(Macroeconomic Management under Debt Workouts in the Pacific Region)
金融グローバル化が進行する中、金融危機の頻発が世界的傾向にある。1980年代末の米国における貯蓄金融機関の破綻、1990年代以降の日本の不良債権累積過程、1997年の東アジアの金融危機における銀行・非銀行金融機関・非金融企業の連鎖的破綻、ラテンアメリカにおける国家債務の返済不履行など、まことに枚挙に暇がない状況である。その結果として、債務下のマクロ経済運営はこれまでにない困難な挑戦を受けている。
債務問題の解決はそれ自体が政策課題であるばかりではなく、それによってマクロ経営の政策手段が制約されることが新たな困難を生んでいる。具体的には、バランスシートの悪化が、国・政府・銀行・非金融法人企業など、さまざまな次元で生じている。一部部門におけるバランスシートの悪化は、他の部門のそれを引き起こし、その結果として、バランスシートの悪化は経済全体に広がってゆく。そのようにして、金融政策が、為替政策が、そしてまた、財政政策が、それぞれ、有効性あるいはその機動性を奪われてしまう。
これらは杞憂ではなく、過去10年の間に実際にわれわれが経験したことに他ならない。われわれは、各国のこの苦い経験から何を学べるのか。今後、同じ危機を未然に防ぐには何をすべきなのか。これらの問に答えるためには、各部門のバランスシートの悪化がどのようにマクロ経済運営の手足をしばるのか、その束縛を打破するためにはどういう手だてがあるのか、を明らかにする必要がある。