自治体のみならずDMOの役割が重要となることを指摘した。

まず本稿の分析に入る前に、日本におけるDMOの設立経緯とその概要について述べておく。日本においてDMOが初めて取り上げられたのは、アベノミクスの成長戦略の一環として2014年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」である。閣議決定を受け、観光庁は15年12月から「日本版DMOの候補法人」の募集を開始し、17年11月に候補法人であった41法人が日本版DMO(登録DMO)として登録された。表1には日本のDMOの基礎的な役割や機能を、また登録DMOが満たされなければならない5つの要件が示されている。

 

 

その後、登録されたDMOは増加し、2021年11月現在、広域連携、地域連携、地域、それぞれを合計すると、213件登録されている。また、候補法人としてのDMOは地域連携、地域合わせて90件である(表2)。

 

 

このように日本におけるDMOは種類や連携の仕方によって様々に分類される。それは関西各府県をマーケティング・マネジメントエリア(以下、マネジメントエリア)としているDMOについても同様であり、表3は関西2府4県を主たるマネジメントの対象としたDMOを整理したものである。

各府県とも所在しているDMOの数や種類が異なっており、京都府では府全体をマネジメントするDMOが存在しないところが特徴的である。また、図2は各府県のDMOの地理的分布状況を示したものであるが、歴史文化遺産や食などのテーマに合わせて、県内のみならず他府県に跨って連携しているDMOもあることに注意を要する。

 

 

 

2.『宿泊旅行統計調査』を用いた京都府DMOの分析

2-1. インバウンドの広域・周遊化を目指す京都府DMOの設立と活動状況

これまでの京都府観光の状況をみると、京都市については、米国の旅行雑誌「トラベル・アンド・レジャー」の人気観光都市ランキングで8年連続ベスト10にランクインするなど(京都市2020参照)、世界的な地位を確立しており、国内外から多くの観光客を集めている。しかし、国内外の観光客は京都市に集中しており、京都市を除く地域(以下、府域と呼ぶ)への誘客は十分ではない。
日帰りだけではなく宿泊を拡大し持続的な観光業を目指す上では、府域への誘客を一層増やすことが課題となっている。

 

図3はこの間の状況を示している。京都府における延べ宿泊者数の前年比伸び率への寄与度を国内客と訪日外客とに分けてみたものである7。この間(2012~20年)、全体の伸びが減少したのは、14年(-15.4%)、16年(-3.3%)、そして20年(-59.6%)の3年である。14年については、消費増税に伴う国内不況の要因もあり日本人の延べ宿泊者数が大きく減少し、全体を押し下げたことがわかる。16年については、訪日外客は前年(爆買い)の反動で伸びが減速する(15年:+39.1%→16年:+0.5%)に加え、国内客が減少したためである(-4.6%)。20年については、コロナ禍の影響が大きく出ている。図が示すように、この間、国内客の全体への寄与度は景気の動向(所得の変動)の影響を大きく受けている一方で、訪日外客は一貫して全体の押し上げに寄与していることがわかる(後掲参考図表2参照)。19年は、京都府の観光客の伸び(+50.4%)の半分以上を訪日外客が寄与し(28.2%pt)、また京都市における混雑化現象も注目された年でもある。京都府にとっては府域に訪日外客をいかに持続可能な形で伸ばすかが、大きな政策課題となっている。

 

 

以上が京都府全域の宿泊者の動向の整理であるが、これを地域別に見ると、違う姿がみえてくる。
府域では、着実に観光客数等を伸ばしているものの、訪日外客の宿泊者数の点で、京都市との間で大きな差が生じている。本節では、訪日外客をいかに府域に周遊させるかについて、京都府が取り組んできた政策とその効果を分析する。

京都府では、府域25市町村を「海の京都」「森の京都」「お茶の京都」「竹の里・乙訓」とエリアで分け、京都市と連携する「もうひとつの京都」として広域観光プロジェクトを進めるなどの観光振興に取り組んできた。表4は、海の京都、森の京都、お茶の京都それぞれのエリア構想からDMO設立、観光地域づくり戦略策定までの系譜を整理したものである。また、参考に京都府及び京都府観光連盟の動きも略述している。

海の京都は、他に先駆けてエリア構想が策定されており、海の京都DMO設立も、森及びお茶の京都DMO設立より約1年早い。また、インバウンド戦略については、森の京都及びお茶の京都DMOでは、「観光地域づくり戦略」の中に一項目として記載がある一方、海の京都DMOでは別途「インバウンド戦略計画」を策定し、海外プロモーション、受入環境整備に取り組んできた。新型コロナウイルス感染症がパンデミック化したため、水際対策のため訪日外客の入国が規制され始めた2020年以降、終息後を見据え、観光パンフレットや案内板の多言語化・表記統一化などの受入環境整備、バーチャルツアーの造成や、オンライン商談会への参加などの情報発信・プロモーション事業に取組んだ。

 

 

なお、それぞれのDMOにおいてインバウンドのターゲット地域を設定しており、それを整理したのが表5である。今後も安定的な訪問が期待される東アジア地域や東南アジア地域に加えて、欧米豪地域にもターゲット層を絞っている。前者についてはLCC就航・増便により訪日客数が増加しており、今後もさらなる来訪客の増加が見込めること、後者についてはロングステイによる観光消費額の増大が期待されることから、いずれも精力的にプロモーション活動を行っている。

海の京都では、欧米豪地域へのプロモーションに関して、2021年9月に欧州の海外旅行会社2社とパートナーシップ協定を締結し、訪日観光情報の収集やマーケティングのほか、観光情報の発信やオンラインファムツアー・商談会の開催等、インバウンド誘客事業に戦略的に取り組んでいる。

森の京都DMOでは、2021年12月にUNWTO(国連世界観光機関)から世界の「ベスト・ツ-リズム・ビレッジ」の一つとして選定された南丹市美山町を有している。今後、認定のロゴを使用した広報活動が認められるほか、UNWTOからの支援と情報発信により世界的な認知度の向上が期待される。

一方、お茶の京都DMOでは、京都市に訪れている国内外の観光客をターゲットとしており、京都市からもう一足伸ばして同地域への訪問を促進するように、交通事業者と連携した取組みを進めている。ただ、エリアが広範囲であるため、二次交通の問題や宿泊施設数が少ないことが課題となる。

交通インフラに関しては2024年度に城陽~大津間の開通が予定されている新名神高速道路や、それを契機とした「(仮称)京都・城陽プレミアム・アウトレット」の開業により、エリアへの来訪者の一層の増加が見込まれている。

 

 

2-2. 各 DMO の取組を評価するための基礎統計

前項では京都府における3つの地域連携DMOの設立経緯と活動状況を説明した。本項では、各DMO のマネジメントエリアに所在している宿泊施設のタイプや訪日外客の宿泊動態の特徴をみていく。各エリアの宿泊動態を分析する際、DMOのマネジメント対象となっている市町村ごとの宿泊状況が把握できる基礎統計が必要となる。本分析では、国土交通省観光庁が実施している『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計とすることで、各DMOマネジメントエリアにおいて取り組まれている政策の効果と課題を明らかにしていく。

本調査統計の概要は次の通りである。国土交通省観光庁で補正を加えた名簿から、標本理論に基づき抽出されたホテル、旅館、簡易宿所、会社・団体の宿泊所などを調査対象にして、宿泊旅行の全国規模の実態等を把握し、観光行政の基礎資料としている。主な調査事項は、①延べ・実宿泊者数及び外国人延べ・実宿泊者数、②延べ宿泊者数の居住地別内訳(県内、県外の別)、③外国人延べ宿泊者数の国籍別内訳等である。上記調査事項に加えて、個票データ内には、各自治体に所在している宿泊施設の種類や収容人数などの情報も含まれているため、より詳細な訪日外客の宿泊動態が分析可能である。次項では、京都府の3つのDMOのマネジメントエリア内における宿泊施設のタイプ及び各施設の収容人数の推移や国籍別訪日外客の宿泊者数について整理し、特徴を分析する。

2-3. 基礎統計からみた京都府DMOのエリア別特徴

【宿泊施設数】
基礎統計から得られる宿泊施設の情報から、まず京都府全体の宿泊施設数の推移を確認する。図4が示すように、訪日外客の急増を受けて、京都府内全体では2015年以降、着実に宿泊施設数は増加しており(15年4月:1,486件→20年1月:4,343件)、うち、京都市の宿泊施設が16年以降、急増していることが分かる(15年4月:816件→20年1月:3,627件)。京都市の宿泊施設が府内に占めるシェアをみれば、15年4月には54.9%であったが、20年1月には83.5%まで上昇しており、京都市への一層の宿泊施設の集中が確認できる(後掲参考図表3参照)。

 

 

次に府域DMO及び京都市のマネジメントエリア内の宿泊施設数の推移を宿泊施設タイプに分けてみてみよう(図5)。

 

 

注:図中の数値は各年1月時点の施設数を示している(ただし、2015年は4月時点)。また、破線の数値は各年の収容人数を示している。

出所:観光庁『宿泊旅行統計調査』個票データより筆者作成。

 

<海の京都>
海の京都の宿泊施設数は、2015年は528件であったが、17年には481件に減少した。しかし、18年以降は再び増加し、20年には517件で15年とほぼ同水準にまで戻っている。

宿泊施設のタイプでは、旅館や簡易宿所が多い。旅館は2015年以降ほぼ横ばいだが、簡易宿所は18年から幾分増加傾向で推移していることがわかる。

エリア内にある各宿泊施設の宿泊者の収容人数では、2015年は17,073人であったが、16年から18年にかけて幾分減少した。19年以降は再び増加に転じ、20年は16,851人となっているが、15年時よりも収容可能な人数は減少している。

 

<森の京都>
宿泊施設数は、2015年の160件から16年に151件に微減したが、17年以降再び増加傾向を示し、20年には200件となった。

宿泊施設タイプ別では、簡易宿所や旅館が多い。海の京都と同様、簡易宿所は2015年以降着実に増加していることが分かる。

エリア内の宿泊者の収容人数では、2015年の5,700人から16年は 5,525人に減少したが、17年以降増加に転じている。20年には 6,012人となり、15年と比較すれば収容人数が増加した。

<お茶の京都>
宿泊施設数は2015年が49件であったが、16年以降増加傾向で推移し、20年では73件となっている。

宿泊施設タイプ別では、2015年は旅館が多かったが、17年から簡易宿所が、18年以降タイプ不詳が増加しており、それに呼応して旅館は減少している。

エリア内の宿泊者の収容人数をみれば、2015年の2,588人から増加傾向となり19年には3,167人まで増加した。20年には2,977人と前年から幾分減少したものの、15年よりも高い水準を維持している。

<京都市>
京都市内の宿泊施設数は2015年が816件であったが、16年以降急増し、20年では約4.4 倍の3,627件となっている。

宿泊施設タイプ別では、2018年以降、簡易宿所及びタイプ不詳の件数が急増している。ちなみに、タイプ不詳の宿泊施設の従業員規模をみれば、従業者数が0~4人の施設が 80%超を占めており、民泊関係の施設と考えられる。

エリア内の宿泊者の収容人数をみれば、2015年の62,007人から19年には121,853人と4年間で倍増しており、他のDMOを圧倒している。

以上から、2015年以降、府域において宿泊施設数及び宿泊者の収容人数は増加傾向を示しているものの、京都市における宿泊施設数の急増には比肩できないといえよう。

【宿泊者数、外国人宿泊者比率】
ここでは京都府内における宿泊者数の推移(2012~19年)を、地域別及び宿泊者属性別でみていく(図6-1及び参考図表4)。

全宿泊者数は2014年に一旦減少するものの、以降18年を除いて着実に増加している。うち、日本人宿泊者数は 14年に大幅減少し、以降一進一退で推移し、19年には急増する。外国人宿泊者数は年々増加傾向で、12年と19年を比較すると約4倍に拡大している(後掲参考図表4参照)。このことから、外国人宿泊者が全体を押し上げていることがわかる。地域別に宿泊者数をみると、全宿泊者、日本人宿泊者及び外国人宿泊者の全ての属性において京都市が最も多く、次いで海の京都地域、森の京都地域、お茶の京都地域の順となる。

 

 

地域別に宿泊者のシェアをみると(図6-2及び参考図表4)、全宿泊者については京都市のシェアが高まっており(12年:87.0%→19年:90.2%)、他地域と比較してシェアの上昇幅が大きいことが分かる。日本人宿泊者については、京都市は高水準で推移しており、シェアの変化はほとんどない(12年:85.4%→19 年:85.8%)。一方、森の京都ではシェアが拡大傾向にあるが(12年:2.7%→19年:3.8%)、海の京都は減少傾向となり(12 年:10.1%→19年8.5%)、お茶の京都ではほぼ横ばいであるため(12年:1.8%→19年:1.9%)、府域全体としてのシェアの大きな変動はみられない。

外国人宿泊者についてみると、京都市のシェアは日本人宿泊者のシェアよりも13%ポイント程度高く(2012年:98.3%→19年:98.5%)、他地域を圧倒している。府域では海の京都が1%程度のシェアを占めるが、他の地域ではより小さいシェアとなっている(参考図表4参照)。

以上から、全宿泊者数の増加傾向に寄与しているのは、主に京都市の外国人宿泊者であり、府域では訪日外客の広域・周遊化は依然として課題と言えよう。

 

 

次に、各エリアにおける全宿泊者数と日本人宿泊者数、及び全宿泊者数に占める外国人宿泊者数比率をみる(図7)。

 

<海の京都>
全宿泊者数は微減傾向となっており、日本人宿泊者数も同様の推移がみられる。一方、外国人宿泊者比率は上昇傾向(2012年:1.8%→19年:6.2%)となっており、日本宿泊者数の減少傾向を外国人宿泊者の増加が補っていると考えられる。

<森の京都>
日本人宿泊者数は増加傾向を示している。一方、外国人宿泊者比率も上昇傾向(2012年:0.8%→19年:3.6%)となっている。結果、全宿泊者数が増加傾向を示している。

<お茶の京都>
全宿泊者数は微増傾向となっており、前述の森の京都と同じ特徴となる。すなわち、日本人宿泊者数が増加傾向を示し、外国人宿泊者比率も上昇傾向(2012年:0.9%→19年:4.9%)となっている。

<京都市>
全宿泊者数は増加傾向となっているが、日本人宿泊者数は横ばいで推移している。一方、外国人宿泊者比率は上昇傾向(2012年:13.4%→19年:38.2%)となっていることから、外国人宿泊者数の増加が顕著であることが分かる。

【国籍別外国人宿泊者】
図6-1及び図7では、府域DMO及び京都市の外国人の全体の宿泊者数をみたが、ここでは京都府DMOの各エリアにおける外国人宿泊者を国籍別、地域別に分け、その特徴をみる(図8~11)。

<海の京都>
図8が示すように、2014年以降、台湾のシェアが高くなっており(14年:12.0%、15年:18.5%、16年:22.9%)、17年以降は外国人宿泊者数の約半数を占めている(17年:44.2%、18年:44.1%、19年 50.3%)。これは、海の京都DMOが17年、18年に実施した台湾最大級の旅行博への出展や、現地でのプロモーション等の効果があらわれているものと思われる。東アジア地域のシェアでみれば、14年以降上昇傾向を示しており(14年:27.7%→19年:79.9%)、台湾を中心に増加していることがわかる。また、18年以降、タイのシェアも徐々に拡大していることもあり(18年:3.6%→19年:4.7%)、東南アジア地域のシェアも上昇している。一方、欧米豪地域のシェアをみれば、12 年から 14 年にかけて上昇したものの(12年:10.0%、13年:24.3%、14年:42.5%)、19年には 7.9%まで低下している。

新型コロナウイルスの影響がない19年の国籍別シェアの上位3カ国・地域は、台湾(50.3%)、香港(15.7%)、中国(11.5%)となっている。

 

 

<森の京都>
図9が示すように、2013年以降、台湾のシェアが高まっている(12年:12.4%→13年:28.5%→19年:29.3%)。また15年に中国のシェアが急上昇(14年6.3%→15年40.6%)したが、同年急増した訪日中国人が京都市のみならず、隣接する森の京都での宿泊を増やした一時的な影響と思われる。実際、その影響は剥落しており、19年は17.9%までシェアが低下している。結果、東アジア地域のシェアでみれば、12年に比して19年は18%ポイント程度上昇しており、着実にシェアは拡大している(12年49.1%→19年:67.6%)。また、東南アジア地域も上昇傾向で推移しており、12年の1.1%から19年に 9.0%まで上昇している。欧米豪地域に注目すれば、12年8.2%から19年15.7%までに上昇しており、この背景には京都市からのアクセスの良さと、彼らが好む古来自然風土があると考えられる。

19年の国籍別シェアの上位3カ国・地域は、台湾(29.3%)、中国(17.9%)、香港(14.0%)となっている。

 

 

<お茶の京都>
図10が示すように、2015年に中国のシェアが高まり以降、約3~4割を占めている(16年:42.7%→19年:39.3%)。また、17年に香港のシェアが拡大し、以降はほぼ同水準で推移している(17年:13.8%→19年:11.4%)。東アジア地域のシェアでみても、14年以降着実に上昇していることがわかる(14 年:53.1%→19年:68.8%)。また、東南アジア地域のシェアも15年以降上昇していることが特徴的である(15年:7.8%→19年10.2%)。一方、欧米豪地域のシェアは、12年から19年にかけて低下傾向で推移している(12年:34.0%→19年:15.7%)。

19年の国籍別シェアの上位3カ国・地域は、中国(39.3%)、香港(11.4%)、台湾(11.1%)となっている。

 

<京都市>
図11が示すように、年々、中国のシェアが高まっていることもあり(2012年:9.9%→19年:28.4%)、東アジア地域のシェアも上昇している(12年:34.2%→19年:44.4%)。また、府域3エリアでは小さかった欧米豪地域のシェアは高く一定程度占めていることがわかる(12年:35.2%→19年:34.0%)。

19年の国籍別シェアの上位3カ国・地域は、中国(28.4%)、米国(11.6%)、台湾(8.9%)となっている。

 

3.分析の整理と含意

これまでの分析対象である京都府は、訪日外客の偏在する京都市とそうでない地域を抱える典型的な自治体である。前節までに府域DMO及び京都市の観光政策を踏まえつつ、基礎統計を用いて各エリアの宿泊施設や宿泊者の動態について分析を行った。以上の分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

1. 府域DMO及び京都市の宿泊施設の推移を宿泊施設タイプごとにみれば、府域DMOにおいて宿泊施設数や宿泊者の収容人数が増加している地域が多くみられるものの、京都市の宿泊施設の急増が他エリアを圧倒している状況である。

2. 京都市に注目すれば、外国人宿泊者が急増したことや住宅宿泊事業法が施行されていたこともあり、2018年以降、簡易宿所及びタイプ不詳の宿泊施設が急増している。また、お茶の京都でも簡易宿所が増加している。同地域は京都市から地理的に近いこともあり、京都市に訪れる訪日外客を誘客する取組が影響していると思われる。

3. 民泊の供給が京都市及びお茶の京都における宿泊施設数の増加に寄与していることがわかったが、今後は京都市と府域の宿泊施設の需給バランスを意識し、施設の質の向上を担保する政策が課題となろう。

4. 外国人宿泊者を国籍別にみたところ、全エリア共通して、中国、香港、台湾等東アジア地域
のシェアが高まっていることが分かった。また、京都市では中国のシェアが高まっているも
のの、観光消費額の拡大が期待される欧米豪地域のシェアが他エリアに比して高く、一定程
度占めている。今後は、欧米豪の府域への誘客と宿泊増が課題となろう。

5. 各DMOが実施した観光プロモーション事業の展開は重要である。特に、海の京都DMOは台湾最大級の旅行博への出展や現地プロモーションに力をいれた結果、同国のシェアが大幅に拡大していることがみてとれる。さらに、実効的なプロモーション活動を実施するためにも、KPI 等に基づく指標管理が重要となろう。

6. これまでのプロモーション活動に加え、京都市から、海の京都、森の京都、お茶の京都へも足を伸ばし、利用客が府域を観光したくなるような一層魅力的な仕組みづくりが必要となる。その際に留意すべきは、各府域DMOで宿泊を増加させるような仕組みづくりまたはプログラムを開発する必要があろう。例えば、昼だけではなく夜観光を促進するプログラム作りが重要となろう。

おわりに

本稿では観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計として用いることで、京都府のDMOを例にとり、マネジメントエリア別にその取り組みと成果を分析した。

それぞれの府域DMOが持つ独自のテーマを活かしたプロモーションの実施により、京都市にはない自然文化や地域の魅力を感じ、年々、東アジアを中心に多くのインバウンド観光客が宿泊しており、エリアによってその国籍にも違いがあることがわかった。一方、ロングステイによる観光消費額の拡大が期待される欧米豪地域のシェアは京都市で高く、彼らの府域への誘客はまだまだ課題多しということも数量的に明らかになった。

『宿泊旅行統計調査』の個票データはDMOのマネジメントエリア単位で集計・分析することが可能となるため、DMOの取組みの成果を確認することができる。他府県のDMOについても同様の分析が可能となる。今後の課題として、関西各府県のDMOの分析に応用するとともに、DMO設立のインバウンド誘客への影響を統計的に検証したい。本稿はそのための準備であるといえる。

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    都道府県別訪日外客数と訪問率:2月レポート No.57

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、2月の訪日外客総数(推計値)は278万8,000人、2019年同月比+7.1%であった。春節休暇やうるう年で日数が増加した影響もあり、単月過去最高を更新した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば12月は273万4,115人。うち、観光客は255万1,290人、商用客は8万703人、その他客は10万2,122人であった。

    ・国土交通省が公表した2024年夏季運航スケジュール(3月31日~10月26日)によれば、国際線の旅客便は週4,875便で、19年同期比-7%とコロナ禍前をほぼ回復。面別にみれば、韓国、米国はコロナ禍前を上回った一方、中国は依然コロナ禍前の6割程度にとどまっている。今後、中国を除くアジア地域を中心に回復が見込まれるが、中国人客は緩やかな回復にとどまろう。

     

    【トピックス1】

    ・関西2月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、2カ月ぶりの前年比減少。一方、輸入は11カ月ぶりに増加した。結果、貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。

    ・1月のサービス業の活動は2カ月連続の改善だが小幅にとどまり、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は2カ月連続の前月比上昇。また、対面型サービス業指数も2カ月連続で同上昇した。観光関連指数はコロナ5類移行後初めての年始休暇の影響もあり、劇場・興行団や旅客運送業が上昇に寄与し、2カ月連続の同上昇となった。

     

    【トピックス2】

    ・12月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,068.0千人泊で、2019年同月比+12.8%と4カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は7,593.7千人泊、2019年同月比+3.1%と4カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,474.3千人泊となり、同+41.6%と5カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西各府県の訪問率をみれば、大阪府39.3%が最も高く、次いで京都府28.9%、奈良県6.8%、兵庫県5.5%、和歌山県1.2%、三重県0.8%、滋賀県0.6%、鳥取県0.3%、徳島県0.2%、福井県0.2%と続く。

    ・2023年10-12月期の関西2府4県の訪日外国人消費単価(旅行者1人1回当たりの旅行消費金額)は19年同期比+29.2%増加。費目別では、飲宿泊費や娯楽等サービス費が大幅増加した。

    ・関西2府4県の訪日外客数と消費単価を用いて、2023年10-12月期の関西における消費額を推計した。結果、訪日外客消費額は4,164億9,716万円となり、19年同期比では+25.7%とコロナ禍前を回復した。

     

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  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年3月)<3月末統計集中発表日のデータを更新して、1-3月期の実質GDP成長率予測を前期比年率-3.0%に下方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    3月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では3月末までに発表されたデータを更新した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、1-3月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ2/3が更新された。

    ▶10-12月期GDP2次速報によれば、実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と1次速報から上方修正。結果、2四半期連続のマイナスから2四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶2月の生産指数は前月比-0.1%小幅低下し2カ月連続のマイナス。結果、1-2月平均は10-12月平均比-6.2%低下した。生産の基調判断は「一進一退ながら弱含み」。

    ▶1-2月平均を10-12月平均と比較すれば、建築工事費予定額は-3.0%、資本財出荷指数は-11.4%低下した。1月を10-12月平均と比較すれば、実質総消費動向指数は-0.6%減少だが、公共工事は+1.8%増加した。消費、住宅投資、企業設備と民間需要の低迷が目立つ。

    ▶1-2月平均の輸出入動向(日銀ベース)を10-12月平均と比較すれば、実質輸出額は-4.0%、実質輸入額は-7.3%、それぞれ減少した。財貨の実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はプラスとなっている。

     

    1-3月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-3.0%と予測する。生産サイドは同-4.2%と予測。結果、平均予測(同-3.6%)は市場コンセンサス(同-0.36%)より低めとなっている(図表1参照)。

     

    図表1

     

    1-3月期インフレ予測の動態

    ▶2月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.8%、インフレ率は4カ月ぶりに前月から拡大。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+3.2%と23カ月連続の上昇。インフレ率は6カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、1-3月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.1%、国内需要デフレータを同+0.2%と予測している。一方、交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.0%と予測する(図表2参照)。

     

    図表2
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.131-景気は足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆し: 生産回復の遅れが景気下押しリスク-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 新田 洋介 / 宮本 瑛 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆しがみられる。足下、生産は大幅減産となった。雇用環境は失業率が小幅悪化したものの、労働力人口と就業者数はともに増加していることもあり、持ち直している。消費は初売りセールやインバウンド需要の増加で好調。貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は大幅縮小。先行きは令和6年能登半島地震の影響が和らぎつつあるものの、生産回復の遅れが景気の下押しリスクとなろう。
    • 1月の生産は自動車生産の停止が影響し、大幅減産となった。正常化にはしばらく時間を要することもあり、1-3月期は大幅減産となる可能性が高い。
    • 1月の失業率は前月より小幅悪化したが、労働力人口と就業者数はともに増加。また、就業率も前月より上昇した。雇用情勢は持ち直している。なお、一部の産業を除いて、足下では労働需給の動きはともに低調である。
    • 12月の現金給与総額は2カ月ぶりの前年比増加となり、伸びは前月より大きく拡大した。結果、実質賃金の減少は続いているが、減少幅は前月より縮小した。
    • 1月の大型小売店販売額は28カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、23カ月連続のプラス。スーパーも16カ月連続で拡大した。
    • 1月の新設住宅着工戸数は2カ月連続で前月比増加。貸家は減少したものの、持家、分譲は増加となったためである。
    • 1月の建設工事は公共工事がマイナスに転じた影響で25カ月ぶりの減少。2月の公共工事請負金額も2カ月連続の前年比減少となった。
    • 2月の景気ウォッチャー現状判断は2カ月ぶりに前月比改善。令和6年能登半島地震の影響が和らいだことやインバウンド需要の増加が景況感に好影響となった。また、先行き判断は賃上げへの期待もあり、4カ月連続で改善した。
    • 2月の貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は前年比大幅縮小。春節の時期のずれから、対中輸出が減少に転じた影響とみられる。一方、輸入は11カ月ぶりに前年比増加となった。
    • 2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1-2月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。工業生産は前月比で減速となったうえ、個人消費の回復も勢いを欠いている。中国政府は今年の実質経済成長率の目標を「5%前後」と定めたが、個人消費を直接支援する景気刺激策の実施には慎重である。そのため、1-3月期の景気は10-12月期より大きな改善が見込まれないと予想される。
    【関西経済のトレンド】

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  • 盧 昭穎

    「電気・ガス価格激変緩和対策」事業による 負担軽減効果の試算

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    盧 昭穎 / 稲田 義久

    ABSTRACT

    本稿の目的は、「電気・ガス激変緩和対策」事業が家計負担軽減に与える影響を分析することである。2022年の物価上昇は家計に大きな負担をかけ、特にエネルギーコストの上昇が深刻な問題となった。このような状況下において、政府は2023年2月から当該事業を実施し、家計負担の軽減に努めている。本稿では、本事業が適用されない場合の消費者物価指数を試算することにより、緩和対策事業の効果を所得階級別に分析する。結果を要約すれば、以下のとおりとなる。

     

    1. 2023年2月から24年1月までの「電気・ガス激変緩和対策」事業により、一世帯あたり電気代29,119円、都市ガス代4,733円、負担額が軽減された。収入階級別にみると、収入が高い世帯ほど電気の使用量が多いため、負担軽減額は大きくなる傾向がみられた。
    2. 負担軽減額が可処分所得に占める割合をみると、一世帯あたり電気代の平均軽減額が可処分所得の49%を、都市ガスは0.08%を占めた。収入が高い世帯ほど電気の負担軽減額が可処分所得に占める割合は小さくなった。都市ガス代も同様の傾向である。
    3. 緩和措置が適用されない場合の足下の電気と都市ガス代指数は徐々に低下しており、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受ける前の水準に近付いている。緩和措置が適用されない場合の電気と都市ガス代指数を試算することは、緩和措置をいつ終了させるかについての議論に数値的なベンチマークを提供できよう。
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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:1月レポート No.56

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、1月の訪日外客総数(推計値)は268万8,100人、2019年同月比では-0.0%と2カ月ぶりに小幅マイナスに転じたが、コロナ禍前とほぼ同程度となった。なお、国・地域別では韓国、台湾とオーストラリアが単月で過去最高を記録した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば11月は244万890人。観光客は220万6,883人となり、2カ月連続で200万人超の水準となった。

    ・令和6年能登半島地震は新潟県、富山県、石川県、福井県の観光業に大きな影響を与えている。政府は当該地域で落ち込んだ観光需要を喚起するために、3月より「北陸応援割」を開始した。喚起策により、国内旅行者及び訪日旅行者の増加が期待されよう。

    【トピックス1】

    ・関西1月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、9カ月ぶりの前年比増加。一方、輸入は10カ月連続で減少した。貿易収支は12カ月ぶりの赤字となった。

    ・1月の関西国際空港への訪日外客数は70万402人と、2カ月連続で70万人超の水準。低調なアウトバウンド需要に比してインバウンド需要は堅調に推移している。

    ・12月のサービス業の活動は小幅改善だが、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は4カ月ぶりの前月比上昇。また、対面型サービス業指数は2カ月ぶりに同上昇した。観光関連指数も年末の旅行需要増加の影響もあり、旅行業や宿泊業が上昇に寄与し、4カ月ぶりの同上昇となった。

    【トピックス2】

    ・11月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,949.3千人泊で、2019年同月比+10.0%と3カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は8,124.0千人泊、2019年同月比+1.3%と3カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,825.3千人泊となり、同+34.6%と4カ月連続で増加した。日本人宿泊者に比して外国人宿泊者は着実に増加している。

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西2府8県の国内旅行消費額(速報)は1兆1,331億円、19年同期比+12.4%と3四半期連続のプラス。23年通年では4兆1,034億円となり、コロナ禍前(19年比-0.6%)をほぼ回復した。

    ・国内旅行消費額のうち、10-12月期の宿泊旅行消費額は9,101億円で2019年同期比+21.2%となり、2四半期連続のプラス。一方、日帰り旅行消費額は2,230億円。2019年同期比-13.1%と7-9月期(同-21.4%)からマイナス幅は縮小したものの、宿泊旅行消費額に比して回復ペースは緩慢である。

     

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  • 稲田 義久

    令和6年能登半島地震の影響と北陸3県経済 -ストック、フロー、人流を中心に-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 壁谷 紗代 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響が懸念されている。震災によって大きな被害を受けた新潟県、富山県、石川県の3県(以下、北陸3県と記す)の被害状況に基づき、復旧復興の観点からその経済的な影響を考察した。それを整理し得られた含意は以下の通りである。

     

    1. ストックの観点から北陸3県経済をみれば、民間企業資本ストックは、各県とも「サービス」が最も大きい。次いで新潟県、石川県では「農林水産」が、富山県では「化学」が大きい。また、住宅ストックは新潟県が最も大きく、次いで石川県、富山県と続く。
    2. フローの観点から北陸3県経済をみれば、各県とも製造業のシェアが最も高い。うち、新潟県は「食料品」が、富山県は「化学」が、石川県は「はん用・生産用・業務用機械」がそれぞれ最も高いシェアを占めている。
    3. 今回の震災による北陸3県の直接被害(建築物等)を推計すれば、新潟県は5,177億円、富山県は2,946億円、石川県は5,827億円、3県計で1兆3,951億円となる。また、間接被害は4兆円となり、これは2020年度の名目GDPの0.4%に相当する。
    4. 人口移動の観点からみれば、北陸新幹線開業を契機に富山県、石川県でみられたような人口移動が今回の震災を契機に一層進む可能性がある。3月16日に金沢-敦賀間の延伸が実現するが、この効果は福井県では限定的と思われる。
    5. 今回の震災で北陸の観光業の特徴が明らかとなった。北陸は国内市場に強く依存した構造となっている。人口減少が長期トレンド下にあるため、この構造から脱却する必要がある。地域創生戦略にとって、インバウンド需要の一層の取り込みを実現する戦略が重要となろう。

     

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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.130-景気は足下局面変化、先行きは悪化の兆し: 自動車生産停止と中国経済減速がリスク要因

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、10-12月期で均せば低調。雇用環境は失業率が4カ月連続で改善したが、有効求人倍率は悪化が続く。消費は年末商戦や好調なインバウンド需要で堅調。貿易収支は12カ月ぶりに赤字に転じた。自動車生産停止や中国経済減速のリスクもあり、先行き悪化の兆しがみられる。
    • 12月の生産は3カ月ぶりの前月比上昇だが、10-12月期では3四半期ぶりの減産。生産は低調である。
      23年通年の失業率は前年比横ばいだが、労働力人口と就業者数はともに増加し、雇用の回復は順調に進んだ。しかし、10-12月期は労働力人口と就業者数が前期よりいずれも減少し、就業率は低下した。足下では雇用回復の勢いがやや弱くなっている。
    • 11月の現金給与総額は24カ月ぶりの前年比減少。インフレの高止まりにより実質賃金は減少が続き、減少幅は前月より拡大した。
    • 12月の大型小売店販売額は27カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、22カ月連続のプラス。スーパーも15カ月連続で拡大した。
    • 12月の新設住宅着工戸数は2カ月ぶりに前月比増加した。持家、分譲は減少したものの、貸家は増加となったためである。
      堅調な公共工事の影響もあり、12月の建設工事は24カ月連続の前年比増加。しかし、1月の公共工事請負金額は前年比減少に転じている。
    • 1月の景気ウォッチャー現状判断は3カ月ぶりに悪化。令和6年能登半島地震の発生によりサービス関連を中心に悪影響を及ぼした。一方、先行き判断は3カ月連続の改善。春節によるインバウンド需要増加の期待が寄与した。
    • 1月の貿易収支は12カ月ぶりの赤字だが、赤字幅は前年比大幅縮小。輸出は9か月ぶりに同増加に転じた。ただし、春節の時期のずれの影響もあるため、注意が必要である。一方、輸入は10カ月連続で同減少した。
    • 1月の関空経由の外国人入国者数は2カ月連続で70万人超の水準となり、インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。消費者物価指数の低下傾向が顕著になっており、不動産市場の不況も続いている。また、企業の景況感も低迷している。ただし、2月の春節連休は例年より1日多くなっており、観光などレジャーの消費は前年より伸びる可能性が高いため、1-3月期の景気は10-12月期よりわずかな改善が見込まれる。
    【関西経済のトレンド】

    PDF
  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.68 -内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    1. 2023年10-12月期の関西経済は、内需・外需ともに回復の動きが鈍くなっており、足踏みが続いている。家計部門では消費者センチメント、所得、雇用と多くの指標で伸び悩んでいる。企業部門では、景況感は堅調であるものの、生産は一進一退で弱い動きとなっている。対外部門は、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しているが、財輸出は前年割れが続いている。
    2. 家計部門は足踏み状態にある。大型小売店販売はインバウンド需要など客足の回復で堅調であるが、センチメント、所得・雇用環境、住宅市場など幅広い指標で弱い動きとなっている。物価上昇ペースは緩やかになってきたものの、賃上げ機運にも落ち着きが見られ、実質賃金の目減りが個人消費に影を落としている。
    3. 企業部門は、緩やかに持ち直しているが、生産など一部に弱い動きが見られる。景況感は製造業・非製造業ともに持ち直した。また今年度の設備投資計画は今のところ製造業・非製造業とも旺盛となっている。ただ生産は一進一退続きで、3四半期ぶりの減産となるなど回復の足取りは鈍い。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに低調である。輸出では全国と対照的に、関西は3四半期連続の前年割れとなっている。一方インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高などではコロナ禍前の水準を回復し、その後も増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、万博関連需要を背景に、引き続き堅調に推移している。
    6. 関西の実質GRP成長率を2023年度+1.4%、24年度+1.5%、25年度+1.5%と予測。22年度以降1%台の緩やかな回復基調が続き、24年度以降は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、23年度は+0.1%ポイントの上方修正、24年度は-0.1%ポイントの下方修正、25年度は+0.1%ポイントの上方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は23年度+0.3%ポイント、24年度+0.9%ポイント、25年度+1.2%ポイントとなり、24年度に入って緩やかに回復する。公的需要は万博関連の投資により23年度+0.4%ポイント、24年度+0.3%ポイントと成長を下支えるが、25年度には剥落する。域外需要は、23年度は+0.7%ポイント、24年度+0.3%ポイント、25年度+3%ポイントとなる。
    8. 日本全体に比べて、予測期間通じて関西経済が増勢となる。23年度は設備投資を中心に民間需要・公的需要ともにやや増勢となる。一方外需は中国向け輸出の停滞から全国に比べると寄与は小幅となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要により全国を上回る伸びとなる。25年度も域外需要の押し上げから関西が全国を上回る。
    9. 今号のトピックスでは「令和6年能登半島地震の北陸3県経済への影響」および「大阪・関西万博の経済波及効果」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->

  • 稲田 義久

    147回景気分析と予測:詳細版<依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道- 実質GDP成長率予測:23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度+1.1% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1.  2月15日発表のGDP1次速報によれば、10-12月期の実質GDPは前期比年率-0.4%(前期比-0.1%)減少し、2四半期連続のマイナス成長。市場コンセンサスの最終予測(同+1.28%)は実績を大幅に上回った。またCQM最終予測の支出サイドは同+2.0%、生産サイドは同+1.7%、平均は同+1.9%と、実績を大幅に上回った。
    2.  10-12月期の実質GDP成長率(前期比-0.1%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.3%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.2%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備及び民間在庫変動といずれも減少した。公的需要は同-0.1%ポイントと7四半期ぶりのマイナス寄与。一方、サービス輸出(知的財産権等使用料)の大幅増という特殊要因もあり、純輸出は同+0.2%ポイントと2四半期ぶりのプラス寄与。結果、2023年の実質GDPは前年比+1.9%と3年連続のプラスとなった(前年:同+1.0%)。
    3.  10-12月期の国内需要デフレータは前期比+0.4%と12四半期連続のプラス。交易条件は4四半期連続で改善の後横ばい。結果、GDPデフレータは同+0.4%と5四半期連続の上昇となった。このため、名目GDPは前期比+0.3%、同年率+1.2%となり、2四半期ぶりの増加。結果、2023年の名目GDPは前年比+5.7%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年の+6.5%以来の高成長である。
    4.  10-12月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2023-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度を+1.1%と予測。前回(146回予測)から、23年度は-0.4%ポイント、24年度は-0.7%ポイント、25年度-0.1%ポイント、それぞれ下方修正。24年1-3月期は輸出の反動減や自動車の減産から低迷が予想される。24年前半は内需主導の回復は遠のき、外需との好循環は厳しい。回復が見込まれるのは24年後半以降となろう。
    5.  実質賃金がプラス反転しないため、10-12月期の民間最終消費支出は3四半期連続の減少、24年1-3月期の回復も緩やかにとどまり、結果、23年度の民間需要寄与は-0.3%ポイント。一方、交易条件の改善もあり貿易赤字が縮小し、また引き続き好調なインバウンド需要によりサービス輸出が増加し、23年度の純輸出の寄与は+1.3%ポイントと前年から大きくプラス反転する。実質賃金のプラス反転は、インフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。このため24‐25年度の民間需要の寄与は小幅にとどまり、また純輸出の寄与も前年からほぼ横ばいとなる。
    6.  23年度前半に3%台で高止まりした消費者物価インフレ率は徐々に減速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、23年度+2.8%、24年度+2.0%、25年度を+1.4%と予測する。前回予測から変化なし。23年度に交易条件が前年から大幅改善するためGDPデフレータは+3.8%上昇する。このため、同年の名目GDPは+5.2%の高成長となる。24‐25年度については、交易条件改善の裏が出るため、GDPデフレータは24年度+1.5%、25年度+1.8%となる。
    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->