研究成果

research

第5号 日本標準時繰上げ案に対する国民の意識 (2010.6.11)

Abstract

<全国1000人調査結果>

財団法人 関西社会経済研究所
事務局次長兼企画・分析チーム長
長尾 正博(文責)

筆者は、関西社会経済研究所の代表として、塩沢由典京大経営管理大学院寄附講座教授(当時、現中央大学)主催の「関西活性化研究会」に参画してき た。その研究会のプロジェクトのひとつが、「日本標準時繰上げ提案」であった。筆者は、この提案に興味をもち、一般国民がどう理解し反応するかを調査して みた。この提案および今回の調査は、今後の政策提言に生かせるものと考えている。

「関西活性化研究会」は、寄附講座の終了にともない、2010年4月から当研究所主催の「関西の気風研究会」として再発足した。調査結果に関 しては、塩沢教授および日本標準時繰上げ提案の発案者である清水宏一氏とともに6月11日、記者発表を行った。本稿は、当日の発表資料に、記者から寄せら れた質問に答えて、補足的説明を加えた要約である。

調査方法としては、麻生政権時のエコポイント等の経済対策や、2009年の総選挙前の有権者意識、民主党政権の子ども手当ての政策評価等で、 その信頼性が実証されたインターネットによるサンプル調査(実査を楽天リサーチに委託した。)を用いた。調査期間は4月24日から2日間であった。

まず、表1をみて頂きたい。これが、インターネット調査時に使用した「日本標準時繰上げ案」の内容である。

表1 本調査に使用した「標準時繰上げ提案」の説明文

この提案が実施されれば「あなたの生活がどの様に変わるか?」、同時に「良く なる点を3つ以内で選択せよ」と聞いた(質問1)ところ、「良い面がある」と答えたのが、44.1%であった。その内訳は、多い順に「早起きを心がけるよ うになる」171人、「仕事や、学校が明るいうちに終わる」147人、「午前中の日程に余裕が生まれる」122人と続く。(表2の上のグラフ) 標準時を 繰り上げただけでは、理屈的には、必ずしも「早起きを心がける」ことや「午前中の余裕」には繋がらないが、「実働時刻が早くなる」との説明で誤解したのか もしれない。一方、上記の「仕事が明るいうちに終わる」とか「日没前に家に帰ることができる」101人は、この提案の真の良さを、短い言葉でちゃんと理解 していると思われる。
→ 以下の質問も含め、その内容は下記のPDF「表2?4 主要質問内容と回答」を参照下さい。

つぎに質問2で、「余暇が増える」と答えた89.4%の時間の使い方の内訳は、多い順に、「自宅での趣味活動」387人、「家族との団欒」 210人、「何もせず帰宅、ただなんとなく暮らす」201人と続く。(表2の下のグラフ) 逆に少ないのが、「学習活動」37人、「アルバイト、副業」 60人、「家事、育児」96人等であり、楽しいことに余暇時間を使いたいということが、明確にあらわれている。

最終的に、この標準時繰上げ案への「賛否」を採ったところ、「賛成+どちらかといえば賛成」が22%、「反対+どちらかといえば反対」が 32%、「なんともいえない」46%という結果になった。標準時繰上げによる良い面での生活変化、余暇時間の期待が強いにも拘らず、反対意見の方が多かっ たのは何故であろうか。「賛否」の間の属性特性を確かめる為に、生活サイクル別(朝型か夜型か等)、都道府県別、男女別にクロス分析をしてみたが、「朝型 である(朝5時頃起き夜10時頃寝る)」タイプの人に、この提案への賛成意向が高いことを除けば、これといった有意差は発見できなかった。(表2) この 提案は、ほとんどコストを掛けずに、年間2兆円程度の経済効果を期待できるなど、非常に魅力的な内容であり、特に賛否を決めかねている46%の人たちへの アピール方法を如何に工夫できるかが、その成否にとって重要となる。

なお、「省エネ」や「エコ」についても、あらためて、その意識を聞いてみたところ、「大いに関心あり+それなりに大事だと思う+関心があるが 何をすれば分からない」が92.6%にも達しており、データ的にも、その関心度の高さが証明された。また、その実現の為に、「エコ技術の開発(エコカー、 省電力など)」は、関心がある方々のうち3分の1が重要だと考えているが、「個人の自覚」(62.2%)、「個人的実践」(32.5%)が上位にランクさ れており、「省エネ」や「エコ」を自分のものと考えている事実は、大変好ましいものであると考えている。

本提案に関し、「賛成+どちらかといえば賛成」は既に述べたように22%であるが、と省エネ、エコに「大いに関心あり」と答えた人に関して言えば、33%となっており(表3の右上グラフ)、環境関心度の高い人ほど、賛成度が高いことが伺える。

朝型の生活スタイルの方々、エコ、省エネへの関心の高い方々も含め、(表1)程度の提言説明では、本提案への賛同者が本当に多いとは言えな い。今回の調査結果を基に、さらに提言内容をブラッシュアップしていくことが重要となる。また、仕事が明るいうちに終わること、日没前に家に帰れることを 魅力に感じているということは、心の豊かさへの憧れかもしれない。経済面では困難を極めており、回復への切り口の見えないという日本の現状に対し、この 「日本標準時繰上げ案」は、その閉塞感を取り除いてくれる起爆剤になりうるというのが、今回の調査を通じての実感である。
以上