研究成果

research

ロシアのウクライナ侵攻から見えてきた関西経済の諸リスク

Abstract

1. ロシアのウクライナ侵攻に伴う直接的な影響は、EU-ロシア間貿易に顕著にあらわれている。EUの対ロシア輸入シェアは国際的に見ても高いが、品目別にシェアをみれば、鉄類、石炭及び練炭、石油および同調整品等、エネルギー関連財の対ロシア依存度が極めて高い。

2. 一方、日本の対ロシア輸入シェアは米国とともに全体的には低いが、品目別にシェアをみると木材、非鉄金属、石炭や魚介類及び同調整品の依存度は相対的に高い。このため、これらの財の輸入停止は、建設業、エネルギー産業や飲食業に大きな影響を与えよう。関西の対ロシア輸入依存度では、石炭、コークス及び練炭、天然ガス及び製造ガス、魚介類及び同調整品が高く、なかでも、石炭、コークス及び練炭の依存度は日本全体より高くなっている。

3. 貿易相手国の個別財貿易シェアと全体の貿易シェアとの比較はサプライチェーンのリスク指標となる。これらを用いた直接的影響の分析に加え、間接的な影響把握が重要である。EU経済の減速は中国の対EU輸出の減速を通じて中国経済への下押し圧力となる。中国経済の減速は、対中貿易依存度の高い日本及び関西経済にとっては、逆風となる。

4. ロシアのウクライナ侵攻の経済的影響を考える場合、上述したように、直接的な影響と間接的な影響を併せてサプライチェーンの見直しを図るべきであろう。

5. インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity、以下IPEF)の議論がバイデン米国大統領訪日にあわせて展開された。この枠組みは関税交渉を含まないため、TPP11やRCEPのような貿易拡大による経済拡大効果は期待できないという議論もあるが、本分析が示唆するように日本のサプライチェーンの政策転換を促進することで成長の中長期的な課題解決への効果があると考えられる。

本文

はじめに

コロナ・パンデミックは世界経済の急速なグローバリゼーションの進展に伴う諸リスクに警鐘を鳴らし、それへの対応を促したが、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻はその動きを決定的なものとした。
ロシアのウクライナ侵攻に対応して、米国、EU(NATO諸国)、及び日本を中心に即座にロシアに対して経済制裁を課した。ロシアもこれに報復し、侵攻が長期化しウクライナ情勢は一層悪化する中で、資源価格は高騰しインフレは加速した。原油価格高騰幅の大きさから、今回はこれまでの石油危機に匹敵する影響を企業や家計にもたらすことが危惧されている。一方、インフレの加速を阻止するために米国は金融政策を緊縮に転換したが、日本は金融緩和政策を維持する結果、大幅な円安・ドル高局面が出現している。このように、2022年の世界・日本経済にとって、(1)ゼロコロナ政策、(2)資源価格高騰、(3)円安進行が主要な先行きリスクとなっている。
本稿では、ウクライナ情勢の深刻化から見えてきた日本経済や関西経済が直面する潜在的なリスクを分析する。以下では、ロシアのウクライナ侵攻の影響をみるために、まず 1.においてロシアと世界の貿易関係を概観し、2.では各国・地域の対ロシア貿易の状況と貿易依存度を品目別に整理する。3.では日本と関西の対ロシア貿易状況と貿易依存度を品目別に把握する。またサプライチェーンの観点から日本経済や関西経済が直面する潜在的なリスクの分析を行う。おわりにでは、分析を整理し含意を述べる。

 

1. 貿易依存関係からみたロシアのウクライナ侵攻の経済的影響

2022年4月のIMF(2022b)のWEO(World Economic Outlook)によれば、世界経済の成長率は22年+3.6%と予測されているが、前回見通し(IMF(2022a))から-0.8%ポイントと大幅下方修正されている。この背景には、ゼロコロナ政策の影響に加え、ロシアのウクライナ侵攻の影響が色濃く反映されている。侵攻に対して、米国、EU(NATO)、日本等の主要国はロシアに経済制裁を課し、ロシアは報復措置を行うという一連の連鎖の影響が世界経済減速に繋がっている。同予測ではロシア経済は-11.3%と2桁のマイナス成長、EU経済も+2.3%と大幅な減速(前回予測比-1.1%ポイント)が予測されている。
ロシアのウクライナ侵攻による影響は、商品市況、貿易、金融市場の経路を通じて出て来る。ここでは貿易関係に注目する。表1-1は関係する国・地域の経済規模と貿易依存度(輸出入比率)を示している。IMFのデータベース(DataMapper)によれば、2021年世界各国の名目GDP(世界GDPに占めるシェア)を降順にみれば、米国 23.0 兆ドル(23.9%)、中国17.5兆ドル(18.1%)、EU17.1兆ドル(17.8%)、日本4.9兆ドル(5.1%)、ロシア1.8兆ドル(1.8%)となっている。次に国・地域の輸出入額をそれぞれの名目 GDP で除した貿易依存度をみると、輸入は各国・地域とも 12~15%の範囲に収まっているが、輸出は 8~23%とその幅は広い。米国は輸出比率(7.6%)が低く、輸入比率(12.8%)が高いが、中国やロシアでは逆に輸出比率(19.3%、22.9%)が輸入比率(15.3%、12.7%)を大きく上回っている。中国は多くの製造業品の輸出で、ロシアはエネルギー関連商品の輸出でそれぞれの輸入額を上回り、貿易黒字を稼いでいることが分かる。一方、日本、EUは輸出比率(15.3%、15.1%)、輸入比率(14.6%、15.6%)ともに、バランスの取れたものとなっている。

 

 

表1-2は各国の貿易状況を国・地域別でみたものである(trade matrix)。各国・地域の対ロシア輸入シェアをみると、米国(1.0%)と日本(1.8%)は相対的に低いが、中国(2.9%)や EU(6.8%)は高い。次に各国・地域の対EU輸入シェアをみると、ロシア(39.8%)、米国(17.1%)、中国(11.5%)、日本(11.1%) となっている 。対中輸入シェアをみれば、 ロシア(29.9%)、日本(24.0%)、EU(22.3%)、米国(18.5%)の順となっている。また、対米輸入シェアをみると、EU(10.9%)、日本(10.7%)、中国(6.7%)、ロシア(2.8%)の順となっている。

 

表1-2 国・地域別の貿易シェア:2021年 (単位:%)

出所: UN Comtrade、財務省『普通貿易統計』から筆者計算。

 

ロシアのウクライナ侵攻の直接的・間接的なインパクトを理解するために、表1-1、1-2及び参考図表(後掲)を用いて、図1を作成した。ロシアの経済規模はEUの10分の1程度である。EUは輸出総額(2兆5,756億ドル)のうち4.1%(1,045億ドル)がロシア向けである。EU輸入総額(2兆4,942億ドル)のうち6.8%(1,688億ドル)がロシアからである。
EUと中国の経済規模はほぼ同じである。貿易関係を見ると、中国の輸出総額(3兆2,991億ドル)に占める対EU輸出シェアは15.1%(4,981億ドル)、中国の輸入総額(2兆6,844億ドル)に占める対EU輸入シェアは11.5%(3,098億ドル)である。
日本の経済規模は中国の約 30%である。日本の輸出総額(7,571億ドル)に占める対中輸出シェアは 21.6%(1,639億ドル)、輸入総額(7,723億ドル)に占める対中輸入シェアは24.0%(1,857億ドル)である。関西貿易の対中輸出シェアは26.2%、対中輸入シェアは32.3%といずれも日本全体の対中シェアよりも高く、関西経済は高度に中国経済に依存しているのが特徴である。
今回のロシアのウクライナ侵攻に対する欧米諸国(NATO)及び日本の対ロシア経済制裁とロシアによるエネルギー関連財の報復により、EUの景気減速の可能性が高まった。図1が示すように、EUと中国の貿易関係は強く、EU経済の減速は対中輸入(中国の対EU輸出)の減速を通じて中国経済に下押し圧力となる。また、中国と日本の貿易関係は深く、特に関西経済の対中貿易依存度は高い。
このため、中国経済が減速すれば、対中輸出の減速を受けて関西経済の景気減速は不可避となろう。
加えて、今般の中国のゼロコロナ政策による対中輸出の減少は関西経済にとって更なる重荷となる。
日本の直接的な対ロシア貿易依存度は低いため、ウクライナ情勢の深刻化からくる(日ロ貿易を通した)直接的な影響は小さいが、ロシア→EU→中国→日本(関西)の強い貿易関係からくる間接的なインパクトは無視できない。

 

 

2. 各国の対ロシア貿易状況と依存度

前項ではロシアのウクライナ侵攻の世界経済への影響経路を貿易面から明らかにした。本項では、主要国・地域の対ロシア貿易(輸出入額)の状況(2021年)を品目別(HSコード4桁の上位10品目)でみる。ここで、貿易シェアと、個別財の貿易シェアを以下のように定義する。

 


i は貿易当該国、j は貿易相手国
ここで、𝑋𝑖𝑗は第 i 国と第 j 国の貿易額、 𝑋𝑖𝑗
𝑘は財 k の第 i 国と第 j 国の貿易額を表す。

 

また、自国(i)の相手国(j)に対する貿易シェア(1)と個別財の貿易シェア(2)を比較することにより、当該国・地域の個別貿易財のリスク指標とした。相手国の貿易シェアが低くとも、個別財ベースで貿易シェアが高いケースが出てくる。このため、両指標を客観的に分析することが重要となる。今般のウクライナ情勢の悪化により、特定の財の供給が途絶した場合、当該国・地域の経済活動の停止につながり、安全保障上大きなリスクとなる。このリスク指標が高いほどサプライチェーンに負荷がかかるが、戦争状態だけでなく、災害やパンデミックが起こった場合でも同様である。

 

2-1. 米国の対ロシア貿易依存度:品目別

米国の対ロシア貿易概況をみれば、2021年において対ロシア輸出額は64億ドル、輸入額は308億ドルとなっている。米国の輸出入総額(輸出額:1兆7,531億ドル、輸入額:2兆9,330億ドル)に占めるシェアは、輸出が0.4%、輸入は1.0%程度となっており、米国の対ロ貿易依存度は高くない(表2-1)。
以下の表では、1列目に貿易金額上位10品目を示し、2列目にはその金額と総額、3列目に財別の貿易シェアと対ロシア貿易のシェア(総額ベース)を示す。最後に第4列では、上で定義された個別財の貿易シェア(2)と総額ベースのシェアが示されている。
米国の対ロシア輸出について、上位10品目をみれば、自動車の部分品(6.7%)、自動車(4.7%)、航空機類(3.4%)など輸送用機械が比較的高いシェアを占めている。一方、対ロシア輸入をみれば、石油及び同調整品(42.9%)が大部分を占める。次いで原油(15.7%)、プラチナ(8.0%)、銑鉄など(3.9%)、甲殻類(3.6%)と続く。エネルギー関係で対ロ輸入全体の6割となっていることが特徴である(表 2-1)。
米国の対ロシア輸出の上位10品目の依存度をみると、輸出総額の対ロシア依存度(0.4%)と比較して、高いのは航空機類(6.1%)である。一方、輸入総額の対ロシア依存度(1.0%)に比して、銑鉄など(35.0%)、鉄類(21.9%)、放射性化合物(21.6%)、石油および同調整品(20.6%)や窒素肥料(20.2%)の依存度が高い(表 2-1)。ただし、石油および同調性品の依存度は高いが、米国は原油生産については自国で供給可能であり、安全保障上問題はない。

 

 

2-2.EU の対ロシア貿易依存度:品目別

EUの対ロシア貿易概況をみれば、2021年において対ロシア輸出額は1,045 億ドル、輸入額は1,688億ドルとなっている。EUの輸出入総額(輸出額:2兆5,756億ドル、輸入額:2兆4,942億ドル)に占めるシェアは、輸出が4.1%、輸入は6.8%程度となっており、EUの対ロ貿易依存度は米国に比して比較的高い。
EU の対ロシア輸出について上位10品目をみれば、医薬品(6.5%)並びに自動車の部分品(3.7%)や自動車(3.5%)で 14%程度となっている。一方、EUの対ロシア輸入をみれば、原油(34.0%)、石油及び同調整品(15.8%)、石油ガス(13.2%)、石炭及び練炭(3.6%)と、エネルギー関連財が66.6%と非常に高い(表 2-2)。
EUの上位10品目の依存度をみると、輸出総額の対ロシア依存度(4.1%)と比較して、高いのは遠心分離機(7.1%)、データ処理機械(6.5%)、自動車の部分品(6.2%)などである。一方、輸入総額の依存度(6.8%)に比して、鉄類(50.8%)、石炭及び練炭(45.2%)、石油および同調整品(39.4%)等が高い(表 2-2)。原材料及びエネルギー関連財のロシア依存度が非常に高い。ウクライナ情勢の深刻化により、これら製品の輸入が大きく減少し、対ロシア依存度が高いがゆえにEU経済にとっては大きな痛手となっている。

 

 

2-3.中国の対ロシア貿易依存度:品目別

中国の対ロシア貿易概況をみれば、2021年において対ロシア輸出額は669億ドル、輸入額は790億ドルとなっている。中国の輸出入総額(輸出額:3兆2,991億ドル、輸入額:2兆6,844億ドル)に占めるシェアは、輸出が2.0%、輸入は2.9%程度となっており、中国の対ロ貿易依存度はEUと比べれば低いが、米国や後に示す日本と比べれば高い。
中国の対ロシア輸出について上位10品目をみれば、電話機(8.0%)、データ処理機械(4.9%)が高い。一方、輸入をみれば、原油(51.3%)が圧倒的に高く、次いで石炭及び練炭(8.9%)等が続く(表2-3)。
中国の上位10品目のシェアをみると、輸出総額の対ロシア依存度(2.0%)と比較して、高いのは衣類及び同附属品等(54.8%)が圧倒的に高く、次いで自動車(6.2%)、履物(4.8%)と続く。一方、輸入総額の依存度(2.9%)に比して、木材(38.7%)、冷凍魚(29.6%)、石炭及び練炭(26.1%)や原油(15.7%)等が高い(表 2-3)。輸入市場としては、中国は原材料やエネルギーのロシア依存度が高いといえよう。

 

 

3. 日本と関西の対ロシア貿易状況と依存度

前項では主要国・地域の対ロシア貿易依存度を品目別にみた。本項では、財務省『普通貿易統計』を用いて日本及び関西の対ロシア貿易(輸出入)の状況を概況品別に見ていこう。

3-1. 日本の対ロシア貿易状況と依存度:品目別

日本の対ロシア貿易概況をみれば、2021年において対ロシア輸出額は8,624億円、輸入額は1兆5,489億円となっている。日本の輸出入総額(輸出額:83兆914億円、輸入額:84兆7,607億円)に占めるシェアは、輸出が1.0%、輸入は1.8%程度となっており、日本の対ロ貿易依存度は米国と同様高くない。
日本の対ロシア輸出について、上位10品目をみれば、自動車(41.5%)、自動車の部分品(11.6%)や建設用・鉱山用機械(6.7%)となっている。日本の対ロシア輸出市場では、自動車や自動車の部分品、原動機(車両用)が中心で、自動車関連物品で輸出全体の50%を超えている。輸入では、天然ガス及び製造ガス(24.0%)、石油及び同製品(19.1%)、非鉄金属(18.9%)、石炭、コークス及び練炭(18.3%)、魚介類及び同調整品(8.9%)や木材(3.4%)が上位となっており、エネルギー関連財、原料及び食料が中心といえる。
日本の対ロシア輸出の上位10品目の依存度をみると、輸出総額の対ロシア依存度(1.0%)と比較して、高いのはゴム製品(5.3%)や建設用・鉱山用機械(4.4%)が挙げられるが、対ロシア依存度は低いといえよう。一方、輸入総額の対ロシア依存度(1.8%)に比して、木材(13.1%)、非鉄金属(10.3%)、石炭(9.8%)や魚介類及び同調整品(9.1%)は高い。これらの輸入停止は建設業、エネルギー産業や飲食業に与える影響は大きいと考えられる。

 

 

3-2. 関西の対ロシア貿易状況と依存度:品目別

関西の対ロシア貿易概況をみれば、2021年において対ロシア輸出額は1,431億円、輸入額は1,414億円となっている。関西の輸出入総額(輸出額:18兆6,002億円、輸入額:15兆4,888億円)に占めるシェアは、輸出が0.8%、輸入は 0.9%程度となっており、日本全体と比較すると、関西の輸出シェアは同程度だが、輸入シェアは低いものとなっている。
次に上位10品目でみると、輸出は建設用・鉱山用機械(29.6%)がトップで、自動車(16.5%)、原動機(6.6%)、荷役機械(5.6%)や自動車の部分品(4.3%)が続く。一方、輸入をみれば、天然ガス及び製造ガス(45.2%)、石炭、コークス及び練炭(20.7%)、魚介類及び同調整品(8.7%)や鉄鋼(6.4%)が中心となっている。
関西の対ロシア輸出の上位10品目の依存度をみると、総額の対ロシア依存度(0.8%)と比較して、高いのは、自動車(10.9%)、建設用・鉱山用機械(6.5%)、荷役機械(5.0%)となっている。一方、関西の対ロシア輸入依存度をみると、輸入総額に占めるロシアの依存度(0.9%)と比較して、高いのは石炭、コークス及び練炭(11.8%)、天然ガス及び製造ガス(7.5%)、魚介類及び同調整品(5.4%)である。石炭、コークス及び練炭では関西は日本全体より高い依存度となっている。

 

 

おわりに

これまでの分析で明らかになったように、ロシアのウクライナ侵攻に伴う直接的な影響は、EU-ロシア間の貿易に顕著に出ている。EUの対ロシア輸入依存度を品目別でみれば(表2-2)、総額に比して、鉄類、石炭及び練炭、石油および同調整品等が高い。特にエネルギー関連財を中心にロシアへの依存度は非常に高い。今回のロシアのウクライナ侵攻に対する欧米諸国(NATO)及び日本の対ロシア経済制裁とロシアによるエネルギー関連財の報復により、EU経済は景気減速の可能性が高まってきている。ウクライナ情勢の深刻化は、EUに対ロシアエネルギー依存からの脱却を迫っているが、調整には時間がかかるため、EU経済にとっては当面、経済下押し圧力が働くことになる。一方、日本の対ロシア輸入依存度は米国とともに総額では低いが、品目別にみると木材、非鉄金属、石炭や魚介類及び同調整品は相対的に高い(表3-1)。このため、これらの財の輸入停止は、建設業、エネルギー産業や飲食業に大きな影響を与えよう。また関西経済の対ロシア輸入依存度は、石炭、コークス及び練炭、天然ガス及び製造ガス、魚介類及び同調整品が高く、なかでも、石炭、コークス及び練炭の依存度は日本全体よりも高くなっている(表3-2)。このように貿易相手国の個別財貿易シェアと全体の貿易シェアとの比較はサプライチェーンのリスク指標となる。

次にウクライナ情勢悪化に伴う、日本及び関西経済への間接的な影響を考えてみよう。その際、重要なのは図1で示したように、EUと中国の貿易依存度関係である。実際、EUと中国の貿易関係は強く、このためEU経済の減速は対中輸入(中国の対EU輸出)の減速を通じて中国経済に下押し圧力となる。また、中国経済の減速により、対中貿易依存度の高い日本及び関西経済にとっては、逆風となる。これらがウクライナ情勢深刻化の間接的な影響である。ロシアのウクライナ侵攻の経済的影響を考える場合、上述したように、直接的な影響と間接的な影響を併せて考慮すべきであろう。

2022年バイデン米国大統領の訪日に合わせて、IPEF発足の議論が展開された。関税交渉を含むTPP11やRCEPのような貿易拡大による経済拡大効果は期待できないという議論もあるが、むしろ日本の政策転換を促進することで、IPEFは中長期的な課題解決への効果があると考えられる。具体的には、IPEFは①貿易、②供給網(サプライチェーン)、③インフラ・脱炭素、④税・反汚職の4分野で構成されている。このうち、ウクライナ侵攻とコロナ禍は日本や関西の企業に供給網(サプライチェーン)の強化と見直しや脱炭素への積極的な取り組みを要請している。これまで効率を求めていた企業のグローバリゼーションは、中長期的には見直しを迫られており、持続可能な成長を目指す上でIPEFが示すような政策転換は重要である。アジア全体とのバランスをとり、21世紀の競争にともに勝つことができるために、日本や関西が何をすべきかを訴えているといえよう。

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    • 2月の新設住宅着工戸数は3カ月ぶりの前月比減少。貸家は増加だが、持家、分譲は減少となった。特にマンションの大幅な落ち込みが全体を押し下げた。
    • 2月の建設工事は公共工事が引き続きマイナスとなり2カ月連続の前年比減少。また、3月の公共工事請負金額も3カ月連続の同減少となった。
    • 3月の現状判断DIは2カ月ぶりの前月比悪化。天候不順の影響で春物商材の売行きが伸びなかったことが影響した。また、先行き判断DIも物価やコストの上昇に加え、人手不足への不安感の高まりから2カ月ぶりの悪化となった。
    • 3月の貿易は輸出が2カ月ぶりに前年比増加に転じた。中国向け輸出が好調で、3月としては過去最高額を更新した。一方、輸入は2カ月ぶりに前年比減少し、23年12月以来の2桁マイナスとなった。
    • 3月の関空経由の外国人入国者数は桜のシーズンやイースター休暇の影響もあり、開港以来過去最高値を記録。インバウンド需要は好調に推移している。
      中国の1-3月期実質GDPは前年同期比+5.3%と前期からわずかに加速した。足元は生産の堅調な推移が続くが、雇用回復の遅れと不動産市場の不況は依然として改善が見られず、消費の回復の勢いは鈍化している。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。
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    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、2月の訪日外客総数(推計値)は278万8,000人、2019年同月比+7.1%であった。春節休暇やうるう年で日数が増加した影響もあり、単月過去最高を更新した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば12月は273万4,115人。うち、観光客は255万1,290人、商用客は8万703人、その他客は10万2,122人であった。

    ・国土交通省が公表した2024年夏季運航スケジュール(3月31日~10月26日)によれば、国際線の旅客便は週4,875便で、19年同期比-7%とコロナ禍前をほぼ回復。面別にみれば、韓国、米国はコロナ禍前を上回った一方、中国は依然コロナ禍前の6割程度にとどまっている。今後、中国を除くアジア地域を中心に回復が見込まれるが、中国人客は緩やかな回復にとどまろう。

     

    【トピックス1】

    ・関西2月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、2カ月ぶりの前年比減少。一方、輸入は11カ月ぶりに増加した。結果、貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。

    ・1月のサービス業の活動は2カ月連続の改善だが小幅にとどまり、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は2カ月連続の前月比上昇。また、対面型サービス業指数も2カ月連続で同上昇した。観光関連指数はコロナ5類移行後初めての年始休暇の影響もあり、劇場・興行団や旅客運送業が上昇に寄与し、2カ月連続の同上昇となった。

     

    【トピックス2】

    ・12月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,068.0千人泊で、2019年同月比+12.8%と4カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は7,593.7千人泊、2019年同月比+3.1%と4カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,474.3千人泊となり、同+41.6%と5カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西各府県の訪問率をみれば、大阪府39.3%が最も高く、次いで京都府28.9%、奈良県6.8%、兵庫県5.5%、和歌山県1.2%、三重県0.8%、滋賀県0.6%、鳥取県0.3%、徳島県0.2%、福井県0.2%と続く。

    ・2023年10-12月期の関西2府4県の訪日外国人消費単価(旅行者1人1回当たりの旅行消費金額)は19年同期比+29.2%増加。費目別では、飲宿泊費や娯楽等サービス費が大幅増加した。

    ・関西2府4県の訪日外客数と消費単価を用いて、2023年10-12月期の関西における消費額を推計した。結果、訪日外客消費額は4,164億9,716万円となり、19年同期比では+25.7%とコロナ禍前を回復した。

     

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  • 稲田 義久

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    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    3月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では3月末までに発表されたデータを更新した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、1-3月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ2/3が更新された。

    ▶10-12月期GDP2次速報によれば、実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と1次速報から上方修正。結果、2四半期連続のマイナスから2四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶2月の生産指数は前月比-0.1%小幅低下し2カ月連続のマイナス。結果、1-2月平均は10-12月平均比-6.2%低下した。生産の基調判断は「一進一退ながら弱含み」。

    ▶1-2月平均を10-12月平均と比較すれば、建築工事費予定額は-3.0%、資本財出荷指数は-11.4%低下した。1月を10-12月平均と比較すれば、実質総消費動向指数は-0.6%減少だが、公共工事は+1.8%増加した。消費、住宅投資、企業設備と民間需要の低迷が目立つ。

    ▶1-2月平均の輸出入動向(日銀ベース)を10-12月平均と比較すれば、実質輸出額は-4.0%、実質輸入額は-7.3%、それぞれ減少した。財貨の実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はプラスとなっている。

     

    1-3月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-3.0%と予測する。生産サイドは同-4.2%と予測。結果、平均予測(同-3.6%)は市場コンセンサス(同-0.36%)より低めとなっている(図表1参照)。

     

    図表1

     

    1-3月期インフレ予測の動態

    ▶2月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.8%、インフレ率は4カ月ぶりに前月から拡大。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+3.2%と23カ月連続の上昇。インフレ率は6カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、1-3月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.1%、国内需要デフレータを同+0.2%と予測している。一方、交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.0%と予測する(図表2参照)。

     

    図表2
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.131-景気は足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆し: 生産回復の遅れが景気下押しリスク-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 新田 洋介 / 宮本 瑛 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆しがみられる。足下、生産は大幅減産となった。雇用環境は失業率が小幅悪化したものの、労働力人口と就業者数はともに増加していることもあり、持ち直している。消費は初売りセールやインバウンド需要の増加で好調。貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は大幅縮小。先行きは令和6年能登半島地震の影響が和らぎつつあるものの、生産回復の遅れが景気の下押しリスクとなろう。
    • 1月の生産は自動車生産の停止が影響し、大幅減産となった。正常化にはしばらく時間を要することもあり、1-3月期は大幅減産となる可能性が高い。
    • 1月の失業率は前月より小幅悪化したが、労働力人口と就業者数はともに増加。また、就業率も前月より上昇した。雇用情勢は持ち直している。なお、一部の産業を除いて、足下では労働需給の動きはともに低調である。
    • 12月の現金給与総額は2カ月ぶりの前年比増加となり、伸びは前月より大きく拡大した。結果、実質賃金の減少は続いているが、減少幅は前月より縮小した。
    • 1月の大型小売店販売額は28カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、23カ月連続のプラス。スーパーも16カ月連続で拡大した。
    • 1月の新設住宅着工戸数は2カ月連続で前月比増加。貸家は減少したものの、持家、分譲は増加となったためである。
    • 1月の建設工事は公共工事がマイナスに転じた影響で25カ月ぶりの減少。2月の公共工事請負金額も2カ月連続の前年比減少となった。
    • 2月の景気ウォッチャー現状判断は2カ月ぶりに前月比改善。令和6年能登半島地震の影響が和らいだことやインバウンド需要の増加が景況感に好影響となった。また、先行き判断は賃上げへの期待もあり、4カ月連続で改善した。
    • 2月の貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は前年比大幅縮小。春節の時期のずれから、対中輸出が減少に転じた影響とみられる。一方、輸入は11カ月ぶりに前年比増加となった。
    • 2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1-2月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。工業生産は前月比で減速となったうえ、個人消費の回復も勢いを欠いている。中国政府は今年の実質経済成長率の目標を「5%前後」と定めたが、個人消費を直接支援する景気刺激策の実施には慎重である。そのため、1-3月期の景気は10-12月期より大きな改善が見込まれないと予想される。
    【関西経済のトレンド】

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  • 盧 昭穎

    「電気・ガス価格激変緩和対策」事業による 負担軽減効果の試算

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    盧 昭穎 / 稲田 義久

    ABSTRACT

    本稿の目的は、「電気・ガス激変緩和対策」事業が家計負担軽減に与える影響を分析することである。2022年の物価上昇は家計に大きな負担をかけ、特にエネルギーコストの上昇が深刻な問題となった。このような状況下において、政府は2023年2月から当該事業を実施し、家計負担の軽減に努めている。本稿では、本事業が適用されない場合の消費者物価指数を試算することにより、緩和対策事業の効果を所得階級別に分析する。結果を要約すれば、以下のとおりとなる。

     

    1. 2023年2月から24年1月までの「電気・ガス激変緩和対策」事業により、一世帯あたり電気代29,119円、都市ガス代4,733円、負担額が軽減された。収入階級別にみると、収入が高い世帯ほど電気の使用量が多いため、負担軽減額は大きくなる傾向がみられた。
    2. 負担軽減額が可処分所得に占める割合をみると、一世帯あたり電気代の平均軽減額が可処分所得の49%を、都市ガスは0.08%を占めた。収入が高い世帯ほど電気の負担軽減額が可処分所得に占める割合は小さくなった。都市ガス代も同様の傾向である。
    3. 緩和措置が適用されない場合の足下の電気と都市ガス代指数は徐々に低下しており、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受ける前の水準に近付いている。緩和措置が適用されない場合の電気と都市ガス代指数を試算することは、緩和措置をいつ終了させるかについての議論に数値的なベンチマークを提供できよう。
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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:1月レポート No.56

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、1月の訪日外客総数(推計値)は268万8,100人、2019年同月比では-0.0%と2カ月ぶりに小幅マイナスに転じたが、コロナ禍前とほぼ同程度となった。なお、国・地域別では韓国、台湾とオーストラリアが単月で過去最高を記録した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば11月は244万890人。観光客は220万6,883人となり、2カ月連続で200万人超の水準となった。

    ・令和6年能登半島地震は新潟県、富山県、石川県、福井県の観光業に大きな影響を与えている。政府は当該地域で落ち込んだ観光需要を喚起するために、3月より「北陸応援割」を開始した。喚起策により、国内旅行者及び訪日旅行者の増加が期待されよう。

    【トピックス1】

    ・関西1月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、9カ月ぶりの前年比増加。一方、輸入は10カ月連続で減少した。貿易収支は12カ月ぶりの赤字となった。

    ・1月の関西国際空港への訪日外客数は70万402人と、2カ月連続で70万人超の水準。低調なアウトバウンド需要に比してインバウンド需要は堅調に推移している。

    ・12月のサービス業の活動は小幅改善だが、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は4カ月ぶりの前月比上昇。また、対面型サービス業指数は2カ月ぶりに同上昇した。観光関連指数も年末の旅行需要増加の影響もあり、旅行業や宿泊業が上昇に寄与し、4カ月ぶりの同上昇となった。

    【トピックス2】

    ・11月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,949.3千人泊で、2019年同月比+10.0%と3カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は8,124.0千人泊、2019年同月比+1.3%と3カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,825.3千人泊となり、同+34.6%と4カ月連続で増加した。日本人宿泊者に比して外国人宿泊者は着実に増加している。

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西2府8県の国内旅行消費額(速報)は1兆1,331億円、19年同期比+12.4%と3四半期連続のプラス。23年通年では4兆1,034億円となり、コロナ禍前(19年比-0.6%)をほぼ回復した。

    ・国内旅行消費額のうち、10-12月期の宿泊旅行消費額は9,101億円で2019年同期比+21.2%となり、2四半期連続のプラス。一方、日帰り旅行消費額は2,230億円。2019年同期比-13.1%と7-9月期(同-21.4%)からマイナス幅は縮小したものの、宿泊旅行消費額に比して回復ペースは緩慢である。

     

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  • 稲田 義久

    令和6年能登半島地震の影響と北陸3県経済 -ストック、フロー、人流を中心に-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 壁谷 紗代 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響が懸念されている。震災によって大きな被害を受けた新潟県、富山県、石川県の3県(以下、北陸3県と記す)の被害状況に基づき、復旧復興の観点からその経済的な影響を考察した。それを整理し得られた含意は以下の通りである。

     

    1. ストックの観点から北陸3県経済をみれば、民間企業資本ストックは、各県とも「サービス」が最も大きい。次いで新潟県、石川県では「農林水産」が、富山県では「化学」が大きい。また、住宅ストックは新潟県が最も大きく、次いで石川県、富山県と続く。
    2. フローの観点から北陸3県経済をみれば、各県とも製造業のシェアが最も高い。うち、新潟県は「食料品」が、富山県は「化学」が、石川県は「はん用・生産用・業務用機械」がそれぞれ最も高いシェアを占めている。
    3. 今回の震災による北陸3県の直接被害(建築物等)を推計すれば、新潟県は5,177億円、富山県は2,946億円、石川県は5,827億円、3県計で1兆3,951億円となる。また、間接被害は4兆円となり、これは2020年度の名目GDPの0.4%に相当する。
    4. 人口移動の観点からみれば、北陸新幹線開業を契機に富山県、石川県でみられたような人口移動が今回の震災を契機に一層進む可能性がある。3月16日に金沢-敦賀間の延伸が実現するが、この効果は福井県では限定的と思われる。
    5. 今回の震災で北陸の観光業の特徴が明らかとなった。北陸は国内市場に強く依存した構造となっている。人口減少が長期トレンド下にあるため、この構造から脱却する必要がある。地域創生戦略にとって、インバウンド需要の一層の取り込みを実現する戦略が重要となろう。

     

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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.130-景気は足下局面変化、先行きは悪化の兆し: 自動車生産停止と中国経済減速がリスク要因

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、10-12月期で均せば低調。雇用環境は失業率が4カ月連続で改善したが、有効求人倍率は悪化が続く。消費は年末商戦や好調なインバウンド需要で堅調。貿易収支は12カ月ぶりに赤字に転じた。自動車生産停止や中国経済減速のリスクもあり、先行き悪化の兆しがみられる。
    • 12月の生産は3カ月ぶりの前月比上昇だが、10-12月期では3四半期ぶりの減産。生産は低調である。
      23年通年の失業率は前年比横ばいだが、労働力人口と就業者数はともに増加し、雇用の回復は順調に進んだ。しかし、10-12月期は労働力人口と就業者数が前期よりいずれも減少し、就業率は低下した。足下では雇用回復の勢いがやや弱くなっている。
    • 11月の現金給与総額は24カ月ぶりの前年比減少。インフレの高止まりにより実質賃金は減少が続き、減少幅は前月より拡大した。
    • 12月の大型小売店販売額は27カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、22カ月連続のプラス。スーパーも15カ月連続で拡大した。
    • 12月の新設住宅着工戸数は2カ月ぶりに前月比増加した。持家、分譲は減少したものの、貸家は増加となったためである。
      堅調な公共工事の影響もあり、12月の建設工事は24カ月連続の前年比増加。しかし、1月の公共工事請負金額は前年比減少に転じている。
    • 1月の景気ウォッチャー現状判断は3カ月ぶりに悪化。令和6年能登半島地震の発生によりサービス関連を中心に悪影響を及ぼした。一方、先行き判断は3カ月連続の改善。春節によるインバウンド需要増加の期待が寄与した。
    • 1月の貿易収支は12カ月ぶりの赤字だが、赤字幅は前年比大幅縮小。輸出は9か月ぶりに同増加に転じた。ただし、春節の時期のずれの影響もあるため、注意が必要である。一方、輸入は10カ月連続で同減少した。
    • 1月の関空経由の外国人入国者数は2カ月連続で70万人超の水準となり、インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。消費者物価指数の低下傾向が顕著になっており、不動産市場の不況も続いている。また、企業の景況感も低迷している。ただし、2月の春節連休は例年より1日多くなっており、観光などレジャーの消費は前年より伸びる可能性が高いため、1-3月期の景気は10-12月期よりわずかな改善が見込まれる。
    【関西経済のトレンド】

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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.68 -内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    1. 2023年10-12月期の関西経済は、内需・外需ともに回復の動きが鈍くなっており、足踏みが続いている。家計部門では消費者センチメント、所得、雇用と多くの指標で伸び悩んでいる。企業部門では、景況感は堅調であるものの、生産は一進一退で弱い動きとなっている。対外部門は、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しているが、財輸出は前年割れが続いている。
    2. 家計部門は足踏み状態にある。大型小売店販売はインバウンド需要など客足の回復で堅調であるが、センチメント、所得・雇用環境、住宅市場など幅広い指標で弱い動きとなっている。物価上昇ペースは緩やかになってきたものの、賃上げ機運にも落ち着きが見られ、実質賃金の目減りが個人消費に影を落としている。
    3. 企業部門は、緩やかに持ち直しているが、生産など一部に弱い動きが見られる。景況感は製造業・非製造業ともに持ち直した。また今年度の設備投資計画は今のところ製造業・非製造業とも旺盛となっている。ただ生産は一進一退続きで、3四半期ぶりの減産となるなど回復の足取りは鈍い。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに低調である。輸出では全国と対照的に、関西は3四半期連続の前年割れとなっている。一方インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高などではコロナ禍前の水準を回復し、その後も増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、万博関連需要を背景に、引き続き堅調に推移している。
    6. 関西の実質GRP成長率を2023年度+1.4%、24年度+1.5%、25年度+1.5%と予測。22年度以降1%台の緩やかな回復基調が続き、24年度以降は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、23年度は+0.1%ポイントの上方修正、24年度は-0.1%ポイントの下方修正、25年度は+0.1%ポイントの上方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は23年度+0.3%ポイント、24年度+0.9%ポイント、25年度+1.2%ポイントとなり、24年度に入って緩やかに回復する。公的需要は万博関連の投資により23年度+0.4%ポイント、24年度+0.3%ポイントと成長を下支えるが、25年度には剥落する。域外需要は、23年度は+0.7%ポイント、24年度+0.3%ポイント、25年度+3%ポイントとなる。
    8. 日本全体に比べて、予測期間通じて関西経済が増勢となる。23年度は設備投資を中心に民間需要・公的需要ともにやや増勢となる。一方外需は中国向け輸出の停滞から全国に比べると寄与は小幅となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要により全国を上回る伸びとなる。25年度も域外需要の押し上げから関西が全国を上回る。
    9. 今号のトピックスでは「令和6年能登半島地震の北陸3県経済への影響」および「大阪・関西万博の経済波及効果」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->