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コメンタリーでは最新の社会経済や政策動向等についての考察を行い、特定のトピックスに注目したトレンド・ウォッチを月一回程度発行。ディスカッションペーパーでは分析的・実証的に学術研究を行い、時事テーマに焦点を当てた分析レポートも発行します。
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経済教室「東日本大震災から3年」バックグラウンドペーパー
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筆者は2014年3月4日付け日本経済新聞に「(東日本大震災から3年(中))復興の遅れ、『基金』に制約」という論考(以下、新聞論考)を発表した。大西裕隆日本学術会議会長「(東日本大震災から3年(上))復興へ市町村連携・統合を」と姥浦道生東北大学准教授「(東日本大震災から3年(下)都市計画、総合的な調整を)との3連作の一部で、大震災の経済的課題について分析してほしいとの編集部の依頼に応じたものだった。
新聞論考では、災害からの復興を「被災地の持続的発展」と定義し、大災害から3年が経過した時点での経済的課題を、短期、中期、長期の視点から整理した。短期的課題としては、国の復興予算執行が滞っている問題、中期的には被災地域の地域GRPの持続的成長に必要な条件、長期的には人口変動の要因について取り上げた。
しかし、新聞という紙幅の制約から、それぞれの論点について十分に展開できなかったため、ここでは新聞論考のバックグラウンドとなった分析をやや詳しく紹介しておきたい。
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第6号「東日本大震災による被害のマクロ経済に対する影響」(2011.4.12)
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東日本大震災の直接的な被害額を推計し、3月18日発表の「日米超短期予測」にて推計した間接的な生産に対する被害額、関西経済への影響の結果とともに、政策レポート第6号としてとりまとめましたので報告いたします。
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第5号 日本標準時繰上げ案に対する国民の意識 (2010.6.11)
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<全国1000人調査結果>
財団法人 関西社会経済研究所
事務局次長兼企画・分析チーム長
長尾 正博(文責)筆者は、関西社会経済研究所の代表として、塩沢由典京大経営管理大学院寄附講座教授(当時、現中央大学)主催の「関西活性化研究会」に参画してき た。その研究会のプロジェクトのひとつが、「日本標準時繰上げ提案」であった。筆者は、この提案に興味をもち、一般国民がどう理解し反応するかを調査して みた。この提案および今回の調査は、今後の政策提言に生かせるものと考えている。
「関西活性化研究会」は、寄附講座の終了にともない、2010年4月から当研究所主催の「関西の気風研究会」として再発足した。調査結果に関 しては、塩沢教授および日本標準時繰上げ提案の発案者である清水宏一氏とともに6月11日、記者発表を行った。本稿は、当日の発表資料に、記者から寄せら れた質問に答えて、補足的説明を加えた要約である。
調査方法としては、麻生政権時のエコポイント等の経済対策や、2009年の総選挙前の有権者意識、民主党政権の子ども手当ての政策評価等で、 その信頼性が実証されたインターネットによるサンプル調査(実査を楽天リサーチに委託した。)を用いた。調査期間は4月24日から2日間であった。
まず、表1をみて頂きたい。これが、インターネット調査時に使用した「日本標準時繰上げ案」の内容である。
表1 本調査に使用した「標準時繰上げ提案」の説明文
この提案が実施されれば「あなたの生活がどの様に変わるか?」、同時に「良く なる点を3つ以内で選択せよ」と聞いた(質問1)ところ、「良い面がある」と答えたのが、44.1%であった。その内訳は、多い順に「早起きを心がけるよ うになる」171人、「仕事や、学校が明るいうちに終わる」147人、「午前中の日程に余裕が生まれる」122人と続く。(表2の上のグラフ) 標準時を 繰り上げただけでは、理屈的には、必ずしも「早起きを心がける」ことや「午前中の余裕」には繋がらないが、「実働時刻が早くなる」との説明で誤解したのか もしれない。一方、上記の「仕事が明るいうちに終わる」とか「日没前に家に帰ることができる」101人は、この提案の真の良さを、短い言葉でちゃんと理解 していると思われる。
→ 以下の質問も含め、その内容は下記のPDF「表2?4 主要質問内容と回答」を参照下さい。つぎに質問2で、「余暇が増える」と答えた89.4%の時間の使い方の内訳は、多い順に、「自宅での趣味活動」387人、「家族との団欒」 210人、「何もせず帰宅、ただなんとなく暮らす」201人と続く。(表2の下のグラフ) 逆に少ないのが、「学習活動」37人、「アルバイト、副業」 60人、「家事、育児」96人等であり、楽しいことに余暇時間を使いたいということが、明確にあらわれている。
最終的に、この標準時繰上げ案への「賛否」を採ったところ、「賛成+どちらかといえば賛成」が22%、「反対+どちらかといえば反対」が 32%、「なんともいえない」46%という結果になった。標準時繰上げによる良い面での生活変化、余暇時間の期待が強いにも拘らず、反対意見の方が多かっ たのは何故であろうか。「賛否」の間の属性特性を確かめる為に、生活サイクル別(朝型か夜型か等)、都道府県別、男女別にクロス分析をしてみたが、「朝型 である(朝5時頃起き夜10時頃寝る)」タイプの人に、この提案への賛成意向が高いことを除けば、これといった有意差は発見できなかった。(表2) この 提案は、ほとんどコストを掛けずに、年間2兆円程度の経済効果を期待できるなど、非常に魅力的な内容であり、特に賛否を決めかねている46%の人たちへの アピール方法を如何に工夫できるかが、その成否にとって重要となる。
なお、「省エネ」や「エコ」についても、あらためて、その意識を聞いてみたところ、「大いに関心あり+それなりに大事だと思う+関心があるが 何をすれば分からない」が92.6%にも達しており、データ的にも、その関心度の高さが証明された。また、その実現の為に、「エコ技術の開発(エコカー、 省電力など)」は、関心がある方々のうち3分の1が重要だと考えているが、「個人の自覚」(62.2%)、「個人的実践」(32.5%)が上位にランクさ れており、「省エネ」や「エコ」を自分のものと考えている事実は、大変好ましいものであると考えている。
本提案に関し、「賛成+どちらかといえば賛成」は既に述べたように22%であるが、と省エネ、エコに「大いに関心あり」と答えた人に関して言えば、33%となっており(表3の右上グラフ)、環境関心度の高い人ほど、賛成度が高いことが伺える。
朝型の生活スタイルの方々、エコ、省エネへの関心の高い方々も含め、(表1)程度の提言説明では、本提案への賛同者が本当に多いとは言えな い。今回の調査結果を基に、さらに提言内容をブラッシュアップしていくことが重要となる。また、仕事が明るいうちに終わること、日没前に家に帰れることを 魅力に感じているということは、心の豊かさへの憧れかもしれない。経済面では困難を極めており、回復への切り口の見えないという日本の現状に対し、この 「日本標準時繰上げ案」は、その閉塞感を取り除いてくれる起爆剤になりうるというのが、今回の調査を通じての実感である。
以上“
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第4号 「たばこ税に関する調査研究結果」(2009.12.21)
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財団法人関西社会経済研究所では、「たばこ税に関する調査研究」を実施、成果を発表いたしました。
尚、本研究に際しては抜本的税財政改革研究会(主査:関西大学経済学部教授 橋本恭之氏)の協力を得ています。1.喫煙者500人へのアンケートによるたばこ価格引き上げの影響に関する分析
・たばこ小売価格が350円になった場合は約10%、500円になった場合は約42%、1000円では約83%の人が禁煙すると回答
・喫煙者の48%が過去に禁煙を試み失敗、喫煙再開後の喫煙本数は「変わらず」が64.4%、
「減った」が20.3%、「増えた」は15.3%
・喫煙場所では、「勤務先等の喫煙場所」との回答が喫煙者の46.2%から寄せられた
「自宅のバルコニー等の戸外」で喫煙する「ホタル族」は高年収層に多い
・年収やこづかいと喫煙本数の関係では、高年収あるいはこづかいが多いほど喫煙本数が多い2.たばこ税収入の推計
・小売価格300円から350円の引き上げによるたばこ税の増収は1890億円から4050億円と推計される。喫煙者の1日あたりの喫煙本数は従来あまり変化がないとされるが、今回は値上げ幅が大きく減少の可能性がある
今回のアンケート結果にもとづき2.17本の減少を織り込んだケースで1890億円のたばこ税増収となる
1日あたり喫煙本数の減少がない場合は4050億円の増収となると推計される
(参考:平成21年度のたばこ税収見込み、約2兆1000億円)3.コメント
・税収確保の観点からは、たばこ価格引き上げの余地はあると判断される
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第3号 「水都大阪のさらなる発展をめざして?『大阪府民500人調査』結果を踏まえ?」(2009.12.09)
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財団法人関西社会経済研究所は、本年8月22日から10月12日にかけて開催された「水都大阪2009」に関する大阪府民500人調査を実施し、その結果を踏まえ、「水都大阪2009」の成果と今後の継続・発展にむけた課題と期待をレポートにまとめました。
Ⅰ.総括
1.アンケート調査では、府民(市民)は「水都大阪2009」や「水の都」ブランドに対し好意的で、今回の催しは、府民(市民)の「水都大阪」に対する気 づきのきっかけづくりとして十分な成果をあげ、成功裡に終了したと高く評価できる。とりわけ、催しにより実際に水辺を体感した人の水都に対する評価・関 心・共感は顕著で、ムーブメントの第一歩として催しが果たした役割は大きい。
2.今後の継続・継承・発展に向けては、①多くの人に実際に体感してもらうための広報強化、②水辺の景観整備や河川の水質改善など川と水を身近にするため の本質的課題への取組み、③水都の具体的工程表、縦割り打破による総合的施策展開、常設かつ法人格をもつ推進組織など府・市の施策と体制の強化、④資源や 人のネットワーク・住民の自発的取組みなどの仕掛けづくりが必要。Ⅱ.『水都大阪2009大阪府民500人調査』結果概要
①水都大阪2009への認知・参加
府民(市民)の認知度(76%)、参加・鑑賞・通りかかったの割合(21%)は高かった。
②水都大阪2009の効果
「参加・鑑賞した」「通りかかった」人の83%が効果があったと評価。
③大阪のブランドイメージの評価
「参加・鑑賞した」「通りかかった」人の81%が「水の都」を「最も適切」「適切」と評価。
④「水都大阪2009」(事業費9億円)のようなイベントの今後の開催
「参加・鑑賞した」「通りかかった」人の74%が継続を選択。
⑤大阪の魅力アップやにぎわいづくりなどの活性化の方策
「遊歩道・街路などの景観整備」47%、「都心の緑地などの景観整備」55%、
「河川の水質改善」55%で、観光資源開発やライトアップ等のソフトの仕掛け以上に、潤いのある景観や水質改善など 景観・環境のための基盤整備が必要とする意見が多い。 -
第2号 子ども手当等に関する調査研究(2009.12.01)
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◎財団法人関西社会経済研究所(所在地:大阪市北区中之島6?2?27)では抜本的税制改革研究会(主査:関西大学経済学部教授 橋本恭之氏)を中心に子 ども手当などの新政策の影響や子ども手当が生涯所得に与える影響に関する調査研究を実施しましたので、成果を発表いたします。
1. アンケートによる子ども手当や定額給付金などの経済へのインパクト推計
(1)各論
○子ども手当の賛否
・「賛成」及び「どちらかといえば賛成」が53.4%で、国民の高い期待が伺える。
(アンケート結果3ページ参照)
?前回調査(2009年8月)に比べて、7.5%ポイントの増加(45.9%→53.4%)で、国民の期待は高まっている。○子ども手当の経済効果
・追加的消費の消費性向は平均12.6%程度であり、 通常の消費性向の約70%に比べると、経済効果は限定的と考えられる。(同上4ページ参照)○子ども手当の使途
・子ども手当の使途は、「将来に備えた貯蓄」が最多となった。(同上5ページ参照)
これは支給の時期が適切でないため、実際の資金需要期への備えとするものと考えられる。
或いは貯蓄比率が高いのは資金需要を上回る手当てとなっている可能性が考えられる。
・年収別にみた子ども手当の使途は、高所得層は教育向けの割合が高いのに対し、低所得はレジャー向けの割合が高く、支給の手段が適切でないと考えられる。(同上6ページ参照)
?教育格差の拡大、そして階層の固定化も懸念され、教育クーポン等の検討も必要と考えられる。○子ども手当と出生率
・合計特殊出生率に与える効果は+0.038程度(参考:H⑳1.37)である。(同上7ページ参照)
今回の子ども手当を少子化対策の一環ととらえる考え方があるので出生率上昇効果を推計したが、効果は限定的であり、少子化対策としては有効な施策とはいいがたいと考えられる。(2)今後への示唆
・子ども手当は国民の支持を得ている政策と考えられる。
・しかし、効率的な施策とするために、支給金額、支給対象時期、支給方法の3つの観点から吟味を行うことが、国民経済的に求められているのではないか。
.子ども手当が生涯所得に与える影響
・これから子育てを行う場合、全ての階層で生涯手取り所得は増加する。
*子ども手当による増収と配偶者控除及び扶養控除の廃止による増税を考慮。
・子どもがいない大卒・大企業の既婚世帯の場合、生涯手取り所得は270万円減少。
・現時点で42?47歳に達している世帯では生涯手取り所得がマイナスになる。2. 子ども手当が生涯所得に与える影響
・これから子育てを行う場合、全ての階層で生涯手取り所得は増加する。
*子ども手当による増収と配偶者控除及び扶養控除の廃止による増税を考慮。
・子どもがいない大卒・大企業の既婚世帯の場合、生涯手取り所得は270万円減少。
・現時点で42?47歳に達している世帯では生涯手取り所得がマイナスになる。 -
第1号 第45回衆議院総選挙を終えて (2009.9.10)
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財団法人 関西社会経済研究所
1.「新しい国のかたち」の模索 文責(浜藤豊)
今や、日本は外にあっても内にあっても大変な時期である。我々は安心と自信を回復するために政治を鍛え直さなければいけない。この国の統治の立て直しを 誰に託すかを判断し、「新しい国のかたち」の建設を始めるのがまさに8月30日であった。その建設を進めていくに当たって克服すべき課題は多いが、大きく 分けてみるならば次の3つに集約できる。
(1)経済構造の脆弱さ
(2)政治、行政に対する不信感
(3)巨額の財政赤字
これらが複雑に絡み合って内外の環境激変に対応しきれなくなり、持続的な成長イメージが描けない状況に陥っている。<3課題に対する対策>
第一に、構造的に弱い日本経済の足腰を強くするには、民間の活力を最大限に引き出す経済社会の確立を目指さなければならない。
そのためには、日本国内の成長力を強化するとともに、海外の成長力を取り込むことが肝要である。国内面では、
①雇用機会の拡大や女性・高齢者の労働参加の促進
②省エネ設備・製品の開発・普及に向けた対策
③成長戦略のための技術開発促進による産業強化策
(例)新たなサービス産業(医療、介護分野等で)の創出 など一方、海外成長力取り込みでは
①グローバル化に対応した法人税減税などの税制改革
②WTO中心型とEPA,FTA締結促進型との併用による自由貿易体制の確立
③競争力強化対策の拡充
(例)日本への直接投資の促進(秩序ある資本の流出入を実現する市場の形成) など第二に、政治や行政に対する不信感を取り除いて国民が安心できる制度を構築するにはどうすればいいのかの問題である。行政の失敗が政治への不信につながっていることから
①無駄が生み出す財政赤字の排除の仕組みを取り入れた予算制度・公務員制度の改革
(例)民間経営手法(PDCAサイクルなど)の採用②住民選択を尊重する地域重視型社会の実現及び国・地方の役割分担を明確にした上での権限委譲
(例)地方税財源確保のための補助金、交付税、税源配分見直し。道州制導入 など③グローバル化・高齢化にも対応可能な社会保障制度の再構築
(例)高齢者が安心して受けられる医療制度の再確立、派遣労働者へのセイフティーネット強化 など第三に、財政の健全化の問題が重くのしかかっている。このまま赤字が膨らみ続けると、現下の景気悪化に伴う赤字財政の拡大も加わって、将来世代が受ける 公共サービスレベルの低下も心配される。しかも、2015年には団塊世代が65歳の年金受給年齢に達し、本格的な高齢社会に突入することになる。その時期 までに財政再建への道筋をつけておかなければならない。具体的には、
①歳出削減と成長による、基礎的財政収支の赤字幅の削減、及び黒字化の時期
②成長・増税・歳出削減による、国・地方の債務残高の対GDP比のピークアウトを図る目標時期
を明確化しておく必要がある。
今、日本に求められていることは、現実を正しく認識し、先に述べた3つの課題に対する構造改革を推し進め、国内外の変化に柔軟に対応できる「新し い国のかたち」を構築していくことである。そこで、以下では、現在示されている各党のマニフェストがこの国の将来を示し得るものになっているのかを検討し てみたい。2.マニフェストに求めること 文責(島章弘)
8月30日に実施された総選挙の結果、民主党が衆議院の過半数以上の議席を占めた。総選挙では多くの事が議論されたが、当然、政策議論が主体であり、その中心に各党のマニフェストが存在したといえる。
近年、国政選挙におけるマニフェストの存在意義が高まっている。各党は従来以上にマニフェスト作成に努力し、国民そして各界も高い関心を払うようになって きた。マニフェストは各党の国民へのコミットメントであり、その内容を豊かにすることは日本の将来にインパクトがあると考える。
ここでは、各党の2009年衆議院選挙に向けたマニフェストを概観し、これまでの議論や各界からの期待を踏まえ、さらに求めたいことを列挙してみた。マニフェスト評価を出発点として、政策議論の一層の活発化を期待したい。■各党ともに多くの行政サービスの具体策を示しているが、その源泉となる国富の創出に関する記述が少ない。
厳しい国際競争下、各党のマクロ経済政策や産業振興施策には一層の充実が求められる。今、求められるものはいかに内需を喚起するか、いかに国際競争力を 有する産業を発展させるかである。この結果、過度に外需に依存しない持続可能な経済発展が可能となり、国の税収を増加させ、政策が豊かなものになる。
1990年代、米国経済は長期にわたる好況を謳歌し、「もはや景気循環はなくなった」とする「ニューエコノミー」論が活発に語られるほどであった。これ によって、巨額の財政赤字は解消され、クリントン政権を引き継いだ直後のブッシュ政権が実施した10年間で1.3兆ドルを超える減税プログラムが実現され た。■不況下のマニフェストであり、セイフティーネット充実の必要性から全体として政策が増加している感が否めない。
各党ともに行政の無駄排除を掲げているが、新政策の増加から結果として政府が関与する領域が広くなり大きな政府となる可能性がある。政府が関与する領域が広い社会経済システムを選択するのか、政府関与が少ないシステムを関与するのかの問題提起が欲しいところである。■金融危機そのものに対する政策が少ない。
現在の経済不況の発端となったのが金融危機である。株価は世界的に回復基調にあるが、根本的な問題は継続しており、国や地方の財政問題などこれから影響 が本格化する領域もある。こういったマイナス影響への対応策及び危機の再発防止への対応といった政策の提示が求められる。■環境問題目標の達成手段についての国の関与に関する記述が少ない。
原子力利用の充実を唱えている政党もあるが、これまでの原子力利用の実績を見ると、安全問題など克服すべき課題が大きく具体策に欠ける。また、日本の1 人当たり一次エネルギー消費は世界的にみて高いものであるが、個別産業のエネルギー効率でみると多くの産業で世界のトップ級になっている。技術開発の芽も 少ない状況では、削減目標数値先にありきでは、製造業の海外移転を促すだけになりかねない。さらに、排出権取引市場の設置も真の意味での環境問題進展への 寄与は期待できない。
エネルギー分野で信頼度が高いBP統計によれば、2008年の日本の人口1人当り一次エネルギー消費量は中国の2倍以上である。しかし、鉄鋼業でみると 中国の製鉄所のエネルギー原単位は日本に比べ10%から20%悪いなど、ほぼ全ての産業で日本は優れた効率を達成している。日本の産業界が今のレベルから 飛躍的にエネルギー効率を向上させるのは相当困難である。こうした情勢下で、より厳しい目標を設定するには、より具体的な政策が求められる。■税制改正に関する体系立った提案がない。
抜本的改革との表現を使っているところもあるが、メッセージはそれだけであり中身が不透明である。暫定税率など一部の税廃止と税控除措置見直しを提唱しているところもあるが、税体系全体に関するメッセージが欠けている。
逆進性がある消費税と累進性がある所得税とを中核として税負担をしている国民にとっては、負担構造のあり方についてむしろ受益と負担の関係から議論が行われて然るべきである。
また、多くの党は中小企業の法人税率引き下げを提唱しているが、これは緊急経済対策的な色彩が濃いものであり、法人税全体に関する議論こそが、グローバル経済下では重要である。■地方分権推進の考えは鮮明であるが、内容が説明不足。
道州制導入を明確にしている政党は三層型地方分権制度であるのに対し、現状より広域化させた基礎自治体をベースとする政党は二層型地方分権制度といえよう。 それぞれの違いが国民生活にいかなる違いをもたらすかのメッセージが伝えられていない。個別分野ごとにマニフェストを概観し、これまでの議論や各界からの期待を踏まえ、求めることを列挙してみた。
更に、個別分野ごとの議論ではなく、マニフェスト全体にかかわるポイントを指摘してみたい。マニフェストは数値や時期が明示された政策目標と合理的に選 択された明確な手段が提示されるべきである。今回、多くの政党のマニフェストは政策目標は提示されているが、具体的で明確な政策手段が示されているとの評 価をするのは難しいといえる。
「政策形成能力」には、まだまだ問題があることを強く指摘しておきたい。また、この政策を実現・実行するのが「実現力」・「実行能力」といわれている が、前者は議院内閣制であれば政権をとるかとらないかの問題であり、後者は行政組織に対する管理能力の問題である。したがって、実現・実行の問題はマニ フェスト上の問題ではない。各党には、むしろ「政策形成能力」の向上を強く求めたい。3.日本の未来を示し得る政策への期待を込めて 文責(浜藤豊)
前節では、現在までに公表されたマニフェストを前提に不充分な点を指摘してきた。日本は今、2つの大きなうねりに翻弄されている。すなわち、外にあって はグローバル化が急速に進むなかでの昨年来の経済危機、内にあっては高齢化・少子化の2つである。経済のグローバル化のうねりの象徴と対策としては、
①背後から迫りくる中国(GDPで追い抜かれる) → 実効性のある産業育成戦略の立案
②外国資金による国内金融資本市場の撹乱 → 新しい市場監視ルールの確立(投機資金の規正)
などがあり、高齢化・少子化のうねりの象徴と対策としては
①人口減少の始まり → 外国人労働力・移民の受入体制の整備
②出生率の長期的低迷 → 結婚・出産阻害要因の除去(高校編入制度の未整備、婚外子対応など)
などが挙げられる。
グローバル化、高齢化・少子化が進展するなかでも持続的成長を図るためには、政府による体系的な実効性のある成長戦略が必要であると同時に、『民間企業 も成長していかなければ!』という覚悟をもって民間でも自らの成長戦略を構築することも重要である。官民共同による成長があってこそ社会は安定するので あって、子育てや雇用への安心もその延長線上に見えてくる。
直面している危機を一刻も早く脱出し、これからの「新しい国のかたち」を構築していかなければならない。各党のマニフェストは政策内容としてはまだまだ不 十分な部分もあり、我々国民も充分にその内容を理解できているとは言い難いが、民主党に政権がバトンタッチされることになった今、マニフェスト通り誠実に 政策実現されるかをよくウォッチしていくことが肝要である。4.有権者意識調査 文責(長尾正博)
(財)関西社会経済研究所では、8月8日、9日の両日にわたって、楽天リサーチの全国サンプル1000人を対象に、インターネットを通じて、各党政策に対する有権者の意識調査を実施した。その3週間後(8月30日)衆議院選挙の投開票が行われ、獲得議席数が、多い順に、民主党308、自民党119、公明党21、共産党9、社民党7、みんなの党5、国民新党3、その他8議席という結果になった。前述の調査によれば、比例区の投票先政党については、民主党32.4%、自民党9.8%、公明党2.0%、共産党4.3%、社民党1.1%、国民新党0.5%であった(その時点で、まだ決めていない又は投票しないという方の合計は49.4%であった。)ので、実際の獲得議席数と同様の傾向を示していたことになる。例外は共産党であったが、同党に投票した有権者は比例区で7.0%であり、獲得票という意味では、これも、調査結果が反映されたと言える。
調査結果の詳細については、「No5 各党政策に対する有権者の意識」というタイトルで、(財)関西社会経済研究所ホームページのリサーチペーパー欄に掲載しているが、その一部は下記の通りである。(1)支持の理由
自民党の場合、支持する政党だから(56.1%、複数回答、以下同様)と政権を委ねるのに信頼できるから(35.7%)が突出しており、具体的な政策を評価していることにはなっていない。一方、民主党の場合、国の無駄遣いを解消し(55.2%)、官僚主導体制を打破し(45.1%)、国の構造改革を積極的にすすめてくれそう(26.5%)だからというのが支持の理由である。(2)個別のマニフェスト評価
個別政策(特に民主党)について、それぞれ賛成か反対かについて聞いた結果を、賛成比率の高いものから並べると下記のグラフの通りとなった。また、比例区投票先別(民主党と自民党)にもクロス分析したところ、「子ども手当て」と「高速道路無料化」では、意見が分かれた。とくに子ども手当てについて、中学生以下のこどもがいない家庭では、賛否が互角であった。(3)経済・財政運営方針に対する有権者の賛否
経済並びに財政に関する運営方針についても、その支持度合を計測した。
この質問は難易度が高くなる為、「どちらともいえない。わからない。」という方が、経済運営で53%、財政運営で38%と多くなる。残りの明確に賛否を示された方の中で、どちらを支持するかについて聞いたところ下記の通りとなった。“