研究成果

research

大阪・関西万博の経済波及効果 -最新データを踏まえた試算と拡張万博の経済効果-

Abstract

本稿の目的は、万博関連事業費などの最新データを踏まえた大阪・関西万博の経済波及効果の試算を示すとともに拡張万博の重要性を主張するものである。今回の試算の背景にはCOVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻の影響によるインフレの加速と供給制約の高まりがある。このような環境下においても、大阪・関西万博を開催することには重要な意義があるとわれわれは考える。万博開催が、関西経済、ひいては日本経済の反転に向けてのチャンスであり、これを生かすことは、反転を実現するための将来への投資でもある。分析結果の要約と含意は以下のとおりである。

  1. 今回の最終需要は、万博関連事業費7,275億円、消費支出8,913億円と想定した。前回より前者は1,381億円(前回比+23.4%)、後者は1,047億円(同+13.3%)の上振れとなった。
  2. 上記最終需要をもとにAPIR関西地域間産業連関表を用いて経済波及効果を計算した結果、生産誘発額は夢洲会場のみで発生する基準ケースで2兆7,457億円、夢洲会場以外のイベントによる追加的な参加(泊数増加)を想定した拡張万博ケース1で3兆2,384億円、加えてリピーター増を考慮した拡張万博ケース2で3兆3,667億円。前回よりそれぞれ3,698億円(前回比+15.6%)、4,509億円(同+16.2%)、4,849億円(同+16.8%)と上振れた。
  3. 得られた試算値は、最終需要が発生した場合、その需要を満たすために直接・間接に一定の産業構造の下でどの程度の需要が諸産業に発生するかを計算したものであり、明瞭な供給制約がないことを前提としている。その意味で本試算値は一定の幅を持って理解される必要がある。
  4. また、試算結果を実現するためには供給制約の緩和は必須である。そのためにDXの活用が重要となり、それが日本の潜在成長率を高めることになる。加えて万博が海外の旅行者に興味を持ってもらうためには、万博と絡めた旅行コンテンツの磨き上げが重要となる。

本文

はじめに

本稿の目的は、最新データを踏まえた大阪・関西万博の経済波及効果の試算を示すとともに拡張万博の重要性を主張するものである。

産業連関表を用いて 3 度の試算を発表した。今回は 4 度目の試算となる。この背景には、試算の前提(万博関連事業費用)がこの間大きく上振れたことがある。

このため、万博開催に異議を唱える意見が増えていることも事実である。これらの点を踏まえて今回改定に踏み切った。振り返ってみると、政府試算が発表された 2017 年以降、世界経済や日本経済は大きな環境変化に直面することとなった。具体的には、COVID-19 パンデミックやロシアのウクライナ侵攻の影響である。結果、インフレの加速と供給制約の高まりが万博関連事業費用の上振れの重要な背景であり、これらが万博開催に否定的な意見につながったとも言えよう。

われわれはこのような環境変化の下でも、大阪・関西万博を開催することには重要な意義があると考えている。これまでの万博は産業発展や技術革新を国際的に披露する場であったが、最近は人類共通の課題解決を提言する場となっている。すなわち万博開催が、関西経済、ひいては日本経済の反転に向けてのまたとないチャンスであり、そこには重要な歴史的な意義があると考えている。またこのチャンスを生かすことは、反転を実現するための将来への投資でもある。

このような歴史的な意義に加えて、1970 年に開催された大阪万博では見られなかった新たな概念である「拡張万博」の重要性をわれわれは主張したい。拡張万博とは、「万博のテーマ・時間軸・空間軸の概念を拡張し、関西全体を仮想的なパビリオンに見立て、万博本体では実施しにくい事業も含めて様々な経済活動を展開する取り組み」を指す。これまでの万博の概念を拡大した理解となっている。拡張万博を意識することでより大きな成果が生まれると考えている。

なお、分析ツールとして用いている APIR 関西地域間産業連関表は、これまで未発表であった奈良県産業連関表 2015 年版を APIR で独自に推計して統合した暫定版であった。今回新たに 2023年 12 月に発表された奈良県の産業連関表をそれに置き換えた。このため、今回は関西地域間産業連関表(2015 年表:確定版)を用いた分析となっている。

以下の議論の展開は、1.で最新のデータを踏まえた大阪・関西万博の最終需要の再想定を示す。2.ではこれに基づいて、その経済波及効果の推計結果(基準ケースと拡張万博のケース)を示す。3.では分析のまとめとその含意を示す。

 

1. 大阪・関西万博の最終需要の再想定

ここでは、分析の前提となる最終需要の想定の変化を説明する。万博の開催により発生する最終需要は、①主催者および出展者等による万博関連事業費(会場建設費、運営費、関連基盤整備等)と、②来場者による消費支出に大別される。

図表 1 は前回と今回の最終需要想定とその変化を示している。今回の特徴は、これまでの会場建設費(主催者、出展者)、運営費(主催者、出展者)、関連基盤整備の各カテゴリーに加え、万博準備に向けた自治体費用が追加されたことである。

以下、カテゴリーごとに前回と今回の想定の変化を説明しよう。

1-1.万博関連事業費の変化

万博関連事業費は、大阪・関西万博関連事業の進捗を反映した国際博覧会協会(2023a 及び b)、大阪府市万博推進局(2023)、内閣官房国際博覧会推進本部事務局 経済産業省商務・サービスグループ(2023)及び有限責任監査法人トーマツ(2018)の公表資料をもとに想定する。

 

【会場建設費(主催者・出展者)】
会場建設費について、主催者の総計は前回想定した 1,847 億円から 503 億円増加し 2,350 億円が計上されている。主な内訳は、「パビリオン施設、サービス施設」が 1,579 億円、「基盤設備整備(電気、給排水工事等)」が 278 億円、「駐車場、エントランス」が 174 億円、「基盤整備(土木造成、舗装、修景工事等)」が 132 億円、「会場内演出、その他(調査設計費、事務費)」が 57 億円となっている。うち、インフレや供給制約の高まりの影響もあり、「パビリオン施設、サービス施設」の費用が前回の 1,103 億円から 476 億円増加しているのが特徴的である。

出展者の総計は前回の 650 億円から 374 億円増加し 1,024 億円が計上されている。主な内訳をみれば、「パビリオン施設、サービス施設」が 779 億円、「その他(調査設計費、事務費)」が 167億円、「会場内演出」が 77 億円となっている。前述した主催者側の建設費と同様に「パビリオン施設、サービス施設」が前回より 285 億円増加している。

 

【運営費(主催者・出展者)】
運営費について、主催者側の総計は前回の 809 億円から 550 億円増加し 1,359 億円が計上されている。主な内訳は、「会場管理・管理人件費等」が 767 億円、「計画・事業費調整等」が 155 億円、「企画事業・輸送事業等」が 143 億円、「広告・宣伝等」が 95 億円となっている。なお、前

回は設けられていなかった「会場内の安全確保に万全を期するための費用」の 199 億円が今回新たに計上されている。

出展者の総計は前回の 1,460 億円から 620 億円増加し 2,080 億円が計上されている。主な内訳をみれば、「会場管理・管理人件費等」が 1,248 億円、「広告・宣伝等」が 499 億円、「計画・事業調整等」が 333 億円となっている。

 

【関連基盤整備】
関連基盤整備の総計は前回の 1,128 億円から 822 億円減少し、306 億円となった。大幅減少した理由は、前回はインフラ整備に関係する費用をすべて計上していたが、今回は万博開催に発生する事業費のみを切り出して計上したためである。主な内訳は、「鉄道整備等(地下鉄中央延伸及び輸送力増強等)」が 47 億円、「道路改良等(此花大橋・夢舞大橋拡幅等)」が 199 億円、「南エリア埋立の追加工事」が 21 億円、「その他」が 38 億円となっている。

 

【万博開催に向けた自治体費用】
今回新たに計上された費用は万博開催に向けた自治体費用である。主に大阪府市が行う事業費で、総計は 156 億円が計上されている。主な内訳は、「参加促進」が 40 億円、「機運醸成等」が 39億円、「誘致に要した費用」が 4 億円、「万博開催に向けた機運醸成イベント等」が 47 億円、「万博期間中の会場内催事等」が 12 億円、「地域特性等を活かした機運醸成・ホスピタリティ向上」が24 億円、「未来社会への投資」が 4 億円、「大阪ヘルスケアパビリオンの事業費」が 20 億円となっている。なお、大阪府下の子どもたちへの招待費用については、運営費(主催者)に計上されており、二重計上をさけるため控除項目として計上した。

以上の各項目をまとめると、万博関連事業費の総計は 7,275 億円となり、前回の 5,894 億円から1,381 億円(前回比+23.4%)増加している。

 

図表 1 万博関連事業費の比較

出所:2025 年日本国際博覧会協会(2023a 及び b)、大阪府市万博推進局(2023)、内閣官房国際博覧会推進本部
事務局 経済産業省商務・サービスグループ(2023)及び有限責任監査法人トーマツ(2018)より作成

 

【各主体の万博費用負担】
図表 2 は万博関連事業費用の負担構造を各主体(大阪府市、国、経済界及び博覧会協会)別に示したものである。会場建設費(主催者)は2,350 億円を大阪府市、国、経済界の 3 団体でそれぞれ 1/3ずつ負担することとなっている。また、会場建設費(出展者)については大阪府市が出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」の費用を大阪府、大阪市がそれぞれ 50 億円ずつ負担する。国については日本館の出展費用 360 億円を負担することとなっている。

運営費(主催者)は博覧会協会が 1,160 億円を負担し、費用についてはチケット収入及びその他の収入で賄われることになっている。また、国の 199 億円(「会場内の安全確保に万全を期するための費用」)が計上されている。なお、運営費(出展者)については、各主体の詳細な負担割合が把握できなかったため、合計(2,080 億円)のみを記載した。

関連基盤整備については、大阪府が 72 億円、大阪市が 233 億円それぞれ負担する。また、万博開催に向けた自治体費用については大阪府が 90 億円、大阪市が 67 億円となっている。

 

1-2.来場者による消費支出の変化

【消費単価の再想定】
消費単価の想定にあたっては、前回試算ではコロナ禍前の 2019 年平均の値を用いたが、今回は2023 年 1-9 月期平均の支出金額を用いている17。更に日本人及び外国人の平均支出額を平均泊数(日本人:2.2 泊、外国人:11.1 泊)で除して、1 人 1 泊ベースの消費単価に変換している(図表 3)。これをもとに人数や泊数を乗じて支出額が決まる(図表 4)。なお、消費単価の計算には、観光庁「旅行・観光消費動向調査」及び「訪日外国人消費動向調査」を基礎資料として用いた。

 

【消費支出の再想定】
大阪・関西万博の想定来場者数は、日本国際博覧会協会(2020)に従い、来場者総数を約 2,820 万人(1 日当たりの平均来場者数 15.4 万人)とする。その内訳は、広域関西エリアから約 1,560 万人、関西以外の国内地域から約 910 万人、海外から約 350 万人(同 1.9 万人)である。なお、2005 年の愛・地球博の来場者総数は2,204 万 9,544 人(1 日当たりの平均来場者数 12.0 万人)、うち海外からの来場者数は 104.9 万人であった。なお、2005 年の訪日外客数は 672.8 万人だが、足下の 2023年は 2,506.6 万人と 3.7 倍となっており、想定されている海外客数については実現の可能性は高いと考えられる。

ここで基準ケースとして、広域関西エリアからの来場者は日帰り、関西以外の国内地域からの来場者は関西で 1 泊すると想定する。また海外からの来場者は 3 泊 4 日と想定する。次に拡張万博ケースでは、万博参加の機運醸成によるリピーター増や、夢洲会場以外の各地で実施されるイベントへの追加的な参加を想定している。このケースでは、宿泊者数の泊数が増加するケース(以下では拡張万博ケース 1 と呼ぶ)と、これに加えて日帰り客が増加するケース(以下では拡張万博ケース 2 と呼ぶ)の 2 パターンを検討する。

拡張万博ケース 1・ケース 2 ともに、国内宿泊客の泊数は 1 泊から 2 泊に、海外客は 3 泊から 5 泊に、それぞれ増えるとする。また海外客の 2 泊増については、1 泊は大阪で、もう 1 泊は国内の宿泊客と同様のシェアになるとする。なお拡張万博ケースでの消費各費目の増加分については以下のように想定している。国内宿泊者について、宿泊費は 2 泊分、交通費、飲食費、娯楽サービス費については 1.5 泊分の単価を想定している。また、海外客について、宿泊は 5 泊分の単価、交通費、飲食費、娯楽サービス費については 4.5 泊分の単価を想定している。

これに加えてケース 2 では日帰り客の交通費・飲食費・娯楽サービス費が 20%増えるとする。愛知万博の経験によれば、来場者の約 40%がリピーターと報告されている。関西各自治体の努力により、すなわち関西各府県のパビリオン化により国内日帰り客が更に 20%増加し、大阪以外の当該地域を訪問するという想定を行った。2023 年 1-9 月期における関西圏の国内日帰り客(大阪府を除く)の訪問パターンを観光庁「旅行・観光消費動向調査」より計算し、その想定で各府県の消費支出額を試算した。

以上の想定の結果、来場者による消費支出は図表 4 のようになる。消費支出総額は、基準ケースでは 8,913 億円(前回比+1,047 億円、+13.3%)、拡張万博ケース 1 では 1 兆 1,654 億円(同+1,510 億円、+14.9%)、拡張万博ケース 2 では 1 兆 2,411 億円(同+1,765 億円、+16.6%)となる。

 

 

2. 経済波及効果の再推計

1.の最終需要の再想定を基に、APIR 関西地域間産業連関表を用いて経済波及効果を計算した。

3 つのカテゴリー(生産誘発額、粗付加価値誘発額、雇用者所得誘発額)からみた経済波及効果(基準ケース、拡張万博ケース 1、拡張万博ケース 2)が図表 5 に示されている。なお、府県別でみた経済波及効果(生産誘発額)については後掲参考図表 1 を参照。

生産誘発額は基準ケースで 2 兆 7,457 億円、拡張万博ケース 1 で 3 兆 2,384 億円、拡張万博ケース 2 で 3 兆 3,667 億円となる。

粗付加価値誘発額は基準ケースで 1 兆 5,847 億円、拡張万博ケース 1 で 1 兆 8,500 億円、拡張万博ケース 2 で 1 兆 9,265 億円となる。

雇用者所得誘発額は基準ケースで 8,357 億円、拡張万博ケース 1 で 9,672 億円、拡張万博ケース 2 で 1 兆 42 億円となる。

 

2-1.基準ケース:万博関連事業費の効果、消費支出の効果

図表 5 は万博関連事業費と消費支出の総効果であったが、以下では総効果を 2 つのカテゴリーに分割する。
図表 6 は基準ケースにおける経済波及効果を万博関連事業費と消費支出に分けて示している。

万博関連事業費の生産誘発額は 1 兆 4,102 億円、粗付加価値誘発額は 8,055 億円、雇用者所得誘発額は 4,632 億円となる。
消費支出の生産誘発額は 1 兆 3,355 億円、粗付加価値誘発額は 7,792 億円、雇用者所得誘発額は3,726 億円となる。

 

2-2.拡張万博の経済波及効果

図表 7-1 及び 7-2 は前述の図表 6 の基準ケースに対して、拡張万博ケースの経済波及効果を示している。

なお、拡張万博ケースの経済波及効果については消費支出のみに発現するので、図表 8 では消費支出への影響をみている。

拡張万博ケース 1 における消費支出の生産誘発額は 1 兆 8,282 億円、粗付加価値誘発額は 1 兆445 億円、雇用者所得誘発額は 5,040 億円となる。基準ケースに比して生産誘発額は 4,927 億円、粗付加価誘発額は 2,653 億円、雇用者所得誘発額は 1,315 億円それぞれ上振れしている。

拡張万博ケース 2 における消費支出の生産誘発額は 1 兆 9,565 億円、粗付加価値誘発額は 1 兆1,210 億円、雇用者所得誘発額は 5,410 億円となる。基準ケースに比して生産誘発額は 6,210 億円、粗付加価誘発額は 3,418 億円、雇用者所得誘発額は 1,684 億円それぞれ上振れしている。

2-3.府県別経済波及効果

図表 9-1 は基準ケースにおける府県別にみた経済波及効果(生産誘発額)を示したものである。

基準ケースでは大阪府が 2 兆 621 億円と他府県に比してその効果は圧倒的である。次いでその他地域が 4,846 億円、兵庫県が 722 億円と続く。なお、その他地域においても経済波及効果が発生しているが、これは主に大阪府で発生する新規需要の効果(直接需要)を満たすために、大阪府以外の他地域で一定程度の需要が発生していることを意味している。また、府県別の万博関連事業費及び消費支出の経済波及効果については後掲参考図表 2-1 及び 2-2 に示されている。

次に、拡張万博ケース 1 及び 2 での生産誘発額が基準ケースに比べてどの程度変化したかを、府県別にみてみよう。図表 9-2 は府県別の 2 つの拡張万博のケースと基準ケースを比較した場合の乖離幅を示したものである。図表が示すように、いずれのケースにおいても最も大きく増加しているのは、京都府(拡張万博ケース 1:1,721 億円、拡張万博ケース 2:1,882 億円)であり、次いでその他地域(拡張万博ケース 1:882 億円、拡張万博ケース 2:1,044 億円)、兵庫県(拡張万博ケース 1:793 億円、拡張万博ケース 2:997 億円)と続く。

また、後掲参考図表 1 が示すように経済波及効果の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの 75.1%から、拡張万博ケース 2 では 62.6%まで低下する一方で、他府県のシェアが上昇している。なお、消費支出分で見れば大阪府のシェアが基準ケースの 75.5%から、拡張万博ケース 2 では 53.8%まで低下しており、大阪府以外の他府県のシェアが一層上昇している。このように本試算結果は関西各地で観光客にとって魅力的なコンテンツ開発で盛り上げ、一層の日帰り消費や滞在型消費を促進することができれば、経済波及効果を十分に高められることを示唆している。

3. 分析のまとめと含意

【今回の経済波及効果の要約と比較】
図表 10-1 は前回と今回の最終需要の想定を比較したものである。前回は、万博関連事業費を5,894 億円としていたが、今回は最新のデータを反映し万博関連事業費を 7,275 億円とした。また、基準ケースの消費支出は前回 7,866 億円としたが、今回は 8,913 億円となった。前回より万博関連事業費は 1,381 億円(前回比+23.4%)、消費支出は 1,047 億円(同+13.3%)と上振れた。

また、前回と今回の経済波及効果を比較したのが図表 10-2 である。前回基準ケースの経済波及効果は全体で 2兆3,759億円であったが、今回は 2兆7,457億円と 3,698 億円上振れている(前回比+15.6%)。また、拡張万博の効果を考慮した場合、ケース 1 では 4,509 億円(同+16.2%)、ケース 2 では 4,849億円(同+16.8%)とそれぞれ上振れている。

なお、経済産業省(2017)では、入場者想定規模 3,000 万人、建設費(0.2 兆円)、運営費(0.2 兆円)、消費支出(0.7 兆円)の最終需要額が、全国への経済波及効果として、それぞれ0.4 兆円、0.4 兆円、1.1 兆円と試算している。

【試算の読み方と留保条件】
2.においては万博関連最終需要の値を想定し、APIR 関西地域産業連関表を用いてその経済波及効果を試算した。得られた試算値は、最終需要が発生した場合、その需要を満たすために直接・間接に一定の産業構造の下でどの程度の需要が諸産業に発生するかを計算したものである。ただし、産業連関分析で得られた経済波及効果は、明瞭な供給制約がないことを前提としている。2024 年問題が議論されているが、万博会場建設のボトルネックとなる可能性が出てくることには注意しておかなければならない。その意味で本試算値は一定の幅を持って理解される必要がある。

この試算結果を実現するためには供給制約の緩和は必須である。そのために DX(例えば建設業や交通における「MaaS」)の活用が重要となり、それが日本の潜在成長率を高めることになる。本試算では、万博関連需要(建設費、運営費、開催に向けた自治体費用)と消費支出にわけて経済波及効果を計算している。前者については供給制約の緩和が重要であり、後者については海外の旅行者が万博に興味を持ってもらうためには、万博と絡めた旅行コンテンツの磨き上げが重要となる。

補論:改訂地域間産業連関表について

平成 27 年奈良県産業連関表が令和 5 年 12 月 26 日に公表されたことを受けて、APIR 関西地域間産業連関表を再推計した。再推計に際しての変更は、元になる奈良県産業連関表を従来の暫定値から公表値に差し替えた点のみであり、他の情報及び推計の手順は従前と全く変わらない。

地域間表の作成という観点から重要なのは地域間の交易であり、この差異を地域間表に展開する前の奈良県表における移輸入率の変化により確認する。まず、移輸入率に関する差し替え前と後の相関係数は 0.959 である。変化の方向としては、移輸入率が差し替え前よりも上昇した部門が 51、低下した部門が 38、変化しない部門が 10 である。差し替え前後の移輸入率はある程度近い値をとりつつも、移輸入率が上昇した部門が相対的に多い。この傾向は、移輸出率についても同様である。

奈良県における移輸入率の上昇は、県内の生産誘発を低下させる方向に作用する。同様に、奈良県における移輸出率の上昇は、他県の生産誘発を低下させる方向に作用する。このことによる定量的な帰結を APIR 地域間産業連関表におけるレオンチェフ逆行列の列和により確認する。図表補論は、差し替え前と差し替え後のレオンチェフ逆行列の列和を比較し、奈良県、奈良県以外の関西各県、その他地域の 3 地域区分で変化の方向をまとめたものである。「部門数」とある列は、差し替えにより列和が上昇した部門、低下した部門、変化しない部門の数を示している。相対的に移輸入率が上昇したことを反映し、奈良県では低下した部門数が 74 と上昇した部門の 26 を上回っている。奈良県以外の関西各県も傾向は同じである一方、その他地域は反対に、上昇した部門数が 89 と低下した部門数の 19 を上回っている。すなわち、このことから明らかになる一点目の含意は、奈良県表の公表値への差し替えにより、関西各県から生じる生産誘発は減少し、その他地域は増加したという点である。ただし、定量的には、また異なる傾向が見てとれる。図表補論の「差分の統計量」とある列は、差し替え前後における列和の差分に関する平均値と中央値を示すが、奈良県の変化に比べて、奈良県以外の県・地域の変化はごく小さいことが分かる。すなわち、第二の含意としては、差し替えによる生産誘発の目に見える変化は奈良県にとどまっており、奈良県以外の地域においては微小な変化しか生じていない。

 

関連論文

  • 稲田 義久

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    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

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    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 吉田 茂一 / 古山 健大 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは悪化の兆しがみられる。足下、生産は2カ月連続の減産。雇用環境は失業率が前月から小幅悪化したことに加え、就業者数も減少した。消費はインバウンド需要の好調で百貨店を中心に緩やかに改善。貿易収支は2カ月連続の黒字となり、黒字幅は拡大した。先行きは生産の停滞と消費者物価の高止まりがリスク要因となろう。
    • 2月の生産は2カ月連続の前月比低下。前月大幅減産となった輸送機械は増産となったものの、生産用機械の大幅落ち込みが低下に寄与した。
    • 2月の失業率は前月より小幅悪化したと同時に、就業者数も減少に転じた。また、就業率も前月より低下した。雇用情勢に多少の停滞が見られる。なお、足下労働需要の動きは低調である一方、新規求職者数の大幅増加が見られる。
    • 1月の現金給与総額は2カ月連続の前年比増加となったが、伸びは前月より縮小した。結果、実質賃金の減少が続き、減少幅は前月より拡大した。
    • 2月の大型小売店販売額は29カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や春物衣料品などの好調で、24カ月連続のプラス。スーパーも17カ月連続で拡大した。
    • 2月の新設住宅着工戸数は3カ月ぶりの前月比減少。貸家は増加だが、持家、分譲は減少となった。特にマンションの大幅な落ち込みが全体を押し下げた。
    • 2月の建設工事は公共工事が引き続きマイナスとなり2カ月連続の前年比減少。また、3月の公共工事請負金額も3カ月連続の同減少となった。
    • 3月の現状判断DIは2カ月ぶりの前月比悪化。天候不順の影響で春物商材の売行きが伸びなかったことが影響した。また、先行き判断DIも物価やコストの上昇に加え、人手不足への不安感の高まりから2カ月ぶりの悪化となった。
    • 3月の貿易は輸出が2カ月ぶりに前年比増加に転じた。中国向け輸出が好調で、3月としては過去最高額を更新した。一方、輸入は2カ月ぶりに前年比減少し、23年12月以来の2桁マイナスとなった。
    • 3月の関空経由の外国人入国者数は桜のシーズンやイースター休暇の影響もあり、開港以来過去最高値を記録。インバウンド需要は好調に推移している。
      中国の1-3月期実質GDPは前年同期比+5.3%と前期からわずかに加速した。足元は生産の堅調な推移が続くが、雇用回復の遅れと不動産市場の不況は依然として改善が見られず、消費の回復の勢いは鈍化している。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。
    【関西経済のトレンド】

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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:2月レポート No.57

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、2月の訪日外客総数(推計値)は278万8,000人、2019年同月比+7.1%であった。春節休暇やうるう年で日数が増加した影響もあり、単月過去最高を更新した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば12月は273万4,115人。うち、観光客は255万1,290人、商用客は8万703人、その他客は10万2,122人であった。

    ・国土交通省が公表した2024年夏季運航スケジュール(3月31日~10月26日)によれば、国際線の旅客便は週4,875便で、19年同期比-7%とコロナ禍前をほぼ回復。面別にみれば、韓国、米国はコロナ禍前を上回った一方、中国は依然コロナ禍前の6割程度にとどまっている。今後、中国を除くアジア地域を中心に回復が見込まれるが、中国人客は緩やかな回復にとどまろう。

     

    【トピックス1】

    ・関西2月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、2カ月ぶりの前年比減少。一方、輸入は11カ月ぶりに増加した。結果、貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。

    ・1月のサービス業の活動は2カ月連続の改善だが小幅にとどまり、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は2カ月連続の前月比上昇。また、対面型サービス業指数も2カ月連続で同上昇した。観光関連指数はコロナ5類移行後初めての年始休暇の影響もあり、劇場・興行団や旅客運送業が上昇に寄与し、2カ月連続の同上昇となった。

     

    【トピックス2】

    ・12月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,068.0千人泊で、2019年同月比+12.8%と4カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は7,593.7千人泊、2019年同月比+3.1%と4カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,474.3千人泊となり、同+41.6%と5カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西各府県の訪問率をみれば、大阪府39.3%が最も高く、次いで京都府28.9%、奈良県6.8%、兵庫県5.5%、和歌山県1.2%、三重県0.8%、滋賀県0.6%、鳥取県0.3%、徳島県0.2%、福井県0.2%と続く。

    ・2023年10-12月期の関西2府4県の訪日外国人消費単価(旅行者1人1回当たりの旅行消費金額)は19年同期比+29.2%増加。費目別では、飲宿泊費や娯楽等サービス費が大幅増加した。

    ・関西2府4県の訪日外客数と消費単価を用いて、2023年10-12月期の関西における消費額を推計した。結果、訪日外客消費額は4,164億9,716万円となり、19年同期比では+25.7%とコロナ禍前を回復した。

     

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  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年3月)<3月末統計集中発表日のデータを更新して、1-3月期の実質GDP成長率予測を前期比年率-3.0%に下方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    3月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では3月末までに発表されたデータを更新した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、1-3月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ2/3が更新された。

    ▶10-12月期GDP2次速報によれば、実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と1次速報から上方修正。結果、2四半期連続のマイナスから2四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶2月の生産指数は前月比-0.1%小幅低下し2カ月連続のマイナス。結果、1-2月平均は10-12月平均比-6.2%低下した。生産の基調判断は「一進一退ながら弱含み」。

    ▶1-2月平均を10-12月平均と比較すれば、建築工事費予定額は-3.0%、資本財出荷指数は-11.4%低下した。1月を10-12月平均と比較すれば、実質総消費動向指数は-0.6%減少だが、公共工事は+1.8%増加した。消費、住宅投資、企業設備と民間需要の低迷が目立つ。

    ▶1-2月平均の輸出入動向(日銀ベース)を10-12月平均と比較すれば、実質輸出額は-4.0%、実質輸入額は-7.3%、それぞれ減少した。財貨の実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はプラスとなっている。

     

    1-3月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-3.0%と予測する。生産サイドは同-4.2%と予測。結果、平均予測(同-3.6%)は市場コンセンサス(同-0.36%)より低めとなっている(図表1参照)。

     

    図表1

     

    1-3月期インフレ予測の動態

    ▶2月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.8%、インフレ率は4カ月ぶりに前月から拡大。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+3.2%と23カ月連続の上昇。インフレ率は6カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、1-3月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.1%、国内需要デフレータを同+0.2%と予測している。一方、交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.0%と予測する(図表2参照)。

     

    図表2
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.131-景気は足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆し: 生産回復の遅れが景気下押しリスク-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 新田 洋介 / 宮本 瑛 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは下げ止まりの兆しがみられる。足下、生産は大幅減産となった。雇用環境は失業率が小幅悪化したものの、労働力人口と就業者数はともに増加していることもあり、持ち直している。消費は初売りセールやインバウンド需要の増加で好調。貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は大幅縮小。先行きは令和6年能登半島地震の影響が和らぎつつあるものの、生産回復の遅れが景気の下押しリスクとなろう。
    • 1月の生産は自動車生産の停止が影響し、大幅減産となった。正常化にはしばらく時間を要することもあり、1-3月期は大幅減産となる可能性が高い。
    • 1月の失業率は前月より小幅悪化したが、労働力人口と就業者数はともに増加。また、就業率も前月より上昇した。雇用情勢は持ち直している。なお、一部の産業を除いて、足下では労働需給の動きはともに低調である。
    • 12月の現金給与総額は2カ月ぶりの前年比増加となり、伸びは前月より大きく拡大した。結果、実質賃金の減少は続いているが、減少幅は前月より縮小した。
    • 1月の大型小売店販売額は28カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、23カ月連続のプラス。スーパーも16カ月連続で拡大した。
    • 1月の新設住宅着工戸数は2カ月連続で前月比増加。貸家は減少したものの、持家、分譲は増加となったためである。
    • 1月の建設工事は公共工事がマイナスに転じた影響で25カ月ぶりの減少。2月の公共工事請負金額も2カ月連続の前年比減少となった。
    • 2月の景気ウォッチャー現状判断は2カ月ぶりに前月比改善。令和6年能登半島地震の影響が和らいだことやインバウンド需要の増加が景況感に好影響となった。また、先行き判断は賃上げへの期待もあり、4カ月連続で改善した。
    • 2月の貿易収支は2カ月ぶりの黒字だが、黒字幅は前年比大幅縮小。春節の時期のずれから、対中輸出が減少に転じた影響とみられる。一方、輸入は11カ月ぶりに前年比増加となった。
    • 2月の関空経由の外国人入国者数は春節休暇の影響もあり、単月としては過去最高を記録。インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1-2月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。工業生産は前月比で減速となったうえ、個人消費の回復も勢いを欠いている。中国政府は今年の実質経済成長率の目標を「5%前後」と定めたが、個人消費を直接支援する景気刺激策の実施には慎重である。そのため、1-3月期の景気は10-12月期より大きな改善が見込まれないと予想される。
    【関西経済のトレンド】

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  • 盧 昭穎

    「電気・ガス価格激変緩和対策」事業による 負担軽減効果の試算

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    盧 昭穎 / 稲田 義久

    ABSTRACT

    本稿の目的は、「電気・ガス激変緩和対策」事業が家計負担軽減に与える影響を分析することである。2022年の物価上昇は家計に大きな負担をかけ、特にエネルギーコストの上昇が深刻な問題となった。このような状況下において、政府は2023年2月から当該事業を実施し、家計負担の軽減に努めている。本稿では、本事業が適用されない場合の消費者物価指数を試算することにより、緩和対策事業の効果を所得階級別に分析する。結果を要約すれば、以下のとおりとなる。

     

    1. 2023年2月から24年1月までの「電気・ガス激変緩和対策」事業により、一世帯あたり電気代29,119円、都市ガス代4,733円、負担額が軽減された。収入階級別にみると、収入が高い世帯ほど電気の使用量が多いため、負担軽減額は大きくなる傾向がみられた。
    2. 負担軽減額が可処分所得に占める割合をみると、一世帯あたり電気代の平均軽減額が可処分所得の49%を、都市ガスは0.08%を占めた。収入が高い世帯ほど電気の負担軽減額が可処分所得に占める割合は小さくなった。都市ガス代も同様の傾向である。
    3. 緩和措置が適用されない場合の足下の電気と都市ガス代指数は徐々に低下しており、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受ける前の水準に近付いている。緩和措置が適用されない場合の電気と都市ガス代指数を試算することは、緩和措置をいつ終了させるかについての議論に数値的なベンチマークを提供できよう。
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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:1月レポート No.56

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、1月の訪日外客総数(推計値)は268万8,100人、2019年同月比では-0.0%と2カ月ぶりに小幅マイナスに転じたが、コロナ禍前とほぼ同程度となった。なお、国・地域別では韓国、台湾とオーストラリアが単月で過去最高を記録した。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば11月は244万890人。観光客は220万6,883人となり、2カ月連続で200万人超の水準となった。

    ・令和6年能登半島地震は新潟県、富山県、石川県、福井県の観光業に大きな影響を与えている。政府は当該地域で落ち込んだ観光需要を喚起するために、3月より「北陸応援割」を開始した。喚起策により、国内旅行者及び訪日旅行者の増加が期待されよう。

    【トピックス1】

    ・関西1月の輸出は春節休暇の時期のズレも影響し、9カ月ぶりの前年比増加。一方、輸入は10カ月連続で減少した。貿易収支は12カ月ぶりの赤字となった。

    ・1月の関西国際空港への訪日外客数は70万402人と、2カ月連続で70万人超の水準。低調なアウトバウンド需要に比してインバウンド需要は堅調に推移している。

    ・12月のサービス業の活動は小幅改善だが、足踏みの状態が続く。第3次産業活動指数は4カ月ぶりの前月比上昇。また、対面型サービス業指数は2カ月ぶりに同上昇した。観光関連指数も年末の旅行需要増加の影響もあり、旅行業や宿泊業が上昇に寄与し、4カ月ぶりの同上昇となった。

    【トピックス2】

    ・11月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,949.3千人泊で、2019年同月比+10.0%と3カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は8,124.0千人泊、2019年同月比+1.3%と3カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は3,825.3千人泊となり、同+34.6%と4カ月連続で増加した。日本人宿泊者に比して外国人宿泊者は着実に増加している。

    【トピックス3】

    ・2023年10-12月期における関西2府8県の国内旅行消費額(速報)は1兆1,331億円、19年同期比+12.4%と3四半期連続のプラス。23年通年では4兆1,034億円となり、コロナ禍前(19年比-0.6%)をほぼ回復した。

    ・国内旅行消費額のうち、10-12月期の宿泊旅行消費額は9,101億円で2019年同期比+21.2%となり、2四半期連続のプラス。一方、日帰り旅行消費額は2,230億円。2019年同期比-13.1%と7-9月期(同-21.4%)からマイナス幅は縮小したものの、宿泊旅行消費額に比して回復ペースは緩慢である。

     

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  • 稲田 義久

    令和6年能登半島地震の影響と北陸3県経済 -ストック、フロー、人流を中心に-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 壁谷 紗代 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響が懸念されている。震災によって大きな被害を受けた新潟県、富山県、石川県の3県(以下、北陸3県と記す)の被害状況に基づき、復旧復興の観点からその経済的な影響を考察した。それを整理し得られた含意は以下の通りである。

     

    1. ストックの観点から北陸3県経済をみれば、民間企業資本ストックは、各県とも「サービス」が最も大きい。次いで新潟県、石川県では「農林水産」が、富山県では「化学」が大きい。また、住宅ストックは新潟県が最も大きく、次いで石川県、富山県と続く。
    2. フローの観点から北陸3県経済をみれば、各県とも製造業のシェアが最も高い。うち、新潟県は「食料品」が、富山県は「化学」が、石川県は「はん用・生産用・業務用機械」がそれぞれ最も高いシェアを占めている。
    3. 今回の震災による北陸3県の直接被害(建築物等)を推計すれば、新潟県は5,177億円、富山県は2,946億円、石川県は5,827億円、3県計で1兆3,951億円となる。また、間接被害は4兆円となり、これは2020年度の名目GDPの0.4%に相当する。
    4. 人口移動の観点からみれば、北陸新幹線開業を契機に富山県、石川県でみられたような人口移動が今回の震災を契機に一層進む可能性がある。3月16日に金沢-敦賀間の延伸が実現するが、この効果は福井県では限定的と思われる。
    5. 今回の震災で北陸の観光業の特徴が明らかとなった。北陸は国内市場に強く依存した構造となっている。人口減少が長期トレンド下にあるため、この構造から脱却する必要がある。地域創生戦略にとって、インバウンド需要の一層の取り込みを実現する戦略が重要となろう。

     

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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.130-景気は足下局面変化、先行きは悪化の兆し: 自動車生産停止と中国経済減速がリスク要因

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 吉田 茂一 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下局面変化、先行きは悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、10-12月期で均せば低調。雇用環境は失業率が4カ月連続で改善したが、有効求人倍率は悪化が続く。消費は年末商戦や好調なインバウンド需要で堅調。貿易収支は12カ月ぶりに赤字に転じた。自動車生産停止や中国経済減速のリスクもあり、先行き悪化の兆しがみられる。
    • 12月の生産は3カ月ぶりの前月比上昇だが、10-12月期では3四半期ぶりの減産。生産は低調である。
      23年通年の失業率は前年比横ばいだが、労働力人口と就業者数はともに増加し、雇用の回復は順調に進んだ。しかし、10-12月期は労働力人口と就業者数が前期よりいずれも減少し、就業率は低下した。足下では雇用回復の勢いがやや弱くなっている。
    • 11月の現金給与総額は24カ月ぶりの前年比減少。インフレの高止まりにより実質賃金は減少が続き、減少幅は前月より拡大した。
    • 12月の大型小売店販売額は27カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加や身の回り品などの好調で、22カ月連続のプラス。スーパーも15カ月連続で拡大した。
    • 12月の新設住宅着工戸数は2カ月ぶりに前月比増加した。持家、分譲は減少したものの、貸家は増加となったためである。
      堅調な公共工事の影響もあり、12月の建設工事は24カ月連続の前年比増加。しかし、1月の公共工事請負金額は前年比減少に転じている。
    • 1月の景気ウォッチャー現状判断は3カ月ぶりに悪化。令和6年能登半島地震の発生によりサービス関連を中心に悪影響を及ぼした。一方、先行き判断は3カ月連続の改善。春節によるインバウンド需要増加の期待が寄与した。
    • 1月の貿易収支は12カ月ぶりの赤字だが、赤字幅は前年比大幅縮小。輸出は9か月ぶりに同増加に転じた。ただし、春節の時期のずれの影響もあるため、注意が必要である。一方、輸入は10カ月連続で同減少した。
    • 1月の関空経由の外国人入国者数は2カ月連続で70万人超の水準となり、インバウンド需要は堅調に推移している。
    • 1月の中国経済は、前月より大きな改善が見られなかった。消費者物価指数の低下傾向が顕著になっており、不動産市場の不況も続いている。また、企業の景況感も低迷している。ただし、2月の春節連休は例年より1日多くなっており、観光などレジャーの消費は前年より伸びる可能性が高いため、1-3月期の景気は10-12月期よりわずかな改善が見込まれる。
    【関西経済のトレンド】

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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.68 -内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 郭 秋薇 / 盧 昭穎 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    1. 2023年10-12月期の関西経済は、内需・外需ともに回復の動きが鈍くなっており、足踏みが続いている。家計部門では消費者センチメント、所得、雇用と多くの指標で伸び悩んでいる。企業部門では、景況感は堅調であるものの、生産は一進一退で弱い動きとなっている。対外部門は、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しているが、財輸出は前年割れが続いている。
    2. 家計部門は足踏み状態にある。大型小売店販売はインバウンド需要など客足の回復で堅調であるが、センチメント、所得・雇用環境、住宅市場など幅広い指標で弱い動きとなっている。物価上昇ペースは緩やかになってきたものの、賃上げ機運にも落ち着きが見られ、実質賃金の目減りが個人消費に影を落としている。
    3. 企業部門は、緩やかに持ち直しているが、生産など一部に弱い動きが見られる。景況感は製造業・非製造業ともに持ち直した。また今年度の設備投資計画は今のところ製造業・非製造業とも旺盛となっている。ただ生産は一進一退続きで、3四半期ぶりの減産となるなど回復の足取りは鈍い。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに低調である。輸出では全国と対照的に、関西は3四半期連続の前年割れとなっている。一方インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高などではコロナ禍前の水準を回復し、その後も増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、万博関連需要を背景に、引き続き堅調に推移している。
    6. 関西の実質GRP成長率を2023年度+1.4%、24年度+1.5%、25年度+1.5%と予測。22年度以降1%台の緩やかな回復基調が続き、24年度以降は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、23年度は+0.1%ポイントの上方修正、24年度は-0.1%ポイントの下方修正、25年度は+0.1%ポイントの上方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は23年度+0.3%ポイント、24年度+0.9%ポイント、25年度+1.2%ポイントとなり、24年度に入って緩やかに回復する。公的需要は万博関連の投資により23年度+0.4%ポイント、24年度+0.3%ポイントと成長を下支えるが、25年度には剥落する。域外需要は、23年度は+0.7%ポイント、24年度+0.3%ポイント、25年度+3%ポイントとなる。
    8. 日本全体に比べて、予測期間通じて関西経済が増勢となる。23年度は設備投資を中心に民間需要・公的需要ともにやや増勢となる。一方外需は中国向け輸出の停滞から全国に比べると寄与は小幅となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要により全国を上回る伸びとなる。25年度も域外需要の押し上げから関西が全国を上回る。
    9. 今号のトピックスでは「令和6年能登半島地震の北陸3県経済への影響」および「大阪・関西万博の経済波及効果」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り4つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’46”: Executive summary

    ②01’46”~24’13”: 第147回「景気分析と予測」

    <依然遠い内需主導の回復、厳しい内外需好循環への道>

    ③24’13”~34’51”: Kansai Economic Insight Quarterly No.68

    <内外需の回復鈍く、足踏みが続いている:先行き24年度以降は民需と輸出の持ち直しで緩やかに改善>

    ④42’06”~42’34”: トピックス<令和6年能登半島地震と北陸3県経済-フロー、ストック、人流を中心に->