研究成果

research

DMOの観光誘客の取組とその効果(3) -マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:奈良県の事例から-

Abstract

1.  宿泊施設数をみれば、県全体の宿泊施設数は増加傾向にある。うち、奈良市などを含むAエリアでは増加しているが、吉野町などが含まれるDエリアでは減少傾向で推移している。また、宿泊施設数をタイプ別にみれば、Aエリアでは旅館が減少する一方でホテルが増加傾向で推移している。また、Dエリアでは旅館、簡易宿所ともに減少している。

2.  宿泊施設の定員数をみれば、Aエリアではホテルの定員数の増加が全体の押し上げに寄与しているが、Dエリアでは旅館の減少が影響し、全体を押し下げている。旅館の平均稼働率をみれば、Aエリア31.1%に対し、Dエリア11.8%と極端な低水準にとどまっている。これまで宿泊施設不足が課題であったが、この問題は県北部では着実に解消されつつある。一方、県南部では低稼働率と宿泊施設の不足は解消されていない。

3.  外国人宿泊者比率は、WEST NARAエリアや吉野町では着実に上昇しているが、奈良市のシェアは圧倒的に高い。京都府の分析事例と同様に、集中している地域からいかに他地域への周遊を促進させるかが今後の課題となる。すなわち、県南部への宿泊を伴うプログラムの造成が重要となろう。

4.  このためにも、各DMOが行う誘客プロモーション及びコンテンツ開発は重要である。例えば、地域の自然資源を活用した体験プログラムの造成などの、県南部へ外国人観光客のみならず日本人観光客をも周遊させる魅力的な仕組みづくりが一層重要となろう。その際、外国人と日本人とに分けるだけでなく、外国人に対しては国・地域ごとの嗜好に合わせて各地域がもつ強みを訴求することが重要となろう。

本文

はじめに

コロナ禍による緊急事態に対応するために、奈良県の観光戦略の改訂版である『奈良県観光総合戦略』の概要では、「日帰り観光客の比率が高く、1人あたり観光消費額が低いことから、経済活性化のためには、1人あたり観光消費額が高い、宿泊を伴う周遊・滞在型観光を促進することが必要。また、県内全域への周遊につなげるため、交通・道路体系のさらなる整備や、奈良県産食材を使ったおいしい食の提供などの要素も必要」とされている(表1、強調太字(ボールド)は筆者)。
上記の観光総合戦略から本稿では「日帰り観光客の比率」、「宿泊を伴う周遊・滞在型観光の促進」や「観光資源の磨き上げ」をキーワードに分析を行った。はじめに「日帰り観光客の比率」について、観光庁『旅行・観光消費動向調査』からこれまでに分析を行った京都府、和歌山県と奈良県における日帰り旅行者数及び宿泊旅行者数を比較しよう(図1)。図をみれば、京都府は日帰り旅行者、宿泊旅行者がいずれも多く、和歌山県は宿泊旅行者が日帰り旅行者を総じて上回っている。一方、奈良県は宿泊施設不足の影響もあり、日帰り旅行者が宿泊旅行者を常に上回っており、県の観光戦略においても指摘されている宿泊を伴う周遊・滞在が依然課題であるといえよう。次節では「宿泊を伴う周遊・滞在型観光の促進」に注目して県内の宿泊施設の状況から観光動態について分析を行う。

 

 

 

1. 奈良県の観光動態

本節では奈良県が公表している『奈良県宿泊統計調査』を基礎統計とし、県の観光動態を整理、分析する。前述した「宿泊を伴う周遊・滞在型観光の促進」の観点から、県が抱える宿泊施設不足の課題に注目し、県内の宿泊施設数、宿泊施設タイプや収容人数等の基礎データから、図2で示しているエリアごとの特徴を明らかにする。なお、エリア別の分析については後述するDMOのマネジメントエリアに関係する市町村(奈良市、斑鳩町、吉野町)を含むA及びDエリアに限定する。

本統計調査におけるエリア区分は以下の通りである。
A:奈良市、生駒市、天理市、大和郡山市、香芝市、平群町、三郷町、上牧町、王寺町、斑鳩町、安堵町、田原本町、広陵町、山添村
B:大和高田市、橿原市、葛城市、桜井市、御所市、明日香村
C:宇陀市、曽爾村、御杖村、東吉野村
D:吉野町、大淀町、下市町、黒滝村、天川村
E:五條市、野迫川村、十津川村
F:川上村、上北山村、下北山村

 

1-1. 『奈良県宿泊統計調査』からみた主要エリア別特徴

【宿泊施設数】
図3は県内の宿泊施設数の推移をエリア別に見たものである。施設総数は2011年の553件から16年には429件まで減少したが、好調なインバウンドの影響を受け17年以降増加傾向に転じ、足下20年は502件となった。ただ、11年の水準を依然下回っていることに注意が必要である。ちなみに、20年における京都府の宿泊施設総数は4,343件、和歌山県は922件といずれも奈良県を上回っており、他府県と比べて宿泊施設が比較的少なく、宿泊施設の不足感が確認できる。

 

エリア別にみれば、奈良市や斑鳩産業がマネジメントエリアとする斑鳩町を含むAエリアは2011年の205件から16年に158件まで減少するも、17年以降増加し、20年は218件となっている。
この背景には後述するように簡易宿所の増加が寄与していると考えられる。また、吉野ビジターズビューローがマネジメントエリアとする吉野町を含むDエリアをみれば、11年の121件から17年に95件まで減少し、18年以降は微増にとどまり11年の水準に戻っていない(20年99件)。

 

 

次に図4はエリア内の宿泊施設数をタイプ別にその推移をみたものである。各エリアの特徴は以下の通りである。

<Aエリア>
エリア内の宿泊施設数をタイプ別にみれば、旅館は2011年の117件から減少傾向で推移し、17年に底打ちし(63件)、足下20年には75件となっている。この間、旅館は42件の純減である。次にホテルをみれば、11~16年までは3件(33件→36件)の微増、17~20年にかけては15件の大幅増加(36件→51件)となった。この間、18件の純増である。簡易宿所をみれば、11年から14年にかけて減少傾向で推移するも、15年以降増加に転じ、インバウンド需要拡大の影響を受け20年には92件まで増加している。この間、37件の純増である。Aエリアでは、旅館数の減少をホテルと簡易宿所の増加が補っている。

<Dエリア>
エリア内の宿泊施設数をタイプ別にみれば、旅館は2011年の54件から減少傾向で推移し、足下20年には38件となっている。この間、16件の純減となっている。次に簡易宿所をみれば、11年の49件から14年にかけて減少傾向で推移し、15年以降幾分増加したものの、16年以降は再び減少に転じ、20年は42件となっている。この間、7件の純減である。Dエリアでは、宿泊施設はいずれも減少している。

 

 

【宿泊施設の定員数】
宿泊受け入れ能力を把握するのに重要なのは、宿泊施設数より定員数の増減である。ここでは各エリアにおける宿泊施設の定員数の推移をみる(図5)。
はじめにAエリアの定員数をみれば、2011年(1万4,324人)から減少傾向で推移し、15年(1万1,922人)には底にうち、以降増加傾向を示している。足下20年は1万5,125人と11年の定員数を800人程度上回っている。この背景には、ホテル数および定員数の増加が影響している。この間、旅館の定員数が3,000人弱の減少に対して、ホテルの定員数は3,700人程度増加した。一方、簡易宿所はほとんど変化がない(後掲参考図表参照3)。
次にDエリアをみれば、2011年(7,510人)から微減または横ばい傾向で推移しており、20年は4,350人まで減少している(19年は6,525人)。うち、旅館の定員数が年々減少(11年3,349人→20年2,442人)していることに加え、簡易宿所も低調(11年1,276人→20年835人)であり、20年はキャンプ場が大幅減少(19年2,884人→1,073人)している影響が大きい(後掲参考図表参照3)。

 

 

【宿泊施設の定員稼働率】
前掲の図5では各エリアの宿泊施設の定員数を確認したが、ここではAとDエリアにおける宿泊施設の定員稼働率6の推移を月次ベースでみてみよう。なお、宿泊施設の稼働率は両エリアで比較可能な旅館に注目している。また稼働率の季節性をみるためにも月次ベースで確認している。
図6が示すように、Aエリアでは主として5月、10月に上昇する一方で、Dエリアでは4月、8月に上昇する傾向(季節性)がみられる。
また、エリア別宿泊施設定員稼働率(後掲参考図表4)に基づく記述統計(後掲参考図表5)が示すように、2011年~19年間の平均旅館稼働率は A エリアでは 31.1%だが、Dエリアでは11.8%と低い。次に両エリアの稼働率の最大値と最小値をみれば、Aエリアでは54.5%、12.9%、最大値と最小値の幅は41.6%ポイントあるのに対し、Dエリアでは37.6%、1.8%、最大値と最小値の幅は35.8%ポイントである。Aエリアと比べてDエリアでは稼働率の最小値が2%程度と極端に低い時期がある。吉野町を含むDエリアでは、桜の開花時期や夏のレジャーシーズンに観光客が集中している一方で、閑散期である時期には観光客がほとんど訪問していないこともあり、季節の平準化が課題であると言えよう。

 

 

2. 奈良県主要 DMO のエリア別特徴と誘客効果分析

2-1. 奈良県内 DMO エリアの地理的分布

奈良県観光総合戦略では、「宿泊を伴う周遊・滞在型観光の促進」が重要視されているとともに、「観光資源の磨き上げ」についてはDMOの役割が重視されている。まず、奈良県に所在するDMOの分布状況を確認しよう。
図7及び表2が示すように、奈良県内には2つの地域 DMO(斑鳩産業と吉野ビジターズビューロー)と1つの地域連携 DMO(奈良県ビジターズビューロー)が存在している。
斑鳩産業は、民間会社を経営しつつも、DMOとしても活動しているという特徴を有している。斑鳩町をマネジメントエリアとしているが、2021年に近隣自治体である大和郡山市・平群町・三郷町・安堵町・王寺町と連携して「WEST NARA広域観光推進協議会」を設立し、観光誘客に取り組んでいる。
吉野ビジターズビューローは、吉野町をマネジメントエリアとし、町内の各観光協会、商工会、地元金融機関、農林漁業者等、幅広い分野の関係者と連携し観光誘客策を進めている。
また奈良県ビジターズビューローは、奈良市内に位置し、県全域をマネジメントエリアとしている。

 

 

 

2-2. 奈良県主要 DMO の設立と活動状況

次に前項で示したDMOの活動状況をみていこう。
表3は斑鳩産業の設立経緯と活動状況を示している。斑鳩産業は2014年1月に法人が設立され、19年1月に地域DMO(候補法人)として登録された。同年2月には観光拠点「奈良斑鳩ツーリズムWaikaru」を開設し、7月に一棟貸の宿である「いかるが日和」のオープンに取り組んだ。20年1月に改めて地域DMOとして登録され、前述のように 21 年には「WEST NARA広域観光推進協議会」を設立するなど精力的に観光振興に取り組んでいる。
情報発信としては、ホームページの多言語化やプロモーション動画作成などを行っている。受入環境の整備としては前述した「奈良斑鳩ツーリズム Waikaru」において英語対応が可能なスタッフの雇用やホームページを改良し予約システムの多言語化を行った。また、観光資源の磨き上げにおいては、体験コンテンツ造成、二次交通整備(周遊タクシー・バギー・レンタサイクル)等を行っている。

 

 

表4は吉野ビジターズビューローの活動状況を整理したものである。2013年2月に法人が設立、19年3月に地域DMO(候補法人)として登録され、21年11月に改めて地域DMOとして登録された。情報発信としてはECサイトの開設、自社商品ブランドの開発や行政と連携したプロモーション活動を行っている。受入環境の整備では、吉野山地内に無料のWi-Fiスポットを設置し、観光資源の磨き上げとしては旅行業(第2種)を取得し、多様なツアーの企画を行っている。なお、吉野町が16年に行った「吉野町観光マーケティング調査(平成28年度)」を基にDMOは後述するターゲット層を想定している。

 

 

表5は県域DMOである奈良県ビジターズビューローの活動状況を整理したものである。2009年に設立され、16年4月に地域連携DMO(候補法人)として登録され、18年3月に改めて地域連携DMOとして登録された。情報発信としては、外国人誘客のためのプロモーション活動を奈良県と連携して行っている。受入環境整備としては、橿原市の観光案内所である「かしはらナビプラザ」の運営を受託し、国内外の観光客へ情報発信を行っている。また、観光資源の磨き上げとして、外国人旅行者向けの体験プログラム、十津川村の地域資源を活かしたツアーや体験プログラムの造成等を行っている。

 

 

各DMOは誘客ターゲット層を国内客とインバウンド客に分けてそれぞれ設定しており、それらをまとめたのが表6である。
斑鳩産業は国内客について、首都圏の50~70代または3世代(親・子・孫)グループの宿泊客や、近畿・中部圏の日帰り客をターゲットとしている。また、インバウンド客については欧米豪をターゲットとしている。
吉野ビジターズビューローは国内客について、地域の歴史遺産や自然資源を活かし、個人旅行者(都市部在住の女性)、自然志向型の家族世帯や定年退職後の夫婦世帯などをターゲットとしている。また、インバウンド客については、日本文化に理解があり知的好奇心を持つ外国人やロングトレイルなどの山歩きで自然景観を楽しむ外国人をターゲットとしている。
奈良県ビジターズビューローは国内客について、奈良好きの個人旅行者や首都圏を中心とした富裕層の個人旅行者をターゲットとしている。また、インバウンドについては富裕層の欧米豪を中心とした個人旅行者をターゲットとしている。
以上をみれば、各DMOとも欧米豪を中心としたインバウンド客の誘客に取り組むとともに、国内旅行者をもターゲットとしている特徴がある。そこで次項では、各DMOに関係する市町村における日本人及び外国人宿泊者の動向を観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データから確認する。

 

 

2-3. 『宿泊旅行統計調査』個票データからみた主要DMOのエリア別特徴

はじめに斑鳩産業が設立した「WEST NARA 広域観光推進協議会」の構成市町村のエリア(以下、
WEST NARA エリア)をみれば、全宿泊者数は2012年から14年にかけて増加傾向を示し、15年には一旦減少した。16年は増加したものの、以降は横ばいで推移し、19年は再び減少している。
また日本人宿泊者も同様の傾向がみられる。一方、外国人宿泊者比率をみれば、12年の1.5%から15年に4.8%まで上昇し、以降4%程度で推移している。
次に吉野ビジターズビューローがマネジメントエリアとする吉野町をみれば、全宿泊者数は2012年から14年にかけて減少傾向で推移するが、15年以降増加に転じたのち、16年は再び減少した。
その後、17年に一旦増加するも、以降は減少傾向が続いている。一方、外国人宿泊者比率をみれば、12年の0.7%から上昇傾向を示し、15年には6.0%まで上昇した。その後16年以降、低下傾向を示していたが、19年には8.8%まで上昇している。
最後に奈良市における宿泊者の動向を確認する。全宿泊者数をみれば、2012年以降、16年まで増加傾向で推移し、17年に一旦減少するも、18年以降再び増加に転じている。次に日本人宿泊者数をみれば、12年以降、微増ないし横ばい傾向で推移している一方で、外国人宿泊者比率は12年の3.6%から上昇傾向で推移し、19年に24.7%まで上昇している。このように日本人宿泊者が横ばいで推移している中、外国人宿泊者が全宿泊者数を押し上げている。

 

 

 

 

【国籍別外国人宿泊者のシェア】
図8では、全宿泊者数と日本人宿泊者数及び全宿泊者数に占める外国人宿泊者比率を地域別に見たが、ここでは外国人宿泊者に限定し、国籍別の特徴を見てみよう。

<WEST NARA エリア>
図9をみると、東アジアのシェア(青枠)が2012年から15年にかけて上昇したが(12年:50.7%→15年:70.7%)、16年以降低下傾向で推移している(16年:56.9%→19年:25.8%)。うち、台湾のシェアが大幅低下している(12年:39.2%→19年:7.1%)。
一方、欧米豪のシェア(赤枠)をみれば、2017年以降上昇しており(17年:23.3%→19年:54.8%)、うち、フランスのシェア(白抜き)が19年には全体の3割程度を占めている(17年:5.7%、18年:20.1%、19年:31.0%)。

 

<吉野町>
図10をみると、吉野町では東アジア地域のシェアが総じて高いものの、2015年以降シェアは低下傾向を示している(15年:56.7%→19年:39.4)。中でも、中国のシェアが高く、約2~4割程度を占めている(12年:40.8%→19年:29.2%)。
欧米豪のシェアをみれば、2012年から13年にかけてシェアが上昇し(12年:25.8%→13年:34.0%)、14年以降は2割程度のシェアで推移している(14年:28.9%→19年:23.9%)。うち、アメリカやフランスのシェアが一定程度占めている特徴がみられる。

 

<奈良市>
図11をみると、奈良市では2012年以降東アジアのシェアが年々上昇している(12年:30.1%→19年:65.4%)。うち、中国のシェアをみれば、爆買いの影響もあり14年(32.9%)から15年(49.8%)にかけて、16.8%ポイント上昇している。その後も上昇傾向が続き19年は56.0%と全体の5割強を占めている。
一方、欧米豪のシェアをみれば、2012年から16年にかけて低下し(12年:33.1%→16年:14.7%)、足下19年は17.5%と幾分上昇しているものの、東アジアと比べれば依然低い。

 

3. 分析の整理と含意

これまで基礎統計を用いて、1.では県内の宿泊施設数、定員数及び稼働率をみることによって、次に2.では各DMOが関係する市町村の延べ宿泊者数及び国籍別外国人宿泊者シェアの動態を分析することにより、奈良県の観光戦略が抱える課題に光をあてた。これらの分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

1. 宿泊施設数をみれば、県全体の宿泊施設数は増加傾向にある。うち、奈良市などを含むAエリアでは増加しているが、吉野町などが含まれるDエリアでは減少傾向で推移している。また、宿泊施設数をタイプ別にみれば、Aエリアでは旅館が減少する一方でホテルが増加傾向で推移している。また、Dエリアでは旅館、簡易宿所ともに減少している。

2. 宿泊施設の定員数をみれば、Aエリアではホテルの定員数の増加が全体の押し上げに寄与しているが、Dエリアでは旅館の減少が影響し、全体を押し下げている。旅館の平均稼働率をみれば、Aエリア31.1%に対し、Dエリア11.8%と極端な低水準にとどまっている。これまで宿泊施設不足が課題であったが、この問題は県北部では着実に解消されつつある。一方、県南部では低稼働率と宿泊施設の不足は解消されていない。

3. 宿泊者数や外国人宿泊者比率をみれば、WEST NARAエリアでは日本人宿泊者数は微増または横ばいで推移している一方、外国人宿泊者比率は 2012 年以降上昇し、4%程度で推移している。吉野町では、全宿泊者数が概ね減少傾向で推移している。一方、外国人宿泊者比率は12年から15年にかけて上昇し、足下19年は8.8%まで上昇している。奈良市では、日本人宿泊者数が微増または横ばいで推移している中、外国人宿泊者比率が12年以降上昇傾向で推移し、19年には約25%まで上昇している。

4. 国籍別外国人宿泊者のシェアをみれば、WEST NARAエリアでは、東アジアが一定程度占めているものの、足下は台湾を中心に低下傾向で推移している。一方、欧米豪が2017年以降上昇しており、うちフランスが19年に3割を占めている。吉野町では、東アジアが総じて高いが、15年以降低下している。欧米豪は14年以降、2割程度で推移しており、うちアメリカやフランスなどが一定程度を占めている。奈良市では、東アジアが圧倒的に高く、うち中国が5割強を占めている。一方、欧米豪は幾分上昇しているが、東アジアと比べれば低い。

5. 外国人宿泊者比率は、WEST NARAエリアや吉野町では着実に上昇しているが、奈良市のシェアは圧倒的である。京都府の分析事例と同様に、集中している地域からいかに他地域へ周遊させるかが今後の課題となる。すなわち、県南部への宿泊を伴うプログラムの造成が重要となろう。

6. このためにも、各DMOが行う誘客プロモーション及びコンテンツ開発は重要である。例えば、地域の自然資源を活用した体験プログラムの造成などの、県南部へ外国人観光客のみならず日本人観光客をも周遊させる魅力的な仕組みづくりが一層重要となろう。その際、外国人と日本人とに分けるだけでなく、外国人に対しては国・地域ごとの嗜好に合わせて各地域がもつ強みを訴求することが重要となろう。

おわりに

京都府、和歌山県の事例を踏まえ、本稿の前半では基礎統計を用いて奈良県観光の課題を確認し、後半ではDMOのマネジメントエリア別に誘客効果分析を行った。結果、戦略で示された課題である「宿泊を伴う周遊・滞在型観光」の一層の促進が重要であることが確認できた。AエリアとDエリアとの比較から明らかになったように、県内全域への周遊につなげるためにも、交通・道路体系の整備に加え、観光客の宿泊を促進するためのコンテンツ作りが必要である。その際、県の戦略にもあるように奈良県産の食材を使った食の提供などのブランド力の磨き上げも重要となろう。
これまでに筆者たちが行った京都府、和歌山県、奈良県の分析から得られた含意をまとめると、各府県とも各地域が保有する自然、歴史文化遺産を活かしたプロモーションを展開し、訪日外客を着実に増加させてきた。一方で、京都市や奈良市の例が示すように訪日外客が圧倒的に集中する地域とそうでない地域がある。またこれらの地域では比較的日帰り客が多く、宿泊客の拡大に対応できていない。すなわち、宿泊需要のポテンシャルを失っていることになる。こういった課題は、コロナ禍を経験することで見えてきた。今後のインバウンド戦略を考えれば、他地域へ分散・周遊を実現できるプログラム開発が重要となろう。インバウンド需要が回復にするつれて、各自治体はコロナ禍を受けた戦略に基づき、観光地域づくりのかじ取り役を担うDMOの役割がより一層重要となる。
今後は「広域・周遊」という分析視角に注目し、上記以外の関西各府県における観光分析をおこなっていく。

関連論文

  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:2月レポート No.57

    インバウンド

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    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、2月の訪日外客総数(推計値)は278万8,000人、2019年同月比+7.1%であった。春節休暇やうるう年で日数が増加した影響もあり、単月過去最高を更新した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば12月は273万4,115人。うち、観光客は255万1,290人、商用客は8万703人、その他客は10万2,122人であった。

    ・国土交通省が公表した2024年夏季運航スケジュール(3月31日~10月26日)によれば、国際線の旅客便は週4,875便で、19年同期比-7%とコロナ禍前をほぼ回復。面別にみれば、韓国、米国はコロナ禍前を上回った一方、中国は依然コロナ禍前の6割程度にとどまっている。今後、中国を除くアジア地域を中心に回復が見込まれるが、中国人客は緩やかな回復にとどまろう。

     

    【トピックス1】

    ・関西2月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、2カ月ぶりの前年比減少。一方、輸入は11カ月ぶりに増加した。結果、貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。

    ・1月のサービス業の活動は2カ月連続の改善だが小幅にとどまり、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は2カ月連続の前月比上昇。また、対面型サービス業指数も2カ月連続で同上昇した。観光関連指数はコロナ5類移行後初めての年始休暇の影響もあり、劇場・興行団や旅客運送業が上昇に寄与し、2カ月連続の同上昇となった。

     

    【トピックス2】

    ・12月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,068.0千人泊で、2019年同月比+12.8%と4カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は7,593.7千人泊、2019年同月比+3.1%と4カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,474.3千人泊となり、同+41.6%と5カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西各府県の訪問率をみれば、大阪府39.3%が最も高く、次いで京都府28.9%、奈良県6.8%、兵庫県5.5%、和歌山県1.2%、三重県0.8%、滋賀県0.6%、鳥取県0.3%、徳島県0.2%、福井県0.2%と続く。

    ・2023年10-12月期の関西2府4県の訪日外国人消費単価(旅行者1人1回当たりの旅行消費金額)は19年同期比+29.2%増加。費目別では、飲宿泊費や娯楽等サービス費が大幅増加した。

    ・関西2府4県の訪日外客数と消費単価を用いて、2023年10-12月期の関西における消費額を推計した。結果、訪日外客消費額は4,164億9,716万円となり、19年同期比では+25.7%とコロナ禍前を回復した。

     

    PDF
  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年3月)<3月末統計集中発表日のデータを更新して、1-3月期の実質GDP成長率予測を前期比年率-3.0%に下方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    3月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では3月末までに発表されたデータを更新した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、1-3月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ2/3が更新された。

    ▶10-12月期GDP2次速報によれば、実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と1次速報から上方修正。結果、2四半期連続のマイナスから2四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶2月の生産指数は前月比-0.1%小幅低下し2カ月連続のマイナス。結果、1-2月平均は10-12月平均比-6.2%低下した。生産の基調判断は「一進一退ながら弱含み」。

    ▶1-2月平均を10-12月平均と比較すれば、建築工事費予定額は-3.0%、資本財出荷指数は-11.4%低下した。1月を10-12月平均と比較すれば、実質総消費動向指数は-0.6%減少だが、公共工事は+1.8%増加した。消費、住宅投資、企業設備と民間需要の低迷が目立つ。

    ▶1-2月平均の輸出入動向(日銀ベース)を10-12月平均と比較すれば、実質輸出額は-4.0%、実質輸入額は-7.3%、それぞれ減少した。財貨の実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はプラスとなっている。

     

    1-3月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-3.0%と予測する。生産サイドは同-4.2%と予測。結果、平均予測(同-3.6%)は市場コンセンサス(同-0.36%)より低めとなっている(図表1参照)。

     

    図表1

     

    1-3月期インフレ予測の動態

    ▶2月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.8%、インフレ率は4カ月ぶりに前月から拡大。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+3.2%と23カ月連続の上昇。インフレ率は6カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、1-3月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.1%、国内需要デフレータを同+0.2%と予測している。一方、交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.0%と予測する(図表2参照)。

     

    図表2
    PDF
  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.131-景気は足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆し: 生産回復の遅れが景気下押しリスク-

    経済予測

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 新田 洋介 / 宮本 瑛 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆しがみられる。足下、生産は大幅減産となった。雇用環境は失業率が小幅悪化したものの、労働力人口と就業者数はともに増加していることもあり、持ち直している。消費は初売りセールやインバウンド需要の増加で好調。貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は大幅縮小。先行きは令和6年能登半島地震の影響が和らぎつつあるものの、生産回復の遅れが景気の下押しリスクとなろう。
    • 1月の生産は自動車生産の停止が影響し、大幅減産となった。正常化にはしばらく時間を要することもあり、1-3月期は大幅減産となる可能性が高い。
    • 1月の失業率は前月より小幅悪化したが、労働力人口と就業者数はともに増加。また、就業率も前月より上昇した。雇用情勢は持ち直している。なお、一部の産業を除いて、足下では労働需給の動きはともに低調である。
    • 12月の現金給与総額は2カ月ぶりの前年比増加となり、伸びは前月より大きく拡大した。結果、実質賃金の減少は続いているが、減少幅は前月より縮小した。
    • 1月の大型小売店販売額は28カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、23カ月連続のプラス。スーパーも16カ月連続で拡大した。
    • 1月の新設住宅着工戸数は2カ月連続で前月比増加。貸家は減少したものの、持家、分譲は増加となったためである。
    • 1月の建設工事は公共工事がマイナスに転じた影響で25カ月ぶりの減少。2月の公共工事請負金額も2カ月連続の前年比減少となった。
    • 2月の景気ウォッチャー現状判断は2カ月ぶりに前月比改善。令和6年能登半島地震の影響が和らいだことやインバウンド需要の増加が景況感に好影響となった。また、先行き判断は賃上げへの期待もあり、4カ月連続で改善した。
    • 2月の貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は前年比大幅縮小。春節の時期のずれから、対中輸出が減少に転じた影響とみられる。一方、輸入は11カ月ぶりに前年比増加となった。
    • 2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1-2月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。工業生産は前月比で減速となったうえ、個人消費の回復も勢いを欠いている。中国政府は今年の実質経済成長率の目標を「5%前後」と定めたが、個人消費を直接支援する景気刺激策の実施には慎重である。そのため、1-3月期の景気は10-12月期より大きな改善が見込まれないと予想される。
    【関西経済のトレンド】

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  • 盧 昭穎

    「電気・ガス価格激変緩和対策」事業による 負担軽減効果の試算

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    盧 昭穎 / 稲田 義久

    ABSTRACT

    本稿の目的は、「電気・ガス激変緩和対策」事業が家計負担軽減に与える影響を分析することである。2022年の物価上昇は家計に大きな負担をかけ、特にエネルギーコストの上昇が深刻な問題となった。このような状況下において、政府は2023年2月から当該事業を実施し、家計負担の軽減に努めている。本稿では、本事業が適用されない場合の消費者物価指数を試算することにより、緩和対策事業の効果を所得階級別に分析する。結果を要約すれば、以下のとおりとなる。

     

    1. 2023年2月から24年1月までの「電気・ガス激変緩和対策」事業により、一世帯あたり電気代29,119円、都市ガス代4,733円、負担額が軽減された。収入階級別にみると、収入が高い世帯ほど電気の使用量が多いため、負担軽減額は大きくなる傾向がみられた。
    2. 負担軽減額が可処分所得に占める割合をみると、一世帯あたり電気代の平均軽減額が可処分所得の49%を、都市ガスは0.08%を占めた。収入が高い世帯ほど電気の負担軽減額が可処分所得に占める割合は小さくなった。都市ガス代も同様の傾向である。
    3. 緩和措置が適用されない場合の足下の電気と都市ガス代指数は徐々に低下しており、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受ける前の水準に近付いている。緩和措置が適用されない場合の電気と都市ガス代指数を試算することは、緩和措置をいつ終了させるかについての議論に数値的なベンチマークを提供できよう。
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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:1月レポート No.56

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、1月の訪日外客総数(推計値)は268万8,100人、2019年同月比では-0.0%と2カ月ぶりに小幅マイナスに転じたが、コロナ禍前とほぼ同程度となった。なお、国・地域別では韓国、台湾とオーストラリアが単月で過去最高を記録した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば11月は244万890人。観光客は220万6,883人となり、2カ月連続で200万人超の水準となった。

    ・令和6年能登半島地震は新潟県、富山県、石川県、福井県の観光業に大きな影響を与えている。政府は当該地域で落ち込んだ観光需要を喚起するために、3月より「北陸応援割」を開始した。喚起策により、国内旅行者及び訪日旅行者の増加が期待されよう。

    【トピックス1】

    ・関西1月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、9カ月ぶりの前年比増加。一方、輸入は10カ月連続で減少した。貿易収支は12カ月ぶりの赤字となった。

    ・1月の関西国際空港への訪日外客数は70万402人と、2カ月連続で70万人超の水準。低調なアウトバウンド需要に比してインバウンド需要は堅調に推移している。

    ・12月のサービス業の活動は小幅改善だが、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は4カ月ぶりの前月比上昇。また、対面型サービス業指数は2カ月ぶりに同上昇した。観光関連指数も年末の旅行需要増加の影響もあり、旅行業や宿泊業が上昇に寄与し、4カ月ぶりの同上昇となった。

    【トピックス2】

    ・11月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,949.3千人泊で、2019年同月比+10.0%と3カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は8,124.0千人泊、2019年同月比+1.3%と3カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,825.3千人泊となり、同+34.6%と4カ月連続で増加した。日本人宿泊者に比して外国人宿泊者は着実に増加している。

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西2府8県の国内旅行消費額(速報)は1兆1,331億円、19年同期比+12.4%と3四半期連続のプラス。23年通年では4兆1,034億円となり、コロナ禍前(19年比-0.6%)をほぼ回復した。

    ・国内旅行消費額のうち、10-12月期の宿泊旅行消費額は9,101億円で2019年同期比+21.2%となり、2四半期連続のプラス。一方、日帰り旅行消費額は2,230億円。2019年同期比-13.1%と7-9月期(同-21.4%)からマイナス幅は縮小したものの、宿泊旅行消費額に比して回復ペースは緩慢である。

     

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  • 稲田 義久

    令和6年能登半島地震の影響と北陸3県経済 -ストック、フロー、人流を中心に-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 壁谷 紗代 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響が懸念されている。震災によって大きな被害を受けた新潟県、富山県、石川県の3県(以下、北陸3県と記す)の被害状況に基づき、復旧復興の観点からその経済的な影響を考察した。それを整理し得られた含意は以下の通りである。

     

    1. ストックの観点から北陸3県経済をみれば、民間企業資本ストックは、各県とも「サービス」が最も大きい。次いで新潟県、石川県では「農林水産」が、富山県では「化学」が大きい。また、住宅ストックは新潟県が最も大きく、次いで石川県、富山県と続く。
    2. フローの観点から北陸3県経済をみれば、各県とも製造業のシェアが最も高い。うち、新潟県は「食料品」が、富山県は「化学」が、石川県は「はん用・生産用・業務用機械」がそれぞれ最も高いシェアを占めている。
    3. 今回の震災による北陸3県の直接被害(建築物等)を推計すれば、新潟県は5,177億円、富山県は2,946億円、石川県は5,827億円、3県計で1兆3,951億円となる。また、間接被害は4兆円となり、これは2020年度の名目GDPの0.4%に相当する。
    4. 人口移動の観点からみれば、北陸新幹線開業を契機に富山県、石川県でみられたような人口移動が今回の震災を契機に一層進む可能性がある。3月16日に金沢-敦賀間の延伸が実現するが、この効果は福井県では限定的と思われる。
    5. 今回の震災で北陸の観光業の特徴が明らかとなった。北陸は国内市場に強く依存した構造となっている。人口減少が長期トレンド下にあるため、この構造から脱却する必要がある。地域創生戦略にとって、インバウンド需要の一層の取り込みを実現する戦略が重要となろう。

     

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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.130-景気は足下局面変化、先行きは悪化の兆し: 自動車生産停止と中国経済減速がリスク要因

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、10-12月期で均せば低調。雇用環境は失業率が4カ月連続で改善したが、有効求人倍率は悪化が続く。消費は年末商戦や好調なインバウンド需要で堅調。貿易収支は12カ月ぶりに赤字に転じた。自動車生産停止や中国経済減速のリスクもあり、先行き悪化の兆しがみられる。
    • 12月の生産は3カ月ぶりの前月比上昇だが、10-12月期では3四半期ぶりの減産。生産は低調である。
      23年通年の失業率は前年比横ばいだが、労働力人口と就業者数はともに増加し、雇用の回復は順調に進んだ。しかし、10-12月期は労働力人口と就業者数が前期よりいずれも減少し、就業率は低下した。足下では雇用回復の勢いがやや弱くなっている。
    • 11月の現金給与総額は24カ月ぶりの前年比減少。インフレの高止まりにより実質賃金は減少が続き、減少幅は前月より拡大した。
    • 12月の大型小売店販売額は27カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、22カ月連続のプラス。スーパーも15カ月連続で拡大した。
    • 12月の新設住宅着工戸数は2カ月ぶりに前月比増加した。持家、分譲は減少したものの、貸家は増加となったためである。
      堅調な公共工事の影響もあり、12月の建設工事は24カ月連続の前年比増加。しかし、1月の公共工事請負金額は前年比減少に転じている。
    • 1月の景気ウォッチャー現状判断は3カ月ぶりに悪化。令和6年能登半島地震の発生によりサービス関連を中心に悪影響を及ぼした。一方、先行き判断は3カ月連続の改善。春節によるインバウンド需要増加の期待が寄与した。
    • 1月の貿易収支は12カ月ぶりの赤字だが、赤字幅は前年比大幅縮小。輸出は9か月ぶりに同増加に転じた。ただし、春節の時期のずれの影響もあるため、注意が必要である。一方、輸入は10カ月連続で同減少した。
    • 1月の関空経由の外国人入国者数は2カ月連続で70万人超の水準となり、インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。消費者物価指数の低下傾向が顕著になっており、不動産市場の不況も続いている。また、企業の景況感も低迷している。ただし、2月の春節連休は例年より1日多くなっており、観光などレジャーの消費は前年より伸びる可能性が高いため、1-3月期の景気は10-12月期よりわずかな改善が見込まれる。
    【関西経済のトレンド】

    PDF
  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.68 -内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    1. 2023年10-12月期の関西経済は、内需・外需ともに回復の動きが鈍くなっており、足踏みが続いている。家計部門では消費者センチメント、所得、雇用と多くの指標で伸び悩んでいる。企業部門では、景況感は堅調であるものの、生産は一進一退で弱い動きとなっている。対外部門は、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しているが、財輸出は前年割れが続いている。
    2. 家計部門は足踏み状態にある。大型小売店販売はインバウンド需要など客足の回復で堅調であるが、センチメント、所得・雇用環境、住宅市場など幅広い指標で弱い動きとなっている。物価上昇ペースは緩やかになってきたものの、賃上げ機運にも落ち着きが見られ、実質賃金の目減りが個人消費に影を落としている。
    3. 企業部門は、緩やかに持ち直しているが、生産など一部に弱い動きが見られる。景況感は製造業・非製造業ともに持ち直した。また今年度の設備投資計画は今のところ製造業・非製造業とも旺盛となっている。ただ生産は一進一退続きで、3四半期ぶりの減産となるなど回復の足取りは鈍い。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに低調である。輸出では全国と対照的に、関西は3四半期連続の前年割れとなっている。一方インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高などではコロナ禍前の水準を回復し、その後も増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、万博関連需要を背景に、引き続き堅調に推移している。
    6. 関西の実質GRP成長率を2023年度+1.4%、24年度+1.5%、25年度+1.5%と予測。22年度以降1%台の緩やかな回復基調が続き、24年度以降は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、23年度は+0.1%ポイントの上方修正、24年度は-0.1%ポイントの下方修正、25年度は+0.1%ポイントの上方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は23年度+0.3%ポイント、24年度+0.9%ポイント、25年度+1.2%ポイントとなり、24年度に入って緩やかに回復する。公的需要は万博関連の投資により23年度+0.4%ポイント、24年度+0.3%ポイントと成長を下支えるが、25年度には剥落する。域外需要は、23年度は+0.7%ポイント、24年度+0.3%ポイント、25年度+3%ポイントとなる。
    8. 日本全体に比べて、予測期間通じて関西経済が増勢となる。23年度は設備投資を中心に民間需要・公的需要ともにやや増勢となる。一方外需は中国向け輸出の停滞から全国に比べると寄与は小幅となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要により全国を上回る伸びとなる。25年度も域外需要の押し上げから関西が全国を上回る。
    9. 今号のトピックスでは「令和6年能登半島地震の北陸3県経済への影響」および「大阪・関西万博の経済波及効果」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->

  • 稲田 義久

    147回景気分析と予測:詳細版<依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道- 実質GDP成長率予測:23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度+1.1% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1.  2月15日発表のGDP1次速報によれば、10-12月期の実質GDPは前期比年率-0.4%(前期比-0.1%)減少し、2四半期連続のマイナス成長。市場コンセンサスの最終予測(同+1.28%)は実績を大幅に上回った。またCQM最終予測の支出サイドは同+2.0%、生産サイドは同+1.7%、平均は同+1.9%と、実績を大幅に上回った。
    2.  10-12月期の実質GDP成長率(前期比-0.1%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.3%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.2%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備及び民間在庫変動といずれも減少した。公的需要は同-0.1%ポイントと7四半期ぶりのマイナス寄与。一方、サービス輸出(知的財産権等使用料)の大幅増という特殊要因もあり、純輸出は同+0.2%ポイントと2四半期ぶりのプラス寄与。結果、2023年の実質GDPは前年比+1.9%と3年連続のプラスとなった(前年:同+1.0%)。
    3.  10-12月期の国内需要デフレータは前期比+0.4%と12四半期連続のプラス。交易条件は4四半期連続で改善の後横ばい。結果、GDPデフレータは同+0.4%と5四半期連続の上昇となった。このため、名目GDPは前期比+0.3%、同年率+1.2%となり、2四半期ぶりの増加。結果、2023年の名目GDPは前年比+5.7%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年の+6.5%以来の高成長である。
    4.  10-12月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2023-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度を+1.1%と予測。前回(146回予測)から、23年度は-0.4%ポイント、24年度は-0.7%ポイント、25年度-0.1%ポイント、それぞれ下方修正。24年1-3月期は輸出の反動減や自動車の減産から低迷が予想される。24年前半は内需主導の回復は遠のき、外需との好循環は厳しい。回復が見込まれるのは24年後半以降となろう。
    5.  実質賃金がプラス反転しないため、10-12月期の民間最終消費支出は3四半期連続の減少、24年1-3月期の回復も緩やかにとどまり、結果、23年度の民間需要寄与は-0.3%ポイント。一方、交易条件の改善もあり貿易赤字が縮小し、また引き続き好調なインバウンド需要によりサービス輸出が増加し、23年度の純輸出の寄与は+1.3%ポイントと前年から大きくプラス反転する。実質賃金のプラス反転は、インフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。このため24‐25年度の民間需要の寄与は小幅にとどまり、また純輸出の寄与も前年からほぼ横ばいとなる。
    6.  23年度前半に3%台で高止まりした消費者物価インフレ率は徐々に減速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、23年度+2.8%、24年度+2.0%、25年度を+1.4%と予測する。前回予測から変化なし。23年度に交易条件が前年から大幅改善するためGDPデフレータは+3.8%上昇する。このため、同年の名目GDPは+5.2%の高成長となる。24‐25年度については、交易条件改善の裏が出るため、GDPデフレータは24年度+1.5%、25年度+1.8%となる。
    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->