(Fiscal Policy Issues in the Pacific Region)
1996年5月に刊行されたIMF, World Economic Outlookは、過去20年間にわたって享受した世界平和と繁栄の下で、先進工業国が前例のないほどの膨大な公的債務を抱えたことに対して警戒を呼びかけている。とくに、北米と欧州は公的債務の対GDP比率を適正水準に引き下げることに成功していないとした。また、ラテンアメリカの途上国も、財政不均衡を抑制し、国家の市場介入を縮小すべきであるとしている。これに反して、東アジアは財政運営が健全であることで知られ、財政赤字は小さく、債務も無視できるほどであった。
5年後の今、世界の状況は一変したように思われる。とくに太平洋地域では、米国をはじめとする先進国は、日本を除いて、財政健全化で大きな前進を遂げ、また、ラテンアメリカも一定の成果をあげた。これに引き替え、東アジアのいくつかの経済は、アジア経済危機からの回復過程で財政出動に頼り、その結果として将来の公的債務管理の問題に直面しつつある。長期不況に悩む日本は今や世界でもっとも深刻な財政再建問題に直面していることはよく知られている。
このような最近の展開を目の当たりにして、財政政策に関わる諸課題について、マクロ経済とミクロ経済の両面から、過去を振り返り、さらに現在および将来に向けて政策構想を打ち出すことが今まさに求められている。マクロ面では、①マクロ経済安定化と②財政赤字の維持可能性、ミクロ面では、③財政支出の効率性と合理化、が問題の所在に関わる。とりわけ、短期の需要管理と長期の債務動学の間の基本的ジレンマは前者で考察され、公共部門と民間部門の分業協業関係は後者の守備範囲となる。
財政規律の重要性は政策当局のよく知るところであるにも拘わらず、上で見たような対照的なパフォーマンスの差が現れるのはなぜなのか。財政政策課題に関する経験を吟味し、比較することによって、将来の政策形成の一助足ることを目指したい。