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「日本経済」の検索結果 [ 21/25 ]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2011年2月)

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    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    今月の日本経済見通しで述べたように、10-12月期の実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率-1.1%となり、5四半期ぶりにマイナス成長に転 じ、市場の見方を確認する結果となった。すなわち、同期の実績は、日本経済が不況に陥ったのではなく景気対策効果の剥落による一時的な景気の踊り場であっ たことを意味している。というのも実質GDP成長率を最も引き下げたのは民間最終消費支出であり、同-2.9%減少し(7四半期ぶりマイナス)、実質 GDP成長率を-1.7%ポイント引き下げたからである。
    しかし、多くにとってサプライズであったのは、実質耐久消費財が同+13.0%と前期(同+58.7%)に続き2桁増を記録したことである。おそらく薄型 テレビの販売増が乗用車の販売減を相殺したようである。一方、民間最終消費支出のうち、実質半耐久消費財、実質非耐久消費財、実質サービス消費はそれぞれ -1.7%、-13.7%、-0.8%減少した。半耐久財は3四半期連続、サービスは4四半期連続で前期から減少しているのに対し、非耐久財は5四半期ぶ りでかつ大幅な減少となっている。家計は非耐久財の消費を削減し、耐久財支出に多くをまわしたと考えられる。
    デフレータを見ると、民間最終消費支出デフレータは前期比-0.2%と下落幅は前期(-0.6%)より縮小したが、3期連続のマイナスを記録した。超短期 予測では民間最終消費支出デフレータを主として消費者物価指数で説明しており、10-12月期は前期比+0.4%と予測しており、実績(同-0.2%)と は大きく乖離した。これまで比較的高い説明力があったが今回は過大予測となった。
    実際、10-12月期の消費者物価指数は前期比横ばいであったが、民間最終消費デフレータが同マイナスとなった理由として、説明変数である消費者物価指数 は固定基準年ウェイト方式であるのに対して、被説明変数である民間最終消費支出デフレータは連鎖方式による指数であることが影響したものと考えられる。前 期のウェイトが用いられる連鎖方式では、政策効果による耐久消費財のウェイトの高まりと技術進歩のスピードが速い耐久消費財では価格下落が大きく、両者の 影響が今回特に大きく出たと思われる。
    実際、民間最終消費支出デフレータのサブカテゴリ?である耐久消費財、半耐久消費財、非耐久消費財、サービスの伸びをみると、それぞれ前期比-6.1%、 -0.3%、+1.4%、+0.1%となっている(図参照)。ちなみに、非耐久財デフレータが上昇しているのはタバコの増税による。消費者物価指数と民間 最終消費支出デフレータの対応するカテゴリーの伸びを比較すると、耐久消費財デフレータの伸び(前期比-6.1%)と当該消費者物価指数の伸びには大きな 乖離が見られる。その他のカテゴリーでは大きな乖離はない。多くにとってサプライズであった実質耐久消費財が前期に続き2桁増となった理由の一部は、連鎖 指数である同デフレータが大幅に下落したことが考えられる。
    ただ消費者物価指数は2011年8月に基準年が2005年から2010年に移行する予定である。移行時にウェイトが変更されるが、ウェイトの変更は指数全 体を押し下げる方向にはたらくと見られている。基準年が移行した新指数では民間最終消費支出デフレータと消費者物価指数の乖離は幾分縮小するであろう。

    日本
    <一時的な踊り場をへて1-3月期日本経済は急回復>

    2月14日(月)発表の GDP1次速報値によれば、10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率-1.1%となり、市場の見方をほぼ確認する結果となった。5四半期ぶりにマイ ナス成長に転じたが、2010暦年の実質GDPは前年比+3.9%となり、3年ぶりのプラス成長を記録した。
    実質成長率は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト2月調査:-2.13%)より幾分低かった。最終週における超短期モデル(支出サイドモデルと主成分 分析モデル)の平均成長率予測は-3.2%であった。支出サイドモデル予測は-2.3%とほぼ市場コンセンサスと同じ、一方、主成分分析モデル予測は -4.2%となった。
    ただ季節調整の掛けなおしにより、過去の成長パターンが変化しており、過去3四半期の成長率は0.8%~1.2%ポイント下方修正されている。超短期モデ ル(支出サイドモデル)は、10-12月期の実質GDPを543.2兆円と予測したが、実績は542.2兆円であり1兆円程度下回っている。すなわち、成 長率の実績(-1.1%)は予測(-2.3%)を上回ったが、過去3四半期にわたって下方修正されたため水準の実績は逆に予測を下回ったのである。
    足下の月次指標をみれば、10-12月期の実績は、日本経済が不況に陥ったのではなく景気対策効果の剥落による一時的な景気の踊り場であったことを支持している。
    10-12月期の実質GDP成長を最も引き下げたのは民間最終消費支出であり、政府支出や純輸出も引き下げた。実質GDP成長率(-1.1%)への寄与度 (年率ベース)を見ると、国内需要は-0.7%ポイントとなり、5四半期ぶりのマイナス寄与となった。一方、純輸出は-0.4%ポイントと2四半期連続の マイナス寄与である。今回のデータは、輸出の減少とエコポイント制度変更前の駆け込み需要の反動の影響が大きく出たことを示している。
    実質民間最終消費支出は同-2.9%となり、実質GDP成長率を-1.7%ポイント引き下げた。7四半期ぶりマイナスである。多くにとってサプライズで あったのは、実質耐久消費財が同+13.0%と前期に続き2桁増を記録したことである。このことは相当需要を先食いしたことを意味しており、1-3月期以 降の耐久消費財の反動減が危惧される。多くにとってサプライズであった、実質耐久消費財が前期に続き2桁増となった理由の一部は、同デフレータが大幅に下 落したことが考えられる(これについては今月のトピックス参照のこと)。
    今週の支出サイドモデルは、1-3月期の実質GDP成長率を、内需と外需が反転拡大するため前期比年率+5.9%と予測する。また4-6月期の実質GDP 成長率を、内需及び純輸出がともに拡大するため、同+3.8%と予測している。日本経済は一時的な踊り場を経て2011年年前半は比較的高い成長率を実現 できよう。
    [稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    2010年 10-12月期の実質GDP伸び率(前期比年率)が+3.2%となった。これは米国超短期モデルの最終予測の同+3.8%より幾分低い。しかし、大事なこ とはGDPから在庫増を除いた実質最終需要が同+7.1%と大きく伸びたことである。持続的な経済成長を考えるとき、在庫に頼らない最終需要を見ることは 大事なことである。実際に、米国経済が景気回復を示し始めた2009年10-12月期の実質GDP伸び率は5%を超えたにもかかわらず、実質最終需要の伸 び率が2.1%と低かったことから、連銀は経済成長の多くが在庫増によるものと言って、従来のゼロ金利政策を変更しなかった。米経済がリセッションを終了 した以降の2009年7-9月期?2010年10-12月期の6四半期の実質GDPの平均伸び率は3.0%であり、実質最終需要の平均伸び率は2.1%で ある。この期間の個人消費支出価格デフレータとそのコア価格デフレータのそれぞれの平均伸び率は1.7%、1.1%である。このような状況の中で、連銀は まだ異常なゼロ金利政策を維持し、追加的数量緩和政策(QE2)の継続さえ考えている。
    2月3日にバーナンキ連銀議長は全米記者クラブで経済見通しとマクロ経済政策”の講演を行い、次のように述べている。「我々は強い雇用増が持続的になるま で、景気回復が本格的になったとみなすことはできない。」「正常な失業率の水準に戻るまでにはあと数年はかかる。」「今のコモディティー価格の上昇は発展 途上国の需要増によるものである。」すなわち、連銀とは無関係というものである。確かに、石油価格の高騰は連銀とは無関係であるが、コモディティー価格の 上昇が、近い将来に一般物価に影響を与えることは確かである。都合の悪い最終需要が7.1%と伸びたことには触れてはいない。
    今週の超短期モデルは、1-3月期の実質GDP成長率(需要サイド、所得サイド平均)を前期比年率+2.4%と予測している。順調な拡大を示している。さ て、連銀は一体いつまで異常なゼロ金利政策、効果のないQE2を継続したいのであろうか?あるいは、失業率が一体何%にまで低下したら、今の金融スタンス を変更するのだろうか?おそらく、バーナンキ連銀議長の望む失業率が達せられる前に、インフレーションの加速化が始まるだろう。彼の頑固さは、連銀が景気 のモメンタムを捉えることができなかったことからきているのかもしれない。彼の失業率低下への執着は異常としか思えない。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2011年1月)

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    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    先月の本コラム『2011年の関西経済:「アジアの中の関西」を実感する元年』では、アジア経済、特に中国経済の関西経済にとっての重要性を強調した。そ れを裏付けるデータが1月20日に発表された。中国国家統計局によれば、2010年10-12月期の中国の実質GDPは前年同期比+9.8%となり、この 結果、2010暦年の実質成長率は+10.3%となった。3年ぶりの2桁成長であり、固定資産投資(特に公共投資)や輸出が高成長をけん引した。リーマン ショックの後遺症からなかなか抜け出せない日米欧経済とは対照的である。この高成長の結果、中国の名目GDP(39兆7983億元)のドル換算値は日本の それを追い越し世界第2位となるのは確実である。というのも、今月の日本経済超短期予測で示したように、10-12月期の実質成長率(実績は2月14日公 表予定)はマイナス成長が確実だからである。
    さて歴史を振り返ると、名目GDPでみて日本経済が旧西ドイツを抜いて世界第2位になったのは1968年であった。その2年後に大阪万博が開催され、さら に4年前の1964年には東京オリンピックが開催された。加えて、1972年に田中首相の『日本列島改造論』を引けがねとして地価が急激に上昇したことも 高度成長期に特徴的な現象であった。状況はよく似ている。2008年には北京でオリンピックが、2010年には上海で万博が開催され、そして名目GDPが 世界2位となる。またこの間、中国では不動産バブル現象も同時におこっている。
    中国の成長過程の状況は日本のそれと極めて似ているが、ただ異なるのは成長のスピードが日本の経験に比してはるかに急速であることだ。急速に所得が伸びる ため消費の伸びは追いつかない。貯蓄が増加し、それが投資に回り、成長の好循環を形成する。実際、中国のGDPに占める民間消費のシェアは極めて低い。米 国の7割、日本の5割強に比して3割強にとどまっていることから、今年からスタートする中国政府の第12次5ヵ年計画の最重要点は消費シェアの拡大におか れている。輸出主導から内需主導の持続可能な成長への移行を意図している。これは国内消費が伸び、海外からはマーケットとして重要性がますます高まる。
    世界の「工場」(輸出)から今や世界の「市場」(消費)に成長のドライバーは徐々に移行する。中国の1人当たりのGDPは日本の1/10の水準である。所 得水準の拡大は消費市場の高度化を推し進める。消費構造が高度化し、これからは耐久消費財やサービス支出の拡大が期待される。実際、中国の消費者物価指数 のウェイトにおいて、食品のウェイトは非常に高く、サービス支出のウェイトは低いのはこのことを反映している。GDPが世界第2位となった中国経済とどう 付き合うのか。答えの一つは中国の旺盛な消費需要を日本がどのように取り込んでいくかであり、これが日本の新成長戦略の重要なポイントとなる。

    日本
    <米国とは対照的な10-12月期日本経済の不振は一時的>

    予測動態のグラフの比較から明らかなように、10-12月期の米国と日本の成長パフォーマンスは対照的な結果となろう。今週の米国経済超短期予測によれ ば、実質GDP成長率は約4%(前期比年率)の高成長が見込まれている。一方、日本経済超短期予測(支出サイドモデル)は、同期の実質GDP成長率を、内 外需がともに縮小するため前期比-0.9%、同年率-3.4%と見込んでいる。もっとも、1-3月期の実質GDP成長率は、内需及び純輸出が反転拡大する ため、前期比+1.1%、同年率+4.3%と予測している。
    10-12月期の日本経済の景気のモメンタム(支出サイド、主成分分析モデル予測値平均)は11月の半ばから減速傾向を示し始めた。実質GDP成長率は 11月の終わりからマイナスの領域に入った。12月には-2%に低下し、10-12月GDPの基礎データの2/3が利用可能な1月半ばにはさらに-3%に まで低下した。これから発表される12月の月次データはせいぜい底打ちを示唆するものが増えると予想されることから、10-12月期のマイナス成長は -3%を超える可能性は低くない。
    10-12月期の低迷は、家電エコポイントの縮小やエコカー補助金の終了に伴う家計消費の反動減が主因である。同期の国内需要を見れば、実質民間最終消費 支出は前期比-0.6%のマイナス成長を予測している。実質民間住宅は同+2.3%と好調であるが、実質民間企業設備は同-0.3%と低調である。実質政 府最終消費支出は同+0.7%、実質公的固定資本形成は同-4.8%となる。この結果、国内需要の実質GDP成長率(前期比-0.9%)に対する寄与度は -0.8%ポイントとなろう。純輸出も景気押し下げ要因に転じる。財貨・サービスの実質輸出は同-2.8%、実質輸入は同-3.3%それぞれ減少する。こ のため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-0.1%ポイントとなる。
    主成分分析モデルは、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率-2.8%と支出サイドとほぼ同じ予測となっている。1-3月期は支出サイドモデルよ りは低いが同+1.7%とみている。この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率は、10-12月期が-3.1%、1-3月期 が+3.0%となる。今後海外経済が順調に回復すれば、10-12月期のマイナス成長は一時的な反動減にとどまり、2011年前半には日本経済は回復軌道 に戻るとみてよい。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフに見るように、超短期予測は景気(実質GDP前期比年率:2010年10-12月期)が11月に入り上向き初め、11月後半には3%を超え景気回復 にモメンタムがついていることを示している。しかも、12月後半においてからは支出・所得両サイドからの平均実質GDP伸び率は5%を超えるようになっ た。しかし、企業の在庫積み増しがここにきて急速にスローダウンしてきたことから、10-12月期の実質GDP成長率は4%程度であろう。連銀は 11月2日、12月14日のFOMCコメントにおいても景気回復のモメンタムを認めようとはしていない、いや気づいていないのかも。やっと、1月7日の上 院の予算委員会の証言においてバーナンキ連銀議長が景気回復の強さを認めるような発言をした。しかし、いつものごとく高い失業率に言及し、失業率を十分に 下げるだけの景気回復ではないと主張し、未だ続けている異常な低金利政策を暗示的に正当化し、その出口政策へのヒントを与えてはいない。彼は失業率が8% 程度にまで下がるにはあと2年はかかると言い、正常な水準に戻るには5年以上かかると言っている。連銀は最大雇用と物価安定の2つの目的を常に課せられて いる。しかし、金融政策一つで2つの目標を同時に達成することは理論的にも不可能であり、課せられた目的のバランスをとりながら金融政策を適宜変更してい くことが重要である。失業率が9%を超えていようが、景気回復にモメンタムがつき、経済成長率が潜在成長率程度になったにもかかわらず、遅行指標の失業率 に執着し、将来のインフレ抑制への対策をないがしろにすれば、米国経済はインフレ加速という将来大きな損失をこうむる。
    このことを従来から懸念していたカンザスシティー連銀のトーマス・ホーニング総裁に加え、今ではフィラデルフィア連銀のチャールズ・プロッシー総裁、 リッチモンド連銀のジェフリー・ラッカー総裁もこれまでの金融政策の見直しに言及し始めた。連銀エコノミストたちは一体経済成長率がどのくらいの高さにな り、失業率がどの程度にまで下がれば今の異常な低金利政策を変更し始めるのだろうか?バーナンキ議長をはじめ連銀エコノミストたちは、日本経済の長期停滞 をデフレが原因としてあまりにデフレ恐怖症に陥り、不必要なペシミズムに陥っている。不必要あるいは間違ったペシミズムは根拠なきオプティミズムより悪 い。後者は時間があまりたたずにその間違いが分かるが、前者はその間違いに気づくのに長い時間がかかる。たとえば、潜在成長率を高めに想定し、金融緩和策 をとればインフレの加速化がすぐに始まる。しかし、潜在成長率を実態より低めに捉え、金融引き締めを続ければその間違いは簡単にはみつからない。むしろ、 そのようなペシミズムに基づいた経済・金融政策は悲観的な心理を人々の間に生じさせ、景気回復を遅らすばかりか、その芽を摘み取ってしまう可能性もある。
    米国経済が本格的景気回復に戻っている今、連銀は景気回復の良い面を強調し、いまや景気回復の腰を折ることなく正常な金利水準に戻る時期に来たことを市 場に告げるべきである。連銀は失業率に執着し過ぎたことから正常な金利水準に戻るための出口を見失っている。1月25日、26日のFOMCで金融政策の変 更が示唆されなければ、将来のインフレ懸念が市場に生じるだろう。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年12月)

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    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    関西経済のGDP(域内総生産)の規模はオランダ一国並みのおよそ80兆円、日本の中では約17%経済である。2010年度の関西経済の実質成長率は+2.6%と前年度見込み-1.3%から3年ぶりのプラス成長と予測(最新予測についてはhttp://www.kiser.or.jp/ja/trend/forecast.htmlを 参照のこと)している。関西経済は、全国と同様、政策動向に大きく影響を受けた1年であったといえよう。住宅版エコポイントの効果は来年も期待できるが、 エコカー補助金は9月初旬に終わり、家電エコポイントも徐々に限定的となり2011年3月末には終了する。一方、家計消費を抑制するたばこ税増税が10月 から実施された。
    先行きについては、このような政策変更に伴う複数の駆け込み需要とその反動減などで家計消費が乱高下し、景気の基調が読みづらい状況である。足下減速しつ つある海外経済は、2011年央にかけて拡大経路に復する。そのため、関西経済はその恩恵を受け景気後退を回避することができ、二番底には陥らないであろ う。
    さて2011年の関西経済を一言でいえば、「アジアの中の関西」を実感する元年となるであろう。中小企業、学生・・・どんな関西人でもアジアを意識せざる をえない年となろう。本コラムで、何度も指摘しているように、IT化によるグローバライゼーションで“要素価格の均等化”が進行しつつある。例えば、簡単 なパンフレットやレストランのメニューを作る町の小さな印刷屋さえ、中国の印刷屋と競争をせざるを得なくなった。日本の印刷屋が中国の印刷屋と同じものを 作る限り、品物の価格は下がり、賃金も下がらざるをえない。これはデフレではなく、グローバライゼーションによるものである。その変化に適応した、ビジネ スモデルの導入とそれを促す経済政策が必要なのである。就活する学生もアジアの学生との競争を意識し、語学の重要性を感じ始めている。
    特に関西はアジア向けの輸出の比重が全国の平均よりも抜きん出て高い。しかし、アジア向けの製品は、韓国や中国に競争されやすいものを輸出しており、これ からは、付加価値を強く意識したものを作っていかないと関西経済の未来はない。逆に成長著しいアジアマネーを取りこむことが重要である。関西の成長戦略の 一つとしてツーリズムが有望な候補の一つであることは周知の事柄であり、そのためには関西は魅力的でなくてはならない。
    ミクロ的な例で言うと、大阪ではオフィスビルの大量供給が2010年にピークを迎える(図参照)。一方で、リーマンショックと重なったため空室率は大幅に 上昇している。2013年にはさらなる大量供給が控えているが、これを関西活性化につなげるためには、関西を魅せる戦略が決定的に重要となる。来年5月に JR大阪駅に高層のノースゲートビルが完成し、また北ヤードでは先行開発区が2013年春完成を目指して動き出す。この北ヤードの2期開発区域について は、橋下大阪府知事が森を、平松大阪市長はサッカー場を提言されているが、関西最大のターミナルに他地域から、海外ではアジア人がリピーターとしてきてく れるためには何が必要かという視点が決定的に重要と思われる。その意味で、2011年は関西人がアジアを強烈に意識する元年といえるのではないか。

    日本
    <マイナス成長に突入した10-12月期日本経済>

    12月9日発表の7-9月期GDP2次速報値によれば、実質GDP成長率は前期比+1.1%、同年率+4.5%となった。1次速報値の同+3.9%からの 上方修正である。上方修正の主要因は民間企業設備と民間企業在庫品増加である。今回は、通常の1次速報値から2次速報値にかけての修正に加え、包括的な データ改訂が行われた。すなわち、2008年度のデータが確報値から確々報値に、2009年度のデータが速報値から確報値に改訂された。その結果、足下6 四半期が上方修正に、一方、リーマンショック後の2四半期(2008年10-12月期及び2009年1-3月期)が大幅に下方修正された。2008年度と 2009年度の実質GDP成長率は1次速報値の-3.8%と-1.8%から-4.1%と-2.4%にいずれも下方修正された。包括的なデータ改訂からわ かったことは、リーマンショックはいかに日本経済に大きな影響を与えたかである。
    さて景気の足下はどうであろうか?今週の予測では、一部の11月のデータとほとんどの10月のデータが、また7-9月期の2次速報値が更新されている。支 出サイドモデルによれば、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率-1.1%、一方、2011年1-3月期の実質GDP成長率を同+4.0%と予測 している。10-12月期は11月の見通しから下方修正され、成長率はマイナスが避けられないようである。結果、2010年度の成長率は+3.6%となろ う。
    10-12月期実質GDP成長率への寄与をみると、内需は成長を引き下げるが外需は小幅成長に寄与する。内需のうち、実質民間最終消費支出は政策の反動減 の影響で前期比-0.2%となる。実質民間住宅は同+2.7%増加するが、民間企業設備は-0.6%減少する。実質政府最終消費支出は同+0.7%増加す るが、実質公的資本形成は同-1.9%減少する。外需を見れば、実質財貨・サービスの輸出は同-4.2%低下し、実質輸入は同-6.6%減少する。いずれ も減少するが純輸出は小幅の成長貢献となる。
    主成分分析モデルも、10-12月期の実質GDP成長率は同-3.0%、1-3月期は同+1.2%と予測している。この結果、両モデルの平均成長率予測は10-12月期が同-2.0%、1-3月期が同+2.6%となる。10-12月期の落ち込みは一時的となろう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    11月後半から12月後半にかけて発表された経済指標から市場は景気回復に対してかなり楽観的になった。しかし、11月の雇用増(純)が市場の予想を大き く下回ったことから、せっかく高まってきた景気回復への楽観的な見方に水をさす形となった。特に、失業率が職を求める人々が増えたにせよ、10月の 9.6%から9.8%へと上昇したのがいけない。連銀は追加的数量緩和政策により積極的になり、バーナンキ連銀議長は米国債買い入れ額が6,000億ドル を超える可能性も示唆している。
    連銀が異常な金融緩和を続けるロジックは次の通りである。(1)失望的に低い物価上昇率、デフレ懸念、(2)今の失業増加は構造的なものではなく、循環的 なもの(11月2?3日FOMCの議事録参照)。それゆえ、一層の金融緩和で景気を良くして、連銀に課せられた2つの目標(物価の安定と完全雇用)を達成 しようとするものである。残念ながら、連銀のロジックには(日銀と同じような)誤りがあるように思われる。PCE価格デフレーター、コアPCEデフレー ターでみた現在の物価上昇率は0%?1.5%と失望的に低い水準ではない。むしろ、IT革新による生産性の向上、サーチコストの劇的な低下、グローバル化 による低価格製品の供給を考慮すれば、当然の低物価上昇率であり、デフレ・インフレ懸念のないパーフェクトな物価状況である。一方、失業の増加には構造的 な面が強い。すなわち、企業は一旦解雇した労働者を景気が回復してきても再び雇用せずに、IT化をすすめることでかなり対処することができるからである。 すなわち、連銀はプラス効果の少なく、将来のマイナス効果の大きい異常な低金利政策を維持している。おそらく、カンザス・シティー連銀のトーマス・ホーニ ング総裁の考え方が正しいと思われる。
    グラフに見るように、今期の経済成長率は11月に入りかなり急速に改善をし始め、今では3%?4%にまで達しており、米経済は堅調な景気回復状況にある。このような状況で異常な低金利政策を続けても、急速に失業率が低下するわけではない。
    すなわち、今金融政策のできることは限られている。後は、財政政策などに任せ、今の安定した物価に重点をおいた金融政策を行うことが重要である。短期的に は、富裕層も含めたブッシュ減税政策の延長をできるだけ早く民主党が受け入れることである。長期的には、経済のITによるグローバル化に対処できるイノ ベーションを促進する経済政策が求められる。経済はITにより大きく変わっている。それに対応するスペシフィックなミクロ経済政策が求められているのであ り、異常な低金利政策をいつまでも続けても、将来への悪影響をもたらすだけである。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • -

    関西エコノミックインサイト 第8号(2010年12月3日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第7号(2010年12月)の概要は以下の通りです。

    1.足下の関西経済は、回復を支えてきた2つの外生要因が後退したため、足踏みの状態が続いている。すなわち、政策効果の縮小と海外経済の減速が景気押し下げ要因に転じている。

    2.先行きについては、政策変更による複数の駆け込み需要と反動減などで家計消費が乱高下しており、基調が読みづらくなっている。足下減速しつつある海外 経済は、2011年央には拡大経路に復する。そのため、関西経済はその恩恵を受けて景気後退を回避することができ、二番底には陥らないであろう。。

    3.日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率を2010年度+2.6%、2011年度+1.6%、2012年度+1.4%と予測した。補正予算の効果を反映したため、前回予測より上方修正である。

    4.2010年度の成長率寄与度をみると、民需が+1.3%ポイント、外需が+1.1%ポイントと、バランスよく関西経済の成長を支える。2011年度の 民需の寄与度は+0.8%ポイント、2012年度+0.9%ポイントと緩やかな伸びとなる。外需の寄与度は2011年度+0.5%ポイントと前年より減速 するが、2012年度+0.9%ポイントまで回復する。

    5.補正予算が実施されることで、関西経済の実質GRPは2010年度0.45%、2011年度0.51%押し上げられる。しかし、補正予算の下支えが消滅する2012年度は0.03%押し上げにとどまる。

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  • 稲田 義久

    第85回 景気分析と予測(2010年11月25日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

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    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 高林 喜久生

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    11月15日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受け、2009-2011年度の改訂経済見通しとなっている。

    ポイントは以下の通り。
    *7-9月期GDP速報値を受け、2010年度実質GDP成長率を+3.0%、2011年度+1.6%、2012年度を+1.6%と予測。
    前回から2010年度は0.8%ポイント上方修正、2011年度は0.1%ポイントの下方修正となった。
    さらに2010年度補正予算を含む緊急経済対策の効果を、2010年度+0.38%、2011年度+0.53%と予想した。

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  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年11月)

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    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    今月は補正予算の経済的効果について検討する。ここでいう補正予算とは、9月10日に「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」が閣議決定されたが、 うちステップ1として9月24日に決定された経済危機対応・地域活性化予備費を活用した緊急経済対策、及びステップ2として10月8日に決定された「円 高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」に係る平成22年度補正予算を対象としている。
    仕分けの過程で明らかになったように今回の内容は、22年度本予算で削減された内容の復活という印象を払拭できない。しかし、これまで成長を支えてきた輸 出の鈍化等から、先行きの不透明感が高まっている。円高が進行しており、輸出の更なる鈍化や製造業の海外シフトのリスクが高まっており、緊急経済対策の ニーズは高まっている。経済対策の必要性は高く、かつ、速やかな実施が重要といえよう。
    問題は実施規模とタイミングである。緊急総合経済対策、ステップ1が9,180億円、ステップ2が5兆901億円で合計6兆82億円である。項目のうち、 内容のわからないその他や金融支援を除いて実施規模を求め、またステップ1が2010年度内に、ステップ2が2011年度にわたって支出されるパターンを 想定すると、2010年度で2兆3,185億円、2011年度で2兆6,679億円となる。これらの補正予算額は、政府最終消費支出、公的固定資本形成、 家計への移転、企業への移転、民間最終消費支出、民間住宅の形態で追加需要となる。
    政策効果として、政府は今回の対策により、実質GDPを0.6%押し上げるとしている。われわれは「第85回景気分析と予測」においてこれを検証した (11月25日発表)。7-9月期のGDP1次速報値を更新して、新たに2010-2012年度の日本経済の成長パターンを予測した。この予測値には今回 の補正予算は含まれていない。次に補正予算を反映させたシミュレーションを行い、これと比較したものが補正予算の効果となる。下図が示すように、2010 年度末にかけてステップ1の効果が表れてくるが、効果の発動期間は2期間であるため2010年度平均では0.38%の押し上げ効果にとどまる。一旦、 2011年4-6月期に押し上げ効果は低下するが、これは家電エコポイント制度が3月に終了することから、4-6月期に民間消費の反動減が生じるためであ る。2011年度平均では乗数効果も表れ0.53%の実質GDP押し上げ効果がでてくるが、2012年度には効果が剥落し0.06%と押し上げ効果はほぼ ゼロとなる。

    日本
    <10-12月期はマイナス成長の可能性が高まるが、一時的な停滞にとどまろう>

    11月15日発表のGDP1次速報値によれば、7-9月期の実質GDP成長率はエコカー補助金等の駆け込み需要の影響で前期比+0.9%、同年 率+3.9%となった。4期連続のプラス成長となり、4-6月期の改定成長率同+1.8%から加速した。なお前年同期比では+4.4%と3四半期連続のプ ラスとなった。
    7-9月期の実績は、市場コンセンサス(2.31%:11月ESPフォーキャスト調査)を大きく上回ったが、超短期予測の平均値に近い結果となった。超短 期モデルの最終週の予測では、支出サイドモデルが同+2.0%、主成分分析モデルが同+4.4%、両者平均で+3.2%の予測となった。注目すべきは、超 短期予測は7-9月期の最初の月のデータが利用可能となる8月の終わりにはすでに3%台を予測していたことである。
    7-9月期の実質GDP成長率(前期比年率ベース)への寄与度を見ると、国内需要は+3.7%ポイントとなり、成長率に4期連続のプラス寄与となった。一 方、純輸出は+0.1%ポイントの寄与にとどまった。純輸出は6期連続で成長率を引き上げたが、その寄与度はほぼゼロとなった。データは、アジア向けの輸 出が減速したことと、1年を上回る補助金政策の終焉による駆け込み需要の影響が大きく出たことを示している。10-12月期には逆に反動減が出るため、マ イナス成長に陥る可能性が高い。
    今週の超短期予測では、実績としてごく一部の10月データしか予測に反映されていない。にもかかわらず、10-12月期の実質GDP成長率を、内需は小幅 拡大するが純輸出が縮小するため前期比+0.1%、同年率+0.4%と予測する。一方、1-3月期の実質GDP成長率を、内需は引き続き拡大するが、純輸 出は横ばいとなるため、前期比+0.5%、同年率+2.1%と予測している。
    10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.2%となる。現時点では小幅のプラスを予測している。実質民間住宅は同+4.4% 増加し、実質民間企業設備は同+0.6%増加する。実質政府最終消費支出は同+0.6%、実質公的固定資本形成は同-2.5%となる。
    財貨・サービスの実質輸出は同-1.8%、実質輸入は同-2.0%それぞれ減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度はマイナスに転じる。
    一方、主成分分析モデルは、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率+0.1%と予測している。また1-3月期を同+1.6%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、10-12月期が+0.2%、1-3月期が+1.9%となる。
    10月のデータがほとんど利用可能ではない現時点においてでも、超短期予測は10-12月期の日本経済をゼロ成長と予測しており、悲観的なデータが更新されるにつれてマイナス成長に陥る可能性が高まっているが、一時的な停滞にとどまるとみている。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    7-9月期の実質GDP(速報値)の伸び率(前期比年率)は+2%と超短期予測と同じであった。またコア個人消費支出価格デフレーターでみたインフレ率 も+0.8%と超短期予測とほとんど同じであった。また7-9月期データを更新した、10-12月期の実質GDP成長率については、今週の予測では 同+3.4%と高い成長率を見込んでいる。
    しかし、それに基づいての政策となると連銀と超短期モデルの考え方は全く異なる。連銀は彼らの“完全雇用、物価安定の2つの目標”から”2%経済成長、 1%インフレを失望的に低い”と判断し、11月3日のFOMCミーティングにおいて2011年中頃までに6,000億ドルの長期国債を購入することを発表 した。
    超短期モデル予測からすれば、1%のインフレ率は理想的である。米経済はデフレ状況でもなく、今のコモディティー価格の上昇、異常なドル安を考えれば、デ フレを懸念する状況ではなくむしろ、将来のインフレを懸念すべきである。2%という経済成長は確かに、雇用を急速に増やす成長率ではない。しかし、異常な 低金利を長期間続け、連銀のバランスシートを異常に膨らませてきた中で、効果の不確実な追加的数量的金融緩和政策を更に導入しなければならないほど低い経 済成長率でもない。連銀がデフレに敏感なのは、日本の1991年の土地バブル崩壊後の失われた20年がデフレによると考えているからである。
    確かに、バブル崩壊後にデフレの経済への悪影響はあったであろう。それが、20年も続くわけではない。更に、異常なゼロ金利で日本経済が立ち直らないのは 別の根本的な問題があるからである。すなわち、日本経済の長期停滞は1990年代から急速に進んでいるIT化によるグローバライゼーションに日本の企業が 対応できなくなっているからである。例えば、簡単なパンフレットやレストランのメニューを作る町の小さな印刷屋さえ、中国の印刷屋と競争をせざるを得なく なった。日本の印刷屋が中国の印刷屋と同じものを作る限り、品物の価格は下がり、賃金も下がらざるをえない。これはデフレではなく、グローバライゼーショ ンによる“要素価格の均等化”である。それ故、金融緩和政策を幾ら続けても、日本経済はよくならない。IT化によるグローバライゼーションに適応した、ビ ジネスモデルの導入とそれを促す経済政策が必要なのである。発展途上国からの安いあらゆる品物が先進国に即座に入るようになっている。この事実を見逃し、 いつまでも異常な低金利政策を続ければ、経済に副作用がでてくる。米国はすでに、異常なドル安により輸入業者や消費者の購買力が大きく減少している。金融 政策当局はいち早く“デフレ病”から抜け出すべきである。今の経済回復に対して、金融政策のできることには限りがある。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年10月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    日銀は10月5日に開いた政策決定会議で4年ぶりのゼロ金利政策を再開した。日銀自身が「包括的金融政策」としているように、以下の3つの画期的な政策が含まれている。
    (1)ゼロ金利政策0?0.1%
    (2)消費者物価上昇率でみて1%になるまで金融緩和:「時間軸」効果
    (3)5兆円規模の資産買取り(国債以外にETF(上場投資信託)REIT(不動産投資信託)を含む)
    さて、今月の米国経済見通しでは、「今の物価下落には、IT化によるグローバライゼーションの影響が大きい。今は、技術・知識が即座に世界中に伝 播する。そのため、日米が発展途上国と同じものを作っていれば、物価は安くなるのは当然であり、グローバライゼーションの結果要素価格は均等化することか ら日米の賃金も低下せざるをえない。すなわち、日米の消費者は価格低下のベネフィットを受ける一方、企業は新しいビジネスモデルを導入しなければ、賃金の 低下は防げない。」と述べられている。この点は本コラムでもつとに強調してきたことである。
    デフレは確かに金融的現象であるが、金融政策ですべてを説明できるわけではない。例えば、1990年代半ば以降の労働生産性、消費者物価指数、賃金の変 化の国際比較をすると、日米欧はともに生産性を伸ばしているが、日本のみが賃金・物価の下方スパイラルに陥っている。これはこれまで日本がとってきた成長 戦略と大いに関係がある。日本は輸出拡大により2002年からの景気回復を実現してきたが、輸出品の多くは発展途上国との競合品であり、これらを伸ばすこ とにより結果的に賃金デフレを加速したのである。日本は要するに付加価値の高い製品をつくり出せていない。例えば、欧州がブランドやデザインを重視し価格 を維持しながら良質の製品を長く売っていくパターンと日本の製品を作り出すパターンを比較すればよく理解できる。
    その意味で日銀が消費者物価指上昇率でみて1%以上を実現できるまでゼロ金利政策を持続するという宣言は金融政策の効果を過信しすぎではないだろうか? むしろ日銀がこれまで恐れてきたゼロ金利政策長期維持の弊害を大きくする可能性もある。重要なのは金融政策と財政政策(補正予算)のセットの効果であっ て、日本がどのような成長戦略をとるかが極めて重要であることを理解しなければならない。すなわち高付加価値を生み出す産業を展望することが重要であり、 環境関連産業や観光に注目するのは正解である。(稲田義久)

    日本
    <7-9月期は2%程度の成長は可能となるが、円高の進行は下振れリスクを高める>

    10月18日の超短期予測では、GDP項目を説明する大部分の8月データと一部の9月データが更新されている。その結果、7-9月期の実質GDP成長率 は前期比+0.4%、同年率+1.7%となり、前期(同+1.5%)を上回る成長率予測となっている。また10-12月期は同年率+1.8%と引き続き緩 やかな回復となっている。この結果、2010暦年の実質成長率は3%程度が見込まれている。ちなみに、マーケットコンセンサス(ESPフォーキャスト10 月調査)を見ると、7-9月期は同年率+2.11%と超短期予測と大きな差異はないが、10-12月期は同-0.21%とマイナス成長が予測されており、 現時点でマーケットは日本経済が年度後半には減速すると想定している。
    さて7-9月期の成長率(前期比+0.4%)の中身をみると、実質国内需要は+0.6%ポイント、実質純輸出は-0.1%ポイントとなっている。これまで景気回復のエンジンであった純輸出は2009年4-6月期以来6期ぶりのマイナスが予測されている。
    7-9月期の国内需要の中身を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.6%の増加が見込まれている。実質民間住宅は同-1.1%、実質民間企業設備 は同-1.6%と投資関係は減少が見込まれている。民間需要は民間最終消費支出を除き低調となっている。民間最終消費支出は政策の前倒し効果の影響で好調 であるが不安材料もある。9月の乗用車新車販売台数(季節調整値:含む軽)は同月初旬にエコカー補助金が予算額を超過したため前月比-29.4%減となっ た。4ヵ月ぶりのマイナスである。これが9月の消費総合指数に反映された場合、7-9月期の民間最終消費支出の予測値が下振れする可能性がある。公的需要 では、実質政府最終消費支出は前期比+0.6%、実質公的固定資本形成は同+0.5%となる。
    問題は外需の縮小である。7-9月期の財貨・サービスの実質輸出は前期比+0.2%とほぼゼロ成長を予測しており、実質輸入は同+1.6%と輸出の伸び を上回ろう。8月の鉱工業生産指数が3ヵ月連続で前月比マイナスとなっており、輸出の弱さと整合的である。海外市場、特に、新興市場は伸びの減速が予想さ れており、しばらく純輸出は景気押し上げのエンジンとはなりにくい。
    グラフに見るように、日本経済の成長率予測(支出サイドモデル)は一時9月の後半に減速傾向を示したが、10月に入り再び2%台をうかがう傾向となって いる。この程度の成長率が年度後半も持続するかは純輸出の動向に依存する。80円台を突破する可能性のある円高は日本経済の下振れリスクを高めよう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    バーナンキFRB議長は10月15日のボストン連銀において”低インフレ環境における金融政策と手段”という講演を行った。それによると、2010年6 月のFOMCにおけるFOMCメンバーや地域連銀総裁たちによる長期目標の経済成長率、失業率、インフレ率を基準にして、バーナンキ議長は米国経済の現状 を判断し、”景気回復のペースは連銀が想定している3%程度(前年同期比)より遅く”、”現在のインフレ率1%は連銀の目標値(1.7%?2.0%)に比 べかなり低い(too low)”とコメントをした。その結果、市場は11月初めのFOMCにおいて、FRBが長期国債の購入という更なる金融緩和を行う と期待し始めた。

    グラフに見るように、米国の景気回復は8月になると急速にペースを落とし、ダブルディップリセッション(二番 底)懸念が生じたのも理解できる。しかし、超短期予測では9月の半ば以降景気は徐々に持ち直していることが分かる。おそらく、7-9月期の経済成長率は 2%前後と思われる。これは、対前年同期比でみれば3%程度の成長率となり、FRBの目標値とあまり変わらない。問題は物価への見方である。バーナンキ議 長は現状のインフレ率を1%と見なし、それをFRBの目標値(1.7%?2.0%)に対して”too low”と表現していることである。日銀と同じよう にFRBも”デフレ恐怖症”に陥っている。日銀が物価上昇率を1%になるまで金融緩和を続けると同じように、連銀も物価上昇率が2%になるまで金融緩和を 続けるように思われる。日米の物価上昇率がそれぞれ1%、2%になれば、政策当局の思うように日米の経済回復がもたらされるであろうか?”需給ギャップ” からのデフレ、金融緩和による需要拡大、デフレの解消、景気拡大というようなシナリオを考えているならば、日本経済はとっくに立ち直っているはずである。
    今の物価下落には、IT化によるグローバライゼーションの影響が大きい。今は、技術・知識が即座に世界中に伝播する。そのため、日米が発展途上国と同じ ものを作っていれば、物価は安くなるのは当然であり、グローバライゼーションの結果要素価格は均等化することから日米の賃金も低下せざるをえない。すなわ ち、日米の消費者は価格低下のベネフィットを受ける一方、企業は新しいビジネスモデルを導入しなければ、賃金の低下は防げない。FRBにとっての今一番の 問題は高い失業率であるが、この急速な解決には最低賃金を引き下げることが望ましい。今のデフレ(?)に対して、金融政策ができることは限られている。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年9月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    8月にL.R.クライン(ペンシルベニア大学名誉教授)、市村真一(京都大学名誉教授)編集の”Macroeconometric Modeling of Japan”がWorld Scientific(ISSN: 2010-1236)から出版された。本書は戦後の計量モデルによる代表的な日本経済分析の論文を集めたものである。マクロ計量モデル、産業連関モデル、 資金循環モデル、CGEモデル、超短期モデルといった代表的なものが紹介されている。戦後の計量経済学の一分野の成果を評価したものであり、日本の計量モ デルの遺産を後世に伝えたいという編者達の意欲がよく伝わってくる。内容は以下のような構成となっている。すなわち、(1)社会会計とサーベイ分析、 (2)産業連関とCGEモデル、(3)マクロ計量モデルの3部構成からなり、はじめに、市村名誉教授自身の「日本のマクロ計量モデル」の歴史的展望がつい ている。

    ●Introduction: A Historic Survey of Macroeconometric Models in Japan (S Ichimura)
    ●Social Accounting and Survey Analysis:
    ○Factors for Rapid Growth of the Japanese Economy: A Social Accounting Approach
    (S Ichimura)
    ○Social Accounting Analysis of Japan’s Lost 90s (H Suk)
    ○Business Indexes and Survey Data for Forecast (Y Shimanaka & T Shikano)
    ●Input Output Analyses and CGE Models:
    ○Factor Proportions and Foreign Trade: The Case of Japan (M Tatemoto & S Ichimura)
    ○Interregional Interdependence and Regional Economic Growth in Japan (T Akita)
    ○The Flying-Geese Pattern of East Asian Development: A Computable General Equilibrium
    Approach (M Ezaki & S Ito)
    ○A Flow-of-Funds Analysis of Quantitative Monetary Policy (K Tsujimura & M Tsujimura)
    ●Macroeconometric Models:
    ○An Econometric Model of Japanese Economic Growth, 1878_1937 (L R Klein)
    ○An Econometric Model of Japan, 1930_1959 (L R Klein & Y Shinkai)
    ○Osaka ISER Model (L R Klein et al.)
    ○The Japan Model for World Project LINK (K Ban)
    ○The Saito Model of the Japanese Economy (M Saito)
    ○High Frequency Model vs Consensus Forecast (Y Inada)
    ○Policy Alternatives for Japan Toward 2020 (S Shishido et al.)

    KISERでは、森口親司大阪大学名誉教授、伴金美大阪大学教授の貢献もあり、歴史的に戦後の計量経済学への貢献の一翼(研究並び研究の場の提供を通して)を担ってきた。筆者は今後もその役割が引き継がれることを望んでいる。
    本書の編者たちは、序文で以下のように述べている。「最近マクロ計量分析の信頼性が官民で低下しているように思われる。この厄介な問題の一部の責任は、 複雑な現実の経済問題に定法(routine method)を適用する場合の、計量経済学者の不注意によるものと思われる。定法ないし確立されたモデルや方法の単純な適用は、現実の注意深い分析やよ りよい分析のための新しいアプローチを発見する努力にとってかわることはできない」と。言いえて妙であり、われわれにとって至言であるといえよう。
    なお、本書の日本語版は近々日本経済新聞社から出版される予定である。(稲田義久)

    日本
    <年後半の日本経済は減速するが、年平均では3%を上回る可能性が高い>

    9月10日発表のGDP2次速報値によれば、7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.5%となり、1次速報値(同+0.4%)から1.1%ポイ ントの上方修正となった。実質GDP成長率上方修正の主要因は、民間企業設備、民間企業在庫品増加、公的固定資本形成が主因である。民間企業設備は1次速 報値の前期比+0.5%から同+1.5%へと上方修正された。2次速報値推計の基礎データである法人企業統計調査の好調な結果を反映したものである。法人 企業統計調査の結果により、実質民間企業在庫品増加も1次速報値の-0.2%ポイントの寄与度から2次速報値で-0.1%ポイントに上方修正された。公的 需要は、実質政府最終消費支出は同+0.2%から同+0.3%へと、実質公的固定資本形成も同-3.4%から同-2.7%へいずれも上方修正された。
    1次速報値は過去に遡って改定された。実質GDP成長率の四半期パターンを比較してみれば、2010年1-3月期は0.6%ポイント(前期比年 率+4.4%→同+5.0%)と4-6月期同様に上方修正された。2009年については、1-3月期(同-16.6%→同-16.4%)と7-9月期(同 -1.0%→同-0.3%)が上方修正されたが、4-6月期(同+10.4%→同+9.7%)と10-12月期(同+4.1%→同+3.4%)は下方修正 された。この結果、半期ベースでみると、2009年7-12月期は前期比年率+3.0%と1次速報値の場合と変化がなかったが、2010年1-6月期は 同+3.7%となり、1次速報値の同+3.3%から加速していることに注意。
    7月データがほぼ更新された9月13日の支出サイドモデルは、7-9月期の実質GDP成長率を、内需は拡大するが純輸出が縮小するため前期 比+0.6%、同年率+2.6%と予測する。予測動態のグラフが示すように、トレンドは上向いており今後3%を超える可能性が高い。ちなみに、マーケット コンセンサスは2.1%(ESPフォーキャスト9月調査)である。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.2%となる。実質民間住宅は同-2.0%、実質民間企業設備も同-0.1%と減少す る。実質政府最終消費支出は同+0.8%、実質公的固定資本形成は同+4.8%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+0.6%)に対す る寄与度は+0.8%ポイントとなる。財貨・サービスの実質輸出は同+2.4%増加し、実質輸入は同+5.1%増加する。このため、実質純輸出の実質 GDP成長率に対する貢献度は-0.2%ポイントとなる。
    ただ10-12月期の実質GDP成長率は、内需は小幅拡大にとどまり純輸出は引き続き縮小するため、前期比+0.2%、同年率+0.8%と予測してい る。景気は政策変更に伴う駆け込み需要の反動減で減速するとみている。ただ2010年平均でみれば前半の好調に支えられ3%を超える成長を確保できそうで ある。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    8月の雇用統計が市場コンセンサスより良かったことから、景気回復に対して悲観的だった市場のセンチメントが楽観的な見方へと大きく変わった。市場のセンチメントが変化する兆候は8月のISM製造業指数が市場コンセンサスをかなり上回ったときからあった。
    発表された月次経済統計をあるがままに更新して予測者の恣意的なデータハンドリングをしない”Go by the Numbers”手法による超短期予測では、8月30日と9月3日の予測で大きく変化したわけではない。ただ、7月の建設支出の大幅な低下による住宅投資 の大幅な下方修正が、8月の雇用統計による個人所得の上方修正を上回った。そのため、GDPはじめ、その他のアグリゲート指標が少し下方に修正されてい る。しかし、超短期モデル予測の立場は”景気回復に対する注意深い楽観的見方”に変わりはない。確かに、連銀エコノミストなどが懸念するように景気回復の ペースがスローダウンしてきたことは認めるが、それがダブルディップリセッションになる可能性は少ないとみている。それはグラフに見るように、7-9月期 の実質総需要、国内需要、最終需要2(GDP?在庫?純輸出)は前期比年率2.5%?3.0%の成長率を示している。4-6月期に実質輸入が30%以上も 伸びた経済が今期にマイナス成長をするようなことはないだろう。今の米国経済では企業の利潤率が良くなり、設備・ソフトウエア投資が実質で10%程度の伸 びを続けている。更に、サービス個人消費支出も2%程度の伸び率を回復してきている。

    今、大事なことは政策当局者が景気回復に対して楽観的になり始めた市場のセンチメントを利用し、株価の上昇をも たらすことである。政府はできるだけ早く高所得者を含めたブッシュの減税政策の延長を発表すべきである。この高所得者層には中小企業経営者がかなりいるこ とから、中小企業の雇用増に結びつく。FRBにしても、バーナンキ議長の最近の議会証言やジャクソンホールでのコンファレンスでの講演のようにいつまでも 悲観的でいるべきではない。FOMC議事録の書き振りも、”構築物の投資は依然としてマイナスだが、設備・ソフトウエア投資が堅調に伸びている”というよ うに前と後を逆に書くべきである。設備投資の高い伸び率を指摘しながら、その後で、それは旧設備の更新が多いためなどと否定的に述べるのではなく、設備更 新が先にくることは当然のことであり、FRBは更新設備から投資が堅調に伸びていると書くべきである。景気回復が初期において脆弱なことはいつものことで ある。政策当局は市場とのコミュニケーションも一つの重要な政策手段であることを忘れてはならない。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

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    2010年版関西経済白書「関西らしさの繁栄に向けて」(2010年9月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2010年度

    ABSTRACT

    財団法人関西社会経済研究所はこの度、「2010年版 関西経済白書?関西らしさの繁栄に向けて?」を発行しました。
    2010年版白書は、2部構成になっており、第Ⅰ部は「金融危機からの脱出と関西発展の可能性」と題し、当面の関西経済を予測するとともに、第2章で、関西の発展基盤となる自治体の企業誘致策について立地魅力を分析しています。

    第Ⅱ部は、「関西発展戦略」と題し、激動する世界経済の中で関西が生き残り、発展するためのソリューションビジネスとして、第3章で住宅投資、第4章で環 境ビジネスを取り上げ関西の特徴および可能性を論じています。さらに、第5章では、発展の基盤となる自治体財政の健全性と生産性を検証し、持続的な自治体 運営における広域連携の重要性を説いています。

    ●第Ⅰ部 金融危機からの脱出と関西発展の可能性
    第1章 景気回復途上の世界経済と日本経済
    ・激動する世界経済と各国の今後の政策対応を概観し、日本が直面する基本問題を整理する。
    ・世界経済動向を踏まえ、2010年度及び2011年度の日本経済を予測する。

    特集 民主党の経済政策
    ・2009-2010年のトピックスとして、歴史的な政権交代を成し遂げた民主党の政策を検証する。
    ・菅政権の財政運営戦略の意図を説明、さらに子ども手当の家計収支や家計行動への影響を分析する。

    第2章 関西経済飛躍の可能性
    ・関西経済の現況と2011年度の見通しを推計するとともに、工業生産から府県別の金融危機からの回復度合いを分析する。
    ・関西経済の成長エンジンとして輸出と投資に焦点を当て、その構造を分析する。
    ・関西の投資を促し経済成長を高める自治体の企業誘致施策に焦点を当て、アンケート、ヒアリングにより現状を分析し、課題を明らかにして、各府県の地域資源を有効に活用するための自治体広域連携の必要性を論じる。
    ・世界の経済軸が欧米から新興国に移る中で、関西産業の発展のための戦略として「ソリューションビジネス」を提案する。白書はその典型として、①高齢化時 代のライフスタイルをデザインする「住宅産業」と②低炭素社会の企業活動をソリューションする「環境ビジネス」をⅡ部で取り上げる。

    ●第Ⅱ部 関西発展戦略?持続的発展をめざして?
    第3章 関西の投資 住宅投資の現状と促進に向けて
    ・なぜ関西の住宅投資が低迷しているのか?原因として関西の住宅ストックの質に注目し、空き家率が高く、公営住宅が多い構造を分析、住宅メーカーや関連産業が集積しているというポテンシャルを活かして「住宅先進地域」となるための方策を提言する。

    第4章 環境先進地域・関西の実像と可能性
    ・関西は本当に環境先進地域か?関西の環境ビジネスのポテンシャルをマップで整理するとともに、初めての試みとして関西の市場(生産)規模を推計する。環 境ビジネス全体では経済規模と同等のシェアだが、リチウムイオン電池など有望分野では優位性があることを確認。今後の発展へ向けての課題と方向性を検討す る。

    第5章 関西の自治体?戦略的対応?
    ・関西の自治体はサステイナブルか?地方財政の持続可能性がより問われる中で、健全性と生産性を自治体別に評価し、関西発展の基盤となる自治体財政の現状と課題を分析する。
    ・自治体財政の再生は、地域の再生と自治体経営によってこそ実現する。中長期サステイナブルな関西を目指して戦略的な自治体経営のあり方、広域連合の課題、その先にある道州制の意義を論じる。

    2010年9月15日発売
    定価2,500円(税込み)

    政府刊行物センター及び関西の大手書店(旭屋書店、紀伊国屋書店、ジュンク堂書店など31店舗)で発売。

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    関西エコノミックインサイト 第7号(2010年9月1日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第7号(2010年9月)の概要は以下の通りです。

    1.足下の関西経済は、政策効果による民需の持ち直しと、海外経済の持続的成長による外需のけん引で、緩やかな回復基調が続いていた。しかし先行きについては、不透明感が増している。というのも、これまで回復を支えてきた二つの要因に足踏みが見られるためである。

    2.すなわち、①政策の変更による駆け込み需要と反動減などで家計消費の見通しが不安定であること、②順調に回復すると見られていた世界経済の先行きが米国経済や中国経済の減速で不安定になってきたことである。

    3.日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率を2010年度+2.0%、2011年度+1.4%と予測を改訂した。2010年度の成長率寄 与度は、民需が+0.9%ポイント、外需が+1.1%ポイントで、これらがバランスよく関西経済の成長を支えるが、2011年度はやや外需の寄与が減速す る。

    4.外需の動向は関西経済にとって重要であり、円高の進行は景気の先行きに対して大きなリスクとなる。また株安は金融資産を目減りさせ、家計消費を縮小す るおそれがある。今後さらに両者が進行した場合には、関西経済の実質GDP成長率は2010年度、2011年度ともに0.4%ポイント押し下げられる。

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  • 稲田 義久

    第84回 景気分析と予測(2010年08月24日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 高林 喜久生

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    8月16日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受け、2009-2011年度の改訂経済見通しとなっている。

    ポイントは以下の通り。
    *2010年度および2011年度の改訂見通し…2010年度の実質GDP成長率は+2.2%、11年度も+1.7%と予測する。前回から2010年度は0.6%ポイント下方に、2011年度は0.3%ポイント上方に修正された。
    下方修正の理由としては、2010年度への成長率のゲタが0.2%ポイント下がったこと、民需の見通しが前回から下方修正されたためである。
    *2010年度後半経済の四半期成長パターンは乱高下(bumpy)の様相を示す。政策の変更に伴う駆け込み需要とその後の反動が発生するためであ る。エコカー補助金が9月末に終了し、タバコ値上げが10月に予定されている。また12月には家電エコポイント制度が終了する。特にその規模から無視でき ない影響が、乗用車販売台数とタバコ販売に発生する。
    *日本経済にとって円高の昂進は大きなリスクである。現行の水準から10円円高に振られた場合、実質GDP成長率は2010年度に0.3%ポイント、2011年度に0.6%ポイントと大きく低下する。この影響はこれまでの政策効果を帳消しにする大きさである。

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  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年8月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    ケインズは主著『一般理論』で、個人が貯蓄を増やしてもその人の所得は変化しないが、各個人が同時に貯蓄を増やせば社会全体では所得が減少するケース を、「合成の誤謬」として説明した。これは後にサミュエルソンによって「節約のパラドックス」として彼の大著『経済学』で紹介され有名になったものであ る。このパラドックスとは、皆が貯蓄に励めば結果として貯蓄が減少するということである。何故ならば、消費の減少は乗数効果を通じて所得を減少させ、貯蓄 率が一定ならば総貯蓄は減少することになるのである。この「節約のパラドックス」という議論は単純すぎるということでしばしば批判にさらされるものの、 リーマンショック以降の景気回復の説明には適していると思われる。
    今月の米国経済の見通しでも触れられたように、7月30日に2010年4-6月期のGDPの速報値が発表になり、同時に国民所得統計が2007年1-3 月期まで遡及改定された。改定により、1-3月期の実質GDP伸び率は2.7%から3.7%へ1%ポイントも上方に修正されたが、これと同程度に重要な別 の改定も含まれている。
    例えば、2009年の個人貯蓄率は5.9%となり前回推計から1.7%ポイント上方修正されたのみならず、2007年の2.1%からも大幅に上昇した。 また家計の貯蓄率のみならず、企業のキャッシュフローの対名目GDP比も10.5%(2010年1-3月期)と歴史的な高水準にあることがわかった。
    このように米国の家計は貯蓄をより増やし、企業はより多くのキャッシュを手元に置こうとするのは、米国家計や企業の金融の健全性の観点(長期)からはよい ニュースである。しかし、「節約のパラドックス」が示唆するように、景気回復の観点(短期)からはよくないニュースである。
    かつて米国家計は過小貯蓄で問題となったが、今や過剰貯蓄で問題となっている。この間、いったい何が起こったのか?米国家計は1990年代から2000 年代にかけて消費ブームを可能にしたファイナンスの方法が持続可能でないことがわかり、借入金での投機をやめること(deleverage)を迫られてい るのである。家計の金融純資産が減少したことや、景気回復や雇用見通しへの不安も貯蓄率を引き上げている要因である。
    家計とは異なり、企業の金融状況はリーマンショック直後からかなり改善している。これまで企業は大胆にコストカットを図り雇用も削減してきたからだ。に もかかわらず、景気回復力の弱さに対する懸念が、設備投資に対して慎重にさせるなど、企業を過度にリスク回避的にしている。
    このように、家計も企業もリスク回避的になっている時期に政府は一体何をすべきか?選択肢は限られているものの、大胆な財政金融政策からの出口戦略はこ とに慎重であるべきだ。100年に一度の不況からの回復には時間がかかる。意図的に財政金融政策を緊縮的にしてはならず、慎重な対応が求められるのであ る。FRBが景気回復に対してペシミスティックになるのは十分理解できる。(稲田義久)

    日本
    <7-9月期の日本経済、上振れる可能性が高い>

    8月16日発表のGDP1次速報値によれば、4-6月期の実質GDP成長率は前期比+0.1%、同年率+0.4%となった。3期連続のプラス成長となったものの、2009年10-12月期の前期比年率+4.1%、2010年1-3月期の同+4.4%から大きく減速した。
    4-6月期の実質GDP成長率(前期比年率ベース)への寄与度を見ると、国内需要は-0.9%ポイントとなり、成長率に3期ぶりのマイナス寄与となっ た。一方、純輸出は+1.2%ポイントの寄与にとどまった。純輸出は5期連続で成長率を引き上げたが、その寄与度は前期(+2.3%ポイント)から半減し た。外需は引き続き成長率を押し上げたものの、内需は政策効果の一巡やリーマンショック後の在庫積み増しが消滅したため、日本経済は、一次的にも踊り場局 面に差し掛かっていることを想起させる。
    4-6月期の実績は市場コンセンサス(8月ESPフォーキャスト:+2.07%)を大幅に下回った。超短期モデルの最終週(8月9日)の予測では、支出 サイドモデルが同-0.3%、主成分分析モデルが同+4.3%、両者平均で+2.0%を予測していた。超短期モデル予測では、支出サイドモデルを重視して いるが、同モデルは(4月と一部の5月データが利用可能な)7月の最初からマイナス成長ないしゼロ成長を予測していたことになる。超短期予測はこれまでの 経験則のとおり、市場コンセンサスより2ヵ月程度早く、正確に予測できたことになる。
    8月17日の支出サイドモデル予測は、7-9月期の成長率を、内需は拡大するが純輸出が縮小するため前期比+0.3%、同年率+1.2%と予測する。 10-12月期は、内需は小幅拡大するが純輸出は引き続き縮小するため、前期比-0.0%、同年率-0.1%と予測している。日本経済が一時的な踊り場に 入ることを示唆しているようである。ただ、年度後半の経済の四半期成長パターンは非常に乱高下(bumpy)すると考えている。政策の変更に伴う前倒し需 要が発生すると考えられるからである。エコカー補助金が9月末に終了し、タバコ値上げが10月に予定されているからである。これらの前倒し需要が7-9月 期に発生し、個人消費を押し上げるためである。また10-12月期には反動減が発生するものと考えられる。時系列モデルはこれらのデータのスパイク(急上 昇と急降下)を予測できないから、年度後半の個人消費の予測結果の判断には慎重でなくてはならない。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    7月30日に2010年4-6月期のGDPの速報値が発表になり、実質GDPの伸び率は前期比年率+2.4%となった。今回のGDP発表の前に、 国民所得統計が2007年1-3月期まで遡って改定された。改定によって、1-3月期の実質GDP伸び率は2.7%から3.7%へ1%ポイントも上方に改 定された。しかし、市場は経済成長率が1-3月期の+3.7%から4-6月期には+2.4%へ減速と捉え、その日のダウ平均はわずかに下落した。米景気が 回復し始めた2009年7-9月期から2010年4-6月期における実質GDPの平均伸び率は+3.2%である。これは緩やかな景気回復と言うよりも、堅 調な景気回復である。
    市場は遅行指標である労働市場に注目をしていることから、景気回復に常に悲観的にならざるをえない。確かに、失業率は9.5%と依然として高く、非農業 雇用者数も6月、7月にそれぞれ-221,000人、-131,000人と減少した。しかし、これらはセンサス調査の終了による雇用減であり、民間部門の 雇用は今年の1月以降連続7ヵ月連続で増加している。7月のISM製造業・非製造業調査の雇用指数、その他のリッチモンド連銀、カンザスシティー連銀によ る製造業調査の雇用指数も拡大を示すようになっている。失業保険申請件数の減少は、特に4月以降止まり、450,000件の壁を下回る兆候を示していない が、おそらくその壁も今後2ヵ月内に打ち破られると思われる。
    国民所得統計の改定で懸念されるのは、実質個人消費支出の下方修正である。2009年7-9月期から2010年4-6月期の実質個人消費支出の平均伸び 率が1.6%とかなり低く改定されたことだ。改定前の超短期予測は実質個人支出の伸び率が2.5%?3.0%と予想し、景気回復を主導するとみていた。一 方、同期間の個人所得は1,700億ドル程度上方に改定され、今後の個人消費支出を下支えする可能性はある。
    8月13日の超短期予測は、7-9月期の実質GDP伸び率を+0.2%と低く予想している。景気の実態を把握するためには、GDPから純輸出と在庫を除 いた実質最終需要の伸び率をみるのがよい。それによると、下のグラフが示すように、今期も3%程度の経済成長率が続く可能性は高い。今回の景気回復は脆弱 なものでなく、堅調である。景気回復にあまりに楽観的になるのも問題はあるが、労働市場の回復に固執し悲観的になりすぎるのは、回復の芽を摘むことにな り、よくない。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年7月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    7月2日?3日、日本経済研究センターで「マクロモデル会議」が開催された(同センターHPを参照)。政策課題が活発に議論されたが、筆者流に解釈すれば、メイン・トピックスは(1)成長戦略と(2)環境政策であった。
    (1)に関しては、九州大学篠崎彰彦教授(日本経済研究センター主任研究員)が、ITを通した生産性の引き上げという観点から、2020年までのシミュ レーション期間で、法人税率引き下げとIT投資の加速により、成長率を0.5%ポイント程度加速できるという分析結果を示した。成長戦略の重要なポイント は、IT資本の進化(deepening)である。ところで、篠崎教授の分析はマクロの生産性の分析であったが、産業ごとにIT投資進化の重要性を指摘し たレポートに熊坂有三(経団連プロジェクト:IT革新による日本産業への影響?日本経済の3%成長実現への政策提言?(2008年))がある。このレポー トは、筆者も間接的にかかわってきた日本版上げ潮路線の産業版ともいえよう。
    話は変わるが、日本経済の「失われた20年の原因」の1つとして、デフレ犯人説がある。この数年の日本経済を見れば、消費者物価が1%下がれば賃金が 2-3%下がるという状況にあった。逆にいえば、賃金が2-3%上昇すれば、物価が1%上昇する。だから、デフレが問題であると。しかし、中国と同じ製品 を作っていれば日本の賃金が低下する(グローバル化による要素価格の均等化)のは当たり前である。これはデフレとは無関係で、問題は、日本がいかにより良 い(高付加価値の)製品・サービスを作り出せていないかである。日本経済低迷脱出のカギはIT革新、グローバル化への迅速な適応にある。実際、日本企業の IT活用については、経営戦略・成長戦略へのIT使用が特に遅れているといわれている。
    (2)のテーマでは、「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(環境大臣試案)」に盛り込まれたモデル試算が取り扱われた。これまで二酸化炭素削減政 策を実施した場合、負担のみを強調する傾向があったが、ロードマップではそのプラス面(省エネ投資・消費の需要拡大効果)にも着目したのが特徴である。よ りバランスのとれた分析になっている。
    これらの分析から、環境部門は将来有望な成長分野であり、この分野への投資は大きな波及効果をもたらすことが示された(藤川清史、下田充:グリーン投資 の経済・雇用効果)。そのためにも、環境投資促進に向けて財政政策のみならず規制緩和政策が重要となる。財政制約の中で公共投資が伸びないなか、民間投資 や省エネ化を誘発するための政策が重要で、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度、排出量取引制度、環境税などの議論が十分されるべきである。
    今後の成長戦略を考える場合、「第三の道」のロジックも重要だが、実証に支えられた具体戦略としてIT投資の進化と環境戦略が2本の柱となることは確実だ。(稲田義久)

    日本
    <4-6月期の日本経済、踊り場の可能性高まる>

    7月12日の予測では、6月の一部と5月のほとんどの月次データが更新された。これまでの月次データは、4-6月期の日本経済が一時的な踊り場に入ったことを示唆している。
    生産や出荷をみると、5月の鉱工業生産指数は前月比-0.1%と3ヵ月ぶりのマイナス。資本財出荷指数は同-10.2%と大幅低下した。6ヵ月ぶりのマイナス。生産や出荷の拡大スピードは減速している。
    労働市場の回復は遅れている。5月の現金給与総額は前年比-0.2%と減少、3ヵ月ぶりのマイナスである。完全失業率は前月比0.1%ポイント上昇し、5.2%となった。3ヵ月連続の悪化である。また雇用者数は2ヵ月連続で前月比マイナスを記録した。
    民間需要は停滞気味である。5月の消費総合指数は前月比-0.4%と2ヵ月連続のマイナス。この結果、4-5月平均は1-3月期比横ばいとなった。5月 の小売業販売額は前月比-2.0%で5ヵ月ぶりのマイナス。政府の耐久消費財購入促進プログラムの規模が縮小となったため、反動減が生じている。またこれ まで回復を見せていた住宅市場も低調気味である。5月の新設住宅着工数は前月比-7.0%と2ヵ月連続のマイナスである。
    これらの低調なデータを反映した今週の支出サイドモデルは、4-6月期の実質GDP成長率を、純輸出は横ばい内需が縮小するため前期比-0.3%、同年率-1.3%と予測する。先月の予測(+2.5%)から大幅下方修正された。
    一方、7-9月期の実質GDP成長率は、内需、純輸出ともに緩やかに拡大するため、前期比+0.2%、同年率+0.8%と予測している。先月の予測(同+3.1%)から大幅下方修正された。
    4-6月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比横ばいとなる。実質民間住宅は同-5.8%と減少し、実質民間企業設備は同+0.6%と小幅 のプラスにとどまる。実質政府最終消費支出は同+0.7%、実質公的固定資本形成は同-20.3%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比 -0.3%)に対する寄与度は-0.3%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同+2.9%増加し、実質輸入は同+4.2%増加する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は0.0%ポイントとなる。
    7月1日発表の6月短観によると、最も注目される業況判断指数は、大企業製造業で+1となり、前回調査から15ポイント改善した。5期連続の上昇で初め てプラス領域に入った。金融市場の混乱の影響はみられず、ポジティブサプライズであった。企業のセンチメントは大企業製造業を中心に引き続き改善している が、先行きに関しては、中堅企業・中小企業ではいずれも悪化が予想されている。このように企業の景況感は足元着実に回復しているが、設備投資計画は依然慎 重で雇用者数も減少しており、最終需要の回復には少し時間がかかりそうである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    投資家はこれまでの景気への悲観的な見方が嘘のように、7月5日から始まる週には景気への見方が急に楽観的になった。その週には、株価は4日間連続して 上昇し、ダウ平均株価指数は512ポイント、5.3%も上昇した。前週の6月29日に、6月のコンファレンスボードの消費者コンフィデンスが10ポイント 低下した時、ダウ平均株価指数は268ポイントも低下した。投資家が景気に対して楽観的な時は、“コンフィデンスはコンフィデンス”というのが常である。 一体、何が起こったのであろうか。たしかに、IMFが世界経済の成長率を少し上方に修正したり、欧州の銀行に対するストレステスト(健全性審査)を巡る懸 念が後退するという外的な要素はあった。しかし、これで投資家の景気へのセンチメントが急変したことを説明するのは難しい。
    投資家は懸念していた景気の二番底の可能性の低さに気づき、また12日の週から本格的に発表される2010年4-6月期の企業収益に期待をしたためだと 考えられる。超短期予測が示すように、景気の二番底どころか、同期の経済成長率が3%程度になることは十分に可能である。また、国民所得の企業収益と企業 が発表する企業収益は幾分異なるが、2010年1-3月期のGDP統計(確報値)を反映した後の4-6月期GDPの統計上の誤差が大きく下方に修正された ことは、企業収益の上方修正を示唆する。市場にとって良いサプライズの企業収益発表があるかもしれない。
    7月9日の超短期予測が示すように、GDP以外のアグリゲート指標で経済をみても4-6月期の経済成長率は3%を超えるとみてよい。今回の景気回復が持 続的な回復になるには、投資家が今の景気回復が堅調なことを認め”Cautious Optimism(注意深い楽観的な見方)”を維持するのがベストで 最もコストのかからない対策である。これまでは、あまりに景気回復に悲観的すぎた。住宅バブルの崩壊から住宅市場が改善するには、いつでもかなりの時間が かかるし、労働生産性の改善が著しいなかで急速な雇用増を求めるには無理がある。そのような中で3%の経済成長率は非常に好ましいと言える。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

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    マクロモデル研究合宿を開催(2010年3月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2009年度

    ABSTRACT

    テーマ:日本経済財政中期モデルの開発ならびに関西経済予測モデル(2010年版)の検討
    開催日:平成22年(2010年)3月11日(木)?13日(土)
    会 場:兵庫県豊岡市城崎町 まつや会議室

    今回の研究合宿は、関西社会経済研究所に設置された計量モデル研究会の活動の一環であり、日本経済財政中期モデルを新規構築するためのキックオフミー ティングとして実施された。当研究所は、1976年から短期モデルによる日本経済の四半期予測(短期予測)を公表しているが、近年は、税財政改革等の中期 的な経済問題への対応の必要性が高まっていた。そこでこの度、マクロ経済部門と財政部門の中期見通しおよび政策シミュレーションを目的とする、日本経済財 政中期モデルの構築を開始することとした。

    2010年3月11日(木)
    当研究所が管轄する複数の経済モデルについて、分析対象や分析期間、モデルの目的等の比較・検討が行われた。そのうえで高林主査からは、「財政の持続可 能性を明示化するのであれば、日本が高齢化のピークを迎える2025年ごろが重要なターゲットになる。そのためにはモデルのシミュレーション期間は 2030年ごろまでがよいのではないか」という意見が出された。
    また、稲田主査からは参考文献として、環境政策分析用に開発された3Eモデルの概要が説明された。3Eモデルはオーソドックスなマクロ計量モデルにエネ ルギーバランス表とエネルギー需要ブロック、国内エネルギー価格ブロックが接続されており、原料価格やエネルギー税率、炭素税、エネルギー技術改善のシ ミュレーションが可能なモデルである。中期予測を前提としたモデルであるため、サブブロックとの直接手法を含め、本研究会が目指す中期モデル構築の参考と なると思われる。

    2010年3月12日(金)
    午前中は、当研究所が四半期ごとに公表する「関西エコノミックインサイト」の基盤となる、関西予測モデルについて議論が行われた。特に、モデルを構成す る方程式のうち、輸出関数の改訂が主な議題となった。アジア経済との結びつきを深める関西経済の特色を考慮し、輸出関数の説明変数をどのように設定するか について活発な意見交換がなされた。高林主査からは、「アジアで部材を組み立て、最終財を米国に輸出するという経路を考慮すると、対アジア輸出関数(除く 中国)の所得変数としては米国のGDPを追加するのはどうか」という提案がなされた。
    なお、今回は中国、中国除くアジア、アジア除く世界をそれぞれ被説明変数とした場合の輸出関数の修正が行われた。これらの輸出の所得弾力性については、 後日、当研究所が公表する「日米中超短期予測(3月見通し)」および「エコノミックインサイト6号」で解説が行われる予定である。
    午後からは下田委員が合流し、再び日本経済財政中期モデルについて議論がなされた。稲田主査からは、2003年に公表された電力中央研究所による財政モ デルの概要が説明された。内生変数が89本と中規模であり、制度の正確性も担保されていることから、本研究会が目指す日本経済財政中期モデルの財政ブロッ ク部分の参考となると思われる。特に、一般政府の部門別所得勘定表の説明は、SNAによる財政部門の理解には欠かせないものであった。
    最後には、研究会として中期モデルのワーキングペーパーを1本完成させること、8-9月ごろをめどに一旦中期モデルを確定させることなどが確認された。
    (文責 武者)

     

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年6月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    6月18日に政府から「新成長戦略」(副題:「元気な日本」復活のシナリオ)が発表された。あわせて戦略実行の工程表も示された。新成長戦略の基本哲学 は、いわゆる「第三の道」による日本経済の建て直しである。すなわち、これまでの公共事業中心の経済政策(第一の道)や、行き過ぎた市場原理に基づき、供 給サイドに偏った生産性重視の経済政策(第二の道)から、経済社会が抱える課題の解決のため、新たな需要や雇用の創出をはかり、それを成長につなげる政策 (第三の道)に転換することを意味している。また新成長戦略は「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体的実現に主眼を置いているのが特徴であ る。
    具体的なイメージとしては、新成長戦略で「強い経済」の実現を図り、2020年度までに年平均で、名目3%、実質2%を上回る経済成長を目指している。すなわち、1%程度のインフレ率(GDPデフレータ)を想定していることになる。
    同時に民主党から参議院選挙向けのマニフェスト(Manifesto 2010)が発表された。2009年度版と比較すると、以下の3点が新しいところである。まず、(1)歳出面において、短期的な所得補償型政策から中期的 な雇用創出型政策に転換したことである。(2)歳入面では、早期増税の可能性が視野に入ってきたことである。(3)その結果、長期的(10年後)には国と 地方の基礎的財政収支を黒字化するという点が新たに追加された。
    (1)に関して言えば、2010年度の予算編成過程では効果的な歳出抑制機能が働かなかったという反省から、需要・雇用創出基準で優先順位をつけること にした。この点から、子ども手当の満額支給断念と一部現物支給の可能性、農家戸別所得補償の縮小、高速道路料金無料化断念等を決定する一方で、大都市イン フラ整備のための投資に注目した。(2)に関しては、法人税減税や消費税増税の必要性に触れているが、具体的にスケジュール化したわけでもなくインパクト に欠ける。第三の道の政策とは、増税(例えば消費税)と特定分野への重点的な資源投入の組み合わせによる雇用創出と考えられるが、この政策効果は早期には 期待できない。
    以上から、2010-11年度に限ってみれば、財政状況は景気回復の影響で財政収入が幾分改善し、歳出削減については幾分進行することから、国債新規発 行は当初予算の44兆円以下に収まるとみている。要は、残された3年間で「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体的実現ができるような政策メ カニズムを構築できるかである。(稲田義久)

    日本
    <4-6月期、成長率は減速するが堅調な伸びが続く>

    今週(6月21日)の支出サイドモデルは、4-6月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大するが内需が減速するため前期比+0.6%、同年 率+2.5%と予測する。また7-9月期の実質GDP成長率を、内需・純輸出ともに緩やかに拡大するため、前期比+0.8%、同年率+3.1%と予測して いる。いずれも1-3月期の同年率+5.0%の高成長率からは減速するものの堅調な伸びとなろう。
    4-6月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.1%となる。実質民間住宅は同-3.8%減少するが、実質民間企業設備は 同+3.7%増加する。実質政府最終消費支出は同+0.7%増加するが、実質公的固定資本形成は同-19.9%と大幅な減少となる。このため、国内需要の 実質GDP成長率(前期比+0.6%)に対する寄与度は+0.1%ポイントにとどまる。
    内需が減速するのは公的需要(公的固定資本形成)の減少が民間需要の伸びをほぼ相殺するためである。月次データをみると、4月の公共工事は前年同月比 -17.4%減少し、17ヵ月ぶりのマイナス。季節調整値ベースでみれば、前月比-15.4%と大幅減少し、3ヵ月連続のマイナスとなった。公共工事の先 行指標である公共工事請負金額も5月に前年同月比-5.9%となった。5ヵ月連続のマイナス。季節調整値は前月比-15.8%減少し、2ヵ月ぶりのマイナ ス。このように、公共工事は明瞭な減少トレンドを示している。
    外需をみると、財貨・サービスの実質輸出は前期比+4.9%増加し、実質輸入は同+2.2%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.5%ポイントとなる。景気は依然として外需に支えられている。
    1-3月期の実質GDP成長率への寄与度をみれば、実質純輸出は4四半期連続で、実質内需は2四半期連続で成長率を引上げている。今後純輸出に大崩れがなければ、日本経済は堅調な伸びとなろう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフにみるように、5月の雇用統計を更新した時点で超短期予測(6月4日)は4-6月期実質GDP成長率を4%程度と予測した。その後、地区連銀が発 表した製造業指数の減速と一致するように、超短期予測で示される景気拡大もスローダウンしてきた。しかし、懸念した景気の下降トレンドは形成される様子は なく、6月18日の予測では、同期の経済成長率は悪くとも2.5%を維持するものとみている。このことは、超短期予測は市場ないし連銀が考えているより、 景気の見方が楽観的であることを意味している。
    米経済は堅調に回復をしてきている。にもかかわらず、これまでホーニング・カンザスシティー地区連銀総裁を除いて政策金利の引上げを主張する連銀エコノ ミストはいなかった。確かに、ギリシャ債務危機の米経済への影響に不確実性があったことから政策金利引上げに対して慎重になる連銀の態度も理解できる。し かし、6月に入るや、フィッシャー・ダラス地区連銀総裁とロックハート地区連銀総裁がホーニング総裁と同じような見解を示すにいたった。
    ホーニング総裁は夏の終わり頃までに政策金利を1%に引上げることを主張している。フィッシャー総裁は米経済は今すぐに利上げを求める状況ではないが、 利上げへの準備の必要性を説いている。そして、米景気の回復が確実なものになるなかで、利上げの時期が近いことを示唆している。ロックハート総裁は経済が 引き続き回復し、金融市場が安定していく中で、今の異常な低金利政策は景気回復の目的としては必要でなくなり、むしろ物価安定維持の目的と一致しなくなる と言う。
    このように、これらの3人の総裁は超短期予測が示すような米経済の堅調な回復に気付き始めた。ヨーロッパの債務危機のグローバル経済への懸念が薄らいで くれば、景気の減速も収まるであろう。今後、超短期予測は経済成長が下降トレンドを形成するより、上昇トレンドに戻る可能性が高いと思われる。したがっ て、政策金利引き上げ機会が意外に早く来るかもしれない。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

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    関西エコノミックインサイト 第6号(2010年6月3日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第6号(2010年6月)の概要は以下の通りです。
    1.関西経済は、緩やかではあるが堅調な回復の動きを見せている。これには、アジア経済の堅固な成長に支えられた外需の貢献が大きい。また、民間部 門も引き続き政策効果に下支えされ、堅調に推移している。これまで低調であった住宅市場や雇用情勢についても、ようやく底打ちの気配が見られる。

    2.このように回復の途を辿りつつある関西経済であるが、府県別にみると回復の様相は一様ではない。鉱工業生産指数をみると、産業構造の違いから、落ち込み幅や生産の谷の時期が各府県で異なる。

    3.日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率を2010年度+2.4%、2011年度+1.3%と予測する。政策効果による民間需要と、順調に回復している域外経済(外需)が関西経済を牽引する。しかし2011年度には、その勢いはやや減速するであろう。

    4.標準予測に加え、ギリシャの債務問題が世界経済に“伝染”するというリスクシナリオのシミュレーションを行った。このケースによれば、関西の輸出は 0.39%、関西のGRPは0.05%引き下げられる。この結果から、EU問題の関西経済への影響は極めて限定的であると判断できる。

    PDF
  • 稲田 義久

    第83回 景気分析と予測(2010年5月28日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 高林 喜久生

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    今回のポイントは以下の通り。

    *2010年1-3月期実績の評価‥‥実質GDP成長率(一次速報)は、前期比年率+4.9%と、4四半期連続のプラス成長となった。前年同期比で も+4.6%となり、8期ぶりのプラスに転じた。寄与度で見ると、純輸出が+2.7%ポイントと4四半期連続、国内需要が+2.3%ポイントと、2四半期 連続プラス貢献となり、外需の好調が内需へと波及しつつあることが確認できた。しかし今後の海外リスク要因としてはギリシャの債務問題があげられ、他国へ 伝染した場合には、日本の外需へ悪影響を及ぼす懸念がある。

    *2010年度および2011年度の改訂見通し…2010年度の実質GDP成長率は+2.8%、11年度は+1.4%と予測する。前回予測から10年度は0.8%ポイント上方修正、11年度は0.5%ポイント下方修正となる。

    *各需要項目の実質成長率への寄与度をみると、民間需要が10年度+1.5%ポイント、11年度+1.3%ポイントと、景気押し上げ要因に転じることが特 徴である。10年度は、好調な民間最終消費支出に加え、民間住宅が底を打ち、民間企業設備が反転する。また純輸出の寄与度も10年度+1.7ポイントと拡 大する。成長のパターンは、アジアに支えられた外需と政策に支えられた民間消費依存という側面が強い。

    *10年度のコア消費者物価指数(CPI)は前年比?0.7%と予想する。4月から始まった高校無償化は、今後1年間CPIを0.4%?0.5%程度低下 させる要因になる。しかし10年度後半からは、たばこ増税がCPIを0.5%程度引き上げるため、両者はネットで相殺されデフレ加速要因とはならなくな る。これらの結果と景気回復を勘案して、11年度のCPIは前年比+0.2%と3年ぶりにプラス領域への反転を見込む。

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  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年5月).

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    4月頃よりギリシャの債務問題が世界の金融市場に悪影響を及ぼし始め、デフォルト(債務不履行)必至論まで出た。金融市場で影響力のある Mesirow Financial社(シカゴに拠点を持つ金融サービス会社)のエコノミスト達は“前例のないEU/ECB/IMFによる巨額な1,100億ユーロの救済 パッケージもギリシャのデフォルトを避けることはできない”と言う。債務問題がギリシャ一国のデフォルトで済めば全く問題はない。怖いのは、H1N1ウイ ルスの伝染のように、債務危機がギリシャ国境を越えて他国へ“伝染”することである。既に、伝染可能性の高い国として“PIIGS”という言葉もできでい る。すなわち、ポルトガルPortugal(74.9%)、Ireland (61.3%), Italy(114.8%)、 Greece(111.5%), Spain(52.0%)である。括弧内の数字はOECD, 世銀などの資料を参考にした各国の2009年末の公的債務 残高の対GDP比率である。
    ギリシャがデフォルトに陥れば“伝染”は確実になるだろう。そこでIMFでシニア・エコノミストをしているギリシャ人の友人に2つの質問をしてみた。最 初の質問はギリシャのデフォルトは本当に起こるのか? 2つ目の質問は、どのようにしてギリシャはこの債務問題を解決するのかである。彼は最初の質問に対 して、“絶対にデフォルトはない。再建プログラムは3年間の融資(1,100億ユーロ)を約束している。何故、デフォルトが考えられる! デフォルトは問 題解決よりももっと多くの問題を引き起こす。例えば、EUや債券所有者との関係、銀行との関係、民間部門のファイナンシングなどにおいてである。デフォル トによって上手く行くものは何もない。ただ、ファイナンシャル・パイレート(強欲な金融市場関係者)たちがギリシャ政府のCDS契約から利益を上げるだけ だろう”と答えた。2番目の質問に対しては“ギリシャがこの問題を解決する方法は一つしかない。合意されたEU/ECB/IMFの再建プログラムをきちん と実行して、市場の信頼を回復することだ”と答えた。
    おそらく彼の答えが正しいであろう。フランスとドイツの間の協調には不協和音もあるが、最終的にはギリシャ債務危機の“伝染”は防げるであろう。
    懸念されるのは公的債務残高の対GDP比率が200%程度とギリシャの2倍近くもある日本である。ギリシャが国債消化の70%を海外投資家に頼っている のに対して、日本の場合は国債保有の94%が日本人であるという奇妙な安心感がある。これは、海外投資家にとって利回りの低い日本の国債に魅力がないだけ のことである。ギリシャよりも更に悪いかもしれない。日本政府にしても、いつまでも国債の売却を日本人に任せておくわけにはいかない。数年内に債務残高が 現在1,400兆円の個人資産を上回れば、国債を外国人に買ってもらわなければならない。そうなれば、国債金利は跳ね上がり、その日本経済への影響を大き いだろう。菅財務大臣がバンクーバーオリンピックの時期に開かれたG20ミーティングで“債務残高競争ならば日本は確実に金メダル”と冗談(?)を言って いたことには驚いた。債務問題に対する危機意識の完全な欠如である。“5年以内に日本は債務危機に襲われる”というエコノミストもいる。かつては“アジア のアルゼンチン”とも言われ、今度は“アジアのギリシャ”とも言われかねない。日本政府は“債務危機”を真剣に考える必要がある。“危機はある日突然に訪 れる”ことを忘れてはならない。(熊坂有三 ITエコノミー)

    日本
    <4-6月期、成長率急落の可能性は低い>

    5月20日発表のGDP1次速報値によれば、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.9%となり、4四半期連続のプラス。前年同期比で も+4.6%となり、8期(2年)ぶりにプラスに転じた。これにより、日本経済は着実な回復経路を辿っていることが確認できた。この結果、2009年度の 実質成長率は-1.9%と2年連続のマイナス成長(2008年度:-3.7%)となった。ただ2010年度への成長率の下駄は+1.5%となっており、成 長率の上振れが期待できる。
    過去の数値をみると、直近の3四半期連続で上方修正された。このため、GDPの水準自体は改訂前の水準をベースにした推計値(前回の10-12月期実績に今回の成長率を乗じた)を上回っていることに注意。すなわち、1-3月期の実勢は数値以上に強いものといえよう。
    公表値は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト:+4.7%)に近い結果となった。超短期モデルの最終週での予測では、支出サイドモデルが 同+9.8%を予測していていた。今回の超短期予測は、市場コンセンサスや実績から大きく外れる結果となったが、すでに見たように1-3月期の実勢は数値 以上のものであるから、その差は大きくはないと見ている。また3月の中旬にはすでに実績に近い予測を示しており、市場コンセンサスが1%台前半にとどまっ ていたのとは好対照である。
    1-3月期のGDP1次速報値を追加した5月24日の支出サイドモデルは、4-6月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大するが内需の伸びが減 速するため前期比+0.8%、同年率+3.3%と予測する。7-9月期の実質GDP成長率を、内需の伸びは拡大するが純輸出の拡大ペースが減速するため、 前期比+0.5%、同年率+2.2%と予測している。
    4-6月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.1%へと減速する。実質民間住宅は同-2.9%と減少し、一方、実質民間企業設備は 同+1.8%と増加する。実質政府最終消費支出は同+0.7%、実質公的固定資本形成は同-8.3%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期 比+0.8%)に対する寄与度は+0.2%ポイントとなる。内需の成長率寄与度は前期より低下する。
    一方、財貨・サービスの実質輸出は同+3.8%増加し、実質輸入は同-0.2%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.6%ポイントとなる。引き続き成長率に対して高い寄与度をとなる。
    ちなみに、マーケットコンセンサス(5月ESPフォーキャスト)は、実質GDP成長率(前期比年率)を4-6月期+1.44%、7-9月期+1.62% とみている。一方、超短期予測は2%以上の比較的堅調な伸びが持続するものとみており、成長率の急落はないものと予測している。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフにみるように、5月21日の超短期予測において支出・所得サイドの平均実質GDP伸び率(前期比年率)は1ヵ月前の2%?3%の範囲から更に 3%?4%の範囲へと上方に修正された。通常ならば、これまでの異常な低金利を正常に戻す“出口戦略”を開始すべきである。しかし、そのような意見を述べ るFOMCメンバーはカンザスシティー連銀のトーマス・ホーニング総裁一人である。他の連銀総裁達はシカゴ連銀のチャールズ・エバンス総裁のように“緩や かな米経済成長や比較的安定なインフq2レを背景に、現在連銀が超低金利を維持していることは適切”と考えている。
    市場(おそらく連銀も)は超短期モデルが予測しているような3%?4%の範囲の高い経済成長率を予想していないかも知れないが、少なくとも2%?3%の 経済成長率を現在予想していると思われる。しかし、株価の動きに見るように、市場は堅調な景気回復を信頼するよりもギリシャの債務問題の欧州諸国への伝染 による再度の金融危機を恐れている。例えば、5月10日にEUは1兆ドル規模の金融支援を発表したが、それも1日株価を上げただけである。スペイン政府、 ポルトガル政府が財政赤字削減に対する緊縮財政措置を発表したが、市場は一時的に好感したものの、市場心理がネガティブな今、両国の緊縮財政措置がEUの 経済成長への足かせになると捉えるようになった。
    米国経済が非常に堅調に回復をしているにも関わらず、欧州発の金融危機以外の懸念材料はEU諸国経済の停滞から米国の輸出が落ちることである。更に重要 なのは、株式市場の停滞・下落から消費者センチメントが再び悪化し、せっかくの消費者リードの経済回復が崩れることである。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年4月).

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    2007年9月の本コラムで、中国成長のカギを握る農業についてレポートした。当時としての中国経済に対する判断は、「10%を超える成長のモメンタム を維持しており、この傾向は少なくとも上海万博が開催される2010年まで持続する」というものであった。この間、リーマン・ショックというかつてない世 界的な景気の落ち込みを経験したが、中国経済は足下でみれば当時の診断がさほど外れていないようである。「経済成長の牽引役は工業であり、当面、何らかの 措置を講じなくても高成長を持続しそうな勢いである」と成長の強さを強調する一方で、農業の停滞は全体の成長にとって大きなリスクとなっていることを強調 した。実際、農業生産性の停滞は食料価格の上昇や食料輸入の増加をもたらしていることを指摘した。
    中国農業は三農(農村、農業、農民)問題を抱えており、中国農民は貧しく、一向に豊かになれないのである。中国政府は都市住民との所得格差を是正するた め農業税を廃止したが、あまり効果は上がっていないようである。現地の農業問題専門家の指摘によれば、(1)低い社会保障制度、(2)低い農村の教育水 準、(3)貧弱な農村技術指導が大きな問題である。
    これまで筆者が参画する東アジアの発展と環境に関する調査プロジェクトは、農家向けの戸別メタン発酵装置(有機性廃棄物からメタンを発酵させ高率よくメ タンガス等のバイオガスを回収)導入による農村地域の貧困及び環境改善の可能性を調査してきた。この政策は、(1)貧困地域には経済・環境改善の効果があ るが、都市周辺地域ではほとんど効果がなく、(2)立地条件が重要な要素である。これが、複数の調査結果から得た結論であった。
    そこで、都市周辺の農村地域の発展モデルの1つとして、6次産業化(1次産業、2次産業、3次産業を同時に実現するという意味で)を実現し、国家モデル となっている留民営村(北京市郊外第6環状線の外の大興区長子営)を3月初旬に調査した。同村は人口860人、戸数260戸、面積2,212ムー (148ha)の規模である。農地面積は1,800ムーで小麦、トウモロコシ、野菜が中心である。特に、北京市内向けに低農薬・無農薬の緑色食品を販売し ている。安全で高品質な農産物を供給する「生態農業」としてつとに有名なのである。同村には、小規模な工業団地があり工業生産もある。また「グリーンツー リズム」も内包しており、農業を中心に多様な付加価値を生み出す農村となっている。
    留民営村が成功・機能している要因としては、(1)北京市、天津市の近郊という立地特性を生かした緑色製品の生産販売(農商連携)、(2)輸出用農産物 も生産(立地の優位性)、(3)農産物の加工販売(農工連携)、(4)生態農業による家畜糞尿等の循環利用(畜産連携)、(5)主流の農家個別ではなく、 村単位として発展に取り組んだこと、(6)キーマン(村長)のリーダーシップを挙げることができる。日本でも鳩山政権の政策の一つとして農業の高付加価値 化が謳われているが、留民営村は非常に参考になるモデルである。
    最後に、このモデルの課題を指摘しておこう。一見素晴らしいモデルを留民営村は確立してきたのであるが、後継者問題が最大の課題となっている。若年労働 者が北京市や天津市などの高所得を生み出す地域に流出する傾向を反転することはできない。現地の農業労働者の高齢化が進んでいるのである。(稲田義久)

    日本
    <成長率の加速を予測:1-3月期の日本経済。しかし、大幅な需給ギャップが足枷>

    4月19日の予測では、1-3月期のGDPを説明する一部の3月のデータ(金融物価関連)と2月のほとんどの月次指標が更新された。
    超短期予測(支出サイドモデル)は、1-3月期の実質GDP成長率を、内需が大幅拡大し純輸出も引き続き拡大するため前期比+1.9%、同年 率+7.8%と予測する。先月の予測(+5.0%)から大幅上方修正されている。この強気な見方は、マーケットコンセンサス(+2.42%:4月ESP フォーキャスト)とは対照的である。
    超短期予測が強気である理由は、内需が前期比大幅拡大するという見方が、コンセンサス予測とは異なる点であると思われる。
    1-3月期の国内需要をみると、実質民間最終消費支出は前期比+0.9%と堅調な伸びを予測している。実質民間住宅は同-1.0%減少するが、実質民間 企業設備は同+5.9%大幅増加するとみている。実質民間企業在庫品も4,450億円増加する。実質政府最終消費支出は同+0.8%、実質公的固定資本形 成は同-4.6%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+1.9%)に対する寄与度は+1.6%ポイントとなる。
    内需のうち、民間最終消費支出と民間企業設備の強めの予測が特徴的である。1-2月期の平均消費総合指数は10-12月期比+0.9%上昇した。1-2 月の小売業販売額の好調も1-3月期の民間消費が堅調であることを示唆している。政策効果の表れといえよう。一方、民間企業設備についてみると、2月の資 本財出荷指数(確報値)は前月比+7.2%増加し、3ヵ月連続のプラス。同指数の1-2月平均は10-12月期比+15.4%と大幅な上昇となった。この ため、1-3月期の実質民間企業設備の予測値は大幅に上方修正されている。その他のGDP項目では、実質民間企業在庫品増加の予測値が上方修正されてい る。
    1-3月期の財貨・サービスの実質輸出は前期比+4.9%増加し、実質輸入は同+3.7%増加する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.3%ポイントとなる。
    このように、1-3月期経済は、政策要因と海外市場の回復に支えられ非常に高い成長を実現しそうであるが、問題は持続性である。高い成長にもかかわら ず、GDPデフレータは、1-3月期に前期比-0.8%、4-6月期に同-0.5%となる。民間最終消費支出デフレータも、1-3月期に同-0.2%、 4-6月期に同-0.4%と予測しており、大幅な需給ギャップの存在が持続的成長の足枷となっている。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフにみるように、4月16日の超短期予測では、支出・所得サイドの平均実質GDP成長率(前期比年率)が3%となった。それまでの緩やかな上昇トレ ンドが急な上向きに変わった。1-3月期の支出サイドの成長要因は個人消費支出で、おそらく3.5%程度の伸び率となり成長率には2.5%ポイント程度の 寄与となろう。在庫は前期ほどではないが1%ポイント程度成長に寄与するだろう。純輸出は輸出入共に大きく伸びるため、成長にはそれほど大きく寄与しない だろう。しかし、輸出入の大きな伸び率は米国の貿易相手国、米国自体の景気回復を意味している。構築物投資、住宅投資の低迷は、成長にとって大きなマイナ ス要因となる。
    今回最も予測が難しく不確実性が残るのが、景気刺激策・金融危機対策を含む政府支出である。3月の政府支出は大きく減少しているため、成長へのマイナス要因となることも考えられる。一方、所得サイドでの成長要因は個人所得と法人所得の増加である。
    成長率が3%(前期比年率)程度になる一方で、インフレ率(前期比年率)は0.5%?1.5%と落ち着いている。このことから、景気の本格的回復(例え ば、雇用増)を確認するまでFRBは出口戦略を急ぐ必要はないとの見方もあるが、4月30日発表の2010年1-3月期実質GDPの成長率が3%を超えれ ば、やはりFRBは政策金利引き上げに動きたくなるだろう。異常な低金利の期間が長すぎることは誰もが認めており、その潜在的な弊害が大きいことも知って いる。今の米国の景気回復をみると、製造業が本格的に回復しており、25ベーシスポイント(0.25%)程度の政策金利引き上げで景気の腰が折れるような ことはない。
    このように考えると、1-3月期の実質GDP成長率が3%を超えた時点で、FRBは政策金利を徐々に引き上げる態勢に入るだろう。これは、市場コンセン サスとは異なる見方だが、6月22日、23日のFOMCにおける25ベーシスポイントの政策金利引き上げのシナリオを描いてもよいだろう。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年3月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    関西経済にとって益々アジア経済、特に中国経済の重要性が高まりつつある。リーマンショック以降、2四半期連続の2桁マイナス成長の後、日本経済は外需 (海外市場)の回復に支えられて緩やかな回復局面にある。輸出市場として、新興国市場、特に中国を中心とするアジア経済の役割は非常に大きい。当研究所が 四半期ごとに発表する「関西エコノミックインサイト」において、関西予測モデルに基づいて関西地域の総生産(GRP)やその構成項目の短期予測を公表して いる。同時期に公表される日本経済の予測と比較して、民間企業設備や輸出が全国に比して強く出るというのが最近の特徴であった。今月のトピックスでは、関 西予測モデルの輸出関数に注目して、関西の輸出構造の特徴を見てみよう。
    まず地域別の輸出のシェアを全国と関西とで比較しよう。2008年度の通関輸出をみると、全国ベースで、アジア、中国、米国、その他地域のシェアは、そ れぞれ50.0%、16.5%、17.0%、33.0%となっている。関西ベースでは、それぞれ60.6%、20.5%、12.6%、26.8%となって いる。関西では輸出市場としてアジアのウェイトが全国に比して10%ポイント程度大きいのである。2009年度ではさらに拡大していることが予想される。 また中国市場のウェイトは全国に比して4%ポイント大きくなっている。
    関西予測モデルの輸出関数(GRPベース)では、所得変数としては中国、米国、EUの実質GDPの加重値を採用してきたが、輸出関数は地域別に分割して いなかった。今回、アジア、中国の重要性を考慮して、輸出関数を地域別に推計した。推計期間は1980-2006年度である。輸出関数は、通常、所得弾性 値と価格弾性値によって特徴づけられる。所得変数は輸出相手国の実質GDP、価格変数は世界輸出価格と日本の輸出価格の相対比である。なお、対アジア輸出 関数(中国以外)の所得変数として米国の実質GDPを採用しているのは、アジアで部品を組み立て、最終財を米国に輸出するという経路を考慮しているためで ある。また、その他地域では、所得変数として米国とEUの実質GDP加重値を採用している。
    下表が推計結果の要約である。これまで使用してきた関西の輸出関数(対世界)では、所得弾力性が1.196、価格弾力性が-0.298となっている。輸 出関数を中国、中国以外のアジア、その他地域(アジア以外)に分割すると、所得弾性値は、1.964、1.101、0.380とそれぞれの国や地域の成長 率の高さに対応した値となっている。また、価格弾性値も中国(-0.783)と中国以外のアジア(-0.869)ではよく似た値をとるが、その他地域では 低い弾性値(-0.190)となる。このように、輸出関数を関西にとって重要な地域に分割することにより、中国財政政策の関西経済に与える影響といった、 より現実に即したシミュレーションが可能となる。(稲田義久)

    日本
    <1-3月期の予測は対照的:超短期vs.コンセンサス予測>

    3月15日の予測では、3月の第2週までの月次データと2009年10-12月期GDP統計(2次速報値)を更新している。この結果、2010年1-3 月期の実質GDP成長率を支出サイドモデルは前期比+1.2%、同年率+5.0%と予測している。内需と純輸出がともに拡大するバランスのとれた成長と なっている。また4-6月期を同年率+2.9%と見ている。
    3月11日に発表されたGDP2次速報値によれば、10-12月期の実質GDP成長率は同年率+3.8%となり、1次速報値の+4.6%から0.8%ポ イント下方修正された。下方修正の主要因は民間在庫品増加の下方修正である。1次速報値では民間在庫品増加の実質GDP成長率に対する寄与度(年率) は+0.3%ポイントであったが、2次速報値では-0.6%ポイントへと下方に修正された。すなわち、民間在庫品増加の変化(-0.9%ポイント)が実質 GDP成長率の下方修正を説明していることになる。たしかに成長率は下方修正されたものの、一段と在庫調整が進んだという意味では、先行き見通しにとって は明るい材料である。
    さて、問題の先行きの見通しである。2次速報値発表前の3月9日に発表されたマーケットコンセンサス(3月ESPフォーキャスト調査)によれば、1-3 月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.17%となっており、超短期予測に比べ非常に悲観的な見方となっている。グラフからわかるように3月8日以降、 超短期予測は+2%から+4%?+5%にシフトしてきている。
    上方シフトの主要因は、実質民間最終消費支出の予測が上方修正されたことによる。実質民間最終消費支出をよく説明する消費総合指数は、1月に前月比 1.0%増加している。一方、消費総合指数よりカバレッジの狭い全世帯実質消費支出は同-1.3%減少している。反対の結果となっている。マーケットコン センサスは全世帯実質消費支出の結果に影響されているようである。カバレッジの広いデータでみる限り、依然として実質民間消費は政策効果に支えられて堅調 なようである。2-3月の動向次第であるが、現時点では、日本経済に対して悲

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    3月12日の予測では、3月の第2週に発表された2月の小売業、1月の貿易収支、企業在庫などを更新している。超短期予測モデルは2010年1-3月期の米国実質GDP成長率を前期比年率+1.7%、4-6月期を同+1.6%と予測している。
    米景気は緩やかに回復しているが、その成長率はせいぜい2%程度である。1-3月期の景気回復をもたらす主な要素は個人消費支出である。賃金・俸給が伸 び始めたものの2%程度(同)であり、一方、実質個人消費支出の伸び率は3%程度(同)が予想されている。このように、給与の伸びを上回って、個人消費支 出が伸びる背景には家計の純資産の回復がある。
    家計の純資産は今回のリセッション前のピークには65.9兆ドルにまで拡大したが、2009年1-3月期には株価・住宅価格の下落から48.5兆ドルに まで減少した。しかし、昨年の3月以来の株式市場が上げ相場(bull market)に転じることにより、純資産は2009年4-6月期、7-9月期、10-12月期とそれぞれ前期比4.5%、5.5%、1.3%増加し、 10-12月期末には54.2兆ドルにまで回復した。ピーク時の純資産の水準に戻るまでまだ21%上昇しなければならないが、このような純資産の回復が個 人消費支出の3%程度の伸び率に寄与しているといえよう。
    個人消費支出が今後も堅調に伸びるかの一つの鍵は、株式市場の上げ相場がどのくらい長く続くかである。上げ相場の始まった2009年3月9日より1年間 で、ナスダック、SP500、ダウの株価指標はそれぞれ85%、69%、61%上昇した。過去15回の上げ相場の平均継続年数は約4年と長く、2年以下で 終わった時は3回しかない。幸いにも、株価の上昇にとって最もネックとなる”インフレの加速化”、”金利の上昇”は当分みられそうもない。このことから、 上げ相場の継続には幾分楽観的になれる。しかし、なんといっても、景気回復が本格的な軌道に乗るためには、”雇用増?所得増”の好循環が始まることであ る。すなわち、米国経済は未だ自律的な景気回復には至っていない。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]