日本経済(月次)予測(2023年10月)<10月末までに発表されたデータを更新し、7-9月期実質GDP成長率予測を前期比年率-1.8%と下方修正>
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10 月発表データのレビュー
▶今回の予測では、10月の最終週までに発表されたデータを更新した。9月の家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、7-9月期GDP推計に必要な基礎月次データはほぼ更新されたことになる。
▶9月の生産指数は前月比+0.2%と3カ月ぶりのプラス。結果、7-9月期は前期比-1.3%低下し、2四半期ぶりのマイナスとなった。生産は「一進一退」。
▶8月の実質総消費動向指数は前月比-0.1%と3カ月ぶりのマイナス。7-8月平均は 4-6月平均比-0.0%となった。
▶7-9月期を前期と比較すれば、建築工事費予定額は-1.2%減少(3四半期ぶり)、資本財出荷指数も-1.8%減少した(2四半期ぶり)。一方、7-8月平均の公共工事は4-6月平均比+0.2%の増加にとどまった。
▶7-9月期を前期と比較すれば、実質輸出額は+0.8%増加(2四半期連続)、実質輸入額は-0.1%減少した(3四半期連続)。同期の財貨・サービスの純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は前期比小幅のマイナスとなっている。
7-9月期実質GDP成長率予測の動態
▶今回のCQM(支出サイド)は、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率-1.8%と予測する。生産サイドは同+0.0%、両モデル平均は同-0.9%の予測となっている。平均予測は市場コンセンサス(同-0.48%)より幾分低めである(図表1参照)。
図表1 CQM予測の動態:実質GDP成長率
2023年7-9月期 (%,前期比年率)
7-9月期インフレ予測の動態
▶9月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.8%と25カ月連続の上昇。インフレ率は7カ月連続で3%台を記録したが、エネルギーの下落もあり8月は 2%台となった。結果、7-9月期は前年同期比+3.0%(8 四半期連続)上昇した。
▶今回のCQMは、7-9月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.5%、国内需要デフレータを同+0.3%と予測している。一方、交易条件は大幅改善するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.7%と予測する(図表2参照)。
図表 2 CQM予測の動態:インフレーション
2023年7-9月期 (%,前期比)
本予測はペンシルバニア大学クライン名誉教授によって開発された超短期モデル(Current Quarter Model)のアイデアを日本経済に適用したものである。本予測システムでは、毎週発表されたデータの景気への影響を調べることができる。予測は支出サイド、生産サイド(主成分分析)の2つのモデルを用いて行われ、前者の予測値を主要系列とし、後者の予測値と両モデルの予測平均値を参考系列としている。
1. 10月発表データのレビュー
今回の予測では、9月末までに発表されたデータを更新した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、7-9月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ2/3が更新されたことになる。
1-1. 生産・労働関連指標
経済産業省の鉱工業指数の動向(速報)によれば、9月の生産指数(季節調整値:2020=100)は前月比+0.2%と3カ月ぶりのプラス。なお実績は補正値(同+3.7%)を下回った。結果、7-9月期は前期比-1.3%低下し、2四半期ぶりのマイナス。また、経産省は生産の基調判断を「一進一退」と前月から据え置いた。
総務省によれば、9月の完全失業率(季節調整値)は 2.6%となり、前月差-0.1%ポイント低下した。3カ月ぶりのマイナス。9月の完全失業者数(季節調整値)は177万人となり、前月差-8万人と3カ月ぶりの減少。9月の就業者数(季節調整値)は同+6万人の6,756万人と2カ月連続の増加。また雇用者数(季節調整値)も同+20万人の 6,111万人と2カ月連続の増加となった。7-9月期の就業者や雇用者は前期から、それぞれ+5万人、+13万人増加した(いずれも2四半期連続)。労働市場は改善している。なお、就業者はコロナ禍前のピーク(2019年10月:6,784万人)を依然回復できていないが、雇用者はピーク(20年2月:6,067万人)を5カ月連続で超えた。
厚生労働省によれば、9月の有効求人倍率(季節調整値)は1.29倍、前月差0.00ポイントと2カ月連続の横ばいとなった。9月の有効求人数は前月比-0.0%、3カ月ぶりの減少。有効求職者数は同-0.1%、2カ月連続の減少となった。原材料高による収益悪化の影響で製造業での求人は停滞する一方、実質賃金の減少もあり転職や兼業を目指す求職者の動きが減少した。結果、7-9月期の有効求人倍率は前期差-0.02ポイントと小幅ながら3四半期連続で低下した。
厚生労働省の毎月勤労統計調査(確報、調査産業計、事業所規模5人以上)によれば、8月の現金給与総額は前年同月比+0.8%と20カ月連続で増加した。また速報から下方修正された。現金給与総額を消者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)で除した実質現金給与総額は同-2.8%と17カ月連続で減少し、速報から下方修正された。
1-2. 内需関連指標
総務省の世帯全体の消費支出総額を示す実質総消費動向指数(季節調整値:2020年=100)は、8 月に前月比-0.1%と3カ月ぶりのマイナス。結果、7-8月平均は4-6月平均比-0.0%となった(4-6月期:前期比-0.3%)。
国土交通省の建築着工統計によれば、GDPベースの民間住宅投資をよく説明する建築工事費予定額(居住用+0.7*居住産業併用)は、9月に前年同月比+3.1%、5カ月連続の増加。季節調整値(APIR推計)は前月比-3.1%と2カ月ぶりの減少。結果、7-9月期は前期比-1.2%減少し、3四半期ぶりのマイナス。
経済産業省の鉱工業指数の動向(速報)によれば、9月の資本財指数は前月比+0.2%と3カ月ぶりの上昇。7-9月期は前期1.8%と2四半期ぶりに低下した。国土交通省の建設総合統計(出来高ベース)によれば、8月の公共工事は前年同月比+3.5%と12APIR推計)は前月比-0.2%と2カ月ぶりの減少。結果、7-8月平均は4-6月平均比+0.2%増加にとどまった。
1-3. 物価関連指標
総務省によれば9月の全国消費者物価コア指数(除く生鮮食品、2020年平均=100)は前年同月比+2.8%と25カ月連続の上昇。インフレ率は7カ月連続で 3%台を記録したが、エネルギーの下落もあり 8月は 2%台となった。結果、7-9月期は前年同期比+3.0%(8 四半期連続)上昇した。コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー、2020年平均=100)は同+4.2%と18カ月連続の上昇。政策効果の影響もあり、コアコア指数のインフレ率は8カ月連続でコア指数インフレを上回った。結果、7-9月期は前年同期比+4.3%(6四半期連続)上昇した。
9月総合指数の品目別動向をみると、エネルギーは前年同月比-11.7%と8カ月連続の低下。寄与度は-1.00%。うち、政府の電気・ガス料金抑制策により、電気代は同-24.6%と8カ月連続で低下した。寄与度は-1.01%。都市ガス代は同-17.5%と4カ月連続で低下した。寄与度は-0.20%。ガソリンは同+8.7%と3カ月連続の上昇。寄与度は+0.19%。
非エネルギーは前年同月比+4.4%と18カ月連続の上昇。寄与度は+4.00%となった。うち、生鮮食品を除く食料は同+8.8%となり、27カ月連続の上昇。寄与度は+2.01%となった。家庭用耐久財は同+1.5%と18カ月連続の上昇。寄与度は+0.02%。教養娯楽用耐久財は同+0.2%、23カ月連続の上昇。寄与度は+0.00%となった。
財・サービス分類でみれば、財は前年同月比+4.0%と29カ月連続の上昇。寄与度は 2.09%。財価格は 23年1月をピークに減速傾向を示している。サービスは同+2.0%と 14カ月連続の上昇となった。寄与度は+0.96%。サービス支出関連では、宿泊料は同+17.9%と6カ月連続の上昇。寄与度は0.17%。移動電話通信料は同+10.2%と12カ月連続の上昇。寄与度は+0.13%。
日本銀行によれば、9月の国内企業物価指数(2020年平均=100)は前年同月比+2.0%と31カ月連続の上昇だが、9カ月連続の減速。結果、7-9月期は前年同期比+2.9%上昇した(10四半期連続のプラス)。
9月の円ベースの輸出物価指数(2020年平均=100)は前年同月比+2.5%と2カ月連続の上昇。結果、7-9月期は前年同期比+1.9%上昇した(11四半期連続のプラス)。円ベースの輸入物価指数(2020年平均=100)は前年同月比-14.0%と6カ月連続の低下。7-9月期は前年同期比-13.4%低下した(2四半期連続のマイナス)。9月の交易条件指数(輸出物価指数/輸入物価指数*100)は前年同月差+13.4ポイント上昇し、6カ月連続の改善となった。結果、7-9月期の交易条件指数は、前年同期比+12.5ポイント(2四半期連続)、それぞれ上昇した。
1-4. 貿易関連指標
財務省発表の貿易統計(速報)によると、9月の貿易収支(季節調整値)は 28カ月連続の赤字だが、赤字幅は前月比-21.5%と2カ月連続で縮小した。結果、7-9月期の貿易赤字は前期比33.0%と 4四半期連続で縮小した。
9月の輸出額(季節調整値)は前月比+7.2%、2カ月ぶりの増加。輸入額(季節調整値)は同+5.4%、2カ月ぶりの増加となった。7-9月期を前期と比較すると、輸出は+4.5%増加(2四半期連続)、輸入は+1.2%増加した(4四半期ぶり)。
実質ベース(日本銀行、季節調整値、2020年平均=100)でみると、9月の実質輸出額は前月比+4.6%と 2カ月ぶりの増加。実質輸入額は同+2.5%と2カ月ぶりの増加となった。7-9月期を前期と比較すれば、実質輸出額は+0.8%(2四半期連続)増加、実質輸入額は-0.1%(3四半期連続)減少した。
8月の地域別貿易動向(数量ベース、季節調整値:APIR推計)をみれば、9月の対アジア輸出は前月比+9.3%、対中輸出は同+6.3%、対米輸出は同+4.1%、対EUは同+7.2%となった。7-9月期を前期と比較すれば、対アジアは+4.1%、対中国は+1.6%、対米は+2.8%、対EU+0.9%となった。一方、9月の対アジア輸入は前月比+2.6%、対中輸入は同+5.6%、対米輸入は同-6.6%、対EU輸入は同-4.8%となった。7-9月期を前期と比較すれば、対アジアは+0.7%、対中国は-0.1%、対米は-6.6%、対EUは-2.8%となった。
2. 7-9 月期実質GDP成長率予測の動態
最新のデータ更新の結果、今週のCQM(支出サイド)は、7-9月期の実質GDP成長率を前期比-0.5%、同年率-1.8%と予測。前回の予測(-1.8%)からほぼ変化なし。国内需要は実質GDP成長率に対して前期比-0.1%ポイント、純輸出は同-0.3%ポイントの寄与度となった。
一方、総需要(国内需要+輸出)ベースでは、実質総需要成長率を前期比年率-0.6%と予測した。前回の予測(同-0.6%)からほぼ変化なし。また、最終需要1(GDP-在庫増)は同-1.8%、最終需要 2(GDP-在庫増-純輸出)は同-0.5%と予測した。
7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.1%減少する。実質民間住宅は同+0.1%増加、実質民間企業設備は同-0.6%減少。実質民間在庫変動は+1兆8,572億円増加する。実質政府最終消費支出は同+0.1%増加、実質公的固定資本形成は同+0.3%増加。また実質公的在庫変動は-1,524億円減少する。財貨・サービスの実質輸出は前期比-0.2%減少、実質同輸入は同+1.5%増加する。結果、実質純輸出は+2兆8,414億円となる。
なお、今週の CQM(生産サイド:主成分分析モデル)は、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率+0.0%と予測。両モデルの平均予測は同-0.9%となった(図表1参照)。なおコンセンサス予測は同-0.48%となっている。
3. 7-9月期インフレ予測の動態
インフレ動態をみると、7-9月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.5%、国内需要デフレータを同+0.3%と予測する。また財貨・サービスの輸出デフレータを同+2.8%、同輸入デフレータを同+0.2%と予測する。交易条件は大幅改善する結果、ヘッドラインイン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.7%と予測する(図表2参照)。
また7-9月期の雇用者報酬を前期比-0.5%、単位労働費用を同0.0%と予測する(後掲予測詳細表2及び3参照)。