研究成果

research

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コメンタリーでは最新の社会経済や政策動向等についての考察を行い、特定のトピックスに注目したトレンド・ウォッチを月一回程度発行。ディスカッションペーパーでは分析的・実証的に学術研究を行い、時事テーマに焦点を当てた分析レポートも発行します。

  • 藤原 幸則

    コロナ後における財政の規律回復と健全化 – 内閣府「中長期の経済財政に関する試算」から考察した論点 –

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    内閣府は、例年1月と7月に「中長期の経済財政に関する試算」の結果を公表している。今年、7月21日に最新の試算結果が示された。2025年度のPB(プライマリーバランス)黒字化目標を堅持した骨太方針2021を数字で裏付けるものである。本稿では、この最新の試算結果を考察し、コロナ後における財政の規律回復と健全化の論点整理を行った。要約は以下の通りである。

    1. 今回の試算結果によると、「成長実現ケース」では、2027年度にPB黒字化が達成される。前回(2021年1月)試算結果では2029年度であったのが2年早くなっている。コロナ前への経済回復がやや遅れると見通しているにもかかわらず、こうした試算結果となるのは、名目GDPの水準の落ち込みによる収支悪化要因よりも、2020年度の税収の予想外の上振れによる収支改善要因の方が大きいということの結果といえるだろう。また、歳出改革を今後も継続すれば、PB黒字化の前倒しが視野に入る試算結果ともなっており、コロナ後における財政健全化の道筋についての検討で、歳出改革は重要なポイントになることがわかる。

    2. 内閣府の中長期試算の前提となっている全要素生産性の上昇率(いわば技術進歩率)については、以前から多くの研究者から非現実的あるいは過大な想定との疑問が呈されている。潜在成長率の過去の推移から、今回試算の「成長実現ケース」の想定は過大ではないかという見方はどうしても否めない。かといって、1%弱を下回る「ベースラインケース」の想定のままであってもいけない。政府が成長戦略の柱に掲げるグリーンやデジタルについて、具体的な戦略を積み上げていく議論が、財政健全化の道筋の具体化という意味でも必要である。

    3. コロナ感染の収束が見極められてから、財政規律の回復とともに、PB黒字化などの財政健全化目標を再設定するのがよいだろう。コロナ後の財政健全化については、人口減少・高齢化等による構造的な財政赤字への対処と、コロナ対策のような予期できない緊急措置による財政赤字への対処とを、分けて考える必要がある。また、コロナ後の財政規律の確保のために、コロナ対応の施策を中心に、必要なくなったものが存続しないよう既存歳出のスクラップに取り組む必要があるし、補正予算も含め、追加的な歳出にはそれに見合う安定的な財源を確保するというペイアズユーゴー(pay as you go)原則が踏まえられるべきである。

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  • 藤原 幸則

    コロナ危機下における企業の財務調整- 法人企業統計調査結果から考察した課題 –

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    1. コロナ危機下での企業の財務調整状況について、本稿では、企業のバランスシート(貸借対照表)項⽬のうち、特に、内部留保(利益剰余⾦)と有利⼦負債の変化に焦点を当てて考察する。

    2. コロナ危機前の⽇本企業の財務状況を特徴づけるポイントは、2012年以降、7年連続で過去最⾼を更新している内部留保(利益剰余⾦)の拡⼤である(2019年度、475兆円)。内部留保といわれる利益剰余⾦は、建物・設備への国内投資やM&A(企業の合併・買収)などに活⽤され、資産の部に建物・設備、投資有価証券などとして計上される。内部留保はさまざまな形で活⽤されていることが、コロナ危機前の⽇本企業全体の財務内容であったと理解できる。ただし、内部留保の厚みを業種別にみるとばらつきが⼤きい。1ヶ⽉当たり売上⾼に対する倍率でみれば、全産業平均で3.8ヶ⽉分の利益剰余⾦があり、多くの製造業は平均を超える利益剰余⾦の⽔準にある。⼀⽅で、⾮製造業は平均を下回る利益剰余⾦の⽔準の業種が多い。

    3. コロナ危機による⽇本企業への影響を法⼈企業統計で概観すると、最悪期の2020年4-6⽉期は、売上⾼と経常利益が⼤幅な減少を記録した。その結果、政府・⽇本銀⾏の⾦融⽀援もあって借⼊⾦増加や社債発⾏により⼤量の資⾦確保が図られ、負債の増加でバランスシートは悪化した。しかし、機動的に取り崩せる内部留保の蓄積があったことで、⾃⼰資本⽐率はわずかな低下ですんでおり、健全な⽔準を維持している。こうした財務状況を製造業、⾮製造業で分けてみると、⾮製造業はより厳しいという実態がわかる。⾮製造業の中でも、特にコロナ危機で需要減退の強い影響を受けているサービス関係業種の財務状況はさらに厳しく、今後も需要の低迷が続けば、⼩規模企業などで事業継続が⼀気に困難になるリスクがあろう。

    4. ポストコロナを視野に⼊れた⽇本企業の今後の課題として、潜在成⻑率の押し上げにつながる内部留保の有効活⽤、バランスシート悪化に対応する事業構造改⾰の推進をあげたい。コロナ危機での社会の変化は、新たな投資機会を⽣み出す。そうした好機をとらえる投資は、内部留保を活⽤して積極的に⾏う必要がある。また、コロナ危機対応で資⾦繰りを確保するために増加した負債増によるバランスシートの悪化は、放置されれば今後の⼤きな問題となる。中⼩企業を⽀える実質無担保・無利⼦の融資制度で元本返済が猶予されるこの5年間のうちに、中⼩企業のキャッシュを⽣み出す⼒を回復し、さらに強化していく事業構造改⾰に取り組んでいかなければならない。問題状況が違う業種ごとに、当該の業界団体、所管省庁、⾦融機関、⾦融・法務・企業再⽣の専⾨家などが参画して、現状分析と今後の対応⽅向について議論し、業種に応じたきめ細かい対応をとっていく必要があるのではないか。

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  • 稲田 義久

    緊急事態宣言再発令の関西経済への影響 -高頻度・ビッグデータを用いた振り返りと分析-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 木下 祐輔 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    政府は2021年1月7日に1都3県に対して緊急事態宣言を再発令した。当初、対象地域のGDPシェアは33.2%であったが、1月13日には7府県が加えられたことで、シェアは約60%に拡大した。ほとんどの大都市圏が含まれたことから、経済全体への影響は深刻度を増している。関西でも大阪府、京都府、兵庫県がその対象となっており、経済的な影響が懸念されている。
    そこで、本稿では、高頻度・ビッグデータを用いて緊急事態宣言の経済的影響を振り返り、そこで得られた知見をもとに、今回の緊急事態宣言再発令が関西経済に与える影響を分析した。結果は以下のように要約できる。

     

    1. 緊急事態宣言により、人々は行動変容を迫られた。日次ベースの消費支出額は、4月7日以降前年比マイナス幅が拡大し、5月初旬を底として緩やかに縮小した。カテゴリー別では、半耐久財やサービスへの支出が大きく減少する一方、非耐久財や耐久財では増加がみられた。

     

    2. 人流(経済活動)への影響では、前回は小売店・娯楽施設、公共交通機関、職場で人出が大きく減少した。一方、食料品店・薬局は大幅な減少は見られなかった。今回と前回を比べると、今回の方が公共交通機関、小売店・娯楽施設、職場で人出の戻りが観察できる。

     

    3. 前回宣言時の経験と足下の人流の動向を踏まえ、緊急事態宣言再発令による家計消費減少額を試算した。基本ケース(1月14日~2月7日)では、今回緊急事態宣言の対象である大阪府・兵庫県・京都府の2府1県の消費減少額は1,858億円。関西2府4県では2,233億円となり、2020年度関西2府4県の名目GRPを0.3%程度追加的に引き下げることとなる。

     

    4. 今回の再発令が経済に与える影響(基本ケース)は前回の4分の1強とみられる。しかし、コロナ禍によりサービス業を中心に弱い動きが続いている中、関西経済にとって大きな下押し圧力となる。結果、コロナ禍からの回復過程に水を差すことになろう。

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  • 郭 秋薇

    人流データを用いた消費動向の予測

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    郭 秋薇

    ABSTRACT

    新型コロナウイルスの感染拡大後、人の位置や動きに関する情報を示す「人流データ」は、ロックダウンなどの政策効果の検証、今後の感染状況の予測などに利用され、注目を集めている。本稿は商業施設への人出と消費の関係性に焦点を当てて、更新頻度の高い日次ベースの人流データを用いて、ほぼリアルタイムで月次の消費データの予測を行った。
    具体的に、Google社の「コミュニティ モビリティ レポート」に含まれた商業施設への人出増減のデータと商業動態統計調査の各種販売額データを結合したパネルデータにより固定効果推定を行った。また構築した予測モデルを用いて、足元の人流データで関西2府4県における2020年12月と21年1月の小売業販売額を予測した。得られた結論は以下の3点に要約できる。

    (1) 人流データと消費動向との間に統計的に有意な相関があることが確認された。百貨店販売額を被説明変数とした推定では、小売店・娯楽施設への人出増減は統計的に有意ではなかったが、自宅での滞在時間増減は緊急事態宣言下で販売額と有意で負の相関を持つ。また、飲食料品及びドラッグストア販売額を被説明変数とした場合、食料品・薬局への人出増減と住居での滞在時間増減は、いずれも統計的に有意な正の相関を持つことがわかった。

    (2) 消費動向を表す経済指標は通常足元より1カ月以上の遅れが生じるのに対して、人流データは数日の遅れしか生じない。人出と消費動向との間にある統計的に有意な関係を確立し予測モデルを構築することで、人流データを用いて足元の消費動向をほぼリアルタイムで予測できる。

    (3) 新型コロナウイルス感染再拡大の影響が懸念される。本モデルを用いた予測結果によると、百貨店販売額は、12月は京都府、大阪府、兵庫県でいずれも伸びは前月とほぼ横ばいだが、1月には大幅に減少することが予測される。また、飲食料品及びドラッグストア販売額は、関西2府4県いずれも12月は前月より上昇するが、1月に大幅に減少することが予測される。

    なお、予測精度については概ね高いといえる。しかし、説明変数の選択も含めて予測精度改善の余地もあることから、今後の課題としたい。

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  • 藤原 幸則

    雇用調整助成金の効果と課題 – 新型コロナウイルス感染症特例措置をめぐって –

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    1. 新型コロナウイルス感染症の拡⼤は、企業規模を問わず、幅広い産業や業種に深刻な影響を及ぼしている。このような中で、政府は企業の事業継続と雇⽤維持の⽀援に注⼒している。失業を防⽌する雇⽤維持対策として雇⽤調整助成⾦がある。政府においては、昨年2⽉14⽇、雇⽤調整助成⾦の「新型コロナウイルス感染症特例措置」を創設して対応を⾏っている。

    2. 雇⽤調整助成⾦について、2021年1⽉15⽇時点で、申請件数は累計で 36万件、⽀給決定額は累計で2兆6,042億円となっており、幅広い企業や事業主が助成⾦を活⽤している。リーマンショック時の助成⾦⽀給額実績の年度ピークは2009年度で6,535億円だったのに⽐べて、今回のコロナ禍では著しく急増していることがわかる。完全失業率について、2020年4⽉以降で最⾼3.1%(10⽉)、直近の11⽉は2.9%と、リーマンショック後の最悪の数値(2009年7⽉5.5%)に⽐べて低い⽔準にとどまっている。コロナ禍の中で2020年4〜6⽉期に実質GDPが年率約3割減という落ち込みがあったことを考えると、雇⽤調整助成⾦が未曾有の経済危機の中での失業防⽌という点で⼤きな効果を発揮していると評価できよう。

    3. コロナ禍の中では雇⽤調整助成⾦の活⽤が急拡⼤し、特例措置の適⽤期間も1年にわたることとなり、雇⽤調整助成⾦の財源プールとなっている雇⽤安定資⾦の涸渇化が懸念されるようになっている。雇⽤調整助成⾦は、事業主の利益だから財源は事業主負担という本則があるが、危機対応の観点から⾒直すべきではないか。そもそも、今般の感染症拡⼤による経済危機は、事業主連帯の考え⽅での保険料で雇⽤調整助成⾦の財源を賄うに⾜る域を超える異常事態であり、失業の著しい急増を避けることは経済や社会にとって⼤きな利益ともなる。⾃然災害やパンデミックなどによる国難とも⾔うべき重⼤な経済危機に際しては、雇⽤調整助成⾦へ⼀般財源を投⼊できることを本則にすべきと考える。

    4. 欧⽶各国は、危機的な新型コロナウイルス感染症の急拡⼤に直⾯して、雇⽤維持政策の実施を相次いで延⻑しているが、出⼝を模索する動きもある。⽇本においても雇⽤維持政策の出⼝の模索は悩ましい課題であるが、危機がある以上は雇⽤調整助成⾦の特例措置を延⻑しつつも、コロナ禍の中でも様々な創意⼯夫や対策によって事業の継続・再開・転換を図る企業に対する重点的な助成に軸⾜を移していくべきであろう。労働者を休業させて雇⽤維持を図るだけの企業に対しては、雇⽤情勢をみながら、段階的に特例の縮減を進めていくべきであろう。また、成⻑分野への労働移動促進のための⽀援、職業能⼒開発への⽀援は、思い切った強化を図るべきと考える。

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  • 藤原 幸則

    後期高齢者医療費の自己負担割合のあり方- 今年末に取りまとめられる所得基準の線引きに向けて –

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    1. 我々が病院や診療所で受診した場合、医療費の窓⼝負担(⾃⼰負担)が必要になる。現⾏制度では、現役世代は所得に関係なく3割負担、70〜74歳の⾼齢者は原則2割負担であるが、75歳以上の後期⾼齢者は原則1割負担となっている。⾼齢者でも現役並み所得がある場合は3割負担となる。

     

    2. 2022年から団塊の世代が75歳以上の後期⾼齢者に⼊り始め、医療費が急増していく⼀⽅で、⽀え⼿の現役世代の⼈⼝は急減が⾒込まれると想定される中で、現役世代の負担上昇を抑えながら、医療保険制度の持続性を維持する観点から、後期⾼齢者医療費の⾃⼰負担割合を負担能⼒に応じて2割に引き上げる議論が進んでいる。政府の全世代型社会保障検討会議などでは、⼀定以上の所得がある⼈には⾃⼰負担割合を2割に引上げる⽅針であり、焦点となる所得基準の線引きの議論を本年末までに⾏うとし、⼤詰めの段階に来ている。

     

    3. 今後も現役世代が⾼齢者医療を⽀えていく必要があるが、医療保険制度を維持し、増⼤する⾼齢者医療費を現役と⾼齢の両世代でなるべく公平に負担を分かち合うためには、「能⼒に応じて」という意味で、⼀定以上の所得がある⾼齢者については、⾃⼰負担割合を引上げることはやむを得ない。⼀⽅、⾼齢者側の事情も⼗分に踏まえる必要がある。1⼈当たり医療費は年齢階級が上がるほど増えていく。⾼齢者は平均年収も⼀般的に下がるので、年間所得に対する患者の窓⼝負担額の割合は現役世代より⾼い。所得が低いほど負担が逆進的になる。

     

    4. そもそも、所得基準の線引きについては、明確な根拠を求めることは難しいが、筆者の考えとしては、所得額に応じて利⽤者負担割合が1割、2割、3割とすでに分けて設定されている介護保険サービスを参考にしてはどうかと考える。後期⾼齢者医療費の⾃⼰負担割合引上げについては、まずは、合計所得160万円以上(年⾦収⼊等約280万円以上)の⼀般所得者を対象に2割負担を導⼊するのが適当と考える。その導⼊タイミングは、急な制度変更で混乱が⽣じないよう、2022年4⽉以降に75歳になる⾼齢者から順次適⽤していくのがよいだろう。

     

    5. また、将来的な検討課題となるが、「能⼒に応じて」の負担という中には⾦融資産や不動産の保有状況も反映させることが考えられる。例えば、フローの年間収⼊は少なくても多額の⾦融資産や不動産を保有する⾼齢者には3割負担を求めることは検討に値するだろう。

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  • 稲田 義久

    インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析 -「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」アンケート調査から-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    本稿では、「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」アンケート調査に基づいて、関西のインバウンド需要とキャッシュレス決済との関係を様々な角度から分析を行った。

    本アンケート調査から得られた興味あるfindingsは以下の通りである。

     

    ①キャッシュレス決済の利用頻度や形態は国・地域によって異なり、欧州や北米からの訪日外国人客(以下、訪日外客)はクレジットカード利用が多い一方で、中国人は現金もしくはQRコードの利用頻度が高い。

     

    ②キャッシュレス決済の利便性について、多くの訪日外客が交通機関や買い物・飲食代支払い時に十分享受していないと感じているようである。また場所別では、飲食店やホテルではおおむね使いやすいと感じているが、バス等の交通機関や寺社仏閣や美術館などにおいては不便であると感じている割合が高い。

     

    ③なお、本アンケートでは訪日外客に旅程を通じて為替レートを意識しているか否かも質問している。回答結果は「旅マエ」までは為替レートをある程度意識するが、「旅アト」時には意識しないと答える割合が高くなる傾向がみられた。訪日外客は「旅アト」において今回の旅行を振り返るとすれば、滞在中(「旅ナカ」)においてキャッシュレス決済で財・サービスを購入する際にあまり為替レートを意識しなかった、という興味深い情報を本アンケートは提供していることになる。

     

    今回のアンケート調査は、地域を関西に限定しているが、今後インバウンド需要を促進していくためにも、我が国のキャッシュレス決済をより一層充実させていくことが不可欠であることを示唆している。

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  • 藤原 幸則

    新型コロナウイルス対策特別会計(仮称)の設置 -予算・執行の透明化と財政規律の確保を求める-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    新型コロナウイルスは、海外で依然猛威をふるっている。国内においても、今後、インフルエンザとの同時流⾏や感染流⾏の「第3波」の可能性があり、警戒は怠れない状況にある。新型コロナウイルスは、わが国の財政の悪化にも⼤きな影響を及ぼしている。コロナ禍の出⼝は未だ⾒通せず、財政⾚字の⼤幅な増加が今年度だけで終わる保証はない。

    もちろん、新型コロナウイルス対応は、国⺠の⽣命と経済社会を守るためのものであり、必要な歳出は躊躇なく機動的に⾏うことが必要である。しかし、財政規律のタガがはずれたままであってよいわけはない。財政⺠主主義の原則に照らし、緊要な予算・執⾏でも透明性の確保と事後の効果検証は必要であるし、緊急事態から脱したときから、財政健全化に向けてどのような取り組みを⾏うかも今から議論・検討しておくべき重要課題と考える。そこで、今後の財政健全化に向けては、平時と緊急時で分けて考えていくことを提案したい。提案内容の要約は、以下の通りである。

    1. コロナ禍前からのわが国財政は、社会保障の給付と負担のアンバランスなどによる構造的な財政⾚字を抱えており、こうした平時の財政の健全化については、潜在成⻑率を引上げ、経済成⻑を通じた税収増による財政収⽀改善が重要であるとともに、社会保障⽀出増加の抑制に踏み込んだ改⾰、消費税による安定的な税財源の確保が必要と考える。

    2. ⼀⽅、新型コロナウイルス対応に要した緊急の歳出については、東⽇本⼤震災復興特別会計にならい、別途、「新型コロナウイルス対策特別会計(仮称)」を設置して、事業に時限を付しつつ、予算・執⾏を⼀元的に管理し透明化するとともに、その財源充当のために発⾏した国債全額は、コロナ危機からの経済回復後の特別増税などにより計画的に償還していくことが必要と考える。コロナ禍の今を⽣きる世代が連帯して負担し、将来世代に負担を先送りしないとして、借換債も含め全体として20年間で償還し終えるのが適切と考える。

    3. 新型コロナウイルス対策で発⾏した国債の償還財源については、負担の分かち合いや能⼒に応じた追加負担という意味で、所得税が最も望ましい。特に、コロナ禍でも所得減の影響が少なかった(あるいは、影響がなかった)中・⾼所得者に特別な負担を求めることは公平の観点から妥当であろう。これに加え、社会連帯と経済対策の受益という意味で、法⼈も幅広く負担することが必要だろう。さらに、国際協調により資産課税や⾦融取引課税を主要国が同時に同税率で導⼊することもめざすべき⽅策であろう。

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  • 藤原 幸則

    水災害の激甚化への総合的対策の強化- 全国的な対策推進の枠組み、土地利用規制、保険制度の強化を-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    近年、全国各地で豪⾬等による⽔災害が頻発し、被害も甚⼤化するケースが増えている。限られた財政の中では、堤防強化や砂防⼯事などの公共事業によるハード対策だけに頼るには限界がある。⽔災害リスクを低減させる⼟地利⽤、実効性ある避難態勢の構築などのソフト対策もあわせて推進していく必要がある。国としても、2020年度からハード・ソフト⼀体の「流域治⽔」という総合的対策の強化に舵を切っている。こうした国の動きは⾼く評価できるが、効果をさらに⾼めるためには、地震対策と同じような総合的対策の枠組みの強化、浸⽔ハザードエリアでの⼟地利⽤のさらに踏み込んだ規制、⾃助を促す⽔災害保険の強化が、なお必要な課題と考える。これら課題への対応策として、本稿において提案する内容の要約は、以下の通りである。

     

    1. 地震対策では「地震防災対策特別措置法」が制定され、国と地⽅あげた全国的な防災対策の強⼒な推進の枠組みがあるが、⽔災害対策では⽤意されていない。近年の激甚化する⽔災害で顕在化した課題への対応をはじめ、全国的な⽔災害対策の強⼒な推進のため、国は「⽔災害対策特別措置法」(仮称)を制定し、全都道府県において優先度も踏まえた実施⽬標の設定と5年おきの事業計画を策定し、進捗管理のPDCAを回す枠組みの早期具体化を期待する。

     

    2. ⽔災害リスクの⾼い地域では、現⾏法上、⼀部開発許可の厳格化があるものの、警戒・避難態勢の整備を求めるにとどまる。浸⽔ハザードエリアすべてにおいて、新たな開発規制を課すことは現実的でない。浸⽔深が深く浸⽔継続時間が⻑いと想定される地域や家屋倒壊等氾濫想定区域といった特にリスクの⾼いエリアでは、新たな開発を原則禁⽌とすべきと考える。

     

    3. ⾃助による保険の備えは、⽔災害の被災者の住宅再建で重要な役割がある。甚⼤化する⽔災害は今後も続く可能性が⾼く、⺠間損害保険会社の保険⾦⽀払負担⼒の余⼒が激減している。⼤都市の⼤河川の氾濫ともなれば、⼀気に限界に達しかねない。先⾏する地震保険と同じように、⺠間の負担⼒を超えるところは国が再保険を⾏い、官⺠が保険責任を分担する⽔災害保険制度を整備する時に来ているのではないだろうか。この新しい保険制度では、損害補償だけの機能にとどまらせず、住⺠・企業等に⽔災害リスクを認識させ防災意識を⾼めるとともに、危険な⼟地の開発禁⽌といった適切な⼟地利⽤や地域の防災・減災努⼒と連携するような制度設計を⾏う必要がある。保険料にリスクの⾼低を反映させ、住⺠や地域等の防災・減災努⼒に応じて保険料の割引を受けられるインセンティブとあわせたものとすべきである。

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  • 稲田 義久

    訪日外国人消費による関西各府県への経済効果: 2018-19年比較

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT

    2019年各種統計の確報値(訪日外客統計、訪日外国人消費動向調査、宿泊旅行統計調査報告)に基づき、「2011年版APIR関西地域間産業連関表」を用いて、訪日外国人消費の関西経済に与える影響を分析した。得られた結論は以下のように要約できる。

     

    (1)2019年の訪日外客数の伸びは、18年の前年比+8.7%から同+2.2%に減速した。その最大の要因は韓国からの訪日客の激減である(同-25.9%)。

    (2) 国籍別では、2019年の中国からの訪日客は約959万人と全体の3割を占めており、日本の訪日外客はアジア(特に中国)に偏在した構成となっている。なお、関西をみれば、中国のシェアは43.4%と全国と比べて高く、関西の訪日外客は中国が突出した構図となっている。

    (3) 2019年訪日(関西)外客の観光消費額を18年と比較すると、関西2府8県では14.4%増加した。うち、京都府の伸び(+42.8%)が群を抜いて高く、福井県(+14.5%)、徳島県(+9.8%)、三重県(+7.6%)がこれに続いている。一方、和歌山県(-8.7%)、鳥取県(-1.5%)は減少した。

    (4)観光消費額の経済(粗生産、付加価値、雇用)への波及を府県別にみると、2019年で最も高い伸びを示したのが京都府であり、他の9府県と比べて圧倒的な差をつけている。

    (5)訪日外国人消費の関西名目GRPに対する寄与度は、2017年に初めて1%を超え、2018年は関空被災にも関わらず1.08%となり、19年は1.25%と加速した。うち、京都府では中国人客の増加もあり、19年の寄与度は大幅に上昇した(1.80%→2.54%)。大阪府は上昇したものの、韓国人客の減少もあり、寄与度の伸びは小幅にとどまった(1.35%→1.47%)。

    (6) コロナ禍の影響により、2020年前半の訪日外客数はほぼ絶無であり、20年の訪日外国人消費は絶望的である。19年関西2府4県の訪日外客観光消費による付加価値波及は1兆678億円で、仮にこれがすべて消失すると、19年の関西名目GRPを1.23%押し下げることとなる。

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  • 藤原 幸則

    新型コロナウイルス対策で見えた地方の財政力格差-税源交換による地方税の偏在是正・税収安定化を-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    新型コロナウイルスの感染拡大は、地域経済にも大きなマイナス影響を及ぼしている。地域経済の悪化は税収減により地方財政へ影響が及び、その影響は長期化する可能性がある。感染拡大は地方財政への影響の長期化だけにとどまらない。そこで、本稿では、新型コロナウイルス感染拡大で見えた地方の財政力格差の背景と問題点を整理し、財政力格差の要因になっている税収の偏在是正のための制度改革の提案を行った。地方税の偏在性において、最も大きいのが地方法人二税であり、最も小さいのが地方消費税である。そこで、地方の法人課税分と国の消費税分について、同額で税源交換し、地方消費税を拡充することが有効と考え、シミュレーションも行った。

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  • 藤原 幸則

    最低賃金をどう決定するか -経済実態、生活圏を反映した水準決定とエリア設定を-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    新型コロナウイルスの感染拡大による経済危機は、2020年度の最低賃金改定の議論に大きな影響を与えている。本稿では、最低賃金引上げについての近年の動向や議論の論点(国際比較、生産性との関係、全国一元化)を整理した上で、制度の見直し提案として、①エビデンスに基づく経済実態に即した引上げ額の検討、②都道府県単位のエリア設定を見直し、同一都道府県でも経済実態に即した区分けや都府県をまたがる生活圏としての一体化を反映した水準決定、③ポリシーミックスによる引上げが可能となる環境整備、という3点を示している。

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  • 藤原 幸則

    コロナ禍後の財政健全化に向けて

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    新型コロナウイルス感染症拡大防止による経済の影響が一段と深刻化している。政府においては、2020年度補正予算(第1号、第2号)を編成し、追加歳出総額のすべてを新規国債発行で賄うという財政出動に踏み出した。今般の補正予算で、財政状況の一段の悪化が避けられない。本稿では、新型コロナウイルス対策での財政出動による財政悪化のインパクトを試算し(暫定)、潜在的な財政破綻リスクの深刻化を確認するとともに、コロナ禍後の財政健全化に向けての議論の進展を期待して、今後考えるべき論点と思われるところを整理してみた。

    ※ 5月28日のAPIR「128回景気分析と予測」の名目GDP成長率予測値を試算に反映、一部修正

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  • 稲田 義久

    緊急事態宣言が関西経済に及ぼす影響-影響は2つの輸出から国内消費へ-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 木下 祐輔 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    安倍首相は4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令した。関西では大阪府、兵庫県がその対象となり、同月16日には全国に拡大された。また、5月4日には宣言が5月31日まで延長された。発令後の外出自粛要請や休業要請強化に伴い、家計はこれまで以上に不要不急の消費を削減している。本稿では、COVID-19が関西の家計消費とインバウンド需要に与える1カ月の直接的な影響について分析した。分析結果の要約は以下の通りである。

     

    1. 緊急事態宣言発令により1カ月換算で関西の家計消費は7,081億円程度、同月のインバウンド需要は840億円程度減少する。また2020年度の名目域内総生産を0.9%程度引き下げる。

    2. 経済への負の影響を緩和するために、政府は国民1人当たり10万円を所得制約なしに給付することを決めた。この政策の事業規模は12兆円超であり、GDP比2%を上回る効果を持つとされ、特別定額給付金支給額は上記の経済損失額を上回っている。

    3. 10万円の定額給付はこれまでの事例とは異なり、ある程度消費の下支え効果を持つと考えられる。家計はこれを生涯所得の増加ではなく一時的な所得増とみなすため、支給後に一時的な消費需要として発現するだろう(所謂ペントアップ需要)。

    4. ただし、支給については可及的速やかな方法を工夫すべきである。日本と海外の給付金支給スピードの差は納税データ電子化普及の差にあると思われる。これを機にマイナンバー制度などの電子化普及を加速する必要があろう。

    5. COVID-19の経済的インパクトはタイムラグを伴い中国から世界に広がっており、世界経済の減速感は今後一層強まろう。その中で政府は緊急事態宣言延長を決めた。難しいバランスが続く中、金融支援や家賃支援を始めとする第二、第三弾の経済政策が求められよう。

     

    *2020年5月7日午後、図表2及び図表4に注釈を追記

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  • KARAVASILEV, Yani

    関西におけるオーバーツーリズム認識の解読:ヨーロッパとの比較

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    KARAVASILEV, Yani

    ABSTRACT

    近年日本は外国人訪問者数が最も多い国の1つになったが、訪問者の集中度が高く、特に京都市では「観光公害」、いわゆる「オーバーツーリズム」が発生している。本稿では、その現象の決定要因を明らかにするために、観光強度(市民1人当たりの宿泊数)や観光密度(1平方キロメートルあたりの宿泊数)をはじめ、先行研究から抽出した様々な変数に基づいて京都市とヨーロッパの訪問者数が最も多い都市と比較分析を行う。分析の結果では、ヨーロッパと京都市におけるオーバーツーリズムの決定要因は異なることが分かった。京都市の場合は、需要側では、旅行の形態(日帰り旅行またはグループツーリズム)、供給側では、都市の中心にあるホテル宿泊施設と市内交通機関への依存度の高さがオーバーツーリズムの認識の主な決定要因と考えられる。なお、京都市内の渋滞しやすい正方形の道路網と観光スポットの地理的分布はさらに混雑感を上昇させている。京都市のオーバーツーリズム問題を解決するために、需要側では、より多様な旅行者(個人旅行者もしくはアジア以外の旅行者)にアピールすること、供給側では、シェアリングエコノミー(AirbnbとUber)の役割を増やすことを検討する必要があろう。

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  • 稲田 義久

    新型肺炎の関西経済への影響-逆回転する2つの輸出-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 木下 祐輔

    ABSTRACT

    本稿では、2020年1月下旬に明らかになった新型コロナウイルス肺炎(corona virus epidemic、以下、新型肺炎)の大流行が関西経済に与える影響を2つの輸出に限定して分析した。分析結果の要約は、以下の通りである。

    1.世界経済に占める中国のプレゼンスは急上昇している。関西経済は中国を中心とするグローバルサプライチェーンに組み込まれているため、対中関係は大きく深化している。

    2. SARS発生時から2019年をみると、関西の対中輸出額は2.0倍に拡大し、中国人の訪日外客数は21.4倍に急拡大した。輸出の急拡大のみならず、人の移動が爆発的に拡大した。関西経済を見る場合、その成長の駆動因である財とサービス(インバウンド需要)の2つの輸出の視点が重要だが、今その駆動因が新型肺炎の発生を契機に逆回転し始めている。

    3. 自然災害等からのこれまでの回復パターンを見ると、1~2四半期で経済活動は前期比プラスに転じている。新型肺炎発生からの回復パターンとして、1四半期で新型肺炎発生前期の経済水準に戻る早期回復ケース1と、2四半期で経済水準を回復する標準ケース2、及び回復の戻りが遅れ3四半期で回復する長期化ケース3を想定する。

    4. 試算の結果、ケース1では、関西の財輸出は986億円、インバウンド需要は796億円で経済損失額の合計は1,782億円と見込まれる。また、ケース2では、損失額はそれぞれ1,972億円、1,591億円、合計3,564億円と見込まれる。ケース3では、それぞれ2,958億円、2,387億円、合計損失額は5,345億円となる。

    5. 新型肺炎が関西経済に与える経済的影響としては、ケース1は2020年度の関西名目GRPを0.2%、ケース2は同0.4%、ケース3は同0.6%それぞれ押し下げることになる。なお、20年度の関西経済名目GRP成長率は+0.6%程度と予測されており、回復が遅れるケース3の場合は内需への影響も考慮すれば、ゼロないしはマイナス成長に陥る可能性がある。

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  • 藤原 幸則

    社会保障の給付と負担の一体改革を

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    藤原 幸則

    ABSTRACT

    2019年12月19日、政府の全世代型社会保障検討会議が中間報告をとりまとめた。個別の改革検討事項をみると、医療・介護の制度改革については踏み込み不足となっている。国民に追加負担を求める改革メニューのほとんどは退けられた。社会保障制度改革をめぐる議論の背景にある大きな問題点は、高齢化などに伴う社会保障給付の累増にどう対応していくかに関する国民的コンセンサスが欠如していることがあると考える。どの程度まで給付を受け、負担に応じるかという、最終的には国民の選択の問題であろう。本稿では、社会保障制度の何が問題なのか、どのように改革を検討していくべきかの方向性を述べる。

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  • 稲田 義久

    日韓関係の悪化と関西経済:2つの輸出とそのリスク

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 下田 充

    ABSTRACT

    本稿では最近の日韓関係の悪化が関西経済にどのような影響を及ぼすかを「2つの輸出」の視点から分析した。分析から以下の結論が得られた。

    1. 財貨の交易についてみれば、韓国のシェアは関西・全国ともに輸出が約7%、輸入が約4%である。中国のシェアと比較すれば、輸出で約4分の1、輸入で約8分の1である。今後、韓国との交易が停滞したとしても、関西の輸出や景気全体への影響は限定的となろう。足下、関西の輸出では韓国向けと中国向けの下落率が大きい。米中貿易摩擦の昂進とグローバル・バリュー・チェーンを通じた中国経済と韓国経済の連動性に起因していると考えられる。

    2. 2018年関西への訪日外客による消費総額は1兆1,338億円である。関西産品で9,965億円、その他地域で1,373億円が賄われている。これらによる関西経済への波及効果(付加価値ベース)は約9,213億円なり、関西の域内総生産の1.08%を創出したことになる。

    3. 仮に、訪日韓国人客が前年比30%大幅減少したとしても、訪日外客が関西で生み出す付加価値はベースケースより376億円、-4.1%の減少にとどまる。この背景には韓国人の消費単価の低さがある。府県別では、大阪府の影響が大きく269億円減少し、関西の減少幅の72%を説明する。GRPに対する寄与度でみれば、ベースの1.08%から0.044%ポイント低下する。

    最近の日韓関係の悪化が関西経済に及ぼす影響は限定的と見るが、特にインバウンドの観点から、この結論に至るうえで、重要なのは中国の役割である。関西はアジアからの訪日客が圧倒的に多く、中国人客が堅調に伸びる中、日韓関係の悪化からくるインバウンドへの影響は限定的となろう。勿論、訪問率からわかるように、韓国人の訪問率は中国人に比して比較的地方に分散しているため、関西以外ではその影響は厳しめに出る可能性がある。

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  • 稲田 義久

    『訪日外国人消費動向調査』個票データを用いた インバウンド需要の計量分析

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    本稿では観光庁『訪日外国人消費動向調査』の個票データを用いて、インバウンド需要の決定要因について定量的に考察する。具体的には11の国、地域からの訪日外国人の消費額の決定要因を、2015年第1四半期から17年第4四半期までの各期のクロスセクションデータを用いて分析する。分析結果より、為替レートや世帯収入などインバウンド需要の基本的決定要因は有意にプラスの影響を与えていることが明らかとなった。為替レートの変動は訪日外国人の収入の多寡よりも強く作用しており、その影響は自国通貨が円に対して割安であるほど大きくなっていることが確認できた。またビザ緩和は発動当初には強く影響しており、徐々にその効果が低下していく点も明らかとなった。

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  • 稲田 義久

    G20大阪サミットと関西経済 -その経済効果と意義-

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 藤原 幸則 / 下山 朗 / 川本 剣悟 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    2019年6月28・29日、大阪で開催されるG20サミットは、日本で初の開催となり、世界的な課題解決に向けてその存在感を世界に示す重要な機会であるのみならず、開催地大阪・関西にとっては25年の万博開催を見据えたうえでの大きな意義がある。本稿は、経済的効果に限定してその評価を行ったものであり、分析ツールとしては産業連関表を用いている。産業連関表はイベント実施が経済全体にどのように波及して所得や雇用に影響を与えるかを分析できる。分析結果を要約すれば、以下のようになる。

     

    1. G20大阪サミット関連最終需要として支出される金額は428億4,200万円と推計される。
    2. 2016年伊勢志摩サミットと支出内訳を比較すれば、今回はインフラ関係の整備事業額が少ないのが特徴で、既存インフラを活用して経費を抑えたコンパクトな開催となっている。
    3. APIR関西地域間産業連関表(2011年版)を用いた試算によれば、G20大阪サミットの総合効果として生産誘発額は621億4,800万円、粗付加価値誘発額は390億3,600万円、雇用者所得誘発額は234億6,300万円と推計される。いずれも直接効果と間接2次効果を含んでいる。
    4. G20大阪サミットは関西経済に365億6,360万円の付加価値を誘発する。0.04%程度の押し上げ効果となり、減速が予測される関西経済に一定程度の下支え効果を発揮する(ここでの関西経済は、APIR関西経済予測モデルと比較可能となるように2府4県ベースでみている)。なお日本全体の下支え効果は0.01%である。
    5. 単年度の効果としては大きくはないが、関西経済にとっては、2025年大阪・関西万博開催を控え、G20サミット開催の意義は深い。今後一連の経済イベントによる需要拡大が投資を誘発し関西経済の供給力を引き上げるという好循環が期待できる。結果、関西経済の潜在成長率引き上げにつながる意義を持つキックオフイベントとなろう。
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