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コメンタリーでは最新の社会経済や政策動向等についての考察を行い、特定のトピックスに注目したトレンド・ウォッチを月一回程度発行。ディスカッションペーパーでは分析的・実証的に学術研究を行い、時事テーマに焦点を当てた分析レポートも発行します。
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拡張万博の経済波及効果:UPDATE
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ABSTRACT
2022年関西経済白書の第6章3節において、拡張万博の経済効果について2015年関西地域間産業連関表(暫定版)を用いて分析した。本稿では、消費単価と日帰り客の新たな想定に基づき、大阪・関西万博の経済効果を再推計した。本試算は3つのケース(基準ケース、拡張万博ケース1、拡張万博ケース2)に分けて分析を行った。得られた分析結果と含意は以下のようである。
1. 経済効果を生産誘発額でみれば、基準ケースでは2兆3,759億円、拡張万博ケース1では2兆7,875億円、拡張万博ケース2では2兆8,818億円と試算された。拡張万博の効果を考慮した場合、経済効果は約4千~5千億円程度の上振れが見込まれる。
2. 拡張万博の経済効果は基準ケースに比べて、大阪府以外の地域ではかなり大きくなる。生産誘発額の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの74.5%から、拡張万博ケース2では62.4%まで低下する。すなわち、拡張万博の展開に伴う延泊と日帰り客の増加により、大阪府以外の地域での経済効果が相対的にも高まることになる。
3. 関西広域にわたって拡張万博に類する様々な取り組みが広がり、観光客にとって魅力的なコンテンツ、滞在型消費を促すようなインセンティブが高まれば、本試算を上回る経済効果が期待できる。
4. 大阪・関西万博に代表される大規模なイベントの経済効果は、特定の地域や特定の時期に留まるのではなく、関西広域で中長期的な取り組みがなされていくことが求められる。大阪・関西万博をひとつの「呼び水」として、関西経済の成長に繋げていくことが重要である。 -
DMOの観光誘客への取組-マネジメントエリア別の分析:滋賀県の事例から-
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ABSTRACT
本稿では滋賀県にかかわる観光基礎統計を用いて、県の観光戦略に光をあて、観光地域づくり法人(以下、DMO)の活動に注目し抱える課題を分析した。得られた含意は以下のようにまとめられる。
1. 滋賀県の各DMOにおける、それぞれの特徴や活動状況、マネジメントエリア、観光資源、誘客ターゲット層に対する取り組みを比較した。注目している観光課題に違いがあるものの、その活動内容から県内広域を活動エリアとするDMOと限定された地域(地場)に密着した活動を行うDMOに分けられる。
2. びわこビジターズビューロー、近江ツーリズムボード、比叡山・びわこDMOは、滋賀県の認知度向上に向けた情報発信や持続可能な観光を実現させるための環境整備など、県内広域にわたり、周遊滞在型観光の活動に注力している。
3. 近江八幡観光物産協会、長浜観光協会は、その地域ならではの食文化、暮らし体験や地域住民の郷土愛の醸成等、まちづくりを基軸とした地域密着の交流型観光の活動に注力している。
4. DMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数と稼働率の動向をみれば、宿泊施設数は大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。稼働率は、大津市では春と夏に上昇する傾向がある。また、近江八幡市、長浜市、米原市、彦根市では春、夏、秋に上昇する。一方、高島市では夏に高まる傾向がある。季節性の平準化が重要となろう。
5. コロナ禍を経て観光スタイルが変化してきており、琵琶湖を中心に各地域の自然資源や歴史文化遺産をつなぐ宿泊滞在型観光の促進も重要である。上記季節性の平準化の課題を踏まえれば、各地域ならではの観光資源を活かした閑散期の新たなコンテンツの造成が必要であろう。また、県域DMOと地域連携及び地域DMOが連携し、各地域の観光資源を繋ぐことで、観光客の滞在日数を増やすなど、地域間の連携を意識したコンテンツの造成も必要となろう。 -
ゼロコロナ政策による中国経済減速と関西経済への影響
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ABSTRACT
1. 2022年に入り中国におけるCOVID-19陽性者数が急増している。1-3月期では吉林省が全陽性者数の約6割を、4-6月期では上海市が約7割強を占めるなど、陽性者数の増加が顕著な省及び直轄市で、厳格なロックダウンが行われた。7-9月期は一旦感染状況が落ち着いたが、10-11月期では広東省、北京市、重慶市で感染が拡大しており景気への悪影響が懸念される。
2. ゼロコロナ政策によるロックダウンの影響は非常に大きい。特に制限が厳しかった上海市や吉林省では、いずれも実質GDP成長率がマイナスとなった(2022年1-9月期、それぞれ前年同期比-1.4%、同-1.6%)。また、広東省(同+2.3%)、江蘇省(同+2.3%)など経済規模が最大の2省(対GDPシェア21.1%)は、中国全体のGDP成長率(同+3.0%)を下回っている。
3. 中国ゼロコロナ政策による経済的影響を考える上で関西および日本経済の対中貿易シェアは重要である。2021年における対中輸出をみれば、関西(26.2%)の方が全国(21.6%)より全体に占めるシェアは高い。すなわち、関西は全国に比べ対中輸出シェアが高いがゆえに、中国経済の減速は貿易を通して大きな影響を受ける。
4. 中国経済の減速が関西の輸出を通じて関西経済全体にどのような影響をもたらすかについて、輸出関数を推定した。結果は中国の実質GDPが1%下落すると、関西の実質輸出は0.46%程度下落すると試算される。
5. シミュレーションでは、標準予測における関西の実質輸出が2022-24年度にわたって0.462%減少する結果、関西の実質GRPは2022年度-0.12%、23年度-0.13%、24年度-0.13%減少する。金額ベースでは年度当たり943億円~1,082億円程度減少する。 -
DMOの観光誘客の取組とその効果(3) -マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:奈良県の事例から-
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ABSTRACT
1. 宿泊施設数をみれば、県全体の宿泊施設数は増加傾向にある。うち、奈良市などを含むAエリアでは増加しているが、吉野町などが含まれるDエリアでは減少傾向で推移している。また、宿泊施設数をタイプ別にみれば、Aエリアでは旅館が減少する一方でホテルが増加傾向で推移している。また、Dエリアでは旅館、簡易宿所ともに減少している。
2. 宿泊施設の定員数をみれば、Aエリアではホテルの定員数の増加が全体の押し上げに寄与しているが、Dエリアでは旅館の減少が影響し、全体を押し下げている。旅館の平均稼働率をみれば、Aエリア31.1%に対し、Dエリア11.8%と極端な低水準にとどまっている。これまで宿泊施設不足が課題であったが、この問題は県北部では着実に解消されつつある。一方、県南部では低稼働率と宿泊施設の不足は解消されていない。
3. 外国人宿泊者比率は、WEST NARAエリアや吉野町では着実に上昇しているが、奈良市のシェアは圧倒的に高い。京都府の分析事例と同様に、集中している地域からいかに他地域への周遊を促進させるかが今後の課題となる。すなわち、県南部への宿泊を伴うプログラムの造成が重要となろう。
4. このためにも、各DMOが行う誘客プロモーション及びコンテンツ開発は重要である。例えば、地域の自然資源を活用した体験プログラムの造成などの、県南部へ外国人観光客のみならず日本人観光客をも周遊させる魅力的な仕組みづくりが一層重要となろう。その際、外国人と日本人とに分けるだけでなく、外国人に対しては国・地域ごとの嗜好に合わせて各地域がもつ強みを訴求することが重要となろう。 -
関西経済の反転にむけて:大阪・関西万博、IRを梃子に
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ABSTRACT
1. 関西経済のシェアは、大阪万博が開催された1970年度に19.3%のピークを記録した後、2つの石油危機を経て1989年には16.2%にまで低下した。1991年にシェアは17.1%と一時的に反転したものの、1990年代後半には再び15%台に低迷し、今日に至っている。
2. 2018年11月に博覧会国際事務局(BIE)総会で25年国際博覧会の開催国に日本(大阪)が選ばれたことは、これまでの関西経済の将来に対する鬱々とした雰囲気を一変させた。このため、大阪・関西万博及びIR関連投資による関西経済反転の可能性に大いに期待が高まっている。
3. 成長率方程式による分析から、関西経済の地盤沈下の原因が相対的な投資不足にあることが分かった。また関西の投資率(非住宅固定資本形成/域内総生産)が1%ポイント上がれば、関西の実質成長率は0.46%ポイント上昇する。具体的には、1兆円の投資増は投資率を1.16%ポイント押し上げ、関西の経済成長率を0.54%ポイント引き上げることになる。
4. 日本経済が足下の潜在成長率で成長すると仮定し、また、関西が全国を0.5%ポイント程度上回る成長率で伸びるケースを仮定し、その場合の関西経済のシェアを計算した。2030年度には16.2%、2040年度には17.1%に上昇し、1980年代前半の関西経済のシェアを回復することになる。
5. 2025年大阪・関西万博の開催とそれに伴う交通インフラの整備、またその後に想定されているIR関連投資は十分に1兆円を超えるものである。課題は、大阪・関西万博やIRを端緒としていかに持続的に内外から投資を呼び込めるかである。またいかに“儲かる産業”を創出するかが課題となる。大阪・関西万博のレガシーとして世界に関西の魅力を認知してもらい、人材や資金の好循環を実現することが重要である。今これを広く議論すべきである。 -
ロシアのウクライナ侵攻から見えてきた関西経済の諸リスク
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ABSTRACT
1. ロシアのウクライナ侵攻に伴う直接的な影響は、EU-ロシア間貿易に顕著にあらわれている。EUの対ロシア輸入シェアは国際的に見ても高いが、品目別にシェアをみれば、鉄類、石炭及び練炭、石油および同調整品等、エネルギー関連財の対ロシア依存度が極めて高い。
2. 一方、日本の対ロシア輸入シェアは米国とともに全体的には低いが、品目別にシェアをみると木材、非鉄金属、石炭や魚介類及び同調整品の依存度は相対的に高い。このため、これらの財の輸入停止は、建設業、エネルギー産業や飲食業に大きな影響を与えよう。関西の対ロシア輸入依存度では、石炭、コークス及び練炭、天然ガス及び製造ガス、魚介類及び同調整品が高く、なかでも、石炭、コークス及び練炭の依存度は日本全体より高くなっている。
3. 貿易相手国の個別財貿易シェアと全体の貿易シェアとの比較はサプライチェーンのリスク指標となる。これらを用いた直接的影響の分析に加え、間接的な影響把握が重要である。EU経済の減速は中国の対EU輸出の減速を通じて中国経済への下押し圧力となる。中国経済の減速は、対中貿易依存度の高い日本及び関西経済にとっては、逆風となる。
4. ロシアのウクライナ侵攻の経済的影響を考える場合、上述したように、直接的な影響と間接的な影響を併せてサプライチェーンの見直しを図るべきであろう。
5. インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity、以下IPEF)の議論がバイデン米国大統領訪日にあわせて展開された。この枠組みは関税交渉を含まないため、TPP11やRCEPのような貿易拡大による経済拡大効果は期待できないという議論もあるが、本分析が示唆するように日本のサプライチェーンの政策転換を促進することで成長の中長期的な課題解決への効果があると考えられる。 -
DMOのインバウンド誘客の取組とその効果(2) -マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:和歌山県の事例から-
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ABSTRACT
本稿では和歌山県の主要な観光地域づくり法人(以下、DMO)を取り上げ、『観光客動態調査報告書』や観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計として用いて、マーケティング・マネジメントエリア(以下、マネジメントエリア)別にインバウンド誘客の取組とその成果を分析する。分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。
1.和歌山県の外国人宿泊者比率をDMOのマネジメントエリア別にみれば、高野町では約5割程度となっている。田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下、TKTB)地域では約9%程度となっている。また、白浜町では7~8%台で推移している。
2.外国人宿泊者を国籍別にみれば、(1)高野町は、欧米豪のシェアが3割強と高く、一方、アジア地域のシェアも1割程度を占めている。(2)TKTB地域では、東アジア地域のシェアが5割程度と高い。しかし、(3)TKTB地域の一部である「熊野古道」ルートに限定すれば、欧米豪のシェアが5割弱に大幅上昇。この背景にはTKTBの欧米豪に対する同ルートへの誘客効果がみられる。(4)白浜町は、東アジアをターゲット層としているため、そのシェアは7割超と高い。一方、欧米豪のシェアは拡大しているが、高野町やTKTB地域と比較すると小さい。
3.TKTB地域と熊野古道ルートの比較から、同ルートの起点旧田辺市、終点新宮市や那智勝浦町ではアジア地域のシェアが高い。これは白浜町からこれらへの地域へとアジア人が周遊している可能性が高く、一層の地域連携の高まりが周遊性を拡大させる可能性を示唆している。
4.持続可能な経営の観点からすれば、これまで多くのDMOでは、単価の高い欧米豪へとインバウンドターゲット層をシフトさせてきたが、コロナ禍でこの戦略が変更を迫られている。インバウンド需要が完全に消滅している現在では、回復を見据えこれまでの内外比率を見直すことが喫緊の課題となっている。
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金融所得課税のあり方 – 国民の資産形成と成長資金供給の促進を重視した議論を –
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ABSTRACT
昨年秋、自民党総裁選挙を契機に金融所得課税の見直し議論がにわかに注目された。しかし、市場関係者から懸念の声があり、昨年10月初めには株価下落もあって、表立った議論は消えた。昨年12月の令和4年度与党税制改正大綱では、今後の検討課題とされている。今回の議論の背景は、いわゆる「1億円の壁」というフレーズに端的に集約されている。本稿では、金融所得課税の見直し議論の背景と論点を概観したうえで、そのあり方について私見を提起している。今後の金融所得課税のあり方として、重視すべきことは、国民の資産形成と成長資金供給の促進にあると考える。将来の検討課題として、コロナ対策のために発行した国債の償還財源について、コロナ禍の終息後の経済回復を待って、所得税や法人税を時限的に付加増税することにあわせて、金融所得課税も超高所得者を対象に税率を25%(現行税率20%+5%)へ時限的に付加増税することは現実的に納得性があるものと考える。
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足下の関西・台湾間貿易に基づく台湾のCPTPP加盟による影響の考察
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ABSTRACT
2021年9月22日、台湾が環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下CPTPP)への加盟申請を行った。台湾は関西にとって中国と米国に次ぐ重要な貿易相手である(ASEANとEUを除く)。本稿は、台湾の加盟が関西の産業に与える影響を考察した。
具体的に、貿易統計のデータを詳細に分析することで、関西・台湾間における貿易の特徴を明らかにするとともに、台湾がCPTPPに加盟した場合、関税撤廃により関西の産業がどのような影響を受けるかを示した。加えて、関西企業のグローバル・サプライチェーン構築に台湾のCPTPP加盟が及ぼす影響について考察した。
分析の結果、台湾がCPTPPに加盟した場合、電子部品・デバイス・電子回路製造業、機械器具製造業、電気機械器具製造業、化学工業、非鉄金属製造業、自転車・同部分品製造業等、関西の主要産業の多くは関税撤廃によって価格競争力が強化されることがわかった。関西の対台湾輸出の主要品目である電子部品・デバイス、電気機器及び機械類において、海峡両岸経済協力枠組協定によって低い関税率が適用されている中国は関西の最大の競争相手となるが、関税撤廃によって関西企業の対台湾輸出が拡大することが期待される。一方、化学工業、プラスチック製品製造業、卑金属製造業等は価格が低下した輸入品の増加による負の影響を受ける。なお、関税削減率を試算したところ、関西が輸出で得られる関税削減率の方が、輸入で台湾に与える関税削減率を上回ることから、加盟は台湾よりも関西に大きな関税削減効果を与える。
また、関西と台湾は主要産業において産業内分業体制が築かれており、台湾がCPTPP加盟国となった場合、完全累積制度の下で原産地規則を満たすことがより容易になるだけでなく、輸出入のコスト削減と貿易手続きの簡素化が可能となろう。加えて、投資と通商に関するルールが共有されることで、台湾と連携したグローバル・サプライチェーンの構築がより容易となる。日台間の産業協力が更に促進されることで、産業の競争力が向上し、互いの利益増加に繋がることが期待される。
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DMOのインバウンド誘客の取組とその効果 -マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:京都府の事例から-
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ABSTRACT
京都府は訪日外客の偏在する京都市とそうでない地域を抱える典型的な自治体である。本稿では観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計として用いて、その問題の解決を目指す京都府の3つの地域連携DMOと京都市を例にとり、マーケティング・マネジメントエリア別にその取組と成果を分析する。分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。
1. 府域及び京都市の宿泊施設の推移をみれば、府域においては宿泊施設数や宿泊者の収容人数が増加している地域がみられるものの、京都市の宿泊施設の急増が他エリアを圧倒している。
2. 京都市やお茶の京都エリアに注目すれば、外国人宿泊者の急増や住宅宿泊事業法が施行されたこともあり、簡易宿所及びタイプ不詳の宿泊施設が急増している。今後は京都市と府域の宿泊施設の需給バランスを意識し、施設の質の向上を担保する政策が課題となろう。
3. 外国人宿泊者を国籍別にみると、全エリア共通して、中国、香港、台湾等東アジア地域のシェアが高まっている。京都市では他エリアに比して観光消費額の拡大が期待される欧米豪地域のシェアが高く、一定程度占めている。今後は、欧米豪の府域への誘客と宿泊増が課題となろう。
4. 各DMOが実施した観光プロモーション事業展開は重要である。例えば、海の京都DMOは台湾に向けてのプロモーションに力をいれた結果、同国のシェアが大幅に拡大した。しかし、実効的なプロモーション活動のためにも、KPI等に基づく指標管理が重要となろう。
5. これまでのプロモーション活動に加え、京都市から、各府域へも足を伸ばし、利用客が府域を観光したくなる魅力的な仕組みづくりが課題である。その際に留意すべきは、各府域DMOで宿泊を増加させるような仕組みづくりまたはプログラムを開発する必要があろう。 -
コロナ禍における大阪府の人口移動動態-住民基本台帳人口移動報告月次データを用いた分析-
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ABSTRACT
1. 大阪府の人口は2015年に転入超過に転じ、6年連続で転入超過が続いている。ただし、20年はコロナ禍の影響で転入・転出者数が4年ぶりに減少したが、トレンドに変化はない。
2. 人口移動動態を地域別にみれば、近畿からの転入超過数が最も多い。一方、2018年から20年にかけて、南関東への転出超過の傾向は続いているものの、幾分縮小している。その他の地域では、中国、四国、九州地域からの転入超過数は18年から19年にかけて拡大したが、20年は幾分縮小している。
3. 転入超過数が最も多い年齢階級は20~24歳で、うち近畿からが最も多く、中国、四国、九州も多い。しかし、20年はコロナ禍により府県間移動が制限されたこともあり、中国、四国、九州からの転入超過数が減少した一方、南関東への20~24歳の転出超過数が縮小している。
4. 大阪府内では、大阪市への転入超過数は拡大しており、特に大阪府北部では転入超過数が拡大している地域が増加している。一方、南部では転出超過が続いている地域が多い。
5. 大阪府に対して4度にわたって発令された緊急事態宣言は、人口移動動態に影響を及ぼしている。その影響は男女別に異なる状況となっており、総じて女性の転入者への影響が大きい。
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コロナ後における財政の規律回復と健全化 – 内閣府「中長期の経済財政に関する試算」から考察した論点 –
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内閣府は、例年1月と7月に「中長期の経済財政に関する試算」の結果を公表している。今年、7月21日に最新の試算結果が示された。2025年度のPB(プライマリーバランス)黒字化目標を堅持した骨太方針2021を数字で裏付けるものである。本稿では、この最新の試算結果を考察し、コロナ後における財政の規律回復と健全化の論点整理を行った。PB黒字化などの財政健全化目標については、コロナ感染の収束が見極められてから、財政規律の回復とともに、再設定するのがよいだろう。コロナ後の財政健全化については、人口減少・高齢化等による構造的な財政赤字への対処と、コロナ対策のような予期できない緊急措置による財政赤字への対処とを、分けて考える必要がある。
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コロナ危機下における企業の財務調整- 法人企業統計調査結果から考察した課題 –
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コロナ危機下での企業の財務調整状況について、2020年10-12月期までの法人企業統計調査結果を活用し、企業のバランスシート(貸借対照表)項目のうち、特に、内部留保(利益剰余金)と有利子負債の変化に焦点を当てて考察してみた。コロナ危機下で、政府・日本銀行の金融支援もあって借入金増加や社債発行により大量の資金確保が図られ、負債の増加でバランスシートは悪化した。しかし、機動的に取り崩せる内部留保の蓄積があったことで、自己資本比率はわずかな低下ですんでおり、健全な水準を維持している。こうした財務状況を製造業、非製造業で分けてみると、非製造業はより厳しいという実態がわかる。非製造業の中でも、特にコロナ危機で需要減退の強い影響を受けているサービス関係業種の財務状況はさらに厳しく、今後も需要の低迷が続けば、小規模企業などで事業継続が一気に困難になるリスクがあろう。ポストコロナを視野に入れた日本企業の今後の課題としては、潜在成長率の押し上げにつながる内部留保の有効活用、バランスシート悪化に対応する事業構造改革の推進をあげたい。
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緊急事態宣言再発令の関西経済への影響 -高頻度・ビッグデータを用いた振り返りと分析-
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ABSTRACT
政府は2021年1月7日に1都3県に対して緊急事態宣言を再発令した。当初、対象地域のGDPシェアは33.2%であったが、1月13日には7府県が加えられたことで、シェアは約60%に拡大した。ほとんどの大都市圏が含まれたことから、経済全体への影響は深刻度を増している。関西でも大阪府、京都府、兵庫県がその対象となっており、経済的な影響が懸念されている。
そこで、本稿では、高頻度・ビッグデータを用いて緊急事態宣言の経済的影響を振り返り、そこで得られた知見をもとに、今回の緊急事態宣言再発令が関西経済に与える影響を分析した。結果は以下のように要約できる。1. 緊急事態宣言により、人々は行動変容を迫られた。日次ベースの消費支出額は、4月7日以降前年比マイナス幅が拡大し、5月初旬を底として緩やかに縮小した。カテゴリー別では、半耐久財やサービスへの支出が大きく減少する一方、非耐久財や耐久財では増加がみられた。
2. 人流(経済活動)への影響では、前回は小売店・娯楽施設、公共交通機関、職場で人出が大きく減少した。一方、食料品店・薬局は大幅な減少は見られなかった。今回と前回を比べると、今回の方が公共交通機関、小売店・娯楽施設、職場で人出の戻りが観察できる。
3. 前回宣言時の経験と足下の人流の動向を踏まえ、緊急事態宣言再発令による家計消費減少額を試算した。基本ケース(1月14日~2月7日)では、今回緊急事態宣言の対象である大阪府・兵庫県・京都府の2府1県の消費減少額は1,858億円。関西2府4県では2,233億円となり、2020年度関西2府4県の名目GRPを0.3%程度追加的に引き下げることとなる。
4. 今回の再発令が経済に与える影響(基本ケース)は前回の4分の1強とみられる。しかし、コロナ禍によりサービス業を中心に弱い動きが続いている中、関西経済にとって大きな下押し圧力となる。結果、コロナ禍からの回復過程に水を差すことになろう。
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人流データを用いた消費動向の予測
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新型コロナウイルスの感染拡大後、人の位置や動きに関する情報を示す「人流データ」は、ロックダウンなどの政策効果の検証、今後の感染状況の予測などに利用され、注目を集めている。本稿は商業施設への人出と消費の関係性に焦点を当てて、更新頻度の高い日次ベースの人流データを用いて、ほぼリアルタイムで月次の消費データの予測を行った。
具体的に、Google社の「コミュニティ モビリティ レポート」に含まれた商業施設への人出増減のデータと商業動態統計調査の各種販売額データを結合したパネルデータにより固定効果推定を行った。また構築した予測モデルを用いて、足元の人流データで関西2府4県における2020年12月と21年1月の小売業販売額を予測した。得られた結論は以下の3点に要約できる。
(1) 人流データと消費動向との間に統計的に有意な相関があることが確認された。百貨店販売額を被説明変数とした推定では、小売店・娯楽施設への人出増減は統計的に有意ではなかったが、自宅での滞在時間増減は緊急事態宣言下で販売額と有意で負の相関を持つ。また、飲食料品及びドラッグストア販売額を被説明変数とした場合、食料品・薬局への人出増減と住居での滞在時間増減は、いずれも統計的に有意な正の相関を持つことがわかった。
(2) 消費動向を表す経済指標は通常足元より1カ月以上の遅れが生じるのに対して、人流データは数日の遅れしか生じない。人出と消費動向との間にある統計的に有意な関係を確立し予測モデルを構築することで、人流データを用いて足元の消費動向をほぼリアルタイムで予測できる。
(3) 新型コロナウイルス感染再拡大の影響が懸念される。本モデルを用いた予測結果によると、百貨店販売額は、12月は京都府、大阪府、兵庫県でいずれも伸びは前月とほぼ横ばいだが、1月には大幅に減少することが予測される。また、飲食料品及びドラッグストア販売額は、関西2府4県いずれも12月は前月より上昇するが、1月に大幅に減少することが予測される。
なお、予測精度については概ね高いといえる。しかし、説明変数の選択も含めて予測精度改善の余地もあることから、今後の課題としたい。 -
雇用調整助成金の効果と課題 – 新型コロナウイルス感染症特例措置をめぐって –
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コロナ禍での雇用維持対策として、政府は雇用調整助成金の「新型コロナウイルス感染症特例措置」を創設して対応を行っている。完全失業率は低い水準にとどまり、2020年4~6月期に実質GDPが年率約3割減という落ち込みがあったことを考えると、雇用調整助成金が未曾有の経済危機の中での失業防止という点で大きな効果を発揮していると評価できよう。雇用調整助成金の活用が急拡大し、特例措置の適用期間も1年にわたることとなり、財源プールとなっている雇用安定資金の涸渇化が懸念されるようになっている。失業の著しい急増を避けることは経済や社会にとって大きな利益となる。自然災害やパンデミックなどによる国難とも言うべき重大な経済危機に際しては、雇用調整助成金へ一般財源を投入できることを本則にすべきと考える。また、雇用維持政策の出口の模索は悩ましい課題であるが、危機がある以上は雇用調整助成金の特例措置を延長しつつも、コロナ禍の中でも様々な創意工夫や対策によって事業の継続・再開・転換を図る企業に対する重点的な助成に軸足を移していくべきであろう。
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後期高齢者医療費の自己負担割合のあり方- 今年末に取りまとめられる所得基準の線引きに向けて –
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政府の全世代型社会保障検討会議などでは、一定以上の所得がある人には自己負担割合を2割に引上げる方針であり、焦点となる所得基準の線引きの議論を本年末までに行うとし、大詰めの段階に来ている。今後も現役世代が高齢者医療を支えていく必要があるが、医療保険制度を維持し、増大する高齢者医療費を現役と高齢の両世代でなるべく公平に負担を分かち合うためには、「能力に応じて」という意味で、一定以上の所得がある高齢者については、自己負担割合を引上げることはやむを得ない。そもそも、所得基準の線引きについては、明確な根拠を求めることは難しいが、筆者の考えとしては、所得額に応じて利用者負担割合が1割、2割、3割とすでに分けて設定されている介護保険サービスを参考にしてはどうかと考える。後期高齢者医療費の自己負担割合引上げについては、まずは、合計所得160万円以上(年金収入等約280万円以上)の一般所得者を対象に2割負担を導入するのが適当と考える。
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インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析 -「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」アンケート調査から-
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ABSTRACT
本稿では、「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」アンケート調査に基づいて、関西のインバウンド需要とキャッシュレス決済との関係を様々な角度から分析を行った。
本アンケート調査から得られた興味あるfindingsは以下の通りである。
①キャッシュレス決済の利用頻度や形態は国・地域によって異なり、欧州や北米からの訪日外国人客(以下、訪日外客)はクレジットカード利用が多い一方で、中国人は現金もしくはQRコードの利用頻度が高い。
②キャッシュレス決済の利便性について、多くの訪日外客が交通機関や買い物・飲食代支払い時に十分享受していないと感じているようである。また場所別では、飲食店やホテルではおおむね使いやすいと感じているが、バス等の交通機関や寺社仏閣や美術館などにおいては不便であると感じている割合が高い。
③なお、本アンケートでは訪日外客に旅程を通じて為替レートを意識しているか否かも質問している。回答結果は「旅マエ」までは為替レートをある程度意識するが、「旅アト」時には意識しないと答える割合が高くなる傾向がみられた。訪日外客は「旅アト」において今回の旅行を振り返るとすれば、滞在中(「旅ナカ」)においてキャッシュレス決済で財・サービスを購入する際にあまり為替レートを意識しなかった、という興味深い情報を本アンケートは提供していることになる。
今回のアンケート調査は、地域を関西に限定しているが、今後インバウンド需要を促進していくためにも、我が国のキャッシュレス決済をより一層充実させていくことが不可欠であることを示唆している。
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新型コロナウイルス対策特別会計(仮称)の設置 -予算・執行の透明化と財政規律の確保を求める-
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ABSTRACT
新型コロナウイルスは、わが国の財政の悪化にも大きな影響を及ぼしている。コロナ禍の出口は未だ見通せず、財政赤字の大幅な増加が今年度だけで終わる保証はない。もちろん、新型コロナウイルス対応は、国民の生命と経済社会を守るためのものであり、必要な歳出は躊躇なく機動的に行うことが必要である。しかし、財政規律のタガがはずれたままであってよいわけはない。緊急事態から脱したときから、財政健全化に向けてどのような取り組みを行うかも今から議論・検討しておくべき重要課題と考える。新型コロナウイルス対応に要した緊急の歳出については、「新型コロナウイルス対策特別会計(仮称)」を設置して、事業に時限を付しつつ、予算・執行を一元的に管理し透明化するとともに、その財源充当のために発行した国債全額は、コロナ危機からの経済回復後の特別増税などにより計画的に償還していくことが必要と考える。本稿では、財源確保の提案と国債償還の暫定試算を行っている。
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水災害の激甚化への総合的対策の強化- 全国的な対策推進の枠組み、土地利用規制、保険制度の強化を-
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ABSTRACT
近年、全国各地で豪雨等による水災害が頻発し、被害も甚大化するケースが増えている。限られた財政の中では、堤防強化や砂防工事などの公共事業によるハード対策だけに頼るには限界がある。水災害リスクを低減させる土地利用、実効性ある避難態勢の構築などのソフト対策もあわせて推進していく必要がある。国としても、2020年度からハード・ソフト一体の「流域治水」という総合的対策の強化に舵を切っている。こうした国の動きは高く評価できるが、効果をさらに高めるためには、地震対策と同じような総合的対策の枠組みの強化、浸水ハザードエリアでの土地利用のさらに踏み込んだ規制、自助を促す水災害保険制度の強化が、なお必要な課題と考える。本稿では、これら課題への対応策を提案する。