ナフサ供給不足の関西経済への影響 – APIR関西地域間産業連関表による分析 –

Trend Watch No.105

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ABSTRACT

本稿では、ナフサの供給不足が関西経済に与える影響を、APIR関西地域間産業連関表を用いて、供給制約モデルにより分析した。

  1. 足下の輸入動向を反映し、ナフサ供給(輸入と国内生産)が50%減少と想定した場合、関西2府8県[1]及びその他地域への影響を試算した。産業別にみると、減少率が大きいのは、合成樹脂(-14.0%)、有機化学工業製品(-13.9%)、化学繊維(-3.4%)、化学最終製品(-2.9%)、プラスチック製品(-2.4%)、ゴム製品(-1.4%)などと、ナフサ及び石油化学系基礎製品(-50%)以外に多岐にわたって影響を及ぼすことがわかる。
  2. 減少幅をみると、有機化学工業製品が-7,822億円、合成樹脂が-3,525億円、プラスチック製品が-2,611億円と続いており、合計約-2.4兆円である。ナフサ(-3,375億円)と石油化学系基礎製品(-1兆5,208億円)を含めると約-4.3兆円(-0.42%)となる。
  3. 地域別にみると、関西2府8県の生産額(ナフサ、石油化学系基礎製品とその他産業の合計)の減少率は-0.43%となる。府県別では、三重県が-1.3%と影響が一番大きく、次いで和歌山県-0.8%、大阪府-0.4%、滋賀県-0.4%と続く。
  4. 減少幅でみた場合、関西2府8県計では‐7,979億円、三重県-2,566億円、大阪府-2,434億円となる。ただ、大阪府では、石油化学系以外の産業も規模が大きいため、産業計でみた影響は相対的に限定的となる。
  5. ナフサ供給不足の影響(減少率)は関西(-0.43%)及びその他地域(-0.42%)において大きな差異はみられない。ただし、特定の産業に依存している府県(三重県:-1.3%、和歌山県:-0.8%)ではその影響は異なる。
  6. ナフサという代替の効かない製品の輸入を特定の地域に依存することの危うさが明らかになった。調達先の多様化と備蓄体制の一層の改善が経済安全保障にとって重要となろう。

[1] 関西については複数の定義が存在するが、ここでの関西は福井県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県の2府8県ベースである。

DETAIL

はじめに

2026年2月28日に始まった米国とイスラエルによるイラン攻撃により、中東情勢は急速に悪化した。結果、ホルムズ海峡が事実上封鎖されることとなり、中東にエネルギー資源を大きく依存する日本にとって、経済・安全保障の問題が鮮明となった。今回の特徴は、これまでのエネルギーショックに比して、ナフサという特定の石油製品の需給関係に注目が集まったことである。

 

【ナフサの国内生産及び輸入】

図表1はナフサ供給の最近の推移をみたものである。ナフサの供給は、1)直接輸入によるものと、2)輸入原油を国内の製油工場で精製する国内生産からなる。2025年は輸入が2,333.7万kl、国内生産が1,313.3万klで、供給に占めるシェアはそれぞれ64.0%、36.0%となっている。ナフサ輸入は25年12月の211.6万klから26年4月には110.3万klと-47.8%減少し、国内生産も-29.8%減少した。ナフサの利用形態は多岐にわたり、代替可能性の問題もあるため、その供給不足の影響は複雑で測りがたく、メディアで大きく報道された。

 

 

図表1 ナフサの国内生産及び輸入:全国:単位:1,000kl

(出所)経済産業省『石油統計』より筆者作成

 

 

【エネルギー輸入の概況品コード】

1.以降の分析を展開する前に日本及び関西のエネルギー輸入構造を確認しよう。図表2はエネルギー輸入の概況品コードをみたものである。鉱物性燃料(概況品コード:3)の輸入は、1)石炭、コークス及び練炭(301)、2)石油及び同製品(303)、3)天然ガス及び製造ガス(305)に大別される。本稿での分析に関わる石油及び同製品は、原油及び粗油(30301)と石油製品(30303)からなる。さらに石油製品は、揮発油(3030301)、灯油(含ジェット燃料)(3030303)、軽油(3030305)、重油(3030307)からなる。ナフサは揮発油に含まれるが、統計上分離できないため、以下では揮発油をナフサとしている

なお、石油製品のサブカテゴリ―(揮発油、灯油、軽油及び重油)や天然ガス及び製造ガスについては数量及び金額ベースで把握可能である。

図表2 エネルギー輸入の概況品コード

(出所)財務省『貿易統計』より筆者作成

 

 

【ナフサの輸入先と生産拠点】

ナフサに注目し、全国及び関西の最近の輸入量及び輸入先の上位5カ国・地域をみたのが、図表3である[1]。図表3の左図は、図表1の輸入に対応している。日本全体でみれば、2025年は月平均約230万klを輸入しているが、26年2-4月平均は約156万klと-31.9%減少していることがわかる。主な輸入先をみれば、韓国と中東(クウェート、カタールとUAE)である。26年4-5月にはホルムズ海峡の事実上の封鎖から中東(クウェートとカタール)からの輸入がほぼ途絶し、米国からの輸入を増やす一方、代替輸入(図中における折れ線と積み上げとの差)が急速に増加している。

 

 

図表3 ナフサの輸入数量の推移:全国 vs. 関西:単位:1,000kl

(出所)財務省『貿易統計』より筆者作成

 

 

図表3の右図は、関西のナフサ輸入の推移をみたものである。2025年は月平均約31万klを輸入しているが、26年2-4月平均は約19万klと、-38.7%減少していることがわかる。主な輸入先をみれば、韓国、中東(クウェート、カタールとUAE)及びペルーである。地理的な関係もあり、韓国からの輸入シェアは全国に比して高い。中東情勢の悪化で4月以降は韓国からの輸入が一層拡大するとともにその他地域からの代替輸入が急増している。

次に、国内精製の拠点を確認しておこう。図表4は石油精製の国内拠点をみたものである。2026年4月末現在、日本には製油所は19カ所あり、常圧上流装置能力(設計能力)は合計約311万バレル/日(約49万4,500kl/日)となっている。本稿の分析対象となる関西に注目すると、大阪府(堺市:25万バレル)や三重県(四日市:31万1,000バレル)に代表的な製油所が存在していることがわかる。関西の石油精製能力は全国比約18%とGRPの対GDP比にほぼ匹敵する。

 

 

図表4 石油精製の国内拠点

(出所)石油連盟HP「04. 製油所精製能力」より引用

 

 

本稿の目的は、わが国におけるナフサの供給(国内生産及び輸入)が半減した場合の経済的影響をAPIR関西地域間産業連関表(以下、関西地域間IO)により分析することにある。構成は以下の通りである。まず1.で産業連関表からみたナフサ及び関連製品の生産・取引状況を概観する。2.では、供給制約モデル分析を行うため必要な事前準備としての加工作業について概説する。3.ではナフサ供給半減の影響を計測するための分析モデルを説明し、4.で分析の結果を提示する。

[1] 三重県を含む関西2府5県の輸入総額に占める石油及び同製品のシェアは2025年9.0%と、全国の10.8%と輸入構造には大差はない。

 

1.    産業連関表からみたナフサ及び関連製品の概況

(1) 全国産業連関表からみたナフサの生産・投入等の状況

はじめに全国を対象とする「令和2年(2020年)産業連関表」(以下、2020年全国IO)の基本分類表からみたナフサの生産、輸入、投入の状況を確認する。図表5に示すように、2020年のナフサの国内生産額は4,557億円、輸入額は9,839億円であり、国内需要の総額は1兆4,396億円である。輸出は存在せず、国内最終需要のほとんどは在庫純増であることから、ほぼ全額が中間財として需要されている。

図表 5 産業連関表でみたナフサの需給(単位:百万円)

(出所)令和2年(2020年)産業連関表より作成

 

ナフサから石油化学系基礎製品(エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン)が分離精製され、それから様々な誘導品(合成樹脂、合成繊維原料、合成ゴム、塗料原料・溶剤、洗剤原料、その他)が製造され、それが関連産業に供給されるので、暮らしへの広範な影響がある[1]

 

図表6 ナフサを中間投入する部門とその生産額・投入額等

(出所)令和2年(2020年)産業連関表より作成

 

図表6により、ナフサの投入をみる。基本分類でナフサを投入する産業連関表の列部門は、化学肥料、その他の無機化学工業製品、石油化学基礎製品、石油化学系芳香族製品、脂肪族中間物、環式中間物・合成染料・有機顔料、その他の有機化学工業製品、その他の化学最終製品、石油製品、電気(火力(バイオマス・廃棄物を含む))、都市ガスの11部門である。金額ベースで投入額が最大なのは石油化学基礎製品の1兆843億円であり、石油化学系芳香族製品の2,728億円がこれに次いでいる。上記以外の部門においてはナフサの投入額は1,000億円に満たず、以下、都市ガスで281億円、脂肪族中間物で269億円、化学肥料で116億円と続く。中間投入係数についても傾向は金額ベースと類似しており、最大が石油化学基礎製品の0.80476、第2位が石油化学系芳香族製品の0.38104であり、それ以外はいずれも0.1を大きく下回る。

図表6では、基本分類に基づきナフサの投入額(率)をみた。次に、統合中分類(108部門)で確認しよう。石油化学基礎製品(203101)と石油化学系芳香族製品(203102)はいずれも統合中分類では「203 石油化学系基礎製品」に分類される。産業連関表によりこれの国内生産額、中間投入額等を確認すると、図表7のようになる(図表6とは縦横が入れ替わっている点に注意されたい)。国内生産額が2兆633億円であるのに対してナフサの投入額は1兆3,571億円であり、投入係数は0.65773となる。中間投入(1兆7,973億円)に占めるナフサ投入の割合は75.5%であり、中間投入の4分の3がナフサで占められていることがわかる。ナフサ投入の国産と輸入の内訳は、国産品が4,278億円、輸入品が9,293億円であり、輸入品が約68%を占めている。

 

図表 7 203石油化学系基礎製品(統合中分類)の生産額・投入額(単位:百万円)

(出所)令和2年(2020年)産業連関表より作成

 

(2) 関西地域間IOでみる関連製品の取引

関西地域間IOにおける部門の最小単位は統合中分類に近く、ナフサが独立した部門として扱われていない。ナフサを含む石油製品とナフサを主原料とする石油化学系基礎製品の取引額を抽出すると図表8-A及び8-Bとなる。図中の「石化基礎」とは、石油化学系基礎製品をあらわす。

 

図表8-A 関西地域間IOにおける石油化学系基礎製品と石油製品の取引状況

(出所)筆者作成

図表8-B 関西地域間IOにおける石油化学系基礎製品と石油製品の取引状況

(出所)筆者作成

 

まず域内生産額に注目すると、石油製品の生産額が100億円を超えているのは、大阪府(1兆3,844億円)、三重県(1兆2,460億円)、和歌山県(5,648億円)、兵庫県(363億円)、その他地域(12兆1,372億円)の5地域である。また石油化学系基礎製品の生産額が100億円を超えているのは、三重県(1,294億円)、大阪府(1,899億円)、和歌山県(851億円)、その他地域(2兆6,268億円)の4地域である。石油化学系基礎製品の生産では石油製品を投入しているが、多くの地域において自地域からの投入が最大となっている。なお、本稿の分析で使用する関西地域間IOは2015年を対象としている。

 

2.    関西地域間IOの加工

関西地域間IOにおいては、ナフサは石油製品の一部であり、全国IOとは異なり明示的に表章されていない。ナフサを分析の俎上に載せるためには、まずこれを独立した部門として分離・抽出する必要がある。この作業は、域内生産額(Control Total、以下CTと記す)、列部門、行部門の順に行う。ここで行う分離・抽出はナフサを分析対象とするために便宜上実施する作業であり、取引実態としての精度が担保されたものではない点に留意されたい。

 

(1) CTの分割

2020年全国IOによれば、石油製品の国内生産額は11兆7,099億円、ナフサは4,557億円であり、ナフサが石油製品に占めるシェアは3.9%である。関西地域間IOにおける石油製品からのナフサの分離においては、分離後のナフサの地域合計と分離前の石油製品の地域合計の比率が3.9%となるように分割比率を設定する。

具体的な手順は次の通りである。はじめに、ナフサの生産地域を特定する。関西地域間IOが対象とする地域区分において石油化学コンビナートを有するのは大阪府、三重県、その他地域の3地域のみである[2]。このことから、この3地域における石油製品の域内生産額からナフサを抽出する。それぞれの石油製品の生産額は、大阪府が1兆3,844億円、三重県が1兆2,460億円、その他地域が12兆1,372億円である。またこの3地域以外における石油製品の生産額は6,150億円であり、わが国全体での(関西地域間IOにおける)石油製品の生産額は15兆3,826億円となる。

いまここで、3地域における石油製品の生産に占めるナフサ生産の割合が等しいと仮定する。この比率をrとすると、各地域におけるナフサ生産額は図表9の右列のようにあらわすことができる。これらの合計(図の「ナフサ生産計」)による石油製品生産額の合計(15兆3,826億円)に対する比率が3.9%となるようにrを設定すると、その値は4.1%と計算される。この比率を用いたナフサの生産額は、大阪府で567億円、三重県で511億円、その他地域では4,976億円と推計された。

 

図表 9 石油製品に占めるナフサ比率の推計

(出所)筆者作成

 

(2) 列の分割

石油製品の列をナフサとナフサ以外の石油製品に分割する。この分割は、投入ベクトルの各要素にCTの構成比を適用して行う。言い換えれば、ナフサとナフサ以外の石油製品の投入構造は同一と仮定したことになる。

 

(3) 行の分割

続いて石油製品の行をナフサとナフサ以外の石油製品に分割する。ここでは作業が煩雑になるのを避けるために、主要な投入・産出にのみフォーカスし、微小な取引は捨象する。具体的には、以下のような想定のもので分割作業を行う。

 

想定1:石油化学系基礎製品のみがナフサを投入する

 

先に図表6において、ナフサを投入する生産物の多くは石油化学基礎製品と石油化学系芳香族製品(この2つは、関西地域間IOの区分では石油化学系基礎製品)であることを確認した。他の生産物のナフサの投入はごく微小であることから、それらは無視しようというのが上の「想定1」である。この想定により、行分割の対象となるのは石油化学系基礎製品の列との交点に限定される。

 

 

想定2:ナフサを投入する石油化学系基礎製品はナフサ以外の石油製品を投入しない

 

 

図表7より、石油化学系基礎製品における中間投入の多くはナフサで占められていることを確認した。また2020年全国表からも、同部門におけるナフサ以外の石油製品の投入はわずかであることが確認できる。このことを踏まえて、ナフサを投入する石油化学系基礎製品の列においては、元の石油製品の投入額の全額をナフサに振り向ける。なお、これはナフサを生産する地域における石油製品の行に関するケースである。ナフサを生産しない地域の行との交点においては、そもそもナフサが投入されないことから、ナフサの行はすべてゼロとなる。

以上の想定に基づく分割のイメージが図表10である。図表の上段は行分割前のベクトルであり、石油化学系基礎製品が石油製品を300投入している。行分割後の結果が中段と下段である。石油化学系基礎製品以外の列部門では、ナフサへの分離・抽出は行わず、元の石油製品の値がそのまま「石油製品(除ナフサ)」に計上される。一方、石油化学系基礎製品の列では、当該行部門の県がナフサを生産する場合には、石油製品は全額がナフサとして扱われる(図表の中段)。当該行部門の県がナフサを生産しない場合には、ナフサの行はすべてゼロとなる(表の下段)。

 

図表10 石油製品の行分割イメージ

(出所)筆者作成

 

(4) 石油製品の輸入の分割

石油製品の輸入についてもナフサとナフサ以外の石油製品に分割する作業を行う。この作業は(1) でみたCTの分割と同じ手順で行う。すなわち、2020年全国IOより、輸入における石油製品に占めるナフサのシェアは約42.7%である。関西地域間IOにおいてこの比率が維持するように算出した、石油製品を輸入する県におけるナフサが占めるシェアは45.7%と推計された。

 

(5) その他の操作

3.で説明するGhoshモデルを適用するためには、関西地域間IOにおいて輸入品は分離されている必要がある。関西地域間IOでは、輸入は対角ブロックに含まれていることから、これを自地域内であれば同一行部門の輸入率は同一と仮定した上で、各セルにおける輸入分を計算し、それを内生部門の下に移動させる。

後の分析でナフサと石油化学系基礎製品は外生部門として扱う。演算を行いやすくするために、この2つの部門は内生部門の下・右に移動させる。最終的に分析に使用される関西地域間IOのフォーマットは図表11のようになる。左上の太枠で囲った部分が内生部門であり、1地域あたりの部門数は、107部門である。その下方及び右側に外生部門であるナフサと石油化学系基礎製品が配置されている。

 

 

図表11 分析で使用する関西地域間IOのフォーマット(列は中間需要のみ表示)

(注)表中の緑色部分は外生部門

(出所)筆者作成

 

 

3.    分析モデル

(1) 分析の考え方(後方連関と前方連関)

産業連関表を用いた数量分析は、大きく後方連関と前方連関という2つの経路による波及の計測に大別される。

後方連関効果とは、ある生産物への需要が発生(または変化)した際における、生産活動の相互依存関係を介した最終的な各生産物の生産・付加価値の変化であり、川下から川上への影響を計測する。例えば、マイナスの波及を例に挙げれば、自動車に対する需要の減少が電子部品に対する需要を抑制し、それが更に半導体、シリコンウェハの需要を減少させるというような効果を計測する。後方連関効果は需要の波及を測るものであり、生産は需要に付帯するものとして決定される[3]。巷間で行われている産業連関分析の多くは、経済波及効果分析に代表されるように、後方連関効果の計測である。後述するGhoshモデルとの対比で、後方連関効果を計測するモデルをLeontiefモデルとよぶこともある。

一方、前方連関効果においては、川上から川下への影響を計測する。川上の生産が減少した場合にそれを原材料として使用する製品の生産が滞るといった影響である。半導体不足が自動車の生産を押し下げるという事態は、典型的な例である。前方連関効果による分析は、後方連関効果に比べると事例は少ないが、災害や輸入資源の途絶などの供給ショックにおける影響を計測する際にしばしば行われる。本稿においては、ナフサや石油関連製品の供給不足が、これを素材として使用する産業に大きな影響を与えることを踏まえて、前方連関効果を計測する

 

(2) Ghoshモデル

経済波及効果の計測などで頻繁に使用されるLeontiefモデルでは需要が供給を決定する。一方で理論的には、供給が需要を決定するとの想定に立つモデル化も可能であり、これはしばしばGhoshモデルとよばれる[4]。Leontiefモデルでは投入係数が不変と仮定した上で、最終需要を外生的に与えて需要の変化を計測する。一方、Ghoshモデルでは付加価値額が外生的に与えられ、生産は投入物(中間財と付加価値)の総和として決定される[5]。このモデルで固定的と想定するのは、ある部門からある部門への配分係数Gである[6]

簡易な例として、3つの財からなる経済を考える。図表12において、 Xiは第 i 財の生産額、  νiは第 i 財の粗付加価値額、  fiは第 i 財への域内最終需要額、  Xijは第 i 財への第 j 財からの投入額である。

 

図表12 簡易的な想定

(出所)筆者作成

 

ここで第3財は外生部門とする。図表11との対比では、第3財に対応するのがナフサ及び石油化学系基礎製品である。

以下、本稿で採用するGhoshモデルについて、一般的に使用されるLeontiefモデルと対比しつつ説明する。Leontiefモデルでは、投入係数を一定と仮定する。投入係数は、  aij = Xij / Xjとして計算される。需給均衡式は(1)式のようになる。左辺が生産、右辺が需要をあらわす。

これを x1とx2 について解くと、(2) 式を得る。(2) 式右辺の大括弧の逆行列がLeontief逆行列である。

上述したように、Leontiefモデルでは需給の均衡、すなわち横方向の関係から生産を導いている。これに対してGhoshモデルにおいては縦方向の関係に注目する。まず、Ghoshモデルで使用する配分係数は、  gij = xij / xiとして計算される。Ghoshモデルにおいては、中間投入と粗付加価値の総和がそれぞれの生産額に等しくなると想定し、次の (3) 式が成立する。

これをx1 とx2 について解くと、(4) 式を得る。

(4) 式右辺の大括弧の逆行列がGhosh逆行列である。(4) 式は、Ghoshモデルにおいて生産額は、外生部門の生産額に配分係数を乗じた値と粗付加価値額の和にGhosh逆行列を乗じた値として計算されることを示している。例えば大災害により資本または労働投入が減少するケース、あるいは重要な部品の生産が停止するケースでは、粗付加価値または第3財の生産が減少することになる。ここでは後者に注目して、外生部門である第3財の生産が Δx3だけ変化した場合を考えると、財1と財2の生産額の変化は、(5) 式のようになる。実際の分析において外生部門とするのは、ナフサ及び石油化学系基礎製品である。

 

(3) 技術的な代替可能性

Ghoshモデルには、いくつかの問題がある。例えば、長谷部(2002)では、次の2点を指摘している。

1)配分係数を一定と仮定しているがこれは非現実的

2)生産関数に完全代替性を仮定していることになり、理論的に産業連関論と相容れない

災害等による経済被害規模の推計では、特に2点目の仮定が問題となる。下田・藤川(2013)では、東日本大震災における間接被害の大きさを4つのモデルにより比較し、Ghoshモデルを含む3つのモデルでは、被災地における自動車部品の生産停止が全国の自動車生産をストップさせるというような事態は再現できないことを明らかにした。

ここで技術的な代替可能性について整理する。仮想の数例として、1000万円の工業製品の生産でナフサを100万円投入しているとする。仮にナフサの投入100万円は他の生産要素と完全に代替可能であれば、ナフサの供給が途絶しても、その機能は他の生産要素が代替するため、生産の減少はナフサの投入額の減少分である100万円ですむ。このような状況を「完全代替」とよぶ。これとは真逆に、ナフサは生産活動に必要不可欠な財であり、他の生産要素では全く代替が効かないケースを想定する。このときにナフサの供給が途絶すれば、生産を行うこと自体が不可能になる。このような状況を「完全非代替」とよぶ[7]

図表13に完全代替と完全非代替それぞれのケースにおける仮説例を示す。初期時点において、ナフサを100万円投入して、1000万円の工業製品を生産していたとする(図表の太枠内)。いま、ナフサの供給制約により投入が25万円減少したとする。完全代替のケースでは、生産の減少は同額の25万円にとどまり、975万円の生産が行われる。一方、完全非代替のケースでは、ナフサの投入が4分の3になることで、生産も4分の3である750万円に減少する。更にナフサの投入が半分の50万円に減少すると、完全代替のケースでは950万円の生産が行われるが、完全非代替のケースでは生産は半分の500万円に減少する。そして、ナフサの投入がゼロになると、完全代替のケースでは900万円の生産が行われるが、完全非代替のケースでは生産はゼロとなる。

 

図表13 ナフサ投入の変化に伴う生産の変化:完全代替と完全非代替の差異の確認

(出所)筆者作成

 

完全代替も完全非代替も極端な想定であり、多くの生産物については、技術的な関係は両者の中間と考えられる。一方で、一部の中間財の供給途絶が川下の生産、さらには経済全体に大きな影響を与えてきたことは、わが国がこれまでにも経験したことである。ナフサについても、その不足による影響が様々な形で顕在化していることを鑑みると、完全非代替により近い性格を持つと考えられる。

 

 

(4) 推計手順

ここで改めて、本稿の分析で適用するモデルと分析の手順について確認する。前方連関効果の計測においては、Ghoshモデルを適用する。ただしGhoshモデルは、完全代替を想定しており、この想定ではナフサによる供給制約が過小に評価されることは容易に推察される。そこで本稿では、ナフサの供給減少とその次のステップにおいては、一部の生産物で完全非代替を想定し、その後の波及についてはGhoshモデルを適用する。この方針において問題となるのは、どの生産物において完全非代替を適用するかという選択である。

佐野・長町(2022)においては、投入係数が0.1以上の場合、当該中間財を「必要不可欠な中間財」とみなして完全非代替を適用している。著者らが自ら述べているように、必要不可欠な中間財であるか否かは投入規模に依存するとは限らない。ただし全ての生産物について必要不可欠な中間財であるか否かの判定を行うことは現実的ではないことから、本稿においても部分的に佐野・長町(2022)の考え方を採用する。先に我々は、図表6及び図表7において、ナフサを最も投入しているのは石油化学系基礎製品であり、その投入係数も他に比べて圧倒的に大きいことを確認した。このことを踏まえて、石油化学系基礎製品の生産においてナフサを「必要不可欠な中間財」とみなす。一方で、それ以外の生産の工程では完全代替を想定し、Ghoshモデルを適用する。

分析の手順についてまとめると、前方連関効果の計測は2段階のステップで行う(図表14)。第1のステップは、石油化学系基礎製品の生産工程におけるナフサの投入において完全非代替を想定する。第2のステップは、ここまでの生産減少から生じる究極的な生産への影響をGhoshモデルにより計測する。

図表14 ナフサの中間投入減少による波及のフロー

(出所)筆者作成

 

4.    分析結果

(1) 部門ごとの影響

図表15に部門ごとに域内生産額の減少額と減少率を示す。この図表では、減少率が大きい上位20部門を提示している。足下のデータを踏まえ、ナフサの供給(輸入と国内生産)が50%減少すると想定する。石油化学系基礎製品はナフサを完全非代替の生産要素とするため、ナフサの投入が半減する場合、その生産も半減する。

外生部門としたナフサと石油化学系基礎製品を除くと、減少率が大きいのは合成樹脂(-14.0%)、有機化学工業製品(-13.9%)、化学繊維(-3.4%)、化学最終製品(-2.9%)、プラスチック製品(-2.4%)、ゴム製品(-1.4%)などが挙げられる。金額ベースでは、内生部門では有機化学工業製品が7,822億円の減少、合成樹脂の3,525億円、プラスチック製品の2,611億円の減少がこれに続いている。

家計消費の観点からすれば、化学繊維、化学最終製品(医薬品を除く)、プラスチック製品、ゴム製品、医薬品などが影響を受けていることがわかる[8]

減少額の合計は、外生部門も含めると約-4.3兆円(-0.42%)である。起点としたナフサを除いた減少は約-3.9兆円(-0.39%)、ナフサと石油化学系基礎製品を除いた内生部門だけの減少は約-2.4兆円(-0.24%)となる。

 

図表15 部門ごとの減少額・減少率(上位20部門)

(出所)筆者作成

 

(2) 地域別にみた影響

次に地域ごとの減少額を図表16に示す。ここでは生産減少額をナフサ、石油化学系基礎製品、その他の別に示している。➀のナフサの減少額は分析の想定から、②の石油化学系基礎製品の減少額は完全非代替の仮定から導かれる。③のその他はGhoshモデルを適用した結果である。減少額と減少率は外生部門を含めた合計(図表の➀~③)とナフサを除いた合計(図表の②~③)について、提示している。

 

図表16 地域ごとの減少額・減少率

(出所)筆者作成

減少率が最も大きいのは三重県であり、合計では-1.3%、ナフサを除いても-1.0%の減少である。関西域内で石油化学コンビナートを有する大阪府については、減少率はそれぞれ-0.4%と-0.3%である。金額でみた減少幅は三重県と肩を並べるものの、大阪府の場合は石油化学系以外の産業も規模が大きいため、産業計でみた影響は相対的に限定的といえるであろう。

図表の最下行には関西2府8県の合計を示しているが、産業トータルの減少率が-0.43%、ナフサを除いたトータルが-0.39%であり、その他地域への影響と大きな相違はみられない。

 

 

 

 

おわりに

本稿では、ナフサの供給不足が関西経済2府8県に与える影響を、関西地域間IOを用いて分析した[9]。最上流であるナフサの供給減少が石油化学系基礎製品の生産に与える影響をボトルネックモデルにより、以降の川下の生産に与える影響をGhoshモデルにより評価した。

 

  1. ナフサの供給(輸入と国内生産)が50%減少した場合、関西2府8県及びその他地域の産業部門別の影響をみると、ナフサ(-50%)と石油化学系基礎製品(-50%)を除くと、生産額の減少率が大きいのは合成樹脂(-14.0%)、有機化学工業製品(-13.9%)、化学繊維(-3.4%)、化学最終製品(-2.9%)、プラスチック製品(-2.4%)、ゴム製品(-1.4%)などと多岐に影響が及ぶことになる。実際、各段階において企業が在庫を確保しようした結果[10]、石油化学製品のサプライチェーンにおいて広範な目詰まりがみられた。
  2. 生産の減少幅をみると、有機化学工業製品が-7,822億円、合成樹脂が-3,525億円、プラスチック製品が-2,611億円と続いており、合計約-2.4兆円となっている。ナフサ(-3,375億円)と石油化学系基礎製品(-1兆5,208億円)を含めると約-4.3兆円(-0.42%)、ナフサを除くと約-3.9兆円(-0.39%)の減少となる。
  3. 関西2府8県の生産額(ナフサ、石油化学系基礎製品とその他産業の合計)の減少率は-0.43%となる。府県別では、三重県-1.3%と影響が一番大きく、次いで和歌山県-0.8%、大阪府-0.4%、滋賀県-0.4%と続く。ナフサを除くと、全体で-0.39%の減少である。府県別では、三重県-1.0%、和歌山県-0.8%、大阪府は-0.3%となる。なお、その他地域の生産の減少率は-0.42%となっており、関西全体の減少率にほぼ等しい。
  4. 減少幅でみた場合、関西2府8県計では‐7,979億円、三重県-2,566億円、大阪府-2,434億円となる。大阪府では、石油化学系以外の産業も規模が大きいため、産業計でみた影響は相対的に限定的となる。
  5. 以上のように、ナフサの供給不足の影響(減少率)は関西及びその他地域において大きな差異はみられない。ただし、特定の産業に依存している府県ではその影響はより大きい(三重県:-1.3%、和歌山県:-0.8%)。
  6. ナフサという代替の効かない製品の輸入を特定の地域に依存することの危うさが本分析で明らかになった。調達先の多様化と備蓄体制の一層の改善に向けた政策が経済安全保障にとって重要となろう。

 

 

参考文献

稲田義久・下田充(2026),『158回  景気分析と予測:詳細版』,(https://www.apir.or.jp/

research/post21646/),2026年5月27日

佐野智樹・長町悠平(2022),「供給ショックの生産・雇用への波及に関する分析フレームワークの提案」, RIETI Policy Discussion Paper Series 22-P-008

下田充・藤川清史(2012)「産業連関分析モデルと東日本大震災による供給制約」『産業連関』20 (2),133~146.

新電力ネット(2026),「ナフサ不足がもたらす産業・エネルギーへの影響【第1回】ナフサ不足はなぜ起きるのか ―エネルギー市場の変化と供給構造の課題―」,(https://pps-net.org/  column/160640),2026年5月29日

石油化学工業協会Webページ,「石油化学コンビナートを探る」,(https://www.jpca.or.jp/  studies/junior/howto.html)

長谷部勇一(2002),「災害の経済的評価─産業連関表による供給制約型モデル─」『環太平洋産業連関分析学会13回大会報告集』.

Ghosh, A. (1958), “Input-Output Approach in an Allocation System,” Economica, Vol. xxv, No.97, pp.58-64.

 

 

 

 

 

 

 

 

参考図表

参考図表1 ナフサ在庫率の推移

出所:経済産業省『石油統計』より筆者作成

 

 

 

 

 

 

[1] 石油化化学製品の精製過程については石油化学工業協会のWEBページが詳しい。

[2] 関西地域間IOの対象年である2015年時点では、和歌山県にも製油所が存在したが、2023年10月に閉鎖された。ナフサについてはできるだけ直近の状況を反映させるために、和歌山県においてナフサの生産は行わないものとして扱う。

[3] 後方連関効果の分析では、需要に等しい生産が無条件で(供給制約なしに)行われると想定する。したがって、自動車の需要減→電子部品の需要減→半導体の需要減→シリコンウェハの需要減 という流れはそのまま、自動車の生産減→電子部品の生産減→半導体の生産減→シリコンウェハの生産減 と置き換えることができる。

[4] Ghosh, A. (1958) による。

[5] 海外との交易がある場合には、輸入もまた外生的に与えられる。

[6] 産出係数ともいう。

[7] 下田・藤川(2012) では、このような完全非代替のケースにおける生産誘発を「ボトルネックモデル」として検証した。

[8] 具体的には、おにぎりのフィルム、お弁当の容器、シャンプーのボトル、断熱材、配管材、自動車のバンパー、タイヤのゴム、インクの溶剤等の不足となって影響が表れる(新電力ネット(2026))。

[9] 稲田・下田(2026)では、マクロ計量モデルを用いてホルムズ海峡封鎖の長期化シミュレーションを行っている。原油価格が120ドルの高水準で推移した場合のシミュレーションによれば、2027年度に実質GDPは-1.2兆円、-0.2%減少し、国内企業物価指数は+2.9%、コアCPIは+0.5%上昇すると報告されている。

[10] 後掲参考図表1が示すように、2025年月平均の在庫率(在庫/(輸入+国内生産))は48.6%であるが、ホルムズ海峡閉鎖により、企業がナフサ在庫を確保しようとした結果、2026年4月には61.5%と+12.9%ポイント上昇した。

 

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