研究成果

research

インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析 -「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」アンケート調査から-

Abstract

本稿では、「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」アンケート調査に基づいて、関西のインバウンド需要とキャッシュレス決済との関係を様々な角度から分析を行った。

本アンケート調査から得られた興味あるfindingsは以下の通りである。

 

①キャッシュレス決済の利用頻度や形態は国・地域によって異なり、欧州や北米からの訪日外国人客(以下、訪日外客)はクレジットカード利用が多い一方で、中国人は現金もしくはQRコードの利用頻度が高い。

 

②キャッシュレス決済の利便性について、多くの訪日外客が交通機関や買い物・飲食代支払い時に十分享受していないと感じているようである。また場所別では、飲食店やホテルではおおむね使いやすいと感じているが、バス等の交通機関や寺社仏閣や美術館などにおいては不便であると感じている割合が高い。

 

③なお、本アンケートでは訪日外客に旅程を通じて為替レートを意識しているか否かも質問している。回答結果は「旅マエ」までは為替レートをある程度意識するが、「旅アト」時には意識しないと答える割合が高くなる傾向がみられた。訪日外客は「旅アト」において今回の旅行を振り返るとすれば、滞在中(「旅ナカ」)においてキャッシュレス決済で財・サービスを購入する際にあまり為替レートを意識しなかった、という興味深い情報を本アンケートは提供していることになる。

 

今回のアンケート調査は、地域を関西に限定しているが、今後インバウンド需要を促進していくためにも、我が国のキャッシュレス決済をより一層充実させていくことが不可欠であることを示唆している。

本文

1. はじめに

筆者達はこれまでインバウンド・ビジネス産業の戦略を意識しながらマクロ、ミクロのデータに基づく分析を行ってきた。その分析結果から、今後のインバウンド・ビジネス戦略を考える視点として、「ブランド力」、「広域・周遊化」、「イノベーション」という3つのキーワードが重要であることを、昨年のAPIRシンポジウムで示した。しかしながら、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、2020年2月以降に行ってきた日本での水際対策の強化により、現在、訪日外客数は蒸発した状況にある。これによりインバウンド関連産業は大きな打撃を受け、ショックに対する産業の耐性が課題となっている。この状況下では、これまでのようにひたすら訪日外客数を増やすという数量のみを追求する戦略はもはや持続可能ではない。コロナ禍で訪日外客が蒸発している今の状況だからこそ、ポストコロナに向けたインバウンド・ビジネス戦略を再考する必要がある。本稿では、前述した3つの視点のうち、「イノベーション」について分析を行う。具体的には訪日外客のキャッシュレス動向に注目し、分析を行っていく。キャッシュレス決済のようなソフト面のみならずハード面のインフラを整備することで、ポストコロナの訪日外客に対してインバウンド・ビジネス産業は高い付加価値をもつサービスを提供できると考える。

本稿では国土交通省近畿運輸局が実施した「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」のアンケート結果の分析により、関西を訪れた訪日外客の興味深い動態を把握することが可能となった。

本アンケートでは以下の設問を設けている(ヒアリング調査内容については後掲の参考資料を参照)。

A.本人属性(国籍、年齢、性別、世帯年収)、B.旅行属性(旅行手配方法、訪日回数など)の基本的な情報に加え、C.体験・サービスの満足度について、D.決済方法(キャッシュレス決済方法など)について聞いている。加えて、E.関西各地域の費目別消費状況、といった従来のアンケートではあまりみられない内容についてもヒアリングを行っている。なお、ヒアリングの場所を意識したのが本アンケートの特徴でもある。すなわち場所を、旅行前(以下、「旅マエ」)、旅行中(以下、「旅ナカ」)、旅行後(以下、「旅アト」)の3地点に分けて訪日外客に聞いているため、彼らの消費動態の時間的なパターンについて詳細な情報が得られる。なお、各時点における国・地域のサンプルは図表1に示されている。

今回は前述した通り、多くの設問項目の中から「イノベーション」の観点より、D.決済方法についての情報に焦点を当てて分析を行う。

 

2. キャッシュレス決済がインバウンド需要に与える影響について

一般にキャッシュレス決済のポイントは、以下の観点から、財・サービスの購入がより容易になることにある。第1に手元に十分な現金は保有していないが、購入したい財・サービスを即座に消費できるという点である。つまり「消費の即時性」という利点を有している。

第2に、常に現金を手元に保有しておく必要はないという点である。高額の現金を手元に保有していると盗難等にあいやすいが、こうした「現金保有の危険回避性」という利点がある。第3に、クレジットカード(以下、クレジット)やデビットカード(以下、デビット)での決済は現金による支払いと比べ時間がかからない点である。限られた時間の中で消費を行わなければならない場合、「決済の迅速性」は大きな魅力となる。

第4に、カード等による決済は、決済終了後に利用状況(利用日時、利用場所、利用金額など)に関する情報がすべて把握できる。こうした「決済情報の把握性」は今後の消費計画を立てる上でも有益である。

ここで外国人訪問者が外国においてクレジットなどを用いて消費を行う場合、上記のキャッシュレス決済のメリットはどのように反映されているだろうか。以下では中国人観光客が日本で消費する場合を例にあげて説明する。

中国人が日本において日本の現金(円)で財・サービスを購入する際には、図表2が示すように、2段階の手続き=交換を行う必要がある。

 

 

第1段階は、自国通貨(人民元)を日本通貨(円)と交換しておく必要がある。この両替は訪日前に中国においても行うことができるが、日本での消費額が大きくなるにつれ、日本で行うケースが増えてくる。第2段階は現金(円)を希望する財・サービスと交換するという手続きである。

こうした2段階の交換手続きは決して容易な手続きとは言えない。通貨の両替は限られた場所でしか行うことができない(実際には外国通貨の両替は国際空港や都市部の両替店に限定される)。さらに両替の手続きは簡単ではなく、時間的なコストや、言語面での意思疎通の問題も無視できない。またそもそも訪問先で高額の現金を保有すること自体が危険である。

現金(円)を用いて日本で消費を行う際にも、さまざまな問題が発生する。希望する商品が見つかったとしても、中国人観光客が実際に購入する段階では、様々な障壁がある。例えば支払い時の現金提供と釣銭の引き渡しや面語での意思疎通の問題がある。こうした点は限られた日数で日本を訪問する観光客(とりわけ初めての訪問客)にとって極めて大きな障壁となる。

キャッシュレス決済は、このような 2 段階の手続きにおいて発生する諸問題を解決する手立てとなりえる。クレジットやデビットなどを利用すれば、自国通貨と外国通貨の交換を行う必要はなくなる。また希望する財・サービスを、十分な現金を保有していなくても、無用な心配や不安を排除して即時に購入することができる(「消費の即時性」「現金保有の危険回避性」「決済の迅速性」が満たされる)。さらに帰国後には、日本での消費に関して詳細な情報を得ることによって、次回以降の旅行計画に関する貴重な指針となる(「決済情報の把握性」が満たされる)。

以上の理由から、キャッシュレス決済の進展はインバウンド需要の増大を促進する可能性が高いと考えられる。翻ってわが国では現金決済が根強く、インバウンド需要を喚起させていく上で少なからず障壁となっているはずである。次節ではキャッシュレス決済についてアンケート調査から得られる情報を整理し、分析を行う。

3. キャッシュレス決済の動向

今回行われたアンケート調査では、関西における訪日外客のキャッシュレス決済に関する設問について回答が得られた。日本におけるキャッシュレス決済の普及は諸外国と比較すれば、まだあまり進んでいないという議論もされている。このためキャッシュレス決済の普及によるソフト・ハード両面のイノベーションは、キャッシュレス決済が日常行われている欧米豪からの訪日外客の誘客にも繋がり、更なるインバウンド需要の拡大も期待できる。そのため今後のインバウンド・ビジネス戦略を考えるうえでも、本アンケートから示唆に富む含意が得られることが期待できる。

3-1. 滞在中に使用した決済方法

アンケートでは最初に今回の日本滞在中の決済方法7について聞いてみた(質問 D1.「滞在中に使用した決済方法をお聞かせください(複数回答可)」)。図表3-1-1は訪日中国人客が日本滞在中に使用した各決済方法の割合を示しており、内訳をみると現金で決済したと答えた割合が 37.4%と高く、次いでQRコードが26.8%、クレジットが25.1%、デビットが10.6%と続いており、総じてキャッシュレスでの決済方法の割合が高いことが分かった。

 

 

次に欧州をみれば(図表3-1-2)、現金、クレジットでの決済割合は、いずれも46.7%を占めている一方で、デビットは6.7%と小さく、QRコードでの決済は見られなかった。

最後に北米をみれば(図表3-1-3)、現金での決済が46.4%と最も高い。次いで、クレジットでの決済は約42.9%、デビットが約10.7%となっている。なお、QRコードの決済は見られなかった。上述した国籍・地域別訪日外客の決済動態をみれば、以下の通りにまとめられる。

 

①中国、欧州、北米の訪日外客は現金での決済の割合が高いものの、②総じてみれば、キャッシュレス決済の割合は中国、欧州、北米のいずれの訪日外客においても高い。しかし、③キャッシュレス決済のうちQRコードをみれば、中国は決済方法の約1/4を占めているのに対し、欧州、北米では全く見られないのが特徴である。

 

 

次に、本人属性の世帯年収(質問A)と決済方法(質問D)との関係についてみる。

図表3-1-4は訪日中国人客の決済方法毎の世帯年収の分布を示している。図が示すように、現金での決済では年収が10~20万元未満の人が多く、クレジットでは40万元以上の人が多い。デビットでの決済をみると、10~20万元未満または20~30万元未満の人が多い。次にQRコードの決済では、10~20万元未満の人が最も多いが、40万元以上の人も使用していることから、幅広く利用されている傾向が見られる。

このように訪日中国人客では現金での決済は比較的中位の年収の人が使用する傾向がみられるのに対し、クレジットでの決済は年収の多い人が使用している。一方、QRコードでの決済は、年収が中位の人だけでなく、高位の人も使用していることから、幅広い階層で使用されている傾向がみられる。こうしたQRコード決済が幅広い階層に利用されていることについては近年、中国においてアリペイやウィチャットペイなどに代表されるQRコード決済システムの普及が進んでいることが影響していると考えられる。

 

なお、図表3-1-5は訪日韓国人の決済方法毎の世帯年収の分布をみている。現金での決済をみれば、5,000万ウォン以上の年収の人が多く使用しており、次いで3,000~4,000万ウォンの層となっていることから、比較的年収が中位から高位の人が使用する傾向が見られる。次にクレジットをみれば、5,000万ウォン以上の年収の人が最も多く、次いで多いのが4,000~5,000万ウォン未満の人であることから、年収の高位の人が使用している傾向がみられる。なお、今回のアンケート調査ではQRコードでの決済の調査結果が得られなかった。このように訪日韓国人客にとっての決済は現金及びクレジットが主であり、特に年収が高位の階層においてその特徴が顕著に表れている。

図表3-1-6は訪日台湾人客の決済方法毎の世帯年収の分布を示している。現金での決済は、60~100 万台湾ドル未満の年収の人が多く行っており、次いで100~150万台湾ドル未満、150万台湾ドル以上と続いている。次にクレジットをみれば、100~150万台湾ドル未満の年収の人が最も多く使用しているものの、その他の階層でも総じて使用する傾向が見られた。QRコードでの決済をみれば、60~100万台湾ドル未満、150万台湾ドル以上の年収の人が行っている傾向が見られる。

最後に、図表3-1-7は訪日香港人客の決済方法毎の世帯年収の分布を示している。現金での決済をみれば、10万香港ドル未満の年収の人が多いという特徴がみられた。次に、クレジットでの決済では、20~30万香港ドル未満と30~40万香港ドル未満の年収の人が多いのが特徴的である。

 

以上より、東アジア各国の世帯年収と各決済の利用関係についてみれば、①中国では世帯年収が概ね中位の人は現金、デビット、QRコード決済を使用するのに対し、高位の年収の人はクレジットやQRコードで決済する傾向が見られる。②韓国では、主として現金とクレジットでの決済だが、高位の年収の人はいずれの決済も行う傾向がある。③台湾では現金、クレジットでの決済が主で、現金ではやや中位の年収の人が使用する傾向があり、クレジットはやや高位の年収の人が使用する傾向があるもののその他の階層も使用していることから年収の違いで大きな差異はあまり見られない。④香港では現金とクレジットでの決済が主として行われており、現金決済は概ね平均的な年収より低位の人が行っており、クレジットは中位またはやや高位の収入の人が使用する傾向が見られる。

3-2 日本におけるキャッシュレス決済の進捗

次に日本における「キャッシュレス決済対応について、ご自身の国と比べて日本は進んでいるかどうか」という質問項目(D2.)から得られた結果をみる。日本と自国でのキャッシュレス決済動向を比較することにより、キャッシュレス決済の進捗状況の違いを客観的に整理することができる。その結果を示したのが図表3-2である。それぞれ、中国、欧州、北米、欧米豪のカテゴリーに分類して示しているが、日本ではキャッシュレス決済が進んでいる(Yes)と答えた割合が高かったのは北米のみで、中国は約75.3%、欧州は約71.4%、欧米豪は約 63.6%の割合で進んでいない(No)と答えている。本アンケート調査結果から日本のキャッシュレス決済の進捗をみれば、訪日外客に対してキャッシュレス決済の普及はまだ十分進んでいないようにみえる。

 

 

3-3. キャッシュレス決済における利便性:支出項目別

前項では日本におけるキャッシュレス決済の進捗について述べたが、本項ではキャッシュレス決済時の利便性を支出項目別についてみていく。図表3-3-1では訪日外客(全国籍)が買物、飲食、交通、娯楽サービス等、宿泊の各項目においてキャッシュレス決済を行った際、「一番不便だった時はいつか」という質問項目に答えた割合を示している(質問 D5.)。結果、一番不便だと感じていた時が交通費などを支払う時であり、最も不便を感じていない時は娯楽サービス等に関する支払い時であった。また買物と飲食で不便だと感じている割合が約 25%となっており、4人に1人は不便を感じているという結果が得られた。

 

 

次に国籍・地域別にみれば、中国の訪日外客は交通費の支払い時に不便だったと答えた割合が高く45.9%で、次いで飲食時の支払いが28.4%となっている(図表3-3-2)。欧州をみれば、中国と同じく交通費の割合が高く70.0%となっており、多くの人が不便だと感じていることがわかる。次いで買物と飲食が20%となっているのに対し、娯楽サービス等や宿泊には不便だとは感じてはいな
かった(図表3-3-3)。以上から、中国、欧州の訪日外客は交通関連でのキャッシュレス決済に不便さを感じている傾向が見られた。この結果からもわかるように、交通費の支払いや飲食の支払い時のキャッシュレス決済化はまだ遅れているように思われる。

 

 

 

3-4. キャッシュレス決済における利便性:支出場所別

前項では各費目によってキャッシュレス決済の利便性が国籍・地域別で異なることを明らかにした。本項では更に決済場所によってその利便性がどのように異なっているかを見ていく(質問 D6.)。

図表3-4-1は訪日中国人客が飲食店、鉄道、バス、タクシー、ホテル、旅館、寺社仏閣、美術館、ホステル・カプセルホテル、有料住宅宿泊、それぞれの場所におけるキャッシュレス決済の使いやすさを5段階で示している。もっとも使いやすい際は5、もっとも使いにくい際は1、普通程度である場合は3と答えている。

図を見れば、飲食店やホテル等では概ね使いやすいと答えている割合が多い一方、バスや美術館では使いにくいと回答している割合が高い傾向が見られる。これはキャッシュレス決済が普及している宿泊施設や外食チェーンの飲食店などでは不自由なく使える反面、キャッシュレス決済が行いにくいバスなどの交通機関やあまりキャッシュレス決済を導入できていない美術館等の施設においては課題があると言えるだろう。

 

図表 3-3-3 日本滞在中におけるキャッシュレス決済の利便性(欧州)

3-5. 決済時における為替レートの意識調査

最後に今回のアンケート調査では決済方法に関する質問項目だけではなく、「キャッシュレスで決済時する際、為替レート(自国通貨と円の交換レート)を意識しますか」という設問も行っている(D4.)。これまで筆者たちは、インバウンド需要における決定要因として、短期の観点から為替レートの変動が重要であると述べてきた。しかし、2.でも述べたように、キャッシュレス決済では、自国通貨と相手国側の交換レートを気にせず財・サービスを消費できるため、現金決済と比べてあまり為替レートを意識しないのではないかと考えられる。こうしたキャッシュレス決済が進むということは、煩雑な通貨の両替をすることなく財・サービスへの消費に繋がると考えられるため、消費拡大を意図するうえで非常に重要な意味を持つといえるだろう。

図表3-5-1は訪日外客の為替レートの意識を、「旅マエ」、「旅ナカ」、「旅アト」の3時点での調査結果を示している(全国籍ベース)。関空入港時の「旅マエ」で為替レートを意識していると答えた(Yes)割合は60.3%、旅行途中の「旅ナカ」では63.8%、関空出国時の「旅アト」では24.4%となっており、「旅マエ」、「旅ナカ」と比較して「旅アト」の割合は低下している。

次に訪日中国人客をみれば、為替レートを意識する割合は「旅マエ」では73.5%、「旅ナカ」では57.1%と次第に意識が低下する傾向が見られた。更に「旅アト」では20.8%となり、旅行時期に応じて為替レートの意識に変化がみられた(図表3-5-2)。

欧州の訪日外客をみれば、「旅マエ」での割合は66.7%であったが、「旅ナカ」では20.0%となり、旅行中ではあまり意識をせずに過ごす傾向がみられるようである。なお、「旅アト」については図表1-1が示すように回答は得られなかった(図表3-5-3)。

以上、為替レートの意識について本アンケートから得られた結果は以下の通りである。①「旅マエ」において訪日外客は為替レートに対して意識をしている割合が高いが、「旅アト」時には意識をしないと答える割合が多くなる傾向がみられた。②「旅アト」において、訪日外客は今回の旅行を振り返るということを考えれば、滞在中においてキャッシュレス決済で財・サービスを購入する際にあまり為替レートを意識しなかった、という興味深い示唆が得られた。

 

 

 

4. アンケート調査結果からの含意

今回のアンケート調査では、訪日外客は日本におけるキャッシュレス決済状況について、自国の状況と比して良いと感じる人もいるが、多くの人はあまり良いとは感じていないという結果が得られた。中でも、不便と感じている人が多かったのは、交通機関などの支払い時であった。近年、日本国内のバスやタクシーを利用する際、クレジットやQRコードでの決済が可能となってきているが、それでも訪日外客にとっては未だに不便と感じているようである。また、鉄道の利用時に関しても券売機などで切符を購入する際にキャッシュレス決済が対応可能の場所が増えているが、今回の調査結果をみれば訪日外客に対して、あまり認知されていないように思われる。

交通機関においてこうしたキャッシュレス決済可能が訪日外客に認知されることは、今後のインバウンド・ビジネス戦略を考えるうえで重要なポイントとなってくる。例えば、これまである目的地まで行くために料金を計算し、切符を現金で購入していたことが、キャッシュレス決済が普及することで、その煩雑さを幾分解消することが可能となり、今まで行けなかった場所にも訪れる機会が増えることが期待できよう。その際、重要なのはキャッシュレス化の多様性を考えることである。欧米豪の訪日外客は主にクレジット決済だが、アジア圏、特に中国ではQRコードでの決済が主流であることを鑑みれば、QRコード決済にも対応可能とする必要があると考える。

5. おわりに

以上、訪日外客のキャッシュレス決済に関する動態をアンケート調査から得られた結果より考察してきた。ポストコロナに向けた戦略を見据えて、キャッシュレス決済に代表されるイノベーションのためへのインフラ整備は、今後日本を訪れる外国人に対して非常に重要な意義を持つと言える。その際に、①キャッシュレス決済を行う場所のみならず、多様なキャッシュレス決済への対応可能性が重要である。また、クレジットだけでなくQRコードでの決済が増加していることを考えれば、それに対応した端末などの導入を行う必要も出てくるだろう。②これまでのように買物や宿泊を行う場所のみならず、交通、飲食や娯楽サービス等が行える場所においても、キャッシュレス決済対応を真摯に検討していく必要がある。

このように訪日外客の視点から見れば、キャッシュレス決済のインフラ整備についてまだ不十分な面はあるが、課題解決のために政府はキャッシュレス決済のインフラ整備を着実に進めている。また、2019年10月の消費税率引き上げに伴い、20年6月まで行われたキャッシュレス決済でのポイント還元事業は日本国内におけるキャッシュレス環境に少なからず影響を与えている。経済産業省(2020)によれば、この事業開始以降、キャッシュレス決済を導入した事業者の割合は26.7%(19年9月時点)から35.7%(20年5月時点)まで上昇した。また、消費者のキャッシュレス決済利用率についても週1回以上の利用が約6割以上となるなど、利用頻度は着実に増加しているように思われる。この際、特にQRコード決済の普及が進んでおり、その利用率は増加傾向で推移している。

こうしたQRコード決済の普及は、利用者の多いアジア(特に中国)からの訪日外客に対しての消費を考える上で重要となろう。こうしたインフラ整備が進むことにより、訪日外客のみならず国内客の消費意欲を促進することにも繋がることが期待されよう。

関連論文

  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:2月レポート No.57

    インバウンド

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    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、2月の訪日外客総数(推計値)は278万8,000人、2019年同月比+7.1%であった。春節休暇やうるう年で日数が増加した影響もあり、単月過去最高を更新した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば12月は273万4,115人。うち、観光客は255万1,290人、商用客は8万703人、その他客は10万2,122人であった。

    ・国土交通省が公表した2024年夏季運航スケジュール(3月31日~10月26日)によれば、国際線の旅客便は週4,875便で、19年同期比-7%とコロナ禍前をほぼ回復。面別にみれば、韓国、米国はコロナ禍前を上回った一方、中国は依然コロナ禍前の6割程度にとどまっている。今後、中国を除くアジア地域を中心に回復が見込まれるが、中国人客は緩やかな回復にとどまろう。

     

    【トピックス1】

    ・関西2月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、2カ月ぶりの前年比減少。一方、輸入は11カ月ぶりに増加した。結果、貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。

    ・1月のサービス業の活動は2カ月連続の改善だが小幅にとどまり、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は2カ月連続の前月比上昇。また、対面型サービス業指数も2カ月連続で同上昇した。観光関連指数はコロナ5類移行後初めての年始休暇の影響もあり、劇場・興行団や旅客運送業が上昇に寄与し、2カ月連続の同上昇となった。

     

    【トピックス2】

    ・12月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,068.0千人泊で、2019年同月比+12.8%と4カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は7,593.7千人泊、2019年同月比+3.1%と4カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,474.3千人泊となり、同+41.6%と5カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西各府県の訪問率をみれば、大阪府39.3%が最も高く、次いで京都府28.9%、奈良県6.8%、兵庫県5.5%、和歌山県1.2%、三重県0.8%、滋賀県0.6%、鳥取県0.3%、徳島県0.2%、福井県0.2%と続く。

    ・2023年10-12月期の関西2府4県の訪日外国人消費単価(旅行者1人1回当たりの旅行消費金額)は19年同期比+29.2%増加。費目別では、飲宿泊費や娯楽等サービス費が大幅増加した。

    ・関西2府4県の訪日外客数と消費単価を用いて、2023年10-12月期の関西における消費額を推計した。結果、訪日外客消費額は4,164億9,716万円となり、19年同期比では+25.7%とコロナ禍前を回復した。

     

    PDF
  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年3月)<3月末統計集中発表日のデータを更新して、1-3月期の実質GDP成長率予測を前期比年率-3.0%に下方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    3月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では3月末までに発表されたデータを更新した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、1-3月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ2/3が更新された。

    ▶10-12月期GDP2次速報によれば、実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と1次速報から上方修正。結果、2四半期連続のマイナスから2四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶2月の生産指数は前月比-0.1%小幅低下し2カ月連続のマイナス。結果、1-2月平均は10-12月平均比-6.2%低下した。生産の基調判断は「一進一退ながら弱含み」。

    ▶1-2月平均を10-12月平均と比較すれば、建築工事費予定額は-3.0%、資本財出荷指数は-11.4%低下した。1月を10-12月平均と比較すれば、実質総消費動向指数は-0.6%減少だが、公共工事は+1.8%増加した。消費、住宅投資、企業設備と民間需要の低迷が目立つ。

    ▶1-2月平均の輸出入動向(日銀ベース)を10-12月平均と比較すれば、実質輸出額は-4.0%、実質輸入額は-7.3%、それぞれ減少した。財貨の実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はプラスとなっている。

     

    1-3月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-3.0%と予測する。生産サイドは同-4.2%と予測。結果、平均予測(同-3.6%)は市場コンセンサス(同-0.36%)より低めとなっている(図表1参照)。

     

    図表1

     

    1-3月期インフレ予測の動態

    ▶2月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.8%、インフレ率は4カ月ぶりに前月から拡大。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+3.2%と23カ月連続の上昇。インフレ率は6カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、1-3月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.1%、国内需要デフレータを同+0.2%と予測している。一方、交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.0%と予測する(図表2参照)。

     

    図表2
    PDF
  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.131-景気は足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆し: 生産回復の遅れが景気下押しリスク-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 新田 洋介 / 宮本 瑛 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆しがみられる。足下、生産は大幅減産となった。雇用環境は失業率が小幅悪化したものの、労働力人口と就業者数はともに増加していることもあり、持ち直している。消費は初売りセールやインバウンド需要の増加で好調。貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は大幅縮小。先行きは令和6年能登半島地震の影響が和らぎつつあるものの、生産回復の遅れが景気の下押しリスクとなろう。
    • 1月の生産は自動車生産の停止が影響し、大幅減産となった。正常化にはしばらく時間を要することもあり、1-3月期は大幅減産となる可能性が高い。
    • 1月の失業率は前月より小幅悪化したが、労働力人口と就業者数はともに増加。また、就業率も前月より上昇した。雇用情勢は持ち直している。なお、一部の産業を除いて、足下では労働需給の動きはともに低調である。
    • 12月の現金給与総額は2カ月ぶりの前年比増加となり、伸びは前月より大きく拡大した。結果、実質賃金の減少は続いているが、減少幅は前月より縮小した。
    • 1月の大型小売店販売額は28カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、23カ月連続のプラス。スーパーも16カ月連続で拡大した。
    • 1月の新設住宅着工戸数は2カ月連続で前月比増加。貸家は減少したものの、持家、分譲は増加となったためである。
    • 1月の建設工事は公共工事がマイナスに転じた影響で25カ月ぶりの減少。2月の公共工事請負金額も2カ月連続の前年比減少となった。
    • 2月の景気ウォッチャー現状判断は2カ月ぶりに前月比改善。令和6年能登半島地震の影響が和らいだことやインバウンド需要の増加が景況感に好影響となった。また、先行き判断は賃上げへの期待もあり、4カ月連続で改善した。
    • 2月の貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は前年比大幅縮小。春節の時期のずれから、対中輸出が減少に転じた影響とみられる。一方、輸入は11カ月ぶりに前年比増加となった。
    • 2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1-2月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。工業生産は前月比で減速となったうえ、個人消費の回復も勢いを欠いている。中国政府は今年の実質経済成長率の目標を「5%前後」と定めたが、個人消費を直接支援する景気刺激策の実施には慎重である。そのため、1-3月期の景気は10-12月期より大きな改善が見込まれないと予想される。
    【関西経済のトレンド】

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  • 盧 昭穎

    「電気・ガス価格激変緩和対策」事業による 負担軽減効果の試算

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    盧 昭穎 / 稲田 義久

    ABSTRACT

    本稿の目的は、「電気・ガス激変緩和対策」事業が家計負担軽減に与える影響を分析することである。2022年の物価上昇は家計に大きな負担をかけ、特にエネルギーコストの上昇が深刻な問題となった。このような状況下において、政府は2023年2月から当該事業を実施し、家計負担の軽減に努めている。本稿では、本事業が適用されない場合の消費者物価指数を試算することにより、緩和対策事業の効果を所得階級別に分析する。結果を要約すれば、以下のとおりとなる。

     

    1. 2023年2月から24年1月までの「電気・ガス激変緩和対策」事業により、一世帯あたり電気代29,119円、都市ガス代4,733円、負担額が軽減された。収入階級別にみると、収入が高い世帯ほど電気の使用量が多いため、負担軽減額は大きくなる傾向がみられた。
    2. 負担軽減額が可処分所得に占める割合をみると、一世帯あたり電気代の平均軽減額が可処分所得の49%を、都市ガスは0.08%を占めた。収入が高い世帯ほど電気の負担軽減額が可処分所得に占める割合は小さくなった。都市ガス代も同様の傾向である。
    3. 緩和措置が適用されない場合の足下の電気と都市ガス代指数は徐々に低下しており、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受ける前の水準に近付いている。緩和措置が適用されない場合の電気と都市ガス代指数を試算することは、緩和措置をいつ終了させるかについての議論に数値的なベンチマークを提供できよう。
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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:1月レポート No.56

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、1月の訪日外客総数(推計値)は268万8,100人、2019年同月比では-0.0%と2カ月ぶりに小幅マイナスに転じたが、コロナ禍前とほぼ同程度となった。なお、国・地域別では韓国、台湾とオーストラリアが単月で過去最高を記録した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば11月は244万890人。観光客は220万6,883人となり、2カ月連続で200万人超の水準となった。

    ・令和6年能登半島地震は新潟県、富山県、石川県、福井県の観光業に大きな影響を与えている。政府は当該地域で落ち込んだ観光需要を喚起するために、3月より「北陸応援割」を開始した。喚起策により、国内旅行者及び訪日旅行者の増加が期待されよう。

    【トピックス1】

    ・関西1月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、9カ月ぶりの前年比増加。一方、輸入は10カ月連続で減少した。貿易収支は12カ月ぶりの赤字となった。

    ・1月の関西国際空港への訪日外客数は70万402人と、2カ月連続で70万人超の水準。低調なアウトバウンド需要に比してインバウンド需要は堅調に推移している。

    ・12月のサービス業の活動は小幅改善だが、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は4カ月ぶりの前月比上昇。また、対面型サービス業指数は2カ月ぶりに同上昇した。観光関連指数も年末の旅行需要増加の影響もあり、旅行業や宿泊業が上昇に寄与し、4カ月ぶりの同上昇となった。

    【トピックス2】

    ・11月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,949.3千人泊で、2019年同月比+10.0%と3カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は8,124.0千人泊、2019年同月比+1.3%と3カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,825.3千人泊となり、同+34.6%と4カ月連続で増加した。日本人宿泊者に比して外国人宿泊者は着実に増加している。

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西2府8県の国内旅行消費額(速報)は1兆1,331億円、19年同期比+12.4%と3四半期連続のプラス。23年通年では4兆1,034億円となり、コロナ禍前(19年比-0.6%)をほぼ回復した。

    ・国内旅行消費額のうち、10-12月期の宿泊旅行消費額は9,101億円で2019年同期比+21.2%となり、2四半期連続のプラス。一方、日帰り旅行消費額は2,230億円。2019年同期比-13.1%と7-9月期(同-21.4%)からマイナス幅は縮小したものの、宿泊旅行消費額に比して回復ペースは緩慢である。

     

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  • 稲田 義久

    令和6年能登半島地震の影響と北陸3県経済 -ストック、フロー、人流を中心に-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 壁谷 紗代 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響が懸念されている。震災によって大きな被害を受けた新潟県、富山県、石川県の3県(以下、北陸3県と記す)の被害状況に基づき、復旧復興の観点からその経済的な影響を考察した。それを整理し得られた含意は以下の通りである。

     

    1. ストックの観点から北陸3県経済をみれば、民間企業資本ストックは、各県とも「サービス」が最も大きい。次いで新潟県、石川県では「農林水産」が、富山県では「化学」が大きい。また、住宅ストックは新潟県が最も大きく、次いで石川県、富山県と続く。
    2. フローの観点から北陸3県経済をみれば、各県とも製造業のシェアが最も高い。うち、新潟県は「食料品」が、富山県は「化学」が、石川県は「はん用・生産用・業務用機械」がそれぞれ最も高いシェアを占めている。
    3. 今回の震災による北陸3県の直接被害(建築物等)を推計すれば、新潟県は5,177億円、富山県は2,946億円、石川県は5,827億円、3県計で1兆3,951億円となる。また、間接被害は4兆円となり、これは2020年度の名目GDPの0.4%に相当する。
    4. 人口移動の観点からみれば、北陸新幹線開業を契機に富山県、石川県でみられたような人口移動が今回の震災を契機に一層進む可能性がある。3月16日に金沢-敦賀間の延伸が実現するが、この効果は福井県では限定的と思われる。
    5. 今回の震災で北陸の観光業の特徴が明らかとなった。北陸は国内市場に強く依存した構造となっている。人口減少が長期トレンド下にあるため、この構造から脱却する必要がある。地域創生戦略にとって、インバウンド需要の一層の取り込みを実現する戦略が重要となろう。

     

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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.130-景気は足下局面変化、先行きは悪化の兆し: 自動車生産停止と中国経済減速がリスク要因

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、10-12月期で均せば低調。雇用環境は失業率が4カ月連続で改善したが、有効求人倍率は悪化が続く。消費は年末商戦や好調なインバウンド需要で堅調。貿易収支は12カ月ぶりに赤字に転じた。自動車生産停止や中国経済減速のリスクもあり、先行き悪化の兆しがみられる。
    • 12月の生産は3カ月ぶりの前月比上昇だが、10-12月期では3四半期ぶりの減産。生産は低調である。
      23年通年の失業率は前年比横ばいだが、労働力人口と就業者数はともに増加し、雇用の回復は順調に進んだ。しかし、10-12月期は労働力人口と就業者数が前期よりいずれも減少し、就業率は低下した。足下では雇用回復の勢いがやや弱くなっている。
    • 11月の現金給与総額は24カ月ぶりの前年比減少。インフレの高止まりにより実質賃金は減少が続き、減少幅は前月より拡大した。
    • 12月の大型小売店販売額は27カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、22カ月連続のプラス。スーパーも15カ月連続で拡大した。
    • 12月の新設住宅着工戸数は2カ月ぶりに前月比増加した。持家、分譲は減少したものの、貸家は増加となったためである。
      堅調な公共工事の影響もあり、12月の建設工事は24カ月連続の前年比増加。しかし、1月の公共工事請負金額は前年比減少に転じている。
    • 1月の景気ウォッチャー現状判断は3カ月ぶりに悪化。令和6年能登半島地震の発生によりサービス関連を中心に悪影響を及ぼした。一方、先行き判断は3カ月連続の改善。春節によるインバウンド需要増加の期待が寄与した。
    • 1月の貿易収支は12カ月ぶりの赤字だが、赤字幅は前年比大幅縮小。輸出は9か月ぶりに同増加に転じた。ただし、春節の時期のずれの影響もあるため、注意が必要である。一方、輸入は10カ月連続で同減少した。
    • 1月の関空経由の外国人入国者数は2カ月連続で70万人超の水準となり、インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。消費者物価指数の低下傾向が顕著になっており、不動産市場の不況も続いている。また、企業の景況感も低迷している。ただし、2月の春節連休は例年より1日多くなっており、観光などレジャーの消費は前年より伸びる可能性が高いため、1-3月期の景気は10-12月期よりわずかな改善が見込まれる。
    【関西経済のトレンド】

    PDF
  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.68 -内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    1. 2023年10-12月期の関西経済は、内需・外需ともに回復の動きが鈍くなっており、足踏みが続いている。家計部門では消費者センチメント、所得、雇用と多くの指標で伸び悩んでいる。企業部門では、景況感は堅調であるものの、生産は一進一退で弱い動きとなっている。対外部門は、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しているが、財輸出は前年割れが続いている。
    2. 家計部門は足踏み状態にある。大型小売店販売はインバウンド需要など客足の回復で堅調であるが、センチメント、所得・雇用環境、住宅市場など幅広い指標で弱い動きとなっている。物価上昇ペースは緩やかになってきたものの、賃上げ機運にも落ち着きが見られ、実質賃金の目減りが個人消費に影を落としている。
    3. 企業部門は、緩やかに持ち直しているが、生産など一部に弱い動きが見られる。景況感は製造業・非製造業ともに持ち直した。また今年度の設備投資計画は今のところ製造業・非製造業とも旺盛となっている。ただ生産は一進一退続きで、3四半期ぶりの減産となるなど回復の足取りは鈍い。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに低調である。輸出では全国と対照的に、関西は3四半期連続の前年割れとなっている。一方インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高などではコロナ禍前の水準を回復し、その後も増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、万博関連需要を背景に、引き続き堅調に推移している。
    6. 関西の実質GRP成長率を2023年度+1.4%、24年度+1.5%、25年度+1.5%と予測。22年度以降1%台の緩やかな回復基調が続き、24年度以降は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、23年度は+0.1%ポイントの上方修正、24年度は-0.1%ポイントの下方修正、25年度は+0.1%ポイントの上方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は23年度+0.3%ポイント、24年度+0.9%ポイント、25年度+1.2%ポイントとなり、24年度に入って緩やかに回復する。公的需要は万博関連の投資により23年度+0.4%ポイント、24年度+0.3%ポイントと成長を下支えるが、25年度には剥落する。域外需要は、23年度は+0.7%ポイント、24年度+0.3%ポイント、25年度+3%ポイントとなる。
    8. 日本全体に比べて、予測期間通じて関西経済が増勢となる。23年度は設備投資を中心に民間需要・公的需要ともにやや増勢となる。一方外需は中国向け輸出の停滞から全国に比べると寄与は小幅となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要により全国を上回る伸びとなる。25年度も域外需要の押し上げから関西が全国を上回る。
    9. 今号のトピックスでは「令和6年能登半島地震の北陸3県経済への影響」および「大阪・関西万博の経済波及効果」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->

  • 稲田 義久

    147回景気分析と予測:詳細版<依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道- 実質GDP成長率予測:23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度+1.1% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1.  2月15日発表のGDP1次速報によれば、10-12月期の実質GDPは前期比年率-0.4%(前期比-0.1%)減少し、2四半期連続のマイナス成長。市場コンセンサスの最終予測(同+1.28%)は実績を大幅に上回った。またCQM最終予測の支出サイドは同+2.0%、生産サイドは同+1.7%、平均は同+1.9%と、実績を大幅に上回った。
    2.  10-12月期の実質GDP成長率(前期比-0.1%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.3%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.2%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備及び民間在庫変動といずれも減少した。公的需要は同-0.1%ポイントと7四半期ぶりのマイナス寄与。一方、サービス輸出(知的財産権等使用料)の大幅増という特殊要因もあり、純輸出は同+0.2%ポイントと2四半期ぶりのプラス寄与。結果、2023年の実質GDPは前年比+1.9%と3年連続のプラスとなった(前年:同+1.0%)。
    3.  10-12月期の国内需要デフレータは前期比+0.4%と12四半期連続のプラス。交易条件は4四半期連続で改善の後横ばい。結果、GDPデフレータは同+0.4%と5四半期連続の上昇となった。このため、名目GDPは前期比+0.3%、同年率+1.2%となり、2四半期ぶりの増加。結果、2023年の名目GDPは前年比+5.7%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年の+6.5%以来の高成長である。
    4.  10-12月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2023-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度を+1.1%と予測。前回(146回予測)から、23年度は-0.4%ポイント、24年度は-0.7%ポイント、25年度-0.1%ポイント、それぞれ下方修正。24年1-3月期は輸出の反動減や自動車の減産から低迷が予想される。24年前半は内需主導の回復は遠のき、外需との好循環は厳しい。回復が見込まれるのは24年後半以降となろう。
    5.  実質賃金がプラス反転しないため、10-12月期の民間最終消費支出は3四半期連続の減少、24年1-3月期の回復も緩やかにとどまり、結果、23年度の民間需要寄与は-0.3%ポイント。一方、交易条件の改善もあり貿易赤字が縮小し、また引き続き好調なインバウンド需要によりサービス輸出が増加し、23年度の純輸出の寄与は+1.3%ポイントと前年から大きくプラス反転する。実質賃金のプラス反転は、インフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。このため24‐25年度の民間需要の寄与は小幅にとどまり、また純輸出の寄与も前年からほぼ横ばいとなる。
    6.  23年度前半に3%台で高止まりした消費者物価インフレ率は徐々に減速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、23年度+2.8%、24年度+2.0%、25年度を+1.4%と予測する。前回予測から変化なし。23年度に交易条件が前年から大幅改善するためGDPデフレータは+3.8%上昇する。このため、同年の名目GDPは+5.2%の高成長となる。24‐25年度については、交易条件改善の裏が出るため、GDPデフレータは24年度+1.5%、25年度+1.8%となる。
    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->