(Monetary Policy Regimes in the Pacific Region)
前テーマ「マクロ金融リンケージ」を受け継ぎ、それを一歩進めて、アジア太平洋地域の先進国と新興国における「金融政策レジーム」とそのマクロ経済パフォーマンスへの影響を分析する。先進国では、裁量的政策に対し、ルールベースのインフレターゲット政策が主流になりつつあるが、太平洋地域で言えば、日・米が前者に属し、豪・NZが後者に属する。だが、最近ではマクロプルーデンシャル政策をめぐる議論が示すように、いずれもグローバル金融危機を防ぐことが出来なかった。他方、中国・香港を除いて、この地域の多くの新興市場は、事実上の固定レートを放棄し(少なくとも、そう標榜し)、名目アンカー(物価安定のための錨)としてインフレ目標を導入する国もある。資本自由化と伸縮的為替制度は主流派が指示する金融政策レジームである。もっとも、いずれのレジームを採用していても、これまでのアジア新興市場のマクロ経済パフォーマンスは、他地域の新興市場に比べれば、金融の安定、財政や対外バランスの面で遥かに優れたものであった。ただし、グローバル危機後は、国際金融フローのボラティリティとそれによる為替リスクをどう制御するか、そのための金融政策は現行のままでよいのかが緊急課題となっている。
現在のグローバルな混乱状況に直面し、為替安定、資本移動、金融政策の自律性の間のトリレンマが再検討されている。IMFでさえも、最近は資本規制や裁量的な金融政策が有用なケースがあり得ることを渋々認めている。しかしながら、正確にどのような場合に、どの程度までこのトリレンマから逸脱すべきなのかについては定説がない。そこで第一歩として、1990年代以降のこの地域の経験をレビューし、『(市場は)自由であればあるほど、また、(価格は)弾力的であればあるほど、良いのだ』というマントラ(思い込み)から解放された金融政策レジームの構築を目指して新たな視角を追求する。