今月のトピックス(2008年2月)

2008-02-14

<景気回復のギア(輸出)の逆回転を懸念—今こそ必要な内需拡大のプログラム>

1月31日に開かれた関西社会経済研究所(KISER)主催の景気討論会「世界経済の変調と日本経済の行方」(※)は盛況で示唆に富む議論が展開 された。討論者である白川浩道氏(クレディスイス証券)の明瞭な米国経済の見通し、久貝卓氏(近畿経済産業局長)の日本経済成長戦略をめぐる議論や近畿経 済の見通しは実にinformativeであった。討論会での議論は、2008年度日本経済の見通しついて、重要な視点を与えてくれる。
図は戦後の平均実質GDP成長率とGDP項目の成長寄与率を時代区分別に見たものである。最も印象的なのは、今回の景気回復局面(2002年2月以降) において純輸出が果たした役割である。2002-06年の実質GDP平均成長率は+1.7%と、『失われた10年』(1992-2001年)の平均成長 率+0.9%から緩やかに回復したものの、国民にとっては実感を伴わない回復となっている。実際、景気回復の中身を見ると、成長率の37.9%が純輸出に よる貢献である。すなわち、景気回復を実感したのは、家計ではなく輸出企業なのである。戦後日本経済の成長過程で、純輸出が経済成長に最も貢献した時期 は、1960年代の高度成長期や石油危機からの回復期ではなく、今回の回復期である。今、輸出市場としての米国やemerging marketの役割を見逃すことは出来ない。
白川氏の推計によれば、今回の米国住宅バブルの崩壊による景気押し下げ効果はGDP比3%程度という。この効果が2年で現われるとして、年1.5%程度 米国景気を押し下げることになる。一方、ブッシュ大統領の提案する景気対策が成長率を1%程度引き上げるとすると、2008年の米国経済の当初の成長見通 し(1%台の後半)は差し引き0.5%ポイント程度下方修正されることになる。すなわち、1%台前半の低成長となり、厳しいリセッションに陥ることはない が、年前半には景気下押し圧力が働き、一時的にマイナス成長を経験するかもしれない。2008年度の日本経済は、米国経済の低迷により、景気回復のギア (輸出)が逆回転する可能性が高まろう。これが景気討論会から得られた第1の含意である。
図からわかるように、石油危機からプラザ合意にかけての期間(1974-85年)では、純輸出の経済成長に対する寄与率は19.0%と今回の回復局面に つぐ高さである。石油危機による低迷から対米輸出の急拡大で景気回復の活路を見出したのがこの時代である。しかしこの景気回復は日米貿易摩擦を引き起こ し、日本経済は構造改革を余儀なくされる。この難局を克服するために内需拡大路線が議論され、「前川レポート」が作成されたのである。最近、第2の「前川 レポート」作成が議論されているが、これは正しい方向である。 規制緩和を推し進め、内需拡大のフロンティアを拡大する構造改革がもっと議論されるべきである。これには、サービス産業の生産性の上昇が決定的に重要とな ろう。これが討論会で得られた第2の含意である。
(※)景気討論会の要旨は(財)関西社会経済研究所ホームページで2月中旬に公開予定。

日本
<10-12月期は高成長を予測するが、内需拡大の動向が予測上のリスク>

2月14日に10-12月期の実質GDP成長率が発表される。最近の民間エコノミストの成長率コンセンサスは年率で1%台のようである。一方、2 月1日までの月次情報を更新した超短期予測は、10-12月期は純輸出が引き続き拡大し、内需が反転拡大するため、前期比+1.1%、同年率+4.6%と 見込んでいる。われわれの予測と市場コンセンサスは好対照であるが、見方の違いは内需拡大の程度にある。特に、民間最終消費支出と民間住宅の予測が鍵とな ろう。
10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.4%増加する。家計調査報告によれば、同期の実質家計消費は同+0.8%と堅調 である。ただ、今回の予測には反映されていないが、その後に発表された消費総合指数は同横ばいとなっており、民間最終消費支出は予測より低めに出る可能性 がある。仮にその要因を考慮しても、経済成長率は3%台とやはり高めに出ると見ている。
実質民間住宅は同-7.9%と前期並みの減少を予測している。一方、実質民間企業設備は同+1.4%と2期連続のプラスとなる。実質政府最終消費支出は 同+0.4%、実質公的固定資本形成は同+2.4%、それぞれ増加する。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+1.1%)に対する寄与度 は+0.6%ポイントとなる。
財貨・サービスの実質輸出は同2.7%増加し、実質輸入は同1.0%減少する。純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.5%ポイントとなる。
1-3月期の実質GDP成長率については、純輸出は拡大し内需は小幅増にとどまるため、前期比+0.5%、同年率+2.1%と予測している。この結果、2007暦年・年度の経済成長率はそれぞれ+2.2%、+1.9%となろう。
1-3月期の実質民間最終消費支出は前期比0.3%増加し、実質民間住宅は同10.1%増加する。実質民間企業設備は同0.5%減少する。実質政府最終消費支出は同0.6%増加し、実質公的固定資本形成は同横ばいとなる。
財貨・サービスの純輸出は引き続き拡大する。実質輸出は同1.3%増加するが、実質輸入は同2.2%減少するためである。
GDPデフレータは10-12月期に前期比-0.4%、1-3月期も同-0.8%となる。輸入デフレータが引き続き上昇し(GDPデフレータにとって は、引き下げ要因)、輸出デフレータに円高の影響(10-12月期は前期比5円程度円高)が大きく出始めており、これが全体の物価水準を押し下げているよ うである。ただ、民間最終消費支出デフレータは、エネルギー価格高騰の影響により、10-12月期に同+0.2%、1-3月期に同-0.1%となる。

[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]

米国
<景気は急速に減速するがリセッションの兆候なし。FRBは株式市場に対する金融緩和策のアナウンスメント効果の演出に失敗>

バーナンキ連邦準備理事会(FRB)議長が異常とも思えるほど懸念した通り、経済統計は景気のスローダウンを示し始めた。2007年10-12月 期の実質GDP成長率(年率換算)は7-9月期の+4.9%から+0.6%へ低下し、1月の雇用統計は2003 年8月以来の減少(-1万7,000人)となった。1月の失業率は前月の5.0%より0.1%減少し4.9%になったものの、1月26日の新規失業保険申 請件数は前週の30万6,000件から37万5,000件へと大幅に増加した。また1月の自動車販売は15.2百万台と2005年以来の最低水準を記録。 住宅は今もって底が見えず、12月の新規住宅販売は前期比で‐4.7%の減少。これらを受け、市場・エコノミストの間にも急速にリセッション懸念が広まっ ている。米経済はすでにリセッションに突入したとの見方もある。FRBは1月21日の緊急ミーティングで75ベーシスポイント(0.75%)の政策金利の 引下げを行い、1月29/30日のFOMCにおいて更に追加的な50ベーシスポント(0.5%)の政策金利引下げを行った。また、政府は1,500億ドル の緊急財政刺激政策の導入を検討している。
しかし、今週の超短期予測は平均実質GDP成長率を1-3月期+1.4%(支出・所得サイドの平均。グラフ参照)、4-6月期+1.0%と予測してい る。景気は急速にスローダウンしているものの、今すぐにも2四半期続いてマイナス成長となるようなリセッションの兆候を示してはいない。
インフレ率に関しては、今週の超短期予測は前期比+1.5%〜+2.0%内と予測している。これは、FRBの許容範囲ぎりぎりのところである。景気のス ローダウンはあるものの、大幅な金融緩和によって今後インフレ圧力が増すことは確かであろう。FRBがインフレ加速懸念よりもリセッション懸念に重点を置 き、積極的に金融を緩和するのは理解できる。しかし、今回の大幅な政策金利の引下げによっても、株式市場がポジティブに反応しなかったことはFRBの失敗 である。10日間で合わせて125ベーシスポイント(12.5%)の政策金利の引下げを実施するのなら、株式市場にもっと好影響を与えるような方法があっ たと思われる。バーナンキ議長は政策金利引下げを行う時のアナウンスメント効果をうまく使うべきであった。逆に、彼はあちこちでリセッション懸念を吹聴 し、市場をリセッション懸念で洗脳してしまった。

[熊坂有三 ITエコノミー]

著者