研究成果

research

拡張万博の経済波及効果:UPDATE

Abstract

2022年関西経済白書の第6章3節において、拡張万博の経済効果について2015年関西地域間産業連関表(暫定版)を用いて分析した。本稿では、消費単価と日帰り客の新たな想定に基づき、大阪・関西万博の経済効果を再推計した。本試算は3つのケース(基準ケース、拡張万博ケース1、拡張万博ケース2)に分けて分析を行った。得られた分析結果と含意は以下のようである。

 

1. 経済効果を生産誘発額でみれば、基準ケースでは2兆3,759億円、拡張万博ケース1では2兆7,875億円、拡張万博ケース2では2兆8,818億円と試算された。拡張万博の効果を考慮した場合、経済効果は約4千~5千億円程度の上振れが見込まれる。
2. 拡張万博の経済効果は基準ケースに比べて、大阪府以外の地域ではかなり大きくなる。生産誘発額の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの74.5%から、拡張万博ケース2では62.4%まで低下する。すなわち、拡張万博の展開に伴う延泊と日帰り客の増加により、大阪府以外の地域での経済効果が相対的にも高まることになる。
3. 関西広域にわたって拡張万博に類する様々な取り組みが広がり、観光客にとって魅力的なコンテンツ、滞在型消費を促すようなインセンティブが高まれば、本試算を上回る経済効果が期待できる。
4. 大阪・関西万博に代表される大規模なイベントの経済効果は、特定の地域や特定の時期に留まるのではなく、関西広域で中長期的な取り組みがなされていくことが求められる。大阪・関西万博をひとつの「呼び水」として、関西経済の成長に繋げていくことが重要である。

本文

はじめに

本稿の目的は、当研究所が独自に作成した2015年関西地域間産業連関表(暫定版)を用いて、大阪・関西万博の経済効果を再試算することである。
今回の経済効果の試算では、夢洲会場のパビリオンを中心として最終需要が発生するケース(以下では基準ケースと呼ぶ)に加えて、拡張万博の展開・関西のパビリオン化という概念を取り入れ、関西全体で参加者が増加するケースの経済効果も計算する。拡張万博ケースでは、宿泊者数の泊数が増加するケース(以下では拡張万博ケース1と呼ぶ)と、これに加えて日帰り客が20%増加するケース(以下では拡張万博ケース2と呼ぶ)の2パターンを検討する。これらの想定は、後述する各種イベント等の状況を踏まえる形で再検討したものである。また、国内客及び海外客の旅行一日当たりの支出額(単価)を最新年のデータに基づいてupdateした。
拡張万博とは、万博のテーマ・時間軸・空間軸の概念を拡張し、関西全体を仮想的なパビリオンに見立て、万博本体では実施しにくい事業も含めて様々な経済活動を展開する取り組みを指す。テーマの拡張としては、各自の活動を万博のテーマだけでなくSDGs、Society5.0といった目標の切り口で新たなアクションを検討する。時間軸の拡張としては、万博の開催前から開催後にわたる長期的なアクションを考えるものである。空間軸の拡張としては、万博が開催される夢洲会場だけではなく広域関西(さらには全国)において、万博と親和性の高い活動の展開が考えられる。
こうした拡張万博の取り組みは、関西で既に始まっている。例えば東大阪市は、2022年11月に「HANAZONO EXPO」を開催した。イベントの趣旨は、ポストコロナ社会における新しい生活様式や価値観、最先端の技術によるデジタル化を来場者が体験してもらい、万博の意義や可能性を周知しようとするものであった。当初2万人の来場者を予定していたところ、当日は7万人の来場があり、イベントの目的である大阪・関西万博に向けた機運の醸成と、一定の経済効果を生み出すことに成功したといえる。また兵庫県でも、大阪・関西万博の開催に合わせて、県全体をパビリオンに見立てた「フィールドパビリオン」を展開し、観光客を呼び込むプランを検討している。こうした取り組みが事前・事後に関西全体で展開されていけば、一層の経済効果となることが期待できる。

 

1. 万博最終需要の再想定

ここでは、分析の前提となる最終需要の想定について述べる。万博の開催により発生する最終需要は、①主催者および出展者等による事業運営費と、②来場者による消費支出に大別される。

① 事業運営費

事業運営費は、大阪・関西万博関連事業の進捗を反映した国際博覧会協会および大阪市の公表資料をもとに会場建設費、運営費、関連基盤整備費に分けて想定する(後掲参考図表1参照)。会場建設費は会場内のインフラ整備やパビリオンやサービス施設の建設費等が該当し、主催者・出展者合わせて2,497億円と想定している。運営費は会場管理や広告宣伝費等が該当し、主催者・出展者合わせて2,269億円となる。関連基盤整備費は、会場アクセスのための鉄道整備や道路改良のための費用で、1,128億円と見込んでいる。これらを合計すると5,894億円となる。なおこの金額は、基準ケース・拡張万博ケースで共通である。

 

②-1 基準ケースにおける来場者による消費支出

来場者による消費支出については、1人あたり消費単価に想定来場者数を乗じて算出する。まず基準ケースの想定について述べる。
1人あたり消費単価は、観光庁「旅行・観光消費動向調査」及び「訪日外国人消費動向調査」を基礎資料として、日帰り客、国内宿泊客、海外宿泊客のそれぞれについて交通費、宿泊費、飲食費、買物代、娯楽サービスの費目単価を算定する(図表1)。なお、国内宿泊者及び海外の単価は、1人1回あたり旅行消費単価を日本人及び外国人の平均泊数(日本人:2.24泊、外国人:8.84泊)で除して、それぞれ1人1泊ベースの消費単価に変換されている。いずれもコロナ禍前の2019年統計から計算されている。

 

図表 1 国内客及び海外客消費単価の想定(単位:円/泊)

出所:観光庁『旅行・観光消費動向調査』及び『訪日外国人消費動向調査』より作成

 

想定来場者数は、日本国際博覧会協会「基本計画」に従い、来場者総数を約2,820万人とする。
2,820万人の内訳は、関西2府4県から約1,560万人、関西以外の国内地域から約910万人、海外から約350万人である。ここで関西2府4県からの来場者は日帰り、関西以外の国内地域からの来場者は関西で1泊すると想定する。また海外からの来場者は3泊4日と想定する。なお拡張万博ケースでの各費目の増加分については以下のように想定している。国内宿泊者について、宿泊費は2泊分、交通費、飲食費、娯楽サービス費については1.5泊分の単価を想定している。また、海外について、宿泊は5泊分の単価、交通費、飲食費、娯楽サービス費については4.5泊分の単価を想定している。なお、買い物代は基準ケースと同じとする。

②-2 拡張万博ケースにおける来場者による消費支出

拡張万博ケースでは、万博参加の機運醸成によるリピーター増や、夢洲会場以外の各地で実施されるイベントへの追加的な参加を想定する。このケースでは、宿泊者数の泊数が増加するケース(以下では拡張万博ケース1と呼ぶ)と、これに加えて日帰り客が増加するケース(以下では拡張万博ケース2と呼ぶ)の2パターンを検討する。

拡張万博ケース1・ケース2ともに、国内宿泊客の泊数は1泊から2泊に、海外客は3泊から5泊に、それぞれ増えるとする。また海外客の2泊増については、1泊は大阪で、もう1泊は国内の宿泊客と同様のシェアになるとする。

これに加えてケース2では日帰り客の交通費・飲食費・娯楽サービス費が20%増えるとする。愛知万博の経験によれば、来場者の約40%がリピーターと報告されている5。関西各自治体の努力により、すなわち関西各府県のパビリオン化により国内日帰り客が更に 20%増加し、大阪以外の当該地域を訪問するという想定を行った。2019年関西圏の国内日帰り客(大阪府を除く)の訪問パターンを計算し、その想定で各府県の消費支出額を試算した。

以上の想定の結果、来場者による消費支出は図表 2 のようになる。消費支出総額は、基準ケースでは7,866億円、拡張万博ケース1では1兆143億円(基準ケース比+29.0%)、拡張万博ケース2では1兆646億円(同+35.4%)となる。最終需要は①事業運営費と②来場者による消費支出の合計である。基準ケースで1兆 3,760億円、拡張万博ケース1では1兆6,037億円(基準ケース比+16.6%)、拡張万博ケース2では1兆6,540億円(同+20.2%)となる。なお、基準ケースの最終需要額を産業大分類別にみると図表3のようになる。ここで最終需要は、万博会場となる大阪府だけで発生するとは限らないため、大阪府内と府外に分けて示している。最終需要は,サービス業・その他が6,325億円と最も多く、次いで、建設業3,312億円、運輸・通信業2,356億円、製造業953億円となっている。

 

図表 2 来場者による消費支出(単位:億円)

 

 

 

図表 3 産業別にみた最終需要額

出所:筆者作成

 

2.経済波及効果の再推計

(2)で算出した最終需要の想定について、関西地域間産業連関表(暫定版)に適用し、基準ケースと拡張万博ケースの生産誘発額、粗付加価値誘発額、雇用者所得誘発額をそれぞれ算出する(図表 4)。生産誘発額は、基準ケースでは2兆3,759億円、拡張万博ケース1では2兆7,875億と4,116億円上振れしている。また拡張万博ケース2では 2 兆 8,818 億円と5,059億円上振れしている。ちなみに拡張万博ケース2と拡張万博ケース1の差額は943億円と試算されるが、これは各自治体の一層の努力による拡張万博の効果とみてよい。
次に粗付加価値誘発額をみれば、それぞれ2,221億円、2,782億円上振れしている。雇用者所得誘発額では1,105億円、1,381億円上振れしている。

 

図表 4 基準ケース・拡張万博ケースの経済効果(単位:億円)

出所:筆者作成

 

次に、拡張万博ケース2での生産誘発額が基準ケースに比べてどの程度変化したかについて、地域別に増加額をみたものが図表5である。最も大きく増加しているのは京都府1,566億円であり、次いで兵庫県848億円、その他地域792億円、三重県482億円となっている。なお、「拡張万博ケース 2」における生産誘発額の各産業への影響については後掲参考図表2で示している。

 

図表 5 生産誘発額の基準ケースと拡張万博ケース 2 の差

注:拡張万博ケース2の結果から基準ケースの結果を減じている。
出所:筆者作成

 

また図表6は地域別に各ケースの経済効果、ケース間の差分、経済効果の地域別シェアをまとめたものである。経済効果の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの 74.5%から、拡張万博ケース2では62.4%まで低下している。今回新たに推計された拡張万博ケース2では延泊と日帰り客の増加により、各府県への経済効果がさらに高まる結果となったといえよう。
今後、関西広域にわたって万博開催に向けて様々なイベント開催が予定されている。観光客にとって魅力的なコンテンツ開発で盛り上げることにより、一層の日帰り消費や滞在型消費を促すことができ、経済効果を十分に発揮することが期待されることを本試算は示している。

 

図表 5 府県別経済効果の比較(単位:億円)

出所:筆者作成

 

3.分析のまとめと含意

本稿では、2015年関西地域間産業連関表(暫定版)を用いて、大阪・関西万博の経済効果を試算した。経済効果として、夢洲会場のパビリオンを中心として最終需要が発生する基準ケースと、拡張万博の展開・関西のパビリオン化の下、関西全体で参加者が増加する拡張万博ケースを想定した。
生産誘発額は、基準ケースでは2兆3,759億円、拡張万博ケース1では2兆7,875億円、拡張万博ケース2では2兆8,818億円と試算された。拡張万博の効果を考慮した場合、約4千~5億円程度の上振れが見込まれる。
関西広域にわたって拡張万博に類する様々な取り組みが広がり、観光客にとって魅力的なコンテンツ、滞在型消費を促すようなインセンティブを展開することになれば、経済効果を十分に発揮することが期待できる。
また京都府や兵庫県など大阪府以外の地域では、拡張万博ケースの経済効果は基準ケースに比べてかなり大きくなる。生産誘発額の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの74.5%から、拡張万博ケース2では62.4%まで低下する。すなわち、拡張万博の展開に伴う延泊と日帰り客の増加により、大阪府以外の地域での経済効果が相対的にも高まることになる。
大阪・関西万博に代表される大規模なイベントの経済効果は、特定の地域や特定の時期に留まるのではなく、関西広域で中長期的な取り組みがなされていくことが求められる。大阪・関西万博をひとつの「呼び水」として、関西経済の成長に繋げていくことが重要である。

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    1. 2023年2月から24年1月までの「電気・ガス激変緩和対策」事業により、一世帯あたり電気代29,119円、都市ガス代4,733円、負担額が軽減された。収入階級別にみると、収入が高い世帯ほど電気の使用量が多いため、負担軽減額は大きくなる傾向がみられた。
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    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、1月の訪日外客総数(推計値)は268万8,100人、2019年同月比では-0.0%と2カ月ぶりに小幅マイナスに転じたが、コロナ禍前とほぼ同程度となった。なお、国・地域別では韓国、台湾とオーストラリアが単月で過去最高を記録した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば11月は244万890人。観光客は220万6,883人となり、2カ月連続で200万人超の水準となった。

    ・令和6年能登半島地震は新潟県、富山県、石川県、福井県の観光業に大きな影響を与えている。政府は当該地域で落ち込んだ観光需要を喚起するために、3月より「北陸応援割」を開始した。喚起策により、国内旅行者及び訪日旅行者の増加が期待されよう。

    【トピックス1】

    ・関西1月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、9カ月ぶりの前年比増加。一方、輸入は10カ月連続で減少した。貿易収支は12カ月ぶりの赤字となった。

    ・1月の関西国際空港への訪日外客数は70万402人と、2カ月連続で70万人超の水準。低調なアウトバウンド需要に比してインバウンド需要は堅調に推移している。

    ・12月のサービス業の活動は小幅改善だが、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は4カ月ぶりの前月比上昇。また、対面型サービス業指数は2カ月ぶりに同上昇した。観光関連指数も年末の旅行需要増加の影響もあり、旅行業や宿泊業が上昇に寄与し、4カ月ぶりの同上昇となった。

    【トピックス2】

    ・11月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,949.3千人泊で、2019年同月比+10.0%と3カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は8,124.0千人泊、2019年同月比+1.3%と3カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,825.3千人泊となり、同+34.6%と4カ月連続で増加した。日本人宿泊者に比して外国人宿泊者は着実に増加している。

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西2府8県の国内旅行消費額(速報)は1兆1,331億円、19年同期比+12.4%と3四半期連続のプラス。23年通年では4兆1,034億円となり、コロナ禍前(19年比-0.6%)をほぼ回復した。

    ・国内旅行消費額のうち、10-12月期の宿泊旅行消費額は9,101億円で2019年同期比+21.2%となり、2四半期連続のプラス。一方、日帰り旅行消費額は2,230億円。2019年同期比-13.1%と7-9月期(同-21.4%)からマイナス幅は縮小したものの、宿泊旅行消費額に比して回復ペースは緩慢である。

     

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    1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響が懸念されている。震災によって大きな被害を受けた新潟県、富山県、石川県の3県(以下、北陸3県と記す)の被害状況に基づき、復旧復興の観点からその経済的な影響を考察した。それを整理し得られた含意は以下の通りである。

     

    1. ストックの観点から北陸3県経済をみれば、民間企業資本ストックは、各県とも「サービス」が最も大きい。次いで新潟県、石川県では「農林水産」が、富山県では「化学」が大きい。また、住宅ストックは新潟県が最も大きく、次いで石川県、富山県と続く。
    2. フローの観点から北陸3県経済をみれば、各県とも製造業のシェアが最も高い。うち、新潟県は「食料品」が、富山県は「化学」が、石川県は「はん用・生産用・業務用機械」がそれぞれ最も高いシェアを占めている。
    3. 今回の震災による北陸3県の直接被害(建築物等)を推計すれば、新潟県は5,177億円、富山県は2,946億円、石川県は5,827億円、3県計で1兆3,951億円となる。また、間接被害は4兆円となり、これは2020年度の名目GDPの0.4%に相当する。
    4. 人口移動の観点からみれば、北陸新幹線開業を契機に富山県、石川県でみられたような人口移動が今回の震災を契機に一層進む可能性がある。3月16日に金沢-敦賀間の延伸が実現するが、この効果は福井県では限定的と思われる。
    5. 今回の震災で北陸の観光業の特徴が明らかとなった。北陸は国内市場に強く依存した構造となっている。人口減少が長期トレンド下にあるため、この構造から脱却する必要がある。地域創生戦略にとって、インバウンド需要の一層の取り込みを実現する戦略が重要となろう。

     

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    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、10-12月期で均せば低調。雇用環境は失業率が4カ月連続で改善したが、有効求人倍率は悪化が続く。消費は年末商戦や好調なインバウンド需要で堅調。貿易収支は12カ月ぶりに赤字に転じた。自動車生産停止や中国経済減速のリスクもあり、先行き悪化の兆しがみられる。
    • 12月の生産は3カ月ぶりの前月比上昇だが、10-12月期では3四半期ぶりの減産。生産は低調である。
      23年通年の失業率は前年比横ばいだが、労働力人口と就業者数はともに増加し、雇用の回復は順調に進んだ。しかし、10-12月期は労働力人口と就業者数が前期よりいずれも減少し、就業率は低下した。足下では雇用回復の勢いがやや弱くなっている。
    • 11月の現金給与総額は24カ月ぶりの前年比減少。インフレの高止まりにより実質賃金は減少が続き、減少幅は前月より拡大した。
    • 12月の大型小売店販売額は27カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、22カ月連続のプラス。スーパーも15カ月連続で拡大した。
    • 12月の新設住宅着工戸数は2カ月ぶりに前月比増加した。持家、分譲は減少したものの、貸家は増加となったためである。
      堅調な公共工事の影響もあり、12月の建設工事は24カ月連続の前年比増加。しかし、1月の公共工事請負金額は前年比減少に転じている。
    • 1月の景気ウォッチャー現状判断は3カ月ぶりに悪化。令和6年能登半島地震の発生によりサービス関連を中心に悪影響を及ぼした。一方、先行き判断は3カ月連続の改善。春節によるインバウンド需要増加の期待が寄与した。
    • 1月の貿易収支は12カ月ぶりの赤字だが、赤字幅は前年比大幅縮小。輸出は9か月ぶりに同増加に転じた。ただし、春節の時期のずれの影響もあるため、注意が必要である。一方、輸入は10カ月連続で同減少した。
    • 1月の関空経由の外国人入国者数は2カ月連続で70万人超の水準となり、インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。消費者物価指数の低下傾向が顕著になっており、不動産市場の不況も続いている。また、企業の景況感も低迷している。ただし、2月の春節連休は例年より1日多くなっており、観光などレジャーの消費は前年より伸びる可能性が高いため、1-3月期の景気は10-12月期よりわずかな改善が見込まれる。
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    1. 2023年10-12月期の関西経済は、内需・外需ともに回復の動きが鈍くなっており、足踏みが続いている。家計部門では消費者センチメント、所得、雇用と多くの指標で伸び悩んでいる。企業部門では、景況感は堅調であるものの、生産は一進一退で弱い動きとなっている。対外部門は、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しているが、財輸出は前年割れが続いている。
    2. 家計部門は足踏み状態にある。大型小売店販売はインバウンド需要など客足の回復で堅調であるが、センチメント、所得・雇用環境、住宅市場など幅広い指標で弱い動きとなっている。物価上昇ペースは緩やかになってきたものの、賃上げ機運にも落ち着きが見られ、実質賃金の目減りが個人消費に影を落としている。
    3. 企業部門は、緩やかに持ち直しているが、生産など一部に弱い動きが見られる。景況感は製造業・非製造業ともに持ち直した。また今年度の設備投資計画は今のところ製造業・非製造業とも旺盛となっている。ただ生産は一進一退続きで、3四半期ぶりの減産となるなど回復の足取りは鈍い。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに低調である。輸出では全国と対照的に、関西は3四半期連続の前年割れとなっている。一方インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高などではコロナ禍前の水準を回復し、その後も増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、万博関連需要を背景に、引き続き堅調に推移している。
    6. 関西の実質GRP成長率を2023年度+1.4%、24年度+1.5%、25年度+1.5%と予測。22年度以降1%台の緩やかな回復基調が続き、24年度以降は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、23年度は+0.1%ポイントの上方修正、24年度は-0.1%ポイントの下方修正、25年度は+0.1%ポイントの上方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は23年度+0.3%ポイント、24年度+0.9%ポイント、25年度+1.2%ポイントとなり、24年度に入って緩やかに回復する。公的需要は万博関連の投資により23年度+0.4%ポイント、24年度+0.3%ポイントと成長を下支えるが、25年度には剥落する。域外需要は、23年度は+0.7%ポイント、24年度+0.3%ポイント、25年度+3%ポイントとなる。
    8. 日本全体に比べて、予測期間通じて関西経済が増勢となる。23年度は設備投資を中心に民間需要・公的需要ともにやや増勢となる。一方外需は中国向け輸出の停滞から全国に比べると寄与は小幅となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要により全国を上回る伸びとなる。25年度も域外需要の押し上げから関西が全国を上回る。
    9. 今号のトピックスでは「令和6年能登半島地震の北陸3県経済への影響」および「大阪・関西万博の経済波及効果」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->

  • 稲田 義久

    147回景気分析と予測:詳細版<依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道- 実質GDP成長率予測:23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度+1.1% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1.  2月15日発表のGDP1次速報によれば、10-12月期の実質GDPは前期比年率-0.4%(前期比-0.1%)減少し、2四半期連続のマイナス成長。市場コンセンサスの最終予測(同+1.28%)は実績を大幅に上回った。またCQM最終予測の支出サイドは同+2.0%、生産サイドは同+1.7%、平均は同+1.9%と、実績を大幅に上回った。
    2.  10-12月期の実質GDP成長率(前期比-0.1%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.3%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.2%ポイントと3四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備及び民間在庫変動といずれも減少した。公的需要は同-0.1%ポイントと7四半期ぶりのマイナス寄与。一方、サービス輸出(知的財産権等使用料)の大幅増という特殊要因もあり、純輸出は同+0.2%ポイントと2四半期ぶりのプラス寄与。結果、2023年の実質GDPは前年比+1.9%と3年連続のプラスとなった(前年:同+1.0%)。
    3.  10-12月期の国内需要デフレータは前期比+0.4%と12四半期連続のプラス。交易条件は4四半期連続で改善の後横ばい。結果、GDPデフレータは同+0.4%と5四半期連続の上昇となった。このため、名目GDPは前期比+0.3%、同年率+1.2%となり、2四半期ぶりの増加。結果、2023年の名目GDPは前年比+5.7%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年の+6.5%以来の高成長である。
    4.  10-12月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2023-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度を+1.1%と予測。前回(146回予測)から、23年度は-0.4%ポイント、24年度は-0.7%ポイント、25年度-0.1%ポイント、それぞれ下方修正。24年1-3月期は輸出の反動減や自動車の減産から低迷が予想される。24年前半は内需主導の回復は遠のき、外需との好循環は厳しい。回復が見込まれるのは24年後半以降となろう。
    5.  実質賃金がプラス反転しないため、10-12月期の民間最終消費支出は3四半期連続の減少、24年1-3月期の回復も緩やかにとどまり、結果、23年度の民間需要寄与は-0.3%ポイント。一方、交易条件の改善もあり貿易赤字が縮小し、また引き続き好調なインバウンド需要によりサービス輸出が増加し、23年度の純輸出の寄与は+1.3%ポイントと前年から大きくプラス反転する。実質賃金のプラス反転は、インフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。このため24‐25年度の民間需要の寄与は小幅にとどまり、また純輸出の寄与も前年からほぼ横ばいとなる。
    6.  23年度前半に3%台で高止まりした消費者物価インフレ率は徐々に減速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、23年度+2.8%、24年度+2.0%、25年度を+1.4%と予測する。前回予測から変化なし。23年度に交易条件が前年から大幅改善するためGDPデフレータは+3.8%上昇する。このため、同年の名目GDPは+5.2%の高成長となる。24‐25年度については、交易条件改善の裏が出るため、GDPデフレータは24年度+1.5%、25年度+1.8%となる。
    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->

  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:12月レポート No.55

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、12月の訪日外客総数(推計値)は273万4,000人、2019年同月比+8.2%と2カ月ぶりのプラス。2023年通年では年後半の回復が影響し、2,506万5,862人となり、コロナ禍前の8割程度(19年比-21.4%)を回復した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば10月は251万6,623人。観光客は224万5,892人でコロナ禍前(19年同月比+3.1%)を回復した。

    ・訪日外客の先行きについては、回復が遅れている訪日中国人客の動向が気になるところである。2月は10日から春節が始まり、中国人客の増加が期待されている。一方で、中国経済減速の影響もあるため、大幅な増加は見込めず、緩やかな回復にとどまる可能性が高い。

    【トピックス1】

    ・関西12月の輸出は8カ月連続で前年比減少。また、輸入は9カ月連続で減少し、8カ月連続で2桁のマイナスであった。結果、輸入の減少幅が輸出のそれを大きく上回ったため、貿易収支は11カ月連続の黒字となった。

    ・12月の関西国際空港への72万1,677人となり、12月単月で過去最高を記録。2023年通年では652万5,158人となり、コロナ禍前の8割弱(19年比-22.1%)を回復した。

    ・11月のサービス業の活動は悪化傾向が続く。第3次産業活動指数は3カ月連続の前月比低下。また、対面型サービス業指数は2カ月ぶりに同低下した。観光関連指数も飲食店、飲食サービス業や宿泊業が低下に寄与し、3カ月連続の同低下となった。

    【トピックス2】

    ・10月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,417.1千人泊、2019年同月比では+10.1%となった。前月に引き続き外国人宿泊者の増加が延べ宿泊者全体の増加に寄与した。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は7,709.1千人泊、2019年同月比+4.7%と2カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,708.0千人泊となり、同+23.1%と3カ月連続で増加した。

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における訪日外国人消費額(1次速報、全目的ベース)は1兆6,688億円、19年同期比+37.6%と2四半期連続のプラス。23年通年では5兆2,923億円となり、過去最高額を更新した。

    ・2023年10-12月期の1人当たり旅行支出(全目的)は21万201円となった。2019年同期比+28.0%と、4四半期連続のプラス。1人1泊当たり旅行支出でみれば、2万5,493円となり、2019年同期比+30.5%増加した。費目別では、宿泊費、飲食費、交通費、娯楽等サービス費、買物代いずれも増加した。

     

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