コロナ危機下における企業の財務調整- 法人企業統計調査結果から考察した課題 –
Abstract
コロナ危機下での企業の財務調整状況について、2020年10-12月期までの法人企業統計調査結果を活用し、企業のバランスシート(貸借対照表)項目のうち、特に、内部留保(利益剰余金)と有利子負債の変化に焦点を当てて考察してみた。コロナ危機下で、政府・日本銀行の金融支援もあって借入金増加や社債発行により大量の資金確保が図られ、負債の増加でバランスシートは悪化した。しかし、機動的に取り崩せる内部留保の蓄積があったことで、自己資本比率はわずかな低下ですんでおり、健全な水準を維持している。こうした財務状況を製造業、非製造業で分けてみると、非製造業はより厳しいという実態がわかる。非製造業の中でも、特にコロナ危機で需要減退の強い影響を受けているサービス関係業種の財務状況はさらに厳しく、今後も需要の低迷が続けば、小規模企業などで事業継続が一気に困難になるリスクがあろう。ポストコロナを視野に入れた日本企業の今後の課題としては、潜在成長率の押し上げにつながる内部留保の有効活用、バランスシート悪化に対応する事業構造改革の推進をあげたい。
関連論文
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四半期開示制度の日本企業の経営に与えた影響 – 研究開発費に関する企業財務データのパネル分析 –
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藤原 幸則ABSTRACT
岸田文雄首相が所信表明演説(2021年10月8日)で四半期開示制度の見直しを表明して以降、金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループにおいて検討が行われてきたところ、2022年度報告書では四半期開示は維持し、取引所規則による決算短信に一本化するのが適切とされた。主に情報利用者の便益からの意見が大勢になっており、日本の四半期開示制度の経営に与える影響について、実証研究の十分な蓄積があっての政策決定とは必ずしも言えないものとなっている(そもそも日本での実証研究の数は非常に少ない)。そこで、本稿では、企業の長期的視点にかかわる研究開発に対して、四半期開示制度が短期利益志向を助長し、研究開発費の抑制などの影響を与えているかどうかの検証を企業財務データのパネル分析により試みた。
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四半期開示制度の日本企業の経営に与えた影響
研究プロジェクト
研究プロジェクト » 2022年度 » 日本・関西経済軸
RESEARCH LEADER :
藤原 幸則ABSTRACT
リサーチリーダー
上席研究員 藤原幸則 大阪経済法科大学経済学部教授
研究目的
現在、金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループにおいて、企業情報開示のあり方について幅広い検討が行われている。とりわけ、四半期開示制度の見直しは、重要課題として位置づけられている。
企業ごとの実態を考慮せず、短期的かつ一律的な財務情報の開示を促す現行の四半期開示制度は、企業経営者や投資家の短期的利益志向を助長しているとの懸念がかねて指摘されている。また、SDGsやサステナビリティへの意識と関心が高まるなかで、四半期ごとの定型的な開示を求める制度が、果たして、中長期的な企業価値向上を見据えた企業と株主の建設的な対話に寄与するものなのか、疑問の声もあげられている。
頻繁な情報開示を行う企業が大きな負担を負っていることから、関西経済界からは四半期開示の義務付け廃止の要望が、2009年以来、政府や取引所に対して幾度も行われている。これに対し、今年4月、新しい資本主義実現会議と金融審議会は、四半期開示は維持し、取引所の決算短信に一本化するとの方針を示した。主に情報利用者の便益からの意見が大勢になっており、実証分析による十分なエビデンスがあっての議論になっていない。研究内容
四半期開示制度による投資家の短期的利益志向化(株式保有期間の短期化)が、企業の長期的な企業価値向上への取り組み(長期投資、研究開発等)にネガティブな影響を与えているのではないか、ということを仮説として実証分析したい。たとえば、長期投資や研究開発の水準を被説明変数、ROA、Leverage、投資家株式保有期間その他を説明変数とする回帰分析が考えられる。法人企業統計によるマクロベースと上場企業の財務データ(サンプル数:数百社、30年)によるミクロベースの両面で、実証分析を行うつもりである。
研究体制
研究統括
本多 佑三 APIR研究統括、大阪学院大学教授、大阪大学名誉教授リサーチリーダー
藤原幸則 APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授
期待される成果と社会還元のイメージ
四半期開示制度の日本の企業経営への影響(特にネガティブな影響)について、これまで十分な実証研究が行われていない現状から、日本企業の経営データ(上場企業対象)に基づく実証分析を行い、四半期開示制度の企業経営に与える影響を報告書にまとめる。報告書はWEBサイトに掲載、公表する。
政府の制度見直しへの反映、企業や社会の課題認識と世論形成につなげる。
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金融所得課税のあり方 – 国民の資産形成と成長資金供給の促進を重視した議論を –
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藤原 幸則ABSTRACT
昨年秋、自民党総裁選挙を契機に金融所得課税の見直し議論がにわかに注目された。しかし、市場関係者から懸念の声があり、昨年10月初めには株価下落もあって、表立った議論は消えた。昨年12月の令和4年度与党税制改正大綱では、今後の検討課題とされている。今回の議論の背景は、いわゆる「1億円の壁」というフレーズに端的に集約されている。本稿では、金融所得課税の見直し議論の背景と論点を概観したうえで、そのあり方について私見を提起している。今後の金融所得課税のあり方として、重視すべきことは、国民の資産形成と成長資金供給の促進にあると考える。将来の検討課題として、コロナ対策のために発行した国債の償還財源について、コロナ禍の終息後の経済回復を待って、所得税や法人税を時限的に付加増税することにあわせて、金融所得課税も超高所得者を対象に税率を25%(現行税率20%+5%)へ時限的に付加増税することは現実的に納得性があるものと考える。
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コロナ後における財政の規律回復と健全化 – 内閣府「中長期の経済財政に関する試算」から考察した論点 –
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藤原 幸則ABSTRACT
内閣府は、例年1月と7月に「中長期の経済財政に関する試算」の結果を公表している。今年、7月21日に最新の試算結果が示された。2025年度のPB(プライマリーバランス)黒字化目標を堅持した骨太方針2021を数字で裏付けるものである。本稿では、この最新の試算結果を考察し、コロナ後における財政の規律回復と健全化の論点整理を行った。PB黒字化などの財政健全化目標については、コロナ感染の収束が見極められてから、財政規律の回復とともに、再設定するのがよいだろう。コロナ後の財政健全化については、人口減少・高齢化等による構造的な財政赤字への対処と、コロナ対策のような予期できない緊急措置による財政赤字への対処とを、分けて考える必要がある。
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雇用調整助成金の効果と課題 – 新型コロナウイルス感染症特例措置をめぐって –
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藤原 幸則ABSTRACT
コロナ禍での雇用維持対策として、政府は雇用調整助成金の「新型コロナウイルス感染症特例措置」を創設して対応を行っている。完全失業率は低い水準にとどまり、2020年4~6月期に実質GDPが年率約3割減という落ち込みがあったことを考えると、雇用調整助成金が未曾有の経済危機の中での失業防止という点で大きな効果を発揮していると評価できよう。雇用調整助成金の活用が急拡大し、特例措置の適用期間も1年にわたることとなり、財源プールとなっている雇用安定資金の涸渇化が懸念されるようになっている。失業の著しい急増を避けることは経済や社会にとって大きな利益となる。自然災害やパンデミックなどによる国難とも言うべき重大な経済危機に際しては、雇用調整助成金へ一般財源を投入できることを本則にすべきと考える。また、雇用維持政策の出口の模索は悩ましい課題であるが、危機がある以上は雇用調整助成金の特例措置を延長しつつも、コロナ禍の中でも様々な創意工夫や対策によって事業の継続・再開・転換を図る企業に対する重点的な助成に軸足を移していくべきであろう。
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後期高齢者医療費の自己負担割合のあり方- 今年末に取りまとめられる所得基準の線引きに向けて –
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藤原 幸則ABSTRACT
政府の全世代型社会保障検討会議などでは、一定以上の所得がある人には自己負担割合を2割に引上げる方針であり、焦点となる所得基準の線引きの議論を本年末までに行うとし、大詰めの段階に来ている。今後も現役世代が高齢者医療を支えていく必要があるが、医療保険制度を維持し、増大する高齢者医療費を現役と高齢の両世代でなるべく公平に負担を分かち合うためには、「能力に応じて」という意味で、一定以上の所得がある高齢者については、自己負担割合を引上げることはやむを得ない。そもそも、所得基準の線引きについては、明確な根拠を求めることは難しいが、筆者の考えとしては、所得額に応じて利用者負担割合が1割、2割、3割とすでに分けて設定されている介護保険サービスを参考にしてはどうかと考える。後期高齢者医療費の自己負担割合引上げについては、まずは、合計所得160万円以上(年金収入等約280万円以上)の一般所得者を対象に2割負担を導入するのが適当と考える。
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新型コロナウイルス対策特別会計(仮称)の設置 -予算・執行の透明化と財政規律の確保を求める-
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藤原 幸則ABSTRACT
新型コロナウイルスは、わが国の財政の悪化にも大きな影響を及ぼしている。コロナ禍の出口は未だ見通せず、財政赤字の大幅な増加が今年度だけで終わる保証はない。もちろん、新型コロナウイルス対応は、国民の生命と経済社会を守るためのものであり、必要な歳出は躊躇なく機動的に行うことが必要である。しかし、財政規律のタガがはずれたままであってよいわけはない。緊急事態から脱したときから、財政健全化に向けてどのような取り組みを行うかも今から議論・検討しておくべき重要課題と考える。新型コロナウイルス対応に要した緊急の歳出については、「新型コロナウイルス対策特別会計(仮称)」を設置して、事業に時限を付しつつ、予算・執行を一元的に管理し透明化するとともに、その財源充当のために発行した国債全額は、コロナ危機からの経済回復後の特別増税などにより計画的に償還していくことが必要と考える。本稿では、財源確保の提案と国債償還の暫定試算を行っている。
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水災害の激甚化への総合的対策の強化- 全国的な対策推進の枠組み、土地利用規制、保険制度の強化を-
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藤原 幸則ABSTRACT
近年、全国各地で豪雨等による水災害が頻発し、被害も甚大化するケースが増えている。限られた財政の中では、堤防強化や砂防工事などの公共事業によるハード対策だけに頼るには限界がある。水災害リスクを低減させる土地利用、実効性ある避難態勢の構築などのソフト対策もあわせて推進していく必要がある。国としても、2020年度からハード・ソフト一体の「流域治水」という総合的対策の強化に舵を切っている。こうした国の動きは高く評価できるが、効果をさらに高めるためには、地震対策と同じような総合的対策の枠組みの強化、浸水ハザードエリアでの土地利用のさらに踏み込んだ規制、自助を促す水災害保険制度の強化が、なお必要な課題と考える。本稿では、これら課題への対応策を提案する。
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新型コロナウイルス対策で見えた地方の財政力格差-税源交換による地方税の偏在是正・税収安定化を-
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藤原 幸則ABSTRACT
新型コロナウイルスの感染拡大は、地域経済にも大きなマイナス影響を及ぼしている。地域経済の悪化は税収減により地方財政へ影響が及び、その影響は長期化する可能性がある。感染拡大は地方財政への影響の長期化だけにとどまらない。そこで、本稿では、新型コロナウイルス感染拡大で見えた地方の財政力格差の背景と問題点を整理し、財政力格差の要因になっている税収の偏在是正のための制度改革の提案を行った。地方税の偏在性において、最も大きいのが地方法人二税であり、最も小さいのが地方消費税である。そこで、地方の法人課税分と国の消費税分について、同額で税源交換し、地方消費税を拡充することが有効と考え、シミュレーションも行った。
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最低賃金をどう決定するか -経済実態、生活圏を反映した水準決定とエリア設定を-
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藤原 幸則ABSTRACT
新型コロナウイルスの感染拡大による経済危機は、2020年度の最低賃金改定の議論に大きな影響を与えている。本稿では、最低賃金引上げについての近年の動向や議論の論点(国際比較、生産性との関係、全国一元化)を整理した上で、制度の見直し提案として、①エビデンスに基づく経済実態に即した引上げ額の検討、②都道府県単位のエリア設定を見直し、同一都道府県でも経済実態に即した区分けや都府県をまたがる生活圏としての一体化を反映した水準決定、③ポリシーミックスによる引上げが可能となる環境整備、という3点を示している。