研究成果

research

DMOの観光誘客への取組-マネジメントエリア別の分析:滋賀県の事例から-

Abstract

本稿では滋賀県にかかわる観光基礎統計を用いて、県の観光戦略に光をあて、観光地域づくり法人(以下、DMO)の活動に注目し抱える課題を分析した。得られた含意は以下のようにまとめられる。

1. 滋賀県の各DMOにおける、それぞれの特徴や活動状況、マネジメントエリア、観光資源、誘客ターゲット層に対する取り組みを比較した。注目している観光課題に違いがあるものの、その活動内容から県内広域を活動エリアとするDMOと限定された地域(地場)に密着した活動を行うDMOに分けられる。

2. びわこビジターズビューロー、近江ツーリズムボード、比叡山・びわこDMOは、滋賀県の認知度向上に向けた情報発信や持続可能な観光を実現させるための環境整備など、県内広域にわたり、周遊滞在型観光の活動に注力している。

3. 近江八幡観光物産協会、長浜観光協会は、その地域ならではの食文化、暮らし体験や地域住民の郷土愛の醸成等、まちづくりを基軸とした地域密着の交流型観光の活動に注力している。

4. DMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数と稼働率の動向をみれば、宿泊施設数は大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。稼働率は、大津市では春と夏に上昇する傾向がある。また、近江八幡市、長浜市、米原市、彦根市では春、夏、秋に上昇する。一方、高島市では夏に高まる傾向がある。季節性の平準化が重要となろう。

5. コロナ禍を経て観光スタイルが変化してきており、琵琶湖を中心に各地域の自然資源や歴史文化遺産をつなぐ宿泊滞在型観光の促進も重要である。上記季節性の平準化の課題を踏まえれば、各地域ならではの観光資源を活かした閑散期の新たなコンテンツの造成が必要であろう。また、県域DMOと地域連携及び地域DMOが連携し、各地域の観光資源を繋ぐことで、観光客の滞在日数を増やすなど、地域間の連携を意識したコンテンツの造成も必要となろう。

本文

1.滋賀県の観光動態と課題

筆者たちは、これまで関西各府県の観光産業の成果と課題を民間の観光業推進主体である観光地域づくり法人(以下、DMO)の活動を軸に分析してきた。具体的には、京都府、和歌山県、奈良県を例にとり、各府県の観光政策の特徴や課題をDMOの誘客策に注目し分析してきた。本稿では、同じ分析フレームに沿って、第四の事例として滋賀県の観光業を取り上げる。
さて滋賀県は、京都府という観光ブランドの隣接県という特徴を持つ。奈良県も同じ特徴を持つが、奈良県の場合は京都に対抗できるブランドと独自性を主張し、それに基づいて観光政策が立てられてきている。それに比べ、滋賀県はどちらかと言えば、京都府との一体性を意識しながら観光政策が作成されてきた経緯がある。本稿では、こういった経緯も踏まえながら、様々なデータから滋賀県の特徴を明らかにしたい。
滋賀県では、2014年1月に「滋賀県『観光交流』振興指針~訪れてよし、迎えてよし、地域よしの『観光・三方よし』~」を策定した。
この間、民間と行政が一体となって観光資源の発信や魅力の磨き上げおよび地域の受入環境の整備等の観光振興に向けた様々な取組を展開してきた。具体的には、東京・日本橋の情報発信拠点「ここ滋賀」のオープンや(一社)近江ツーリズムボードと(公社)びわこビジターズビューローの日本版DMO登録、「日本遺産 滋賀・びわ湖水の文化ぐるっと博」や観光キャンペーン「虹色の旅へ。滋賀・びわ湖」の開催などが挙げられる。取組の結果、観光入込客数が増加するなど一定の成果があったものの、①消費額の多い宿泊客数が横ばい、②インバウンド需要の増加による観光を取り巻く環境の変化、③定住人口の減少と高齢化が深刻となる中、交流人口増加の重要性、といった課題として指摘された。
こうした状況を踏まえ、前述の観光指針が2018年度に計画満了となったことから、新たな観光振興指針である『~観光を架け橋に、つなぐ滋賀、つづく滋賀~「健康しが」ツーリズムビジョン2022』が策定された(19年度)。滋賀県は本中期計画に基づいて観光振興の取組を進めてきた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響により、観光を取り巻く状況は著しく変化したことから、滋賀県は22年度までの計画期間を1年前倒しで改定し、22年度を始期とする新たなビジョン「シガリズム観光振興ビジョン」を策定した。
「シガリズム観光振興ビジョン」において、滋賀県観光の課題として第1に挙げられているのは「滋賀ならではの魅力による宿泊・滞在型観光の推進(魅力向上と創出)」である。これを確認するためにまず、滋賀県における旅行者数の推移を宿泊と日帰り別にみよう。
図1-1は観光庁の『旅行・観光消費動向調査』より、宿泊旅行者と日帰り旅行者の推移を比較したものである。これまで分析してきた京都府、和歌山県、奈良県の事例に加え、本稿で取り扱う滋賀県を加えている。図からわかるように、京都府は日帰り、宿泊旅行者がいずれも多い。和歌山県は宿泊旅行者が日帰り旅行者を概ね上回る特徴がある。一方、京都府に隣接する、奈良県、滋賀県では日帰り旅行者が宿泊旅行者を常に上回っており、滋賀県には宿泊を伴う滞在型観光が観光課題であることが理解できる。

 

 

前述した「シガリズム観光振興ビジョン」では上記の課題に加えて、更に下表のような課題が指摘されている。

 

 

2.滋賀県DMOの比較

前節では関西1府4県における旅行者数の推移を宿泊と日帰り別に比較してみた。滋賀県においては宿泊を伴う滞在型観光が課題であることを確認した。本節では滋賀県の各DMOの観光振興における特徴と誘客に向けた主な活動をみていく。

 

2-1. 滋賀県 DMO の登録状況及びマネジメントエリア

滋賀県は日本最大の湖である琵琶湖を中心にして各DMOが存在し、互いに県、市町村、観光関連団体などと連携して観光振興に取り組んでいる。
表2-1には滋賀県におけるDMOの登録状況が示されている。2022年12月時点では、地域連携DMOに2法人((公社)びわこビジターズビューロー、(一社)近江ツーリズムボード)が登録認定、1法人((一社)比叡山・びわ湖 DMO)が候補認定。また地域 DMOに1法人((一社)近江八幡物産観光協会)が登録認定、1法人((公社)長浜観光協会)が候補認定されており、登録、候補合わせ計5法人が認定されている。

 

 

次に各DMOがマネジメント対象とするエリアについて紹介する。びわこビジターズビューローは、滋賀県全域をマネジメントエリアとしている。近江ツーリズムボードは、近江八幡市、彦根市、米原市、愛荘町、豊郷町、甲良町、多賀町をマネジメントエリアとし、民間企業を中心とした実施体制で当該エリアの観光地域づくりに取り組んでいる。近江八幡観光物産協会は、近江八幡市をマネジメントエリアとし、まちづくりを基軸とした中で観光物産振興を図ってきた。長浜観光協会は、長浜市をマネジメントエリアとしている。比叡山・びわ湖DMOは、滋賀県と京都府の府県境に位置する世界文化遺産・比叡山延暦寺を中心とした山内から山麓をマネジメントエリアとしている。

図2-1は、各DMOがマネジメントの対象とするエリアを示している。

 

2-2. DMOの設立経緯と観光資源

ここでは各DMOの設立経緯と観光資源をみていこう(表2-2)。

 

<びわこビジターズビューロー>
1952年に滋賀県観光連盟として設立。2016年に地域連携DMO候補法人に認定され、18年に改めて地域連携DMOとして登録された。
主な観光資源として、日本最大の湖である琵琶湖を中心とする自然、多賀大社などの寺社仏閣や大津祭りなどの歴史・文化的資源、ラ コリーナ近江八幡など観光施設、自然、歴史、文化と魅力的な観光資源を豊富に有している。

 

<近江ツーリズムボード>
2015年に近江インバウンド協議会として設立。16年に地域連携DMO候補法人に認定され、17年に改めて地域連携DMOとして登録された。

主な観光資源として、古くは中山道等の街道が多く集積する交通の要衝であり、日本酒製造に欠かせない清流や米など地域特有の食材を栽培する田園風景、名だたる武将たちが建立した寺社仏閣、彦根城など食文化や文化遺産を多く有している。

 

<近江八幡観光物産協会>
1956年に近江八幡観光協会として設立。2014年に安土町観光協会との統合を経て、20年に地域DMOとして登録された。
主な観光資源として、八幡堀、水郷めぐりなどの自然、近江商人やヴォーリズゆかりの建築物と町並み、安土城址などの歴史資源を有している。

 

<長浜観光協会>
1950年に長浜観光協会として発足。2018年に奥びわ湖観光協会と合併、20年に北びわこふるさと観光公社を統合し、22年に地域DMO候補法人として認定されている。
主な観光資源として、豊かな自然環境、戦国の聖地、観音の里(仏教文化財の宝庫)、国友鉄砲ミュージアムなど多くの歴史的文化遺産を有している。

表 2-4 各 DMO の誘客ターゲット層と取り組み

 

 

 

<比叡山・びわ湖 DMO>
1989年に比叡山振興会議として発足。2022年に比叡山・びわ湖DMOとして設立し、地域連携DMO候補法人として認定されている。
主な観光資源として、ユネスコ世界文化遺産に認定されている比叡山延暦寺だけでなく、日吉大社、穴太衆石積、西教寺、おごと温泉など比叡山山麓にも魅力ある観光資源を有している。

 

 

2-3. 各DMOの特徴と活動状況

DMOの活動には県全域で共通して取り組んでいるものと、独自の活動がある。前者については、2018年に滋賀の魅力を7色のカテゴリー(歴、食、遊、癒、観、買、美)に分け、それぞれの魅力に出会える旅(「虹色の旅へ。滋賀・びわ湖」)や、琵琶湖を自転車で一周する「ビワイチ」(19年に国土交通省が定める「ナショナルサイクルルート」にビワイチが指定)などがある。これらに加え、それぞれのDMOがマネジメントするエリアの特徴を活かした活動を行っており、表1-1で示した滋賀県観光の課題にも取り組んでいる。表2-3は2018年からの各DMOの主な活動を示している。

 

<びわこビジターズビューロー(地域連携DMO)>
琵琶湖を中心とした県全域をマネジメントエリアとし、観光地域づくりの舵取り役として、各DMOや、県、各市町村などと観光戦略を着実に実施するための調整・仕組みづくり・プロモーション活動などを行っている。また、地域連携DMOとして、国や他府県および観光関連団体と連携した観光物産振興など、広域的な周遊滞在型観光活動に取り組んでいる(主に関連する課題①②⑥)。

 

<近江ツーリズムボード(地域連携DMO)>
琵琶湖の東側である湖東地域をマネジメントエリアとし、観光資源である国宝や重要文化遺産、地域特有の食文化などの情報を国内外へ発信、誘客プロモーションを行うとともに、インバウンド客向け飲食店マップの製作、彦根城の多言語解説文、アプリの作成などインバウンド客の受入れ環境の整備にも取り組んでいる。また、地域住民(市民・事業者・学生など)の観光地域づくりに関する意識啓発や参画促進のための活動にも取り組んでいる(主に関連する課題②⑤⑥)。

 

<近江八幡観光物産協会(地域DMO)>
近江八幡市をマネジメントエリアとし、まちづくりを基軸にした情報発信、プロモーション活動を中心に行っている。また、地域行事や学校教育との連携を図り、郷土愛の醸成やおもてなしの心を育み、市民や観光客の垣根を越えて訪れたくなる身近で馴染みやすいまちづくりにも取り組んでいる。さらにイベント催事での参画呼び掛け、演出や作業スタッフなど活動の幅を広げている(主に関連する課題⑤)。

 

<長浜観光協会(地域DMO)>
滋賀県の東北部に位置する長浜市をマネジメントエリアとし、長浜らしさを感じる体験型、交流型観光の推進に取り組んでいる。戦国、観音文化など長浜らしいテーマを持った体験型観光や、長浜固有の暮らし、食、文化を味わえる交流型観光、自然を体験できるアクティビティなどをプレミアムなパッケージ、長浜ブランドとして売り出し、長浜の認知度を上げるプロモーション活動などに取り組んでいる。観光まちづくりに関する講演会等の企画、市民団体や住民に対して観光イベントを実施するなど意識啓発に取り組んでいる(主に関連する課題③④⑤)。

 

<比叡山・びわ湖DMO(地域連携DMO)>
滋賀県(大津市)と京都府(京都市)に跨る比叡山延暦寺を中心としたマネジメントエリアのイベント、ツアー開発に加え、琵琶湖でのサイクルクルージングや琵琶湖汽船船上でのイベント、さらにびわ湖エリアの観光団体や周辺の市町村とも連携して、旅行商品の開発、周遊パスの企画などに取り組んでいる。また、Wi-Fi整備などといった受入れ環境の整備にも取り組んでいる(主に関連する課題③⑥)。

表2-3 各DMOの主な活動状況

出所:観光庁『観光地域づくり法人形成・確立計画』、各 DMO ホームページ等より作成

 

2-4. 各DMOの誘客ターゲット層と取り組みについて

 

各DMOは、誘客ターゲット層を国内客とインバウンド客の年齢層や趣味趣向、地域別などに分けて設定している。それぞれのターゲット層に対して、各DMOのマネジメントエリアが持つ魅力ある観光資源を組み合わせ、誘客活動に取り組んでいる。それらをまとめたのが表2-4である。

<びわこビジターズビューロー>
びわこビジターズビューローは国内客について、30~50代の旅行好きの女性をターゲットとしている。また、インバウンド客については東アジア、東南アジアからの訪日リピーターを重点ターゲットとし、自然や歴史、文化への関心が高い欧米豪の個人旅行客を開拓ターゲットとしている。ターゲット層に対し、SNSを活用した情報発信やターゲット国、地域への観光展へ出展するなど現地プロモーション、旅行会社やマスコミなどを招いた商談会や現地視察を行い、滋賀県の認知度向上に取り組んでいる。

 

<近江ツーリズムボード>
近江ツーリズムボードはインバウンド客をターゲットに、米豪の富裕層の訪日リピーターや東洋文化への関心が高いイギリス、フランスの富裕層、近隣国という便利さから何度も訪日するポテンシャルを秘めているアジア新興国(主にシンガポール、タイ、マレーシア)の富裕層をターゲットとしている。
米豪の訪日リピーターに対しては、滋賀県最高峰の伊吹山でのトレッキングといった、大自然を味わえるネイチャーツアーを、イギリス、フランスの富裕層に対しては、文化遺産に登録されている寺社仏閣でのプレミアムな文化体験ツアーの造成に取り組んでいる。またアジア新興国の富裕層は欧米豪に比べ訪日滞在日数が短い傾向にあり、半日もしくは一日で完結する景色や食を堪能するツアーの造成に取り組んでいる。

 

<近江八幡観光物産協会>
近江八幡観光物産協会は国内客については、40~70代の旅行に関心の高い女性と学びに関心の高い中高年、学校や職場の小グループをターゲットにしている。また、インバウンド客については欧州の個人客および中華系のビジネスマンをターゲットとしている。
主に国内旅行客をターゲットとしており、五感を通じての魅力を体験いただき、旅行に関心の高い女性の支持を得ることで、SNS や口コミによる情報発信、誘客を図る。また、学びや生き方に関心の高い中高年に対しては、エコツアーや自転車ガイドツアー、近江商人の精神を学ぶ、ヴォーリズ建築を巡るツアーなど本物の良さや魅力を感じてもらう上質な観光サービス提供に取り組んでいる。

 

<長浜観光協会>
長浜観光協会は国内客について、30~50代の旅行好きの女性と団体の教育旅行、修学旅行客をターゲットとしている。また、インバウンド客については欧州の個人旅行者およびアジア(台湾、香港、タイ等)からのリピーターをターゲットとしている。
国内旅行客に対しては、長浜らしいテーマを持った付加価値の高いプレミアムなパッケージ、長浜ブランドとして売り出す。また、教育旅行や修学旅行などの誘致に注力するとともに、長浜の伝統文化を活かした体験型の教育プログラム作成、市内宿泊施設等と連携した営業活動を実施する。
インバウンド客については、観光施設の展示やパンフレットの多言語表示、専門的通訳ガイドの育成など、受け入れ体制の整備に取り組んでいる。

 

<比叡山・びわ湖DMO>
比叡山・びわ湖DMOは国内客について、関西圏および東海圏の非日常体験・デトックスを求める30~50代のリピーターとその家族、ならびに首都圏在住で京都駅周辺の宿泊客の取り込みターゲットとしている。また、インバウンド客については欧米豪、アジアからの文化体験や知的欲求ニーズが高く、新たな旅先にも足を延ばす長期滞在の個人旅行客をターゲットとしている。
国内客については、比叡山地区を中心に、季節に合った歴史イベントや公共交通機関を利用した商品の造成など、地域限定のプロモーション活動に取り組んでいる。
インバウンド客については、芸術や文化からのアプローチ、SNS映えするスポットの増設などによる誘客活動に取り組んでいる。

表2-4 各DMOの誘客ターゲット層と取り組み

出所:観光庁『観光地域づくり法人形成・確立計画』より作成

 

3.DMOマネジメントエリアにおける宿泊施設と稼働率

前節では滋賀県に所在しているDMOの設立経緯及び活動状況をみた。本節では前述したDMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数(供給面)と稼働率(需要面)を取り上げ、その特徴を明らかにする。
なお、DMOは湖東地域を中心に活動しているが、県内の宿泊施設は琵琶湖を中心に点在しているため、ここでは湖西地域の高島市も加えて分析している。また、宿泊施設数と稼働率については観光庁の『宿泊旅行統計調査』個票データ8より計算している。
まず滋賀県における宿泊施設数の推移をタイプ別に見たのが図3-1である。図が示すように、滋賀県の宿泊施設数は2011年から16年にかけて減少傾向で推移したのち、17年以降はインバウンドの影響もあり増加傾向となる。うち、簡易宿所・その他が着実に増加している一方で、旅館は減少傾向で推移している。また、ビジネスホテルも減少傾向で推移している。

 

 

<大津市>
大津市をみれば(図3-2)、宿泊施設は全体として微増の傾向にある(2015年4月:144施設→19年12月:152施設)。内訳をみれば、旅館の施設数がこの間微減し(15年4月:38施設→19年12月:34施設)、簡易宿所が増加傾向にある(15年月:24施設→19年12月:35施設)。
稼働率をみれば、後掲の記述統計(表3-1)が示すように期間の平均稼働率は46.0%で、稼働率の最大値は59.3%、最小値は31.6%となっている。季節性をみれば、4月、8月に稼働率が上昇する傾向がみられる。稼働率の傾向としては2015年から18年前半は横ばいで推移しているが、18年後半にかけて低下傾向を示している。この理由については後述する。

 

<近江八幡市>
近江八幡市をみれば(図3-3)、この間宿泊施設数の水準は高くはないが、着実に増加傾向にある(2015年4月:17施設→19年12月:26施設)。うち、旅館、リゾートホテルやシティホテルの施設数は横ばい(15年4月:1施設→19年12月:1施設)である。一方、簡易宿所が増加(15年4月:4施設→19年12月:12施設)している。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は38.8%となっている。稼働率の最大値は61.4%、最小値は16.5%と、最大値と最小値の幅が44.9%ポイントと大きいことが特徴である。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては 2016年から17年にかけて上昇傾向を示している。18年に低下傾向を示したが、19年には再び上昇している。

 

<彦根市>
彦根市をみれば(図3-4)、この間の宿泊施設数は全体では微減の傾向にある(2015年4月:36施設→19年12月:32施設)。うち、ビジネスホテルは微増(15年4月:13施設→19年12月:16施設)している一方で、シティホテルは減少している(15年4月:1施設→19年12月:0施設)。また旅館(15年4月:7施設→19年12月:7施設)と簡易宿所(15年4月:3施設→19年12月:3施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は39.2%となっている。稼働率の最大値は60.3%、最小値は23.4%であり、最大値と最小値の幅は36.9%ポイントとなっている。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から16年にかけて上昇傾向を示したものの、17年から18年にかけて低下した。19年以降は再び上昇傾向を示している。

 

<米原市>
米原市をみれば(図3-5)、宿泊施設は全体として減少傾向にある(2015年4月:39施設→19年12月:27施設)。うち、簡易宿所が半減(15年4月:14施設→19年12月:7施設)している。一方、旅館(15年4月:9施設→19年12月:9施設)、ビジネスホテル(15年4月:2施設→19年12月:2施設)やリゾートホテル(15年4月:1施設→19年12月:1施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は24.4%、最大値は63.5%、最小値は1.0%であり、両者の差は62.5%ポイントとなっている12。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から 18 年前半は横ばいで推移しているが、18年後半にかけて上昇傾向を示している。

 

<長浜市>
長浜市をみれば(図3-6)、宿泊施設は全体としてほぼ横ばい傾向にある(2015年4月:69施設→19年12月:70施設)。うち、旅館(15年4月:17施設→19年12月:19施設)や簡易宿所(15年4月:16 施設→19年12月:17施設)はいずれも微増している。なお、ビジネスホテル(15年4月:7施設→19年12月:7施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は38.0%となっている。稼働率の最大値は55.9%、最小値は24.3%であり、両者の差は31.6%ポイントとなっている。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては 2015年から17年にかけて横ばいで推移しているが、18年以降は幾分低下傾向を示している。

 

<高島市>

高島市をみれば(図3-7)、宿泊施設は全体として増加傾向にある(2015年4月:106施設→19年12月:116施設)。うち、旅館(15年4月:24施設→19年12月:26施設)やリゾートホテル(15年4月:2施設→19年12月:5施設)はいずれも微増している。また、不詳(15年4月:33施設→19年12月:42施設)も増加している。
稼働率をみれば、期間平均は12.6%と、その他のエリアに比して低いのが特徴である。稼働率の最大値は22.8%、最小値は7.2%で、両者の差が15.6%ポイントとなっている。また、8月に稼働率が大幅上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から19年にかけてほぼ横ばいで推移している。

 

以上、DMOのマネジメントエリア別にみれば、宿泊施設数では大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。また、客室稼働率では、大津市の平均稼働率が他のエリアより高い一方で、高島市は低い特徴がみられた。季節性をみれば、近江八幡市、彦根市、米原市、長浜市では4月、8月、11月に稼働率が上昇するが、大津市では4月、8月に上昇する。一方、高島市については8月のみ上昇する傾向がみられる。

 

補論 昼夜間比率からみた大津市と京都市との近接性

前述した大津市の客室稼働率をみれば、2015年から18年にかけて高水準で推移し、18年後半以降低下がみられる。客室稼働率が高水準で推移していた背景として、大津市は京都市と近接していることもあり、京都市で宿泊できなかった訪日外客が大津市で宿泊していことが推察される。一方、18年後半以降低下した一因としては、インバウンド急増に一定程度対応した京都府内の宿泊施設の供給不足緩和が考えられる。このことを別の統計データから確認しよう。図3-8は大津市及び京都市における訪日外国人の滞在昼夜間比率(夜/昼)の推移を示している。
大津市と京都市の状況をみれば、2015 年における大津市の平均昼夜間比率は1.18に対して、京都市は0.54となっており、大津市が京都市を圧倒的に上回っている。しかし、16年以降、大津市の平均比率は低下傾向を示し、足下19年では0.86となっている。一方、京都市は16年以降、幾分上昇傾向を示しており、足下19年は0.61となっている。これは京都市における宿泊施設の供給制約が緩和されるにつれ、大津市における外国人宿泊者が減少したことを示唆している。

 

 

4.分析結果の整理と含意

2節では各DMOの活動状況と誘客ターゲット層を確認し、その取組を実現するための課題をみた。
表4-1は各DMOが注目している課題を整理したものである。加えて、われわれが推計した宿泊施設の客室稼働率の観点から季節性の特徴についても注目してみた。これらの分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

 

1. 滋賀県の各DMOにおける、それぞれの特徴や活動状況、マネジメントエリア、観光資源、誘客ターゲット層に対する取り組みを比較し、注目している観光課題の違いを確認した。その活動内容から県内広域を活動エリアとするDMOと限定された地域(地場)に密着した活動を行うDMOに分けられる。

2. びわこビジターズビューロー、近江ツーリズムボード、比叡山・びわこDMOは、滋賀県の認知度向上に向けた情報発信や持続可能な観光を実現させるための環境整備など、県内広域にわたる周遊滞在型観光の活動に注力している。

3. 近江八幡観光物産協会、長浜観光協会は、その地域ならではの食文化、暮らし体験や地域住民の郷土愛の醸成等、まちづくりを基軸とした地域密着の交流型観光の活動に注力している。

4. DMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数と稼働率の動向をみれば、宿泊施設数は大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。稼働率は、大津市では春と夏に上昇する傾向がある。また、近江八幡市、長浜市、米原市、彦根市では春、夏、秋に上昇する。一方、高島市では夏に高まる傾向がある。季節性の平準化が重要となろう。

5. コロナ禍を経て観光スタイルが変化しており、琵琶湖を中心に各地域の自然資源や歴史文化遺産をつなぐ宿泊滞在型観光の促進も重要である。上記季節性の平準化の課題を踏まえれば、各地域ならではの観光資源を活かした閑散期の新たなコンテンツの造成が必要であろう。その際、滋賀県が強みとしている自然を活かしたグランピングやキャンプなどの魅力的なコンテンツを国内外の旅行者に訴求することも重要となろう。

6. 上記のような観光資源の磨き上げについて、DMOが行う観光地域づくりが一層重要となる。
その際、県域DMOと地域連携及び地域DMOが連携し、各地域の観光資源を繋ぐことで、観光客の滞在日数を増やすなど、地域間の連携を意識したコンテンツの造成も必要となろう。

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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:2月レポート No.57

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    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、2月の訪日外客総数(推計値)は278万8,000人、2019年同月比+7.1%であった。春節休暇やうるう年で日数が増加した影響もあり、単月過去最高を更新した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば12月は273万4,115人。うち、観光客は255万1,290人、商用客は8万703人、その他客は10万2,122人であった。

    ・国土交通省が公表した2024年夏季運航スケジュール(3月31日~10月26日)によれば、国際線の旅客便は週4,875便で、19年同期比-7%とコロナ禍前をほぼ回復。面別にみれば、韓国、米国はコロナ禍前を上回った一方、中国は依然コロナ禍前の6割程度にとどまっている。今後、中国を除くアジア地域を中心に回復が見込まれるが、中国人客は緩やかな回復にとどまろう。

     

    【トピックス1】

    ・関西2月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、2カ月ぶりの前年比減少。一方、輸入は11カ月ぶりに増加した。結果、貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。

    ・1月のサービス業の活動は2カ月連続の改善だが小幅にとどまり、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は2カ月連続の前月比上昇。また、対面型サービス業指数も2カ月連続で同上昇した。観光関連指数はコロナ5類移行後初めての年始休暇の影響もあり、劇場・興行団や旅客運送業が上昇に寄与し、2カ月連続の同上昇となった。

     

    【トピックス2】

    ・12月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,068.0千人泊で、2019年同月比+12.8%と4カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は7,593.7千人泊、2019年同月比+3.1%と4カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,474.3千人泊となり、同+41.6%と5カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西各府県の訪問率をみれば、大阪府39.3%が最も高く、次いで京都府28.9%、奈良県6.8%、兵庫県5.5%、和歌山県1.2%、三重県0.8%、滋賀県0.6%、鳥取県0.3%、徳島県0.2%、福井県0.2%と続く。

    ・2023年10-12月期の関西2府4県の訪日外国人消費単価(旅行者1人1回当たりの旅行消費金額)は19年同期比+29.2%増加。費目別では、飲宿泊費や娯楽等サービス費が大幅増加した。

    ・関西2府4県の訪日外客数と消費単価を用いて、2023年10-12月期の関西における消費額を推計した。結果、訪日外客消費額は4,164億9,716万円となり、19年同期比では+25.7%とコロナ禍前を回復した。

     

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  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年3月)<3月末統計集中発表日のデータを更新して、1-3月期の実質GDP成長率予測を前期比年率-3.0%に下方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    3月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では3月末までに発表されたデータを更新した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、1-3月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ2/3が更新された。

    ▶10-12月期GDP2次速報によれば、実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と1次速報から上方修正。結果、2四半期連続のマイナスから2四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶2月の生産指数は前月比-0.1%小幅低下し2カ月連続のマイナス。結果、1-2月平均は10-12月平均比-6.2%低下した。生産の基調判断は「一進一退ながら弱含み」。

    ▶1-2月平均を10-12月平均と比較すれば、建築工事費予定額は-3.0%、資本財出荷指数は-11.4%低下した。1月を10-12月平均と比較すれば、実質総消費動向指数は-0.6%減少だが、公共工事は+1.8%増加した。消費、住宅投資、企業設備と民間需要の低迷が目立つ。

    ▶1-2月平均の輸出入動向(日銀ベース)を10-12月平均と比較すれば、実質輸出額は-4.0%、実質輸入額は-7.3%、それぞれ減少した。財貨の実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はプラスとなっている。

     

    1-3月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-3.0%と予測する。生産サイドは同-4.2%と予測。結果、平均予測(同-3.6%)は市場コンセンサス(同-0.36%)より低めとなっている(図表1参照)。

     

    図表1

     

    1-3月期インフレ予測の動態

    ▶2月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.8%、インフレ率は4カ月ぶりに前月から拡大。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+3.2%と23カ月連続の上昇。インフレ率は6カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、1-3月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.1%、国内需要デフレータを同+0.2%と予測している。一方、交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.0%と予測する(図表2参照)。

     

    図表2
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.131-景気は足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆し: 生産回復の遅れが景気下押しリスク-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 新田 洋介 / 宮本 瑛 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆しがみられる。足下、生産は大幅減産となった。雇用環境は失業率が小幅悪化したものの、労働力人口と就業者数はともに増加していることもあり、持ち直している。消費は初売りセールやインバウンド需要の増加で好調。貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は大幅縮小。先行きは令和6年能登半島地震の影響が和らぎつつあるものの、生産回復の遅れが景気の下押しリスクとなろう。
    • 1月の生産は自動車生産の停止が影響し、大幅減産となった。正常化にはしばらく時間を要することもあり、1-3月期は大幅減産となる可能性が高い。
    • 1月の失業率は前月より小幅悪化したが、労働力人口と就業者数はともに増加。また、就業率も前月より上昇した。雇用情勢は持ち直している。なお、一部の産業を除いて、足下では労働需給の動きはともに低調である。
    • 12月の現金給与総額は2カ月ぶりの前年比増加となり、伸びは前月より大きく拡大した。結果、実質賃金の減少は続いているが、減少幅は前月より縮小した。
    • 1月の大型小売店販売額は28カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、23カ月連続のプラス。スーパーも16カ月連続で拡大した。
    • 1月の新設住宅着工戸数は2カ月連続で前月比増加。貸家は減少したものの、持家、分譲は増加となったためである。
    • 1月の建設工事は公共工事がマイナスに転じた影響で25カ月ぶりの減少。2月の公共工事請負金額も2カ月連続の前年比減少となった。
    • 2月の景気ウォッチャー現状判断は2カ月ぶりに前月比改善。令和6年能登半島地震の影響が和らいだことやインバウンド需要の増加が景況感に好影響となった。また、先行き判断は賃上げへの期待もあり、4カ月連続で改善した。
    • 2月の貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は前年比大幅縮小。春節の時期のずれから、対中輸出が減少に転じた影響とみられる。一方、輸入は11カ月ぶりに前年比増加となった。
    • 2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1-2月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。工業生産は前月比で減速となったうえ、個人消費の回復も勢いを欠いている。中国政府は今年の実質経済成長率の目標を「5%前後」と定めたが、個人消費を直接支援する景気刺激策の実施には慎重である。そのため、1-3月期の景気は10-12月期より大きな改善が見込まれないと予想される。
    【関西経済のトレンド】

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  • 盧 昭穎

    「電気・ガス価格激変緩和対策」事業による 負担軽減効果の試算

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    盧 昭穎 / 稲田 義久

    ABSTRACT

    本稿の目的は、「電気・ガス激変緩和対策」事業が家計負担軽減に与える影響を分析することである。2022年の物価上昇は家計に大きな負担をかけ、特にエネルギーコストの上昇が深刻な問題となった。このような状況下において、政府は2023年2月から当該事業を実施し、家計負担の軽減に努めている。本稿では、本事業が適用されない場合の消費者物価指数を試算することにより、緩和対策事業の効果を所得階級別に分析する。結果を要約すれば、以下のとおりとなる。

     

    1. 2023年2月から24年1月までの「電気・ガス激変緩和対策」事業により、一世帯あたり電気代29,119円、都市ガス代4,733円、負担額が軽減された。収入階級別にみると、収入が高い世帯ほど電気の使用量が多いため、負担軽減額は大きくなる傾向がみられた。
    2. 負担軽減額が可処分所得に占める割合をみると、一世帯あたり電気代の平均軽減額が可処分所得の49%を、都市ガスは0.08%を占めた。収入が高い世帯ほど電気の負担軽減額が可処分所得に占める割合は小さくなった。都市ガス代も同様の傾向である。
    3. 緩和措置が適用されない場合の足下の電気と都市ガス代指数は徐々に低下しており、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受ける前の水準に近付いている。緩和措置が適用されない場合の電気と都市ガス代指数を試算することは、緩和措置をいつ終了させるかについての議論に数値的なベンチマークを提供できよう。
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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:1月レポート No.56

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、1月の訪日外客総数(推計値)は268万8,100人、2019年同月比では-0.0%と2カ月ぶりに小幅マイナスに転じたが、コロナ禍前とほぼ同程度となった。なお、国・地域別では韓国、台湾とオーストラリアが単月で過去最高を記録した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば11月は244万890人。観光客は220万6,883人となり、2カ月連続で200万人超の水準となった。

    ・令和6年能登半島地震は新潟県、富山県、石川県、福井県の観光業に大きな影響を与えている。政府は当該地域で落ち込んだ観光需要を喚起するために、3月より「北陸応援割」を開始した。喚起策により、国内旅行者及び訪日旅行者の増加が期待されよう。

    【トピックス1】

    ・関西1月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、9カ月ぶりの前年比増加。一方、輸入は10カ月連続で減少した。貿易収支は12カ月ぶりの赤字となった。

    ・1月の関西国際空港への訪日外客数は70万402人と、2カ月連続で70万人超の水準。低調なアウトバウンド需要に比してインバウンド需要は堅調に推移している。

    ・12月のサービス業の活動は小幅改善だが、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は4カ月ぶりの前月比上昇。また、対面型サービス業指数は2カ月ぶりに同上昇した。観光関連指数も年末の旅行需要増加の影響もあり、旅行業や宿泊業が上昇に寄与し、4カ月ぶりの同上昇となった。

    【トピックス2】

    ・11月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,949.3千人泊で、2019年同月比+10.0%と3カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は8,124.0千人泊、2019年同月比+1.3%と3カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,825.3千人泊となり、同+34.6%と4カ月連続で増加した。日本人宿泊者に比して外国人宿泊者は着実に増加している。

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西2府8県の国内旅行消費額(速報)は1兆1,331億円、19年同期比+12.4%と3四半期連続のプラス。23年通年では4兆1,034億円となり、コロナ禍前(19年比-0.6%)をほぼ回復した。

    ・国内旅行消費額のうち、10-12月期の宿泊旅行消費額は9,101億円で2019年同期比+21.2%となり、2四半期連続のプラス。一方、日帰り旅行消費額は2,230億円。2019年同期比-13.1%と7-9月期(同-21.4%)からマイナス幅は縮小したものの、宿泊旅行消費額に比して回復ペースは緩慢である。

     

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  • 稲田 義久

    令和6年能登半島地震の影響と北陸3県経済 -ストック、フロー、人流を中心に-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 壁谷 紗代 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響が懸念されている。震災によって大きな被害を受けた新潟県、富山県、石川県の3県(以下、北陸3県と記す)の被害状況に基づき、復旧復興の観点からその経済的な影響を考察した。それを整理し得られた含意は以下の通りである。

     

    1. ストックの観点から北陸3県経済をみれば、民間企業資本ストックは、各県とも「サービス」が最も大きい。次いで新潟県、石川県では「農林水産」が、富山県では「化学」が大きい。また、住宅ストックは新潟県が最も大きく、次いで石川県、富山県と続く。
    2. フローの観点から北陸3県経済をみれば、各県とも製造業のシェアが最も高い。うち、新潟県は「食料品」が、富山県は「化学」が、石川県は「はん用・生産用・業務用機械」がそれぞれ最も高いシェアを占めている。
    3. 今回の震災による北陸3県の直接被害(建築物等)を推計すれば、新潟県は5,177億円、富山県は2,946億円、石川県は5,827億円、3県計で1兆3,951億円となる。また、間接被害は4兆円となり、これは2020年度の名目GDPの0.4%に相当する。
    4. 人口移動の観点からみれば、北陸新幹線開業を契機に富山県、石川県でみられたような人口移動が今回の震災を契機に一層進む可能性がある。3月16日に金沢-敦賀間の延伸が実現するが、この効果は福井県では限定的と思われる。
    5. 今回の震災で北陸の観光業の特徴が明らかとなった。北陸は国内市場に強く依存した構造となっている。人口減少が長期トレンド下にあるため、この構造から脱却する必要がある。地域創生戦略にとって、インバウンド需要の一層の取り込みを実現する戦略が重要となろう。

     

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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.130-景気は足下局面変化、先行きは悪化の兆し: 自動車生産停止と中国経済減速がリスク要因

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、10-12月期で均せば低調。雇用環境は失業率が4カ月連続で改善したが、有効求人倍率は悪化が続く。消費は年末商戦や好調なインバウンド需要で堅調。貿易収支は12カ月ぶりに赤字に転じた。自動車生産停止や中国経済減速のリスクもあり、先行き悪化の兆しがみられる。
    • 12月の生産は3カ月ぶりの前月比上昇だが、10-12月期では3四半期ぶりの減産。生産は低調である。
      23年通年の失業率は前年比横ばいだが、労働力人口と就業者数はともに増加し、雇用の回復は順調に進んだ。しかし、10-12月期は労働力人口と就業者数が前期よりいずれも減少し、就業率は低下した。足下では雇用回復の勢いがやや弱くなっている。
    • 11月の現金給与総額は24カ月ぶりの前年比減少。インフレの高止まりにより実質賃金は減少が続き、減少幅は前月より拡大した。
    • 12月の大型小売店販売額は27カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、22カ月連続のプラス。スーパーも15カ月連続で拡大した。
    • 12月の新設住宅着工戸数は2カ月ぶりに前月比増加した。持家、分譲は減少したものの、貸家は増加となったためである。
      堅調な公共工事の影響もあり、12月の建設工事は24カ月連続の前年比増加。しかし、1月の公共工事請負金額は前年比減少に転じている。
    • 1月の景気ウォッチャー現状判断は3カ月ぶりに悪化。令和6年能登半島地震の発生によりサービス関連を中心に悪影響を及ぼした。一方、先行き判断は3カ月連続の改善。春節によるインバウンド需要増加の期待が寄与した。
    • 1月の貿易収支は12カ月ぶりの赤字だが、赤字幅は前年比大幅縮小。輸出は9か月ぶりに同増加に転じた。ただし、春節の時期のずれの影響もあるため、注意が必要である。一方、輸入は10カ月連続で同減少した。
    • 1月の関空経由の外国人入国者数は2カ月連続で70万人超の水準となり、インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。消費者物価指数の低下傾向が顕著になっており、不動産市場の不況も続いている。また、企業の景況感も低迷している。ただし、2月の春節連休は例年より1日多くなっており、観光などレジャーの消費は前年より伸びる可能性が高いため、1-3月期の景気は10-12月期よりわずかな改善が見込まれる。
    【関西経済のトレンド】

    PDF
  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.68 -内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    1. 2023年10-12月期の関西経済は、内需・外需ともに回復の動きが鈍くなっており、足踏みが続いている。家計部門では消費者センチメント、所得、雇用と多くの指標で伸び悩んでいる。企業部門では、景況感は堅調であるものの、生産は一進一退で弱い動きとなっている。対外部門は、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しているが、財輸出は前年割れが続いている。
    2. 家計部門は足踏み状態にある。大型小売店販売はインバウンド需要など客足の回復で堅調であるが、センチメント、所得・雇用環境、住宅市場など幅広い指標で弱い動きとなっている。物価上昇ペースは緩やかになってきたものの、賃上げ機運にも落ち着きが見られ、実質賃金の目減りが個人消費に影を落としている。
    3. 企業部門は、緩やかに持ち直しているが、生産など一部に弱い動きが見られる。景況感は製造業・非製造業ともに持ち直した。また今年度の設備投資計画は今のところ製造業・非製造業とも旺盛となっている。ただ生産は一進一退続きで、3四半期ぶりの減産となるなど回復の足取りは鈍い。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに低調である。輸出では全国と対照的に、関西は3四半期連続の前年割れとなっている。一方インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高などではコロナ禍前の水準を回復し、その後も増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、万博関連需要を背景に、引き続き堅調に推移している。
    6. 関西の実質GRP成長率を2023年度+1.4%、24年度+1.5%、25年度+1.5%と予測。22年度以降1%台の緩やかな回復基調が続き、24年度以降は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、23年度は+0.1%ポイントの上方修正、24年度は-0.1%ポイントの下方修正、25年度は+0.1%ポイントの上方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は23年度+0.3%ポイント、24年度+0.9%ポイント、25年度+1.2%ポイントとなり、24年度に入って緩やかに回復する。公的需要は万博関連の投資により23年度+0.4%ポイント、24年度+0.3%ポイントと成長を下支えるが、25年度には剥落する。域外需要は、23年度は+0.7%ポイント、24年度+0.3%ポイント、25年度+3%ポイントとなる。
    8. 日本全体に比べて、予測期間通じて関西経済が増勢となる。23年度は設備投資を中心に民間需要・公的需要ともにやや増勢となる。一方外需は中国向け輸出の停滞から全国に比べると寄与は小幅となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要により全国を上回る伸びとなる。25年度も域外需要の押し上げから関西が全国を上回る。
    9. 今号のトピックスでは「令和6年能登半島地震の北陸3県経済への影響」および「大阪・関西万博の経済波及効果」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->

  • 稲田 義久

    147回景気分析と予測:詳細版<依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道- 実質GDP成長率予測:23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度+1.1% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1.  2月15日発表のGDP1次速報によれば、10-12月期の実質GDPは前期比年率-0.4%(前期比-0.1%)減少し、2四半期連続のマイナス成長。市場コンセンサスの最終予測(同+1.28%)は実績を大幅に上回った。またCQM最終予測の支出サイドは同+2.0%、生産サイドは同+1.7%、平均は同+1.9%と、実績を大幅に上回った。
    2.  10-12月期の実質GDP成長率(前期比-0.1%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.3%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.2%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備及び民間在庫変動といずれも減少した。公的需要は同-0.1%ポイントと7四半期ぶりのマイナス寄与。一方、サービス輸出(知的財産権等使用料)の大幅増という特殊要因もあり、純輸出は同+0.2%ポイントと2四半期ぶりのプラス寄与。結果、2023年の実質GDPは前年比+1.9%と3年連続のプラスとなった(前年:同+1.0%)。
    3.  10-12月期の国内需要デフレータは前期比+0.4%と12四半期連続のプラス。交易条件は4四半期連続で改善の後横ばい。結果、GDPデフレータは同+0.4%と5四半期連続の上昇となった。このため、名目GDPは前期比+0.3%、同年率+1.2%となり、2四半期ぶりの増加。結果、2023年の名目GDPは前年比+5.7%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年の+6.5%以来の高成長である。
    4.  10-12月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2023-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度を+1.1%と予測。前回(146回予測)から、23年度は-0.4%ポイント、24年度は-0.7%ポイント、25年度-0.1%ポイント、それぞれ下方修正。24年1-3月期は輸出の反動減や自動車の減産から低迷が予想される。24年前半は内需主導の回復は遠のき、外需との好循環は厳しい。回復が見込まれるのは24年後半以降となろう。
    5.  実質賃金がプラス反転しないため、10-12月期の民間最終消費支出は3四半期連続の減少、24年1-3月期の回復も緩やかにとどまり、結果、23年度の民間需要寄与は-0.3%ポイント。一方、交易条件の改善もあり貿易赤字が縮小し、また引き続き好調なインバウンド需要によりサービス輸出が増加し、23年度の純輸出の寄与は+1.3%ポイントと前年から大きくプラス反転する。実質賃金のプラス反転は、インフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。このため24‐25年度の民間需要の寄与は小幅にとどまり、また純輸出の寄与も前年からほぼ横ばいとなる。
    6.  23年度前半に3%台で高止まりした消費者物価インフレ率は徐々に減速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、23年度+2.8%、24年度+2.0%、25年度を+1.4%と予測する。前回予測から変化なし。23年度に交易条件が前年から大幅改善するためGDPデフレータは+3.8%上昇する。このため、同年の名目GDPは+5.2%の高成長となる。24‐25年度については、交易条件改善の裏が出るため、GDPデフレータは24年度+1.5%、25年度+1.8%となる。
    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->