拡張万博の経済波及効果:UPDATE
Abstract
2022年関西経済白書の第6章3節において、拡張万博の経済効果について2015年関西地域間産業連関表(暫定版)を用いて分析した。本稿では、消費単価と日帰り客の新たな想定に基づき、大阪・関西万博の経済効果を再推計した。本試算は3つのケース(基準ケース、拡張万博ケース1、拡張万博ケース2)に分けて分析を行った。得られた分析結果と含意は以下のようである。
1. 経済効果を生産誘発額でみれば、基準ケースでは2兆3,759億円、拡張万博ケース1では2兆7,875億円、拡張万博ケース2では2兆8,818億円と試算された。拡張万博の効果を考慮した場合、経済効果は約4千~5千億円程度の上振れが見込まれる。
2. 拡張万博の経済効果は基準ケースに比べて、大阪府以外の地域ではかなり大きくなる。生産誘発額の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの74.5%から、拡張万博ケース2では62.4%まで低下する。すなわち、拡張万博の展開に伴う延泊と日帰り客の増加により、大阪府以外の地域での経済効果が相対的にも高まることになる。
3. 関西広域にわたって拡張万博に類する様々な取り組みが広がり、観光客にとって魅力的なコンテンツ、滞在型消費を促すようなインセンティブが高まれば、本試算を上回る経済効果が期待できる。
4. 大阪・関西万博に代表される大規模なイベントの経済効果は、特定の地域や特定の時期に留まるのではなく、関西広域で中長期的な取り組みがなされていくことが求められる。大阪・関西万博をひとつの「呼び水」として、関西経済の成長に繋げていくことが重要である。
本文
はじめに
本稿の目的は、当研究所が独自に作成した2015年関西地域間産業連関表(暫定版)を用いて、大阪・関西万博の経済効果を再試算することである。
今回の経済効果の試算では、夢洲会場のパビリオンを中心として最終需要が発生するケース(以下では基準ケースと呼ぶ)に加えて、拡張万博の展開・関西のパビリオン化という概念を取り入れ、関西全体で参加者が増加するケースの経済効果も計算する。拡張万博ケースでは、宿泊者数の泊数が増加するケース(以下では拡張万博ケース1と呼ぶ)と、これに加えて日帰り客が20%増加するケース(以下では拡張万博ケース2と呼ぶ)の2パターンを検討する。これらの想定は、後述する各種イベント等の状況を踏まえる形で再検討したものである。また、国内客及び海外客の旅行一日当たりの支出額(単価)を最新年のデータに基づいてupdateした。
拡張万博とは、万博のテーマ・時間軸・空間軸の概念を拡張し、関西全体を仮想的なパビリオンに見立て、万博本体では実施しにくい事業も含めて様々な経済活動を展開する取り組みを指す。テーマの拡張としては、各自の活動を万博のテーマだけでなくSDGs、Society5.0といった目標の切り口で新たなアクションを検討する。時間軸の拡張としては、万博の開催前から開催後にわたる長期的なアクションを考えるものである。空間軸の拡張としては、万博が開催される夢洲会場だけではなく広域関西(さらには全国)において、万博と親和性の高い活動の展開が考えられる。
こうした拡張万博の取り組みは、関西で既に始まっている。例えば東大阪市は、2022年11月に「HANAZONO EXPO」を開催した。イベントの趣旨は、ポストコロナ社会における新しい生活様式や価値観、最先端の技術によるデジタル化を来場者が体験してもらい、万博の意義や可能性を周知しようとするものであった。当初2万人の来場者を予定していたところ、当日は7万人の来場があり、イベントの目的である大阪・関西万博に向けた機運の醸成と、一定の経済効果を生み出すことに成功したといえる。また兵庫県でも、大阪・関西万博の開催に合わせて、県全体をパビリオンに見立てた「フィールドパビリオン」を展開し、観光客を呼び込むプランを検討している。こうした取り組みが事前・事後に関西全体で展開されていけば、一層の経済効果となることが期待できる。
1. 万博最終需要の再想定
ここでは、分析の前提となる最終需要の想定について述べる。万博の開催により発生する最終需要は、①主催者および出展者等による事業運営費と、②来場者による消費支出に大別される。
① 事業運営費
事業運営費は、大阪・関西万博関連事業の進捗を反映した国際博覧会協会および大阪市の公表資料をもとに会場建設費、運営費、関連基盤整備費に分けて想定する(後掲参考図表1参照)。会場建設費は会場内のインフラ整備やパビリオンやサービス施設の建設費等が該当し、主催者・出展者合わせて2,497億円と想定している。運営費は会場管理や広告宣伝費等が該当し、主催者・出展者合わせて2,269億円となる。関連基盤整備費は、会場アクセスのための鉄道整備や道路改良のための費用で、1,128億円と見込んでいる。これらを合計すると5,894億円となる。なおこの金額は、基準ケース・拡張万博ケースで共通である。
②-1 基準ケースにおける来場者による消費支出
来場者による消費支出については、1人あたり消費単価に想定来場者数を乗じて算出する。まず基準ケースの想定について述べる。
1人あたり消費単価は、観光庁「旅行・観光消費動向調査」及び「訪日外国人消費動向調査」を基礎資料として、日帰り客、国内宿泊客、海外宿泊客のそれぞれについて交通費、宿泊費、飲食費、買物代、娯楽サービスの費目単価を算定する(図表1)。なお、国内宿泊者及び海外の単価は、1人1回あたり旅行消費単価を日本人及び外国人の平均泊数(日本人:2.24泊、外国人:8.84泊)で除して、それぞれ1人1泊ベースの消費単価に変換されている。いずれもコロナ禍前の2019年統計から計算されている。
図表 1 国内客及び海外客消費単価の想定(単位:円/泊)
出所:観光庁『旅行・観光消費動向調査』及び『訪日外国人消費動向調査』より作成
想定来場者数は、日本国際博覧会協会「基本計画」に従い、来場者総数を約2,820万人とする。
2,820万人の内訳は、関西2府4県から約1,560万人、関西以外の国内地域から約910万人、海外から約350万人である。ここで関西2府4県からの来場者は日帰り、関西以外の国内地域からの来場者は関西で1泊すると想定する。また海外からの来場者は3泊4日と想定する。なお拡張万博ケースでの各費目の増加分については以下のように想定している。国内宿泊者について、宿泊費は2泊分、交通費、飲食費、娯楽サービス費については1.5泊分の単価を想定している。また、海外について、宿泊は5泊分の単価、交通費、飲食費、娯楽サービス費については4.5泊分の単価を想定している。なお、買い物代は基準ケースと同じとする。
②-2 拡張万博ケースにおける来場者による消費支出
拡張万博ケースでは、万博参加の機運醸成によるリピーター増や、夢洲会場以外の各地で実施されるイベントへの追加的な参加を想定する。このケースでは、宿泊者数の泊数が増加するケース(以下では拡張万博ケース1と呼ぶ)と、これに加えて日帰り客が増加するケース(以下では拡張万博ケース2と呼ぶ)の2パターンを検討する。
拡張万博ケース1・ケース2ともに、国内宿泊客の泊数は1泊から2泊に、海外客は3泊から5泊に、それぞれ増えるとする。また海外客の2泊増については、1泊は大阪で、もう1泊は国内の宿泊客と同様のシェアになるとする。
これに加えてケース2では日帰り客の交通費・飲食費・娯楽サービス費が20%増えるとする。愛知万博の経験によれば、来場者の約40%がリピーターと報告されている5。関西各自治体の努力により、すなわち関西各府県のパビリオン化により国内日帰り客が更に 20%増加し、大阪以外の当該地域を訪問するという想定を行った。2019年関西圏の国内日帰り客(大阪府を除く)の訪問パターンを計算し、その想定で各府県の消費支出額を試算した。
以上の想定の結果、来場者による消費支出は図表 2 のようになる。消費支出総額は、基準ケースでは7,866億円、拡張万博ケース1では1兆143億円(基準ケース比+29.0%)、拡張万博ケース2では1兆646億円(同+35.4%)となる。最終需要は①事業運営費と②来場者による消費支出の合計である。基準ケースで1兆 3,760億円、拡張万博ケース1では1兆6,037億円(基準ケース比+16.6%)、拡張万博ケース2では1兆6,540億円(同+20.2%)となる。なお、基準ケースの最終需要額を産業大分類別にみると図表3のようになる。ここで最終需要は、万博会場となる大阪府だけで発生するとは限らないため、大阪府内と府外に分けて示している。最終需要は,サービス業・その他が6,325億円と最も多く、次いで、建設業3,312億円、運輸・通信業2,356億円、製造業953億円となっている。
図表 2 来場者による消費支出(単位:億円)
図表 3 産業別にみた最終需要額
出所:筆者作成
2.経済波及効果の再推計
(2)で算出した最終需要の想定について、関西地域間産業連関表(暫定版)に適用し、基準ケースと拡張万博ケースの生産誘発額、粗付加価値誘発額、雇用者所得誘発額をそれぞれ算出する(図表 4)。生産誘発額は、基準ケースでは2兆3,759億円、拡張万博ケース1では2兆7,875億と4,116億円上振れしている。また拡張万博ケース2では 2 兆 8,818 億円と5,059億円上振れしている。ちなみに拡張万博ケース2と拡張万博ケース1の差額は943億円と試算されるが、これは各自治体の一層の努力による拡張万博の効果とみてよい。
次に粗付加価値誘発額をみれば、それぞれ2,221億円、2,782億円上振れしている。雇用者所得誘発額では1,105億円、1,381億円上振れしている。
図表 4 基準ケース・拡張万博ケースの経済効果(単位:億円)
出所:筆者作成
次に、拡張万博ケース2での生産誘発額が基準ケースに比べてどの程度変化したかについて、地域別に増加額をみたものが図表5である。最も大きく増加しているのは京都府1,566億円であり、次いで兵庫県848億円、その他地域792億円、三重県482億円となっている。なお、「拡張万博ケース 2」における生産誘発額の各産業への影響については後掲参考図表2で示している。
図表 5 生産誘発額の基準ケースと拡張万博ケース 2 の差
注:拡張万博ケース2の結果から基準ケースの結果を減じている。
出所:筆者作成
また図表6は地域別に各ケースの経済効果、ケース間の差分、経済効果の地域別シェアをまとめたものである。経済効果の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの 74.5%から、拡張万博ケース2では62.4%まで低下している。今回新たに推計された拡張万博ケース2では延泊と日帰り客の増加により、各府県への経済効果がさらに高まる結果となったといえよう。
今後、関西広域にわたって万博開催に向けて様々なイベント開催が予定されている。観光客にとって魅力的なコンテンツ開発で盛り上げることにより、一層の日帰り消費や滞在型消費を促すことができ、経済効果を十分に発揮することが期待されることを本試算は示している。
図表 5 府県別経済効果の比較(単位:億円)
出所:筆者作成
3.分析のまとめと含意
本稿では、2015年関西地域間産業連関表(暫定版)を用いて、大阪・関西万博の経済効果を試算した。経済効果として、夢洲会場のパビリオンを中心として最終需要が発生する基準ケースと、拡張万博の展開・関西のパビリオン化の下、関西全体で参加者が増加する拡張万博ケースを想定した。
生産誘発額は、基準ケースでは2兆3,759億円、拡張万博ケース1では2兆7,875億円、拡張万博ケース2では2兆8,818億円と試算された。拡張万博の効果を考慮した場合、約4千~5億円程度の上振れが見込まれる。
関西広域にわたって拡張万博に類する様々な取り組みが広がり、観光客にとって魅力的なコンテンツ、滞在型消費を促すようなインセンティブを展開することになれば、経済効果を十分に発揮することが期待できる。
また京都府や兵庫県など大阪府以外の地域では、拡張万博ケースの経済効果は基準ケースに比べてかなり大きくなる。生産誘発額の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの74.5%から、拡張万博ケース2では62.4%まで低下する。すなわち、拡張万博の展開に伴う延泊と日帰り客の増加により、大阪府以外の地域での経済効果が相対的にも高まることになる。
大阪・関西万博に代表される大規模なイベントの経済効果は、特定の地域や特定の時期に留まるのではなく、関西広域で中長期的な取り組みがなされていくことが求められる。大阪・関西万博をひとつの「呼び水」として、関西経済の成長に繋げていくことが重要である。