研究成果

research

決定版:2023年阪神・オリックス優勝の地域別経済効果 -リーグ優勝、ポストシーズン、優勝関連セール及び優勝パレードの総合分析-

Abstract

2023年のプロ野球は、セントラル・リーグが阪神タイガース、パシフィック・リーグがオリックス・バファローズ、ともに関西に本拠地を置く球団が優勝した。またクライマックスシリーズはセ・パ両リーグともリーグ優勝チームが勝ち上がり、59年ぶりに関西勢同士の対決、いわゆる「関西ダービー」が実現した。結果、日本シリーズは阪神が38年ぶり2回目の日本一に輝いた。
本稿は、高林ほか(2023)、APIR関西地域間産業連関表プロジェクトチーム(2023)での阪神タイガースおよびオリックス・バファローズの優勝の分析に加え、クライマックスシリーズ、日本シリーズ、その後の優勝関連セール及び優勝パレードによる経済波及効果も含めた「決定版」となるレポートである。分析結果の概要は以下の通りである。

 

1. 全国で発生する経済波及効果総計は1,607億3,300万円、うち直接効果は719億9,900万円、間接効果は887億3,300万円となった。

2. 関西2府8県では経済波及効果は935億5,700万円であるが、関西を除くその他地域では671億7,600万円。うち、関西が58.2%、その他地域が41.8%を占めており、その他地域では大部分が間接効果となっている。これは、関西での需要を満たすため、関西以外の他府県で一定の需要が発生していることを意味している。

3. 関西各府県での効果をみると、うち大阪府は427億2,200万円(26.6%)、兵庫県は250億8,700万円(15.6%)となっており、2府県で42.2%と関西地域(58.2%)の大部分を占める。

4. 優勝関連セールについては、経済波及効果は大阪府(62.8%)が圧倒的な割合を、優勝パレードについては大阪府(42.1%)、兵庫県(35.4%)と2府県で効果の77.5%を占めている。

5. 今回のリーグ優勝、ポストシーズン及び優勝パレードの2府4県の経済波及効果は関西の名目GRPを0.05%程度押し上げる。全国ベースでは名目GDPを0.01%程度押し上げる。

本文

はじめに:分析の特徴

2023年のプロ野球は、セントラル・リーグでは阪神タイガース、パシフィック・リーグではオリックス・バファローズが優勝した(以下ではそれぞれ「阪神」「オリックス」と記す)。阪神は2005年以来18年ぶりの優勝、一方オリックスは2021年以来3年連続のリーグ制覇である。なお両リーグともに関西に本拠地を置く球団が優勝したのは1964年の阪神タイガース・南海ホークス以来、59年ぶりのことである。

またクライマックスシリーズは、セ・パ両リーグともリーグ優勝チームが勝ち上がり日本シリーズに進出することとなった。結果、日本シリーズは阪神とオリックスの顔合わせとなり、59年ぶりに関西勢同士の対決、いわゆる「関西ダービー」が実現した。日本シリーズは最終戦までもつれる激闘の末、阪神が4勝3敗でオリックスを退け、1985年以来38年ぶり2回目の日本一に輝いた。

スポーツイベントや特定球団の優勝による経済波及効果は、これまでしばしば計測されている。特に2003年に阪神が優勝した際には、18年ぶりの優勝だったということもあり、その経済波及効果が大きな話題となった。当時いくつかの機関によって推計が行われ、経済波及効果は734億円~1,587億円という規模であった 。

当研究所では高林ほか(2023)において、APIR関西地域間産業連関表により2023年の阪神優勝の経済波及効果を計測した。またAPIR関西地域間産業連関表プロジェクトチーム(2023)では、阪神に加えてオリックス優勝にも拡張展開して経済波及効果を計測した。本稿は、これらに加えて上述したクライマックスシリーズ・日本シリーズ・その後のセールおよび優勝パレードによる経済波及効果も含めた決定版となるレポートである(以下、クライマックスシリーズと日本シリーズを併記する際には「ポストシーズン」と呼ぶことにする)。

本稿の分析では、高林ほか(2023)と同様に、APIR関西地域間産業連関表を用いて、地域別に経済波及効果を計測する。経済波及効果の計測の手順は、以下の通りである。まず優勝により発生する新規需要を推計する。新規需要は、公式戦及びポストシーズンにおける(1)球場観戦者による消費、(2)球場外での消費を分析し、加えて(3)リーグ優勝、日本一及び感謝セール(以下、優勝関連セール)及び(4)優勝パレードに分けて、それぞれ推計する。ここでの新規需要は地域別・産業別に想定し、できるだけ実態を反映するべく精緻に行う。推計された新規需要に対してAPIR関西地域間産業連関表を用い、全国ならびに関西2府8県に及ぼす経済波及効果を計算する。なお、本稿での「優勝の経済波及効果」では、当該球団が優勝することで追加的に発生する需要のみを対象としている。例えば、優勝しようが最下位であろうが球場に毎日足を運ぶファンのチケット代は、優勝の経済波及効果にはならない。ただしこの人が優勝を祝して平時よりもビールを追加的に1杯多く飲むとすれば、このビール代は優勝の経済波及効果となる。したがって、優勝しなかった場合(以下「平時」と呼ぶ)と優勝した今年を比較して、観客数や消費単価がどう変化したかが本分析のポイントとなる。

我々の分析の最大の特徴は、経済波及効果の計測において独自に開発したAPIR関西地域間産業連関表を用いていることである。そのためには、新規需要の発生を地域別に設定しなければならない。後述するように、阪神とオリックスではファンの地域分布、すなわち需要が発生する地域が異なることから、実態に近い分析が可能となっている。また経済波及効果の結果も地域別に捉えることができる。

ところで、地域での経済波及効果を計測した先行事例においては、全国の経済波及効果の一定割合とするような、かなり大胆な仮定を置いた分析がしばしば散見される。しかしこの方法でおおよその規模は捉えられるとしても、例えば関西内に限っても府県ごとに産業構造や自給率は大きく異なるため、新規需要の発生状況が異なっておれば、関西各府県の割合が一定ということはありえない。そもそもその根拠が明示されていない限り、信憑性に欠くといえよう。このため本稿では単に経済波及効果の計測結果を示すだけでなく、可能な限り前提条件やその算出方法を明示することを心がけた。

 

1.球場観戦者の消費

本項では、球場観戦者による消費について検討する。球場観戦者による消費は、球場観戦者数に一人当たり消費単価を乗じて求められるが、平時に比べて今年どれだけ追加的に増加したかを見積もる必要がある。以下、公式戦とポストシーズンのそれぞれについて球場観戦者数と一人当たり消費単価を推計する。

 

1-1. 球場観戦者数の想定

阪神・オリックス両球団のホームゲームにおける球場観戦者数を公式戦とポストシーズンそれぞれ分けて示す。

まず公式戦については、観客動員が平時に比べて今年どれだけ追加的に増加したかを見積もる必要がある。図1は、2005年以降の阪神・オリックス両球団主催ゲームの観客動員数の推移を示したものである 。特に目に付くのはコロナ禍にあった20年・21年で、無観客試合や入場制限などの影響で観客動員は大きく落ち込んだ。オリックスは21年に25年ぶりとなる優勝を果たしたが、年間観客動員は43万1,601人(1試合あたり7,315人)にとどまった。また22年は開幕から入場制限が撤廃されたものの、コロナ禍前の水準を回復するには至らなかった。したがって平時の観客動員数としては、コロナ禍の20年から22年までの動向は除外して検討するべきであろう。

 

図1 2005年以降の阪神・オリックス主催試合観客動員数の推移

(出所)日本野球機構ホームページ、プロ野球Freakホームページより筆者作成

 

阪神の平時の観客動員数は、前回優勝の翌年2006年からコロナ禍前の19年まで15年間の1試合平均観客数4万861人に、23年の主催ゲーム数である71試合を乗じて、290万1,110人とする。また23年の観客動員数は291万5,528人であった。

オリックスの平時の観客動員数も、同様に計算する。1試合平均観客数は、阪神のケースに合わせて2006年からコロナ禍前の19年までの平均値2万939人とする。23年の主催ゲーム数72試合を乗じて、オリックスの平時の観客動員数は150万7,583人と推計される。また23年の観客動員数は194万7,453人であった(後掲参考表1参照)。

平時と2023年の観客動員数の差は、阪神は1万4,418人、オリックスは43万9,870人である。阪神は平時では1試合当たり4万人程度の観客動員があり、今年はそれに比べて203人しか増加していない。20年に座席改修が行われたため座席数が減少した影響もあるが、06年から19年の間の阪神は優勝には至らないものの上位に食い込むシーズンが多く(平均順位3.1位)、23年の優勝で観客動員数が大きく増加したということはなかったといえる。一方オリックスは、平時では1試合当たり約2万人程度の観客動員にとどまっており、この背景には06年から19年の間のオリックスは低迷期にあり(平均順位4.8位)、観客動員数が伸び悩んでいたと考えられる。今年は3年連続のリーグ優勝もあり、平時に比べて6,109人と大きく増加した。

次にポストシーズンの観客動員数について整理する。ポストシーズンの試合は平時に比べて純増となるため、観客動員数がそのままポストシーズン開催による追加的な増分となる。クライマックスシリーズは、阪神は3試合、オリックスは4試合を本拠地球場で開催した。観客動員数はそれぞれ12万7,913人と14万1,311人だった。また日本シリーズは3試合が阪神甲子園球場で、4試合が京セラドーム大阪で試合が行われた。観客動員数は甲子園球場での3試合の合計が12万3,075人、京セラドーム大阪での4試合の合計が13万4,323人だった。さらに、日本シリーズ第6戦・第7戦についてはパブリックビューイングが阪神甲子園球場で開催され、2日間で2万5,887人の動員があった(京セラドーム大阪でのパブリックビューイングの開催はなし)。

以上を整理すると表1のようになる。「差」の列に示されている人数がリーグ優勝・ポストシーズンにより増加した観客動員数となる。

 

表1 観客動員数:公式戦とポストシーズン

(注)公式戦試合数は2023年の試合数に基づき、阪神71試合、オリックス72試合で計算。交流戦での本拠地球場の主催試合数が隔年で異なるため、阪神とオリックスで試合数が異なる。

(出所)日本野球機構ホームページ、プロ野球Freakホームページより筆者作成

 

1-2. 球場での消費単価の想定

次に、球場観戦時の消費項目として、チケット代、交通費、飲食費、グッズ等購入費の4項目を特定し、平時と2023年の当該項目の消費単価を球団別に想定する。ポストシーズンのうち、クライマックスシリーズは公式戦と同様の取り扱いとする。日本シリーズは、日本野球機構の主催試合であるためチケット代は日本野球機構に帰属するため、新規需要としては考慮しない。また阪神甲子園球場で開催されたパブリックビューイングの入場料は無料であったため、チケット代は発生しない。チケット代以外の費目については、日本シリーズ・パブリックビューイングとも公式戦と同様に発生する。

チケット代は、公式戦については平時と2023年ともに阪神は1試合1人あたり3,653円、オリックスは3,441円とする。チケット料金は、球場・席種・曜日等によって異なるが、阪神甲子園球場および京セラドーム大阪のチケット料金表をもとに、座席数・日数等を考慮してそれぞれ算出した。ポストシーズンについては、クライマックスシリーズは公式戦とチケット代が異なり、阪神は1試合1人あたり4,373円、オリックスは3,666円とする。なおチケット代は、阪神の場合は兵庫県、オリックスの場合は大阪府の需要となる。

交通費・飲食費は、MURC(2022)のアンケート調査結果の「スタジアム観戦にかかる出費」(1回あたりの金額)を参照し、これを利用する。この結果、平時の消費単価を、交通費2,825円、飲食費2,064円とする。一方2023年については、足下の物価上昇を考慮して消費者物価指数の伸び(近畿地区、2023年9月、対前年同月比)を乗じて、公式戦・ポストシーズンともに交通費2,927円、飲食費2,171円とする。

グッズ等購入費についても、MURC(2022)のアンケート調査結果をベースとする。同調査によると、平時のグッズ等購入費は1回当たり1,862円となっている。ただし球団によって応援グッズの単価が異なるため、この違いを反映する。表2は、球場観戦時の標準的な応援グッズ(レプリカユニフォーム、選手名入りタオル、応援用バット)を買い揃えた場合にかかる費用を球団別に示したものである。12球団の平均値は1万2,766円であるが、阪神は12球団のうち最も安上がりで9,800円(対平均値比77%)、オリックスは1万3,150円(同103%)と平均よりやや高額となっている。ここでの12球団平均値に対する比率を前出の1回あたり1,862円に乗じて、平時のグッズ等購入費を阪神1,429円、オリックス1,918円とする。一方2023年は好成績による売上の伸びを織り込み平時に比べて1.5倍になると想定し 、さらに足下の物価上昇を考慮する。結果、23年の公式戦でのグッズ等購入費は阪神2,245円、オリックス3,012円となる。またポストシーズンのグッズ等購入費については、阪神748円、オリックス753円と推計する。なお、クライマックスシリーズ・日本シリーズそれぞれ通して公式戦1試合に相当するとみなして試合数で除した額を用いている。

 

表2 12球団別の応援グッズ価格

(注)ここでの価格は、レプリカユニフォーム、選手名入りタオル、応援用バットの合計額。

(出所)東洋経済ONLINE記事より筆者作成。

 

交通費については、手段(鉄道旅客輸送か道路旅客輸送に分けて)と需要発生地の内訳を考慮する。阪神については、阪神甲子園球場までの交通費の内訳が鉄道旅客輸送(鉄道)と道路旅客輸送(バス・タクシー等)に分かれる。また兵庫県以外から球場に訪れた場合、出発地で交通費の支出が発生することになる。まず交通手段については、甲子園来訪者の約8割が甲子園駅を利用することから、8割を鉄道旅客輸送、残りの2割を道路旅客輸送に割り当てる。道路旅客輸送は、全て兵庫県で発生する需要とみなす。鉄道旅客輸送は、甲子園駅に到着する際には球場観戦者の出発地に需要が発生し、甲子園駅を出発する際には兵庫県で需要が発生すると考える。出発地の人口分布は、地域別の阪神ファンの人口シェアに従うと想定する。オリックスについては、手段はすべて鉄道旅客輸送であるとし、需要発生地はファン人口比により按分した。

またグッズ等購入費の内訳について、阪神・オリックスともに選手名が入ったレプリカユニフォームやタオル等の繊維製品が83%、選手アクリルスタンドや缶バッジ、試合終了後の演出時に用いられるペンライトなどの雑貨類が17%を占めると想定する。この割合は、商品単価および店舗の売上ランキングをもとに算出した。なおこの購入費は商業マージン・運賃を含んだ購入者価格表示であるため、これを生産者価格に変換する作業を施している。作業手順については、3節の優勝セールの項で記す。

 

1-3. 結果:球場観戦者による消費支出額

1-1の球場観戦者数と1-2の消費単価の想定を乗じると、平時と今年それぞれの球場観戦者による消費支出額が算出できる。算出結果をまとめると表3のようになる。公式戦での球場観戦者の消費は、平時に比べて阪神では31.3億円、オリックスでは70.5億円押し上げられたことになる。平時に比べて球場観戦者数が大きく増加したオリックスの方が、消費額の増加幅も大きくなっている。またポストシーズンでの球場観戦者の消費は、阪神が21.8億円、オリックスが21.3億円となる。

 

表3 球場観戦者の消費支出額まとめ
公式戦
ポストシーズン

(出所)MURC(2022)等より筆者作成

 

2.球場外での消費

次に、球場外での消費を考える。ここでの推計は、ファンの人数と球場外での追加的消費単価の積として、リーグ優勝及びポストシーズンにおいて追加的に発生する消費額を算出する。

2-1. ファン人口の想定

ここではまず、全国および各府県における阪神ファンとオリックスファンの人数を推計する。阪神ファン人口は、中央調査社が毎年実施している「人気スポーツ調査」およびMURC(2022)での調査結果を用いて、全国および関西2府8県の阪神ファン人口を推計した。「人気スポーツ調査」には「日本のプロ野球チームの中で、あなたが一番好きなチームはどこですか」という設問があり、全国および地域別の結果が示されている。この地区別の阪神ファン率を各県の20歳以上人口に乗じると、各県の阪神ファンの人口を推計することができる。ここで計算のベースを20歳以上人口としているのは「人気スポーツ調査」の調査対象が20歳以上となっているためであるが、この想定で計算すると全国に阪神ファンが875万人いることになり、実感に比して多すぎるように思われる。他方、前述のMURC(2022)では全国の阪神ファン人口を404万人とする調査結果を示している。

そこで今回の推計では、まず(1)中央調査社(2023)の調査結果から得られる地区別ファン比率と府県別人口(20歳以上人口)を用いて阪神ファン人口の地域別シェアを算出する。次に(2)このシェアにMURC(2022)の調査結果である全国の阪神ファン人口(404万人)を乗じることによって、地区別阪神ファン人口を推計する 。関西2府8県の20歳以上人口のうち、阪神ファンは約14%となっている。

またオリックスファン人口については、阪神に比べると情報量が限られている。中央調査社の結果によると、20歳以上人口に占める割合が全国では1.6%、関西2府4県では5.2%となっている。そこでまず阪神ファン人口404万人に、阪神とオリックスのファン割合の比率(16.6%)を乗じて、全国のオリックスファン総数を67万3,333人と推計した。また関西2府4県についてはファン割合が5.2%と判明しているため、関西2府4県の20歳以上人口にこれを乗じて算出した。その他地域のファン人口は、全国のオリックスファン人口とこれまで推計された関西のオリックスファン人口の残差とし、2府4県以外のファン割合(0.9%)を推計した。関西2府8県の20歳以上人口のうち、オリックスファンは約2%となっている。

以上の結果をまとめると表4のようになる。

ファン人口総数では阪神がオリックスを凌駕している。特に関西ではその傾向が強く(阪神:69.8%、オリックス:54.5%)、オリックスは阪神に相当数のファンを奪われているといえる。逆に関西以外の地域(表4ではその他地域と記載)においては、阪神ファン全体に占める割合が30.2%にとどまるが、オリックスでは同45.5%となる。具体的な数字を見ると、大阪府では阪神ファン119.0万人に対してオリックスファンは15.4万人となっており、倍率にして8倍近い開きがある。これに対して、その他地域では阪神ファン121.9万人に対してオリックスファンは30.6万人であり、倍率は約4倍にまで縮小する。すなわち、阪神のファン層は関西に偏在し、オリックスのファン数は阪神に比して少ないものの、全国的に点在していると言える。こうした阪神とオリックスのファン地域分布の違いは、球場外における追加的消費の規模の差異に影響する。

 

表4 地域別ファン人口の推計

(出所)中央調査社、MURCのアンケート調査結果および総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」より筆者作成

 

2-2. 消費単価の想定:公式戦及びポストシーズン

次に球場外での消費として、消費品目は、飲食費とその他の消費に分けて検討する。飲食費は、阪神ファン・オリックスファンがリーグ優勝を契機として、平時に比べて追加的に飲食する際の支出額がこれにあたる。またグッズ等購入費は、球団関連グッズ、優勝記念グッズ、スポーツ新聞、雑誌等を購入する際の支出額である。

 

【公式戦における消費単価】

飲食費については、関西社会経済研究所(2003)での想定を踏襲し、両チームのファン一人当たり年間1万円を追加支出すると想定する。またその他消費については1,000円を追加的に支出すると想定する。1-2で示した球場観戦者によるグッズ等購入費の平時と今年の差(1,099円)に近い値としている。なおここでの追加的なその他消費1,000円の内訳としては、食料品10%、繊維製品40%、雑貨類40%、書籍・雑誌・映像商品等10%とする。この割合も1-2と同様に商品単価と店舗売上ランキングを参考に想定しているが、球場での応援グッズが多い球場内での購入品目の構成とは異なっている。

【ポストシーズンにおける消費単価】

以上はリーグ優勝を契機とした追加的支出であるが、阪神については38年ぶりの日本一を達成したことで、さらに追加的な支出が発生する。追加的支出の消費単価は、飲食費2,000円、グッズ等購入費200円と想定する。グッズ等購入費の内訳はリーグ優勝と同じとする。なおオリックスについては考慮しない。

 

2-3. 結果:球場外での消費支出額

2-1.の地域別ファン人口と2-2.の消費単価の想定を乗じると、リーグ優勝と日本一に伴う球場外における各地域のファンの消費支出額を算出できる。算出結果をまとめると表5のようになる。

リーグ優勝に伴う全国の阪神ファンによる追加的飲食費は404.0億円、その他消費は40.4億円、オリックスファンによる追加的飲食費は67.3億円、その他消費は6.7億円となる。

日本一に伴う全国の阪神ファンによる追加的飲食費は80.8億円、その他消費は8.08億円となる。

 

表5 各地域の阪神・オリックスファンによる球場外での追加的消費
【阪神】
【オリックス】
(出所)中央調査社、MURCのアンケート調査結果および総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」より筆者作成

 

 

3.優勝関連セール及び優勝パレード

 

本節では、阪神・オリックスの優勝を記念して行われた百貨店での優勝関連セール及び両球団の優勝を祝して11月23日に神戸・大阪で実施された優勝パレードによって発生した新規需要の想定を示す。

 

3-1. 優勝関連セール:リーグ優勝、日本一及び感謝セール

本稿で取り上げるリーグ優勝セール、日本一セール及び感謝セール(以下、優勝関連セール)については、阪神については阪神百貨店梅田本店、オリックスについては近鉄百貨店あべのハルカス近鉄本店に限定して、その効果を以下のように推計した 。なお当該百貨店の売上高については、月次での前年同月比は公表されているが、金額は四半期ベースのみにとどまっている。

売上高の対前年同月比についてみると、コロナの5類移行に伴い社会活動が正常化した2023年5月から8月までの平均伸び率は、阪神梅田店:19.1%、近鉄あべのハルカス店:5.6%である。一方、優勝セールが実施された9月実績は、阪神梅田店:58.3%、近鉄あべのハルカス店:22.4%となっている。また、日本一及び感謝セールが実施された11月は、阪神梅田店:50.3%、近鉄あべのハルカス店:7.8%となった。5月~8月までの平均売上高伸び率と当該セール売上高伸び率の差を計算する。この差を阪神およびオリックスのリーグ優勝、日本一セール及び感謝セールの効果とみなすことにした。なお、ベースとなる売上高の金額は22年度の月平均売上額に上振れ率を乗じて、優勝セール等の金額を推計した。

結果、推計された売上高を表6に示す。リーグ優勝セールについては、阪神梅田本店は17億9,900万円、近鉄あべのハルカス店は5億600万円、合わせて23億500万円と推計した。

日本一セール及び感謝セールの売上高については、阪神梅田本店は14億3,000万円、近鉄あべのハルカス店は6,600万円、合わせて14億9,600万円と推計した。

 

表6 リーグ優勝セール、日本一セール及び感謝セールの推計売上高

(出所)H2Oリテイリング及び近鉄百貨店の「売上速報」を基に計算。

 

なお優勝セールでの対象品目は、阪神百貨店・近鉄百貨店ともに詳細は不明であるが、報道によると売場商品の大半が割引対象となったとされることから、優勝セールにおける品目の構成は、統計で把握されるそれと大きく異なることはないと想定する。これを踏まえ、産業連関表の産業部門への対応については、まず商業動態統計調査における大阪市内の百貨店売上高により大枠の構成比を設定する。次に、APIR関西地域間産業連関表の消費ベクトルの構成比により大枠を按分し、産業連関表の部門に対応した構成比を算出する。また売上高は購入者価格表示であるため、これを生産者価格に変換する。具体的には、商業マージンと運賃を全国表の対購入者価格比率に基づいて剥ぎ取り、それぞれ大阪府の商業部門と道路貨物輸送部門に計上した。なお前節で示したグッズ等購入費についても同様の作業を行っている 。

 

3-2. 優勝パレード

11月23日には、神戸・三宮と大阪・御堂筋で午前と午後でチームを入れ替える形で阪神・オリックスのリーグ優勝を祝う優勝パレードが同時に実施された。当日は天候にも恵まれ、主催者発表によると午前は神戸30万人、大阪20万人、午後は神戸15万人、大阪35万人とのべ100万人が集まった。パレードの観衆による飲食費や交通費といった消費支出や実施に要した事業費も経済波及効果をもたらす。以下で優勝パレード実施により発生した新規需要を推計する。

優勝パレードにより発生した新規需要は、基本的にパレード参加人数と消費単価の積として求められる。ただしパレード参加者の中には、神戸と大阪を移動して午前・午後の両方参加した人や、午前・午後とも同一会場で参加した人もいる。後で行う分析では、実人数ベースで新規需要が発生した場所(大阪府か兵庫県か)を考慮する必要がある。そこで、参加者の行動パターンを分類した上で、行動パターンに基づく消費支出および需要発生地域を想定する。

 

【優勝パレードへの参加パターン】

パレードの参加のべ人数は100万人であるが、掛け持ち参加による重複を除く実人数を推計する必要がある。参加者の行動パターンとしては午前・午後それぞれについて「神戸で参加」「大阪で参加」「不参加」の選択肢があり、午前不参加・午後不参加の組み合わせを除けば8通りについてケースが考えられる。掛け持ち参加者の人数は不明であるため、午前の各会場参加者のうち、午後もそのまま同会場で参加した人の割合を10%、午後は会場を移動して参加した人の割合を5%、残り85%の人は午後不参加だったと仮定する 。この仮定によると、午前の神戸でのパレード参加者30万人の内訳は、午後に大阪に移動した人1万5千人、午後も神戸でパレードに参加した人3万人、午後はパレードに参加しなかった人25万5千人となる。同様に午前の大阪でのパレード参加者20万人の内訳は、午後に神戸に移動した人1万人、午後も大阪でパレードに参加した人2万人、午後はパレードに参加しなかった人17万人となる。また、午後の神戸・大阪の参加者数から、午前は不参加で午後神戸でパレードに参加した人は11万人、午前は不参加で午後大阪でパレードに参加した人は31万5千人となる。以上を合計すると、パレードに参加した実人数は92万5千人となる。のべ人数が100万人であるため、重複した参加者は7万5千人となる。

 

【優勝パレードの消費支出額の推計】

次に、参加者の行動パターンに即して消費支出を推計する。パレード参加に伴い発生する消費支出は、交通費(鉄道旅客輸送)と飲食費のみとする。なお参加者は大阪府民と兵庫県民のみとし、各行動パターンの半数が大阪府民、半数が兵庫県民とする。交通費については、大阪神戸間で移動が発生する場合に、支出が発生すると考える。単価は阪神電車で大阪梅田―神戸三宮間の往復運賃より660円とする。また飲食費の需要発生地域について、同一会場での参加者はその参加地で、両会場を移動し掛け持ちした参加者は半数が大阪府、半数が兵庫県で支出したとする。また午前もしくは午後にどちらかで参加した人は、半数が参加地で支出したとする。単価は大阪・神戸でのランチ代を考慮して1,500円とする 。なお飲食についてはパレードの参加に伴って追加的に支出された飲食費のみを計上する必要があるが、飲食を伴う行動パターンに該当する参加者のうちの半数が追加的な支出を行ったものとする。

以上より優勝パレードに伴い発生する消費支出をまとめると、表7のようになる。実人数で92万5千人が参加し、大阪府で交通費1.5億円、飲食費4.1億円、兵庫県で交通費1.5億円、飲食費3.4億円、大阪府と兵庫県合わせて10.6億円の消費支出が発生したと想定される。

また消費支出とは別に、パレード実施に際して会場警備費やパレード運行費等の事業費が総額5億円かかっており、これは大阪府と兵庫県の対事業所サービス部門の新規需要となる。大阪府と兵庫県の内訳が不明であるため、参加のべ人数の比率で按分し、大阪府2億7,500万円、兵庫県2億2,500万円とする。

 

表7 優勝パレードに伴い発生する消費支出(単位百万円)

(出所)筆者作成

 

4.リーグ優勝、ポストシーズン、優勝関連セール及び優勝パレードの経済波及効果

 

1節、2節及び3節の最終想定を前提とし、APIR関西地域間産業連関表を用いて、阪神・オリックスのリーグ優勝、ポストシーズン及び優勝パレードの経済波及効果を算出する。

 

4-1. 新規需要の整理

ここまで阪神及びオリックス優勝による新規需要を、リーグ優勝及びポストシーズンにおける球場観戦者の消費と球場外の消費に加えて、優勝関連セールと優勝パレードに分けて推計した。リーグ優勝により発生する新規需要は620.2億円、ポストシーズンは132.0億円、セール(リーグ優勝、日本一及び感謝)は38.0億円、優勝パレードは15.6億円、合計で805.8億円となる。これらを支出項目別および地域別に整理すると表8のようになる。

 

表8 最終需要の想定

項目別

地域別

(出所)筆者作成

項目別に見ると、リーグ優勝による最終需要は阪神が475.7億円、オリックスが144.5億円、合計620.2億円となる。またポストシーズンでの最終需要は阪神が110.7億円、オリックスが21.3億円、合計132.0億円となる。セールでの最終需要はリーグ優勝が23.1億円、日本一及び感謝セールが15.0億円、合計38.0億円となる。優勝パレード実施による最終需要は15.6億円となる。

また地域別にみると、阪神・オリックスとも大阪府が最多でそれぞれ170.4億円、82.9億円となっている。金額は阪神の方が大きくなっているが、最終需要全体(優勝パレード除く)に占める大阪府の割合でみると、阪神29%に対してオリックスは51%となっている。またその他地域の割合は阪神28%、オリックス26%となっており、関西の球団の優勝により発生する最終需要は関西だけに留まらないことが確認できる 。

 

4-2. 阪神・オリックス日本シリーズの経済波及効果:関西経済に与える影響

表8に示した新規需要を基に、経済波及効果を計測した。ここでは新規需要発生による効果(直接効果)と、これを満たすべく追加的に発生する間接的な効果(間接効果)をみている。なお、間接効果は、中間財への生産誘発から生じる1次波及に加え、所得増により発生する2次波及効果も含んでいる。直接と間接の効果の合計が経済波及効果の総額となる。

後掲参考表3が示すように、阪神リーグ優勝の全国で発生する経済波及効果の総計は1,017億3,800万円、うち直接効果は444億2,800万円、間接効果は573億1,000万円となる。オリックスの経済波及効果の総計は272億800万円、うち直接効果は128億円、間接効果は144億800万円となる。

リーグ優勝で発生する経済波及効果の総計は1,261億9,800万円、うち直接効果は557億9,100万円、間接効果は704億700万円となる。

ポストシーズンで発生する経済波及効果の総計は269億3,900万円、うち直接効果は123億3,700万円、間接効果は146億200万円となる。

優勝関連セールで発生する経済波及効果の総計は45億3,100万円、うち直接効果は23億7,000万円、間接効果は21億6,100万円となる。

優勝パレードで発生する経済波及効果の総計は30億6,400万円、うち直接効果は15億200万円、間接効果は15億6,300万円となる。

リーグ優勝、ポストシーズン、優勝関連セール及び優勝パレードによる経済波及効果の合計額は1,607億3,300万円、うち直接効果は719億9,900万円、間接効果は887億3,300万円となる。

前述の効果は全国ベースの経済波及効果であるが、地域経済への影響という観点が重要である。我々の分析ではAPIR関西地域間産業連関表を用いているため、どの地域で経済波及効果が発生しているかについても把握することができる。

以上の結果を関西地域とその他地域にわけてみたものが図2-1及び図2-2である。図2-1が示すように、リーグ優勝、ポストシーズン、優勝関連セール及び優勝パレードによる地域別波及効果をみれば、関西2府8県での経済波及効果は935億5,700万円(58.2%)であるが、関西を除くその他地域では671億7,600万円(41.8%)となる。なお、関西各府県の経済波及効果をみると(図2-2)、大阪府は427億2,200万円(26.6%)、兵庫県は250億8,700万円(15.6%)となる。

また今回新たに推計した優勝関連セールの経済波及効果については、大阪府(62.8%)が圧倒的な割合を占めており、優勝パレードについては大阪府(42.1%)、兵庫県(35.4%)と2府県で効果の77.5%を占めていることがわかる。

 

図2-1 地域別にみた経済波及効果:関西2府8県とその他地域
(出所)筆者作成
図2-2 地域別にみた経済波及効果
(出所)筆者作成

これまでは生産誘発額ベースの経済波及効果を示してきたが、付加価値誘発額ベースでみたリーグ優勝、ポストシーズン、優勝関連セール及び優勝パレードの2府4県の経済波及効果は、440億7,600万円である。APIRの最新予測によれば、2023年度2府4県の名目GRPを93兆3,760億円と予測しており、この効果は関西の名目GRPを0.05%程度押し上げ効果を持つ。また全国で見ると、付加価値誘発額ベースの経済波及効果は793億円1,200万円であり、全国名目GDP(588.5兆円)を0.01%程度押し上げることになる 。

 

5.分析の整理と含意

以上の分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。

 

  1. 新規需要を(1)リーグ優勝、(2)ポストシーズン、(3)優勝関連セール及び(4)優勝パレードに分けて想定し、APIR関西地域間産業連関表を用いて経済波及効果を計測した。計測結果によれば、全国で発生する経済波及効果総計は1,607億3,300万円、うち直接効果は719億9,900万円、間接効果は887億3,300万円となった。
  2. 我々の分析の特徴は、どの府県で経済波及効果が発生しているかを見ることができる点にある。関西(2府8県ベース)の経済波及効果は935億5,700万円であるが、関西を除くその他地域では671億7,600万円となる。全体の効果のうち、関西には58.2%、その他地域には41.8%が帰属している。関西を除く地域では経済波及効果のうち、直接効果は193億4,600万円と相対的に小さく、大部分が間接効果(478億3,000万円)となっている。このことは関西での需要を満たすため、関西以外の他府県で一定の需要が発生していることを意味している。
  3. 関西各府県での効果をみると、うち大阪府は427億2,200万円(26.6%)、兵庫県は250億8,700万円(15.6%)となっており、2府県で42.2%と関西地域(58.2%)の大部分を占めることがわかる。
  4. 優勝関連セールと優勝パレードの効果についてみれば、優勝関連セールで発生する経済波及効果の総計は45億3,100万円、うち直接効果は23億7,000万円、間接効果は21億6,100万円。優勝パレードで発生する経済波及効果の総計は30億6,400万円、うち直接効果は15億200万円、間接効果は15億6,300万円となる。優勝関連セールについては、経済波及効果は大阪府(62.8%)が圧倒的な割合を占めており、優勝パレードについては大阪府(42.1%)、兵庫県(35.4%)と2府県で効果の77.5%を占めている。
  5. 付加価値誘発額ベースでみた2府4県の経済波及効果は、2023年度2府4県の名目GRPを0.05%程度、また名目GDP(588.5兆円)を0.01%程度押し上げることになる。

 

 

【後記】

阪神が18年ぶりにセ・リーグ優勝を果たした。そしてパ・リーグ3連覇のオリックスとの日本シリーズ『関西ダービー』の激闘の末、38年ぶりに日本一となった。2021年に僅差で優勝を逃したときは、落胆のあまり、もう生きている間に優勝をこの目で見ることはあるまいと覚悟した。それが今年は岡田彰布監督の指揮のもと日本一にまで上り詰めた。阪神ファンにとって阪神タイガースは「生活の一部」といわれる。であれば、阪神が優勝する、日本一になるということは関西人口の約14%を占める阪神ファンの生活を大きく変えることにほかならならない。その影響は周りに及び大きな経済効果を生むことになるだろう。まして、今回はオリックスとの「関西ダービー」でポストシーズンがすべて関西で行われた。阪神・オリックスの優勝パレードには和歌山県の人口(89.1万人)を優に上回るのべ100万人が詰めかけた。

今回の経済効果の試算にあたって私たちは過去の多くの先行事例を参照させていただいた。そして私たちの仕事も将来にわたって、経済効果に関心を寄せる多くの方々にとって考察の手がかりとなるものでありたいと思う。そのため試算の前提条件や算出方法を可能な限り明らかに示し、望めば再現可能となるように尽力した。また、APIR関西地域間産業連関表の最大の特色は関西府県間・その地域間の交易を織り込んで分析できることにある。今回の経済効果全体の4割以上が大阪府・兵庫県に集中的に発生する一方で相当部分が関西以外の地域にもたらされることも示された。地域間交易を通じて阪神・オリックスの経済効果はファンの分布を越えて全国区的といえるのである。

(高林)

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    大阪・関西万博の経済波及効果 -最新データを踏まえた試算と拡張万博の経済効果-

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    インサイト » トレンドウォッチ

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    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下山 朗 / 下田 充

    ABSTRACT

    本稿の目的は、万博関連事業費などの最新データを踏まえた大阪・関西万博の経済波及効果の試算を示すとともに拡張万博の重要性を主張するものである。今回の試算の背景にはCOVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻の影響によるインフレの加速と供給制約の高まりがある。このような環境下においても、大阪・関西万博を開催することには重要な意義があるとわれわれは考える。万博開催が、関西経済、ひいては日本経済の反転に向けてのチャンスであり、これを生かすことは、反転を実現するための将来への投資でもある。分析結果の要約と含意は以下のとおりである。

    1. 今回の最終需要は、万博関連事業費7,275億円、消費支出8,913億円と想定した。前回より前者は1,381億円(前回比+23.4%)、後者は1,047億円(同+13.3%)の上振れとなった。
    2. 上記最終需要をもとにAPIR関西地域間産業連関表を用いて経済波及効果を計算した結果、生産誘発額は夢洲会場のみで発生する基準ケースで2兆7,457億円、夢洲会場以外のイベントによる追加的な参加(泊数増加)を想定した拡張万博ケース1で3兆2,384億円、加えてリピーター増を考慮した拡張万博ケース2で3兆3,667億円。前回よりそれぞれ3,698億円(前回比+15.6%)、4,509億円(同+16.2%)、4,849億円(同+16.8%)と上振れた。
    3. 得られた試算値は、最終需要が発生した場合、その需要を満たすために直接・間接に一定の産業構造の下でどの程度の需要が諸産業に発生するかを計算したものであり、明瞭な供給制約がないことを前提としている。その意味で本試算値は一定の幅を持って理解される必要がある。
    4. また、試算結果を実現するためには供給制約の緩和は必須である。そのためにDXの活用が重要となり、それが日本の潜在成長率を高めることになる。加えて万博が海外の旅行者に興味を持ってもらうためには、万博と絡めた旅行コンテンツの磨き上げが重要となる。
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  • 高林 喜久生

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    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下山 朗 / 下田 充 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    2023年のプロ野球は、セントラル・リーグは阪神タイガース、パシフィック・リーグはオリックス・バファローズと、ともに関西に本拠地を置く球団が優勝した。本稿では、高林ほか(2023)に引き続き、阪神タイガースおよびオリックス・バファローズの優勝による経済波及効果について、APIR関西地域間産業連関表を用いて計測した。分析結果の概要は以下の通りである。

    1. 両球団の優勝により全国で発生する経済波及効果は1,283億7,300万円となった。うち阪神による効果は1,011億5,800万円、オリックスは272億1,400万円と、阪神優勝の経済波及効果はオリックス優勝の4倍程度となっている。

    2. 関西各府県での効果をみると、阪神の場合、大阪府268億7,000万円(効果全体の6%)、兵庫県172億1,800万円(同17.0%)。オリックスの場合、大阪府94億1,100万円(同34.6%)、兵庫県31億7,100万円(同13.0%)と、いずれも圧倒的に2府県に集中している。ただ阪神に比して、オリックスの経済波及効果は大阪府により大きく発生することがわかる。

    3. 関西二球団の優勝による経済波及効果は、関西以外の地域でも479億円発生する。これは、関西以外の地域のファンによる消費に加え、関西での直接需要を満たすために関西以外の地域で一定程度の需要が発生していることを意味している。

    4. 阪神のファン人数はオリックスの6倍であることを考慮すると、上記の数値から計算されるオリックスファンの1人当たり経済波及効果は阪神を上回っていることになる。この背景にはSNS等を通じたPR活動による着実なファン人口の増加に加え、より付加価値の高い消費単価の反映がある。

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  • 高林 喜久生

    2023年阪神タイガース優勝の地域別経済効果:速報版 -APIR関西地域間産業連関表による分析-

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    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下山 朗 / 下田 充 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    今回の阪神タイガース優勝は慶賀に堪えない。本稿では、阪神タイガース優勝により発生する新規需要を球場観戦時の消費及び球場外の消費(優勝セール含む)に分けて想定した上で、APIR関西地域間産業連関表を用いてその経済波及効果を計測した。その際、地域経済に与える影響という視点が重要であり、この観点から分析を行った。分析結果を整理し、得られた内容は以下の通りである。

     

    1. 阪神タイガースの優勝により全国で発生する経済効果総計は1,051億2,400万円、うち直接効果465億8,700万円間接効果585億3,800万円となった。

    2. うち、関西(2府8県ベース)の経済効果は686億9,600万円関西を除くその他地域では364億2,800万円となる。

    3. 地域間交易を考慮した関西地域間産業連関表の分析によれば、全体の効果は、関西に65.3%、その他地域に34.7%配分される。関西を除く地域では364億円の経済効果を発生させているが、その大部分は間接効果である。すなわち、関西での直接需要を満たすため、関西以外の他府県で一定程度の需要が発生していることを意味している。

    4. 次に関西各府県での効果をみると、大阪府は306億4,400万円(29.2%)兵庫県は172億7,000万円(16.4%)圧倒的に2府県に効果が集中している。

    5. 阪神のファン数は減少しているにもかかわらず、今回の優勝は一定の経済効果をあげている。これから得られる含意としては、新たなファン層の拡大やリピーター率の向上によりファン数の減少トレンドを抑制し、加えてファンサービスの高付加価値化による消費単価の引き上げにより一層の経済効果が期待できよう。

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  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表の利活用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2023年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR上席研究員 高林 喜久生 大阪経済法科大学経済学部教授

     

    研究の背景

    関西2府8県+1地域を対象地域とする唯一無二の地域間産業連関表である。当プロジェクトでは様々な事象による経済社会活動に対する影響について産業連関表を用いて府県別・産業部門別に推計してきている。今後関西においては大阪・関西万博をはじめとするイベント、さらにIRを機に新たな産業が予想され、産業連関表を用いた様々な経済分析が重要である。

     

    研究内容

    ・奈良県DATA取得後に正式版関西地域間産業連関表の作成:奈良県のDATAの差し替えを行い再度統合作業とバランス調整を行う

    ・昨年度算出した大阪・関西万博の経済波及効果の再算出:万博アクションプランVer3を反映し、さらに正式版関西地域間産業連関表完成後に再度試算する。

    ・分析結果を関西経済白書、APIRの各種レポートへの掲載、マスコミ取材時、セミナー等における経済波及効果試算のPR

     

    <研究体制>

    研究統括

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学名誉教授

    リサーチリーダー

    高林 喜久生 APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授

    リサーチャー

    下田 充   日本アプライドリサーチ研究所主任研究員
    下山 朗   大阪経済大学経済学部教授
    入江 啓彰  近畿大学短期大学部商経科教授

    期待される成果と社会貢献のイメージ

    成果物である2015年表は、2011年表と同様、経済部門の一部をAPIRのホームページ上で発表する。また、分析成果は景気討論会や環太平洋産業連関分析学会やセミナー等で報告することを予定している。

    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行う上での重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。

  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表2015年表の作成と利活用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2022年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR上席研究員 高林 喜久生 大阪経済法科大学経済学部教授

     

    研究目的

    これまで、本プロジェクトでは、COVID-19が経済社会活動にもたらした影響について、産業連関表を用いた分析を行ってきた。2020年度は,COVID-19感染拡大が関西のスポーツ関連産業に与えた生産減少額を「負の経済波及効果」として府県別・産業部門別に推計した。また、2021年度は,観光庁「旅行・観光サテライト勘定(TSA)」に基づき、独自の観光産業の分析を行うとともに、観光消費額減少が地域経済にもたらす経済波及効果や、観光関連消費回復のための需要喚起策として行われた「Go Toトラベル事業」の効果についても分析を行った。2021年度の研究成果は『アジア太平洋と関西―2021年関西経済白書』の「Chapter6 関西と観光産業:産業連関表を用いた分析」にまとめられている。

    また、APIRでは前身の関西社会経済研究所の時代から、関西における地域間産業連関表の作成や利活用に関する研究に継続して取り組んでいる。2021年度は2020年度に実施した基礎調査(関西居住者や関西への来訪者を対象に、消費費目や金額、消費場所などについて尋ねたWEBアンケート調査)の結果をまとめ、関西経済白書に掲載するとともに、2015年の関西地域間産業連関表(以下、2015年表)作成のために、統合中分類(107部門)をベースに統合・調整を行うなどの基礎作業を実施した。それを受けて、2022年度は,2015年表の完成を目指すとともに、その利活用を行う。

     

    研究内容

    1)「2015年 APIR関西地域間産業連関表」の作成
    2021年度、地域間表の作成に必要な関西2府8県(福井県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県)の「2015年地域産業連関表」をほぼ全て入手し、入手した府県については産業分類の統合・調整を行い、産業中分類(107部門)をベースに2015年表の作成作業を行った。2022年度はこの作業を継続するとともに、未公表の県については暫定版をAPIRで推計し、それを用いて地域間表の統合作業を行う(暫定版の作成)。その後、当該府県より2015年の産業連関表が公表され次第、差し替え・再度統合作業・バランス調整を行う(確定版の作成)という二段階の作業を行う(※1)。
    また、作業過程において必要な移出入等に関する情報について、APIRマクロ経済研究プロジェクト等のネットワークを活用して府県の統計担当者へのヒアリングを行う(※2)。
    (※1)本項を執筆している5月23日時点で、対象府県のうち、奈良県のみ未公表である。
    (※2)これまでに関係が深い大阪府、兵庫県、和歌山県などを予定している。
    2)「2025年大阪・関西万博 」の経済波及効果の分析
    足下で入手できる最新の情報に基づき、「2025年大阪・関西万博」の経済波及効果の推計を行う。
    なお、2025年大阪・関西万博の経済効果は2019年の関西経済白書で試算を行っているが、コロナ禍による訪日外国人の激減,予算額の変更等が報道されていることを受け、来場者数や訪日外国人の人数、工事費等について再検討を行う。必要な情報については、APIR所内の万博検討チームや万博関連プロジェクトとも連携して、効率的な把握に努める。
    3)インフラ整備の経済効果に関する勉強会
    2021年度に引き続き、「2025年大阪・関西万博」に関連した取り組みを行っている組織や、広域的な交通ネットワーク整備や今後備えるべき災害への対応など,関西で問題となっているインフラ課題について専門家を招聘し、勉強会を行う。
    2022年度は、事業整備を通じた生活の質向上や時間短縮による生産性向上といった「ストック効果」に着目するとともに、産業連関表やマクロ計量モデルを用いてどのように分析を行うかといった手法面についても議論を行う。年2回程度実施を検討している。
    4)対外的な成果報告
    メンバーは各々の立場で分析結果を報告することを通じて、積極的な対外発信に努める。。

     

    <研究体制>

    研究統括

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学名誉教授

    リサーチリーダー

    高林 喜久生 APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授

    リサーチャー

    下田 充   日本アプライドリサーチ研究所主任研究員
    下山 朗   大阪経済大学経済学部教授
    入江 啓彰  近畿大学短期大学部教授
    藤原 幸則  APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授
    木下 祐輔  大阪商業大学経済学部専任講師

     

    期待される成果と社会貢献のイメージ

    成果物である2015年表は、2011年表と同様、部門を集約した上でAPIRのホームページ上で発表を行う。また、分析成果は景気討論会や学会や外部の研究会で報告することを予定している。
    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行ううえでの重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。

  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表2015年表の作成と応用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2021年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR上席研究員 高林 喜久生 関西学院大学経済学部教授

     

    研究目的

    APIRでは、前身の関西社会経済研究所の時代から、関西における地域間産業連関表の作成や利活用に関する研究に継続して取り組んでいる。
    COVID-19は経済社会活動に大きな影響をもたらし、特に観光産業に大きな打撃を与えた。世界的な感染拡大に伴い、観光消費額は日本人、外国人ともに大きく落ち込んだ。観光消費額に関する統計は「旅行・観光消費動向調査」などがあるが、観光消費額の減少が地域経済にどのような経済波及効果をもたらすか分析した研究は少ない。したがって、2021年度は観光産業に焦点を当て、全国や関西各府県の産業連関表を用いて分析を行う。
    また、昨年度末にかけて地域間表の作成に必要な関西2府8県の「2015年地域産業連関表」がほぼ出そろったことから、「2015年 APIR関西地域間産業連関表(以下2015年表)」の作成を行う。

     

    研究内容

    1)観光庁TSAに基づく観光産業分析のフレームワークの構築
    現在入手できる最新版の全国表である経済産業省「平成29年 延長産業連関表(平成27年基準)」の各産業部門を観光庁「旅行・観光サテライト勘定(TSA)」に基づき、「観光部門」と「非観光部門」に分割し、他産業と比較した観光産業の特徴を明らかにする。同様に、関西2府8県の「2015年地域産業連関表」を用いて、観光産業の特徴を分析する。
    2)「2015年 APIR関西地域間産業連関表」の作成
    2020年度実施したWEBアンケート結果を基に、府県間の取引関係を示した交易マトリックスを更新する。また、関西2府8県の「2015年地域産業連関表」から統合小分類をベースに産業部門の統合・調整を行い、2015年表の作成を行う。
    3)インフラ整備の経済効果に関する勉強会
    2025年に予定されている大阪・関西万博に向けた交通ネットワークの整備や今後備えるべき災害への対応を始め、関西で課題となっているインフラに関する勉強会を数回程度実施する。

    既存の研究との差異は以下の2点である。
    1つ目は、観光庁「旅行・観光サテライト勘定(TSA)」に基づき、観光に関連する産業を「観光部門」と「非観光部門」に分割する。観光産業はすそ野が広く、産業連関表の産業分類では観光関連とそれ以外が分かれておらず、分析が粗くなってしまうという問題がある。そのため、観光部門と非観光部門を分けることで、分析の精緻化を図っている。
    2つ目は、分析ツールとしてAPIRが持つ2015年表を用いることである。現存する最新版の関西の地域間産業連関表はAPIRが作成した2011年表のみである。地域間かつ広域で経済活動を把握することができる地域間産業連関表について、年次を2015年に更新したものを用いることで2011年表よりも直近の経済構造を反映でき、より実態に即した分析が可能となると考えられる。
    なお、関西地域間産業連関表の対象地域は広域関西2府8県であり、関西広域連合や関西観光本部の対象地域をカバーしている。これにより関西を広域で捉えた際の経済波及効果等の分析を行うことが可能となる

     

    <研究体制>

    研究統括

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学名誉教授

    リサーチリーダー

    高林 喜久生 APIR上席研究員、関西学院大学経済学部教授

    リサーチャー

    下田 充   日本アプライドリサーチ研究所主任研究員
    下山 朗   大阪経済大学経済学部教授
    入江 啓彰  近畿大学短期大学部准教授
    藤原 幸則  APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授
    木下 祐輔  APIR調査役兼研究員

     

    期待される成果と社会貢献のイメージ

    成果物である2015年表は、2011年表と同様、部門を集約した上でAPIRのホームページ上で発表を行う。また、分析成果は景気討論会や学会など外部の研究会で報告することを予定している。
    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行う上での重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。

  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表の利活用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2020年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    上席研究員 高林喜久生 関西学院大学経済学部教授

     

    研究目的

    APIRでは,前身の関西社会経済研究所の時代から、関西における地域間産業連関表の作成に取り組んでいる。昨年度の自主研究プロジェクト(関西地域間産業連関表の利活用と2015年表に向けての検討)では、「2011年版APIR関西地域間産業連関表(以下,2011年表)」を暫定版から確定版へと改定するとともに、利活用に重点を置くという趣旨からG20大阪サミットや夏の甲子園開催、大阪・関西万博などを対象に経済波及効果の分析を行った。これらの成果は夏のフォーラムやトレンドウォッチ、『アジア太平洋と関西』等で発表し、これらを通じて地域間産業連関表の有用性を伝えることができた。

    その一方で、対象年である2011年から約10年が経過し、関西経済を取り巻く状況は大きく変化している。インバウンド需要の増大による交流人口の拡大や、交通網整備によるインフラ整備、グローバル・サプライチェーンの進展による貿易構造の変化は関西の経済構造に大きな影響を与えている。そのため、地域間かつ広域で経済活動を把握することができる地域間産業連関表は、今まで以上に関西経済の分析に重要な役割を果たすと考えられる

    産業連関表は通常、5年ごとに更新されるため、次のベンチマークイヤーは2015年である。2011年から15年にかけては,2013年以降のアベノミクスによる景気の好転、14年以降の外国人観光客急増とそれに伴うインバウンド需要の高まりなど、関西経済にとって重要な出来事が多く起こった期間でもある。ただし、関西各府県における2015年産業連関表の公表はまだ一部府県にとどまっているため、2015年を基準年とした作表に着手できるのは、来年度以降となる。そこで2020年度は、2011年APIR関西地域間産業連関表をベンチマークとした、2015年の関西地域間産業連関表延長表(以下、2015年延長表)作成を行うとともに、引き続き2011年表を利用した分析に取り組む。なお、本年度の調査研究で実施するWEBアンケート等の交易マトリックスに関する調査結果は、来年度以降に実施する2015年基準表の作成においても利用することを見込んでいる。

     

    研究内容

    WEBアンケート結果を利用し2015年延長表の作成作業を行うとともに、今後関西地域で開催が予定されている大規模イベント等の経済波及効果の推計について検討する。作業過程で蓄積された知見や分析の成果はトレンドウォッチなどの形で適宜報告を行うとともに、学会などでも対外発表を行いたい。

    1)「2015年 APIR関西地域間産業連関表延長表」作成に向けた基礎調査の実施

    2011年表作成時に実施した調査から得られた課題(サンプルサイズや設問の尋ね方)を踏まえ、WEBアンケート調査を実施する。

     

    2)「2015年 APIR延長関西地域間産業連関表延長表」の作成

    1)で得られたアンケート調査結果を利用し、府県間の取引関係を示した交易マトリックスを更新するとともに、2015年延長表の作成を行う。

     

    3)対外的な成果報告

    メンバーは各々の立場で2011年表を活用した分析結果を報告することを通じて、積極的な対外発信に努める。

     

    研究体制

    研究統括

    稲田義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、 甲南大学教授

    リサーチリーダー

    高林喜久生  上席研究員、関西学院大学経済学部教授

    リサーチャー

    下田 充  日本アプライドリサーチ研究所主任研究員

    下山 朗  奈良県立大学地域創造学部教授

    入江啓彰  近畿大学短期大学部准教授

    藤原幸則  APIR主席研究員

    木下祐輔  APIR調査役・研究員

     

    期待される成果と社会還元のイメージ

    近畿経済産業局「近畿地域産業連関表」は2005年表を最後に作成中止となっており、当研究所の表が関西を対象とする唯一の本格的な産業連関表となる。対象地域は広域関西2府8県で、関西広域連合や関西観光本部の対象地域をカバーしている点も特徴である。また、年次を2015年に更新することで、2011年表よりも直近の経済状況を反映できることから、2015年延長表を活用した分析や対外発表等は非常に価値が高いと考えられる。

    加えて、産業連関表は政策評価を行う上での基礎資料でもあるため、所内の他の自主研究(インバウンド等)とのクロスオーバー、関連する調査を受託することでの外部資金獲得等が期待できる。

    成果物である2015年延長表は、2011年表と同様、部門を集約した上でAPIRのホームページ上で発表を行う。また、分析成果は景気討論会や学会や外部の研究会で報告することを予定している。

    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行ううえでの重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。また、外部資金獲得についても、既に受託している大阪府の調査(新型コロナウイルス感染症に関する大阪経済への影響分析等調査)の中で、産業別の影響を推計した結果を報告するなどして活用している。

     

    <研究会の活動>

    研究会・分科会

  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表の利活用と2015年表に向けての検討

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2019年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    上席研究員 高林喜久生 関西学院大学経済学部教授

     

    研究目的

    APIRでは,前身の関西社会経済研究所の時代から,関西における地域間産業連関表の作成に取り組んでいる.昨年度の自主研究プロジェクト(2011年版・APIR関西地域間産業連関表の作成と活用)では,2011年度に2005年表作成後,7年ぶりに同連関表の改訂作業を実施した。

    「2011年版APIR関西地域間産業連関表(以下2011年表)」は現在暫定版が完成している。2011年表は対象地域の拡大,産業部門数の拡大,交易マトリクスの作成を通じた域外取引の精緻化など,地域の取引実態を正確に反映させるための様々な工夫を行った。その結果,自治体やシンクタンクにおける経済波及効果推計だけでなく、アカデミックな研究としても耐えられる質の高いものとなっている.そこで,今年度は暫定版を確定版へと修正するとともに,産業連関表自体の利活用に重点を置いて取り組む。

     

    研究内容

    1)「2011年版APIR関西地域間産業連関表」確定版への更新

    昨年度の研究成果である2011年表は現在暫定版である.これを自治体の統計担当者へのヒアリングや,各部門の推計に利用した既存統計を再度見直すことで,暫定版を確定版へと修正する.

    2)関西が会場となる大規模イベントの経済波及効果の推計

    2019年度はG20やラグビーワールドカップの開催が予定されている.また,翌年以降もワールドマスターズゲームズ(2021年)やIR開業(2024年)、大阪・関西万博(2025年)など,関西地域が会場となる大規模イベント開催が多数予定されており,これらのイベントがもたらす経済波及効果の推計を行う.

    3)対外的な成果報告

    夏頃を目途に,2011年表(確定版)を基に関西地域における取引構造について報告する成果報告会を実施する.また,各々の立場で2011年表を活用した分析結果を報告することを通じて,積極的な対外発信に努める。

    4)2015年産業連関表作成に向けた交易マトリックスの更新に向けての準備作業

    次の産業連関表のベンチマークイヤーは2015年である.2011年から15年にかけては,2013年以降のアベノミクス,14年以降の外国人観光客急増によるインバウンド需要の高まりなど,関西経済にとって重要な出来事が多く起こった重要な期間でもある.よって,交易マトリックスの更新を行うことで,2015年の関西地域間産業連関表作成の準備作業を行う。

     

    研究体制

    研究統括

    稲田義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、 甲南大学教授

    リサーチャー

    下田 充  日本アプライドリサーチ研究所主任研究員

    下山 朗  奈良県立大学地域創造学部教授

    入江啓彰  近畿大学短期大学部准教授

    藤原幸則  APIR主席研究員

    木下祐輔  APIR調査役・研究員

     

    期待される成果と社会還元のイメージ

    関西全体を一地域として捉えた近畿経済産業局の「近畿地域産業連関表」は2005年表を最後に作成中止となっており,本表が関西地域を対象とする唯一の本格的な2011年表となる.そのため,2011年表を活用した分析結果や対外発表等は非常に価値が高い.

    また,2011年表は政策評価を行う上での基礎資料でもあることから,所内の他の自主研究(インバウンドや地域創生等)とクロスオーバーが期待できる。

    2011年表を確定版へと修正作業を行うとともに,関西経済の構造分析を行い、また今後関西地域で開催が予定されている大規模イベントの経済波及効果の推計についても検討する予定である。こうした作業の過程で蓄積された知見は,トレンドウォッチ,コメンタリーの形で適宜報告を行うとともに,学会などでも対外発表も行いたい。

     

    <研究会の活動>

    研究会・分科会

    ・2019年4月26日  第1回研究会開催

    ・2019年5月17日  第1回分科会開催

    ・2019年6月7日   第2回分科会開催

    ・2019年6月25日  第3回分科会開催

    ・2019年7月30日  第4回分科会開催

    ・2019年10月28日  第5回分科会開催(予定)

  • 高林 喜久生

    2011年版 APIR関西地域間産業連関表の作成と活用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2018年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    上席研究員 高林 喜久生 関西学院大学経済学部教授

     

    研究目的

    企業活動のグローバル化に伴い、地域経済を取り巻く状況は大きく変化している。中でも関西では、インバウンド需要の増加による交流人口の拡大や、交通網整備を始めとするインフラの充実など、地域を越えた財・サービスの流動が近年増加しており、地域間かつ広域で経済活動を把握することが重要となっている。

    APIRでは、前身の関西社会経済研究所の時代から、関西における地域間産業連関表の作成に取り組んでおり、その成果は「2005年 関西地域間産業連関表」として公表されている。しかし、それから10年以上が経過し、当時と比べて関西の経済構造は大きく変化している。そこで、本プロジェクトでは、関西経済の構造分析や観光消費による経済波及効果分析のために、APIRが持つ「関西地域間産業連関表」の更新・拡張を行うことを目的として実施する。

    また関西全体を一地域として捉えた近畿経済産業局の「近畿地域産業連関表」が2005年表を最後に作成中止となったため、本表が関西地域を対象とする唯一の本格的な2011年産業連関表となり、その意義はさらに大きくなるものと考えられる。

     

    研究内容

    関西経済の構造分析や観光消費による経済波及効果分析のために、APIRが持つ「関西地域間産業連関表」を2011年版へと更新・拡張を行う。具体的には、関西の各府県の「2011年地域産業連関表」及び総務省「2011年全国産業連関表」の統合・調整を行う。その作業過程において必要な移出入等に関する情報について、APIRマクロ研等のネットワークを活用して各府県統計担当者へのヒアリングを行う。

    対象となる府県は従来の関西2府4県(滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県)に加えて、福井県、三重県、徳島県、鳥取県の4県を合わせた2府8県をベースとする。これにより、関西広域連合(2府6県)、関西観光本部(2府8県)など、関西を広域で捉えた際の経済波及効果等の分析を行うことが可能となる

    産業連関表の作成においては、企業間の取引状況の把握と同時に、消費者がどこで消費行動を行っているか把握することが重要である。そのため、既存統計に加えて、関西域内外の消費者を対象としたWEBアンケート調査を実施することで、より実態に即した産業連関表を作成する

     

    リサーチャー

    下田 充  日本アプライドリサーチ研究所主任研究員

    下山 朗  奈良県立大学地域創造学部教授

    入江啓彰  近畿大学短期大学部准教授

    木下祐輔  APIR調査役・研究員

     

    期待される成果と社会還元のイメージ

    成果物である「2011年 関西地域間産業連関表」は、部門を集約した上でAPIRのホームページ上で発表を行う。また、各リサーチャーがそれぞれの持つネットワークを通じて、2011年表の紹介や分析成果を報告する。

    産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行ううえでの重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状及び特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できよう。

     

    <研究会の活動>

    研究会

    ・2018年7-10月   第1回研究会開催(予定)

    ・2018年11-12月   第2回研究会開催(予定)

    ・2019年2-3月   第3回研究会開催(予定)

  • 高林 喜久生

    関西・アジア諸国間の経済連動関係の分析と関西独自景気指標の開発

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2013年度 » イノベーション

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生 / 稲田 義久

    ABSTRACT

    研究成果概要

     

    本研究では関西の府県別の変動パターンに着目しました。「国際収支(=輸出-輸入)の地域版」である域際収支(=移出-移入)の関西府県分析からは、あらためて大阪府の重要性が浮き彫りになりました。一方、関西の府県別景気指標の分析によると、シェアが必ずしも大きくない滋賀県や福井県が関西の景気変動にとって重要な位置を占めています。そして韓国が関西の府県に先行していることも注目点です。また、ユニークな景気指標として「段ボール生産」に昨年度着目しましたが、大型小売店販売額等との時差相関係数を分析したところ、関西の消費動向の1 ヶ月の先行指標として利用可能なこともわかりました。詳細はこちら

    目的

    地域ごとの景気変動パターンの独自性が高まっている。この研究プロジェクトは、関西とアジア諸国・諸地域間の経済連動関係を明らかにし、その結果を踏まえて関西景気指標を独自に開発・応用を行うことを目的とする。読者は、このような情報提供を最も必要とする関西の企業・地方自治体を第一に想定する。

    内容

    アジア諸国・地域との経済的な連動関係を数量的に把握する。具体的には、国際地域間産業連関表の作成を行う。その際、常に新たな成長牽引産業を意識する。関西はバランスのよい産業構造を持っているとされるが、リーディング産業が無いという見方もできる。バランスのよい産業構造を生かすには産業間・企業間の連携が必要で、それが新たな成長を生み出すことに繋がると考えられる。

    期待される成果と社会還元のイメージ

    ・関西と特定アジア諸国・地域間の国際地域間産業連関表の作成。

    ・景気指標による関西とアジア諸国間の経済連動関係の抽出。

    ・関西景気個別指標(例えば段ボール生産が有望視される)の発見。

    ・関西独自の景気指標の開発と応用・公表。

    これらの研究成果を体系的に整理したものを書籍(「関西経済論」の教科書としても利用可能なもの)としても世に問いたいと考えている。